2 必要な改革A :オープン・イノベーションとしてのM&Aへの取組 (1)なぜオープン・イノベーション−自前主義からの脱却が必要となっているのか 我が国の企業の特徴として、自前主義が挙げられることが多い。基礎研究から商品の開発、そして製造や販売といったビジネスのバリューチェーンを、自社(あるいは自社の系列企業)のリソースにより構成した上で、商品を提供するというものである。 このような自前主義には、特に様々な種類の商品を大量に生産する上で、規模の経済性や範囲の経済性が働くというメリットがあると考えられる。また、リソースを内部に抱えることにより、取引費用を抑えるといったメリットがあったと考えられる。これらは、スピーディーな開発・提供を可能にする側面もあっただろう。 他方、デジタル経済の進化の中で、企業と企業の関係は、価値の源泉やコスト構造の変化を踏まえた再構築が求められている。すなわち、これまでは自社の内部で行っていた企業活動について、外部からの調達が必要になることが考えられる。例えば、モジュール化の進展は、複数社のリソースを活用した生産の優位性を高めることとなった。この点を含め、ビジネスモデル自体の変革を含めた新たな商品の開発を次々に行うことが求められている中で、クレイトン・クリステンセンが指摘する「イノベーションのジレンマ」14が顕著となり、自前主義での対応に限界が出てきている。 これらのことを背景に、「オープン・イノベーション」が重要となってきている。オープン・イノベーションとは、「企業が自社のビジネスにおいて外部のアイディアや技術を更に多く活用するとともに、利用していないアイディアを他社に活用させるべきということ」を意味する15。 14 Clayton M. Christensen(2011)“The Innovator’s Dilemma: The Revolutionary Book That Will Change the Way You Do Business” 15 Henry W. Chesbrough(2003)“Open Innovation − The New Imperative for Creating and Profiting from Technology”