(2)新たな働き方に必要となるICTの導入と他の取組の組合せ 我が国のテレワーク導入企業の割合が前述のとおり19.1%であるのに対し、就労者に占めるテレワーク経験者の割合は8.7%(図表2-4-2-6)となっている。 図表2-4-2-6 テレワーク実施有無(全年代・無回答を除く) (出典)総務省(2019)「平成30年 通信利用動向調査(世帯構成員編)」 このことから、導入企業の中でもテレワークを実際に行う者はさらに限られ、テレワークを導入している企業を含め、平均的な日本企業においては、従業者がテレワークを利用するには何らかの阻害要因がある可能性が高いと考えられる。 先行研究や前節までの結果から示唆されるのは、第一に新技術の導入と新技術の真の効果が発現するまでの間には時間差があること、第二に、新技術の導入と企業内の仕組みの見直しとの両方が必要ということである。 以下、総務省(2019)23での調査結果を基に、新たな働き方にはICTの導入と合わせてどのような取組を行っていくことが必要か概観する。 ア 働き方改革の各施策の取組状況 まず、前提として働き方改革の各施策の取組状況について概観する(図表2-4-2-7)。取り組んでいる施策として、「休暇取得を促進している」の割合が比較的高く、次いで「長時間労働の削減のため、労働時間の削減目標を設定している」「「働き方改革」に関するトップのメッセージが発信されている」「労働時間の見える化を推進している」が続く。比較的わかりやすく、また相対的に現場や企業内のルールとの調整コストが低いと考えられる施策から取り組まれている状況が示唆される。 図表2-4-2-7 働き方改革の取組状況 (出典)総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」 一方で、「副業・兼業が認められている」「RPAやロボット・AI等を導入しデジタルトランスフォーメーションを推進している」「残業代の削減原資を賞与や教育支援で還元している」等の施策に取り組んでいる割合は低い。 どの施策とテレワーク導入24が合わせて取り組まれているかを概観するため、各施策の取組の有無別にテレワーク導入率を算出したところ、最もテレワーク制度の導入率が高かったのは、「RPAやロボット・AI等を導入しデジタルトランスフォーメーションを推進している」と回答した企業であった。その他、残業代の還元、副業・兼業制度の導入、裁量労働制の導入といった取組を行っている企業においてテレワーク制度の導入率が高くなっており、おおむね組織の制度的な仕組みをより大きく見直しているグループでテレワークの導入率が高いという相関関係が見てとれる(図表2-4-2-8)。 図表2-4-2-8 各施策の取組有無別のテレワーク制度導入状況 (出典)総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」 働き方改革施策でどのようなプラスの変化があったのかを項目別にみると、「労働時間が減少している」「休暇が取得しやすくなっている」の割合が全体で20%前後と比較的高くなっており、かつ企業規模が大きいほどその割合が高くなっている。それ以外の成果や満足度に資する項目は相対的に低くなっており、「プラスの変化はない」の割合も全体で20%程度存在する。 図表2-4-2-9 働き方改革施策実施によるプラスの変化(全体・企業規模別) (出典)総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」 働き方改革施策でどのようなマイナスの変化があったのかを項目別にみると、「人手不足が悪化している」が全体で26.5%と最も高く、残業の制限や休暇取得が促進されている一方で、業務の効率化が進んでいない可能性が示唆される。 図表2-4-2-10 働き方改革施策実施によるマイナスの変化(全体・企業規模別) (出典)総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」 イ ビジネスICTツールの導入状況 次に、ビジネスICTツールの導入状況について概観する。ビジネスICTツールは、多様な人材の労働参加や、場所や時間にとらわれない多様な働き方を支えることが期待されており、ここでは情報共有やコミュニケーションのためのツールと、労務・庶務管理のためのツールに大別している。 まず、会社に導入されている端末デバイスについて見ると、デスクトップPC・ノートPCは利用が限定されているものも含めると8割以上の会社で導入されている。他方、モバイル端末である携帯電話やスマートフォン、タブレット型端末については約半数程度の導入率であることが分かる(図表2-4-2-11)。 図表2-4-2-11 端末デバイスの導入状況 (出典)総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」 次に、情報共有・コミュニケーションのためのシステム/ツールについては、電子メール・アドレス帳は8割近くの企業で導入されているものの、1割以上がいずれも導入されていないと回答している。 社内でのオンライン掲示板やファイル共有・管理は4割程度の企業が導入しているが、他方で社外とのファイル共有・管理の導入は進んでおらず、同様にチャット・メッセンジャー、Web会議等の普及はまだ進んでいないことが分かる(図表2-4-2-12)。 図表2-4-2-12 情報共有・コミュニケーションのためのシステム/ツールの導入状況 (出典)総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」 導入されているシステム/ツールのうち、業務効率の向上又は低下につながるものを回答(最大3つまでの複数選択)してもらったところ、業務効率の向上につながるものとしては、電子メール/アドレス帳やファイル共有・管理システム等が挙げられた。他方、業務効率の低下については、電子メール/アドレス帳と回答した者のみが1割を超えたものの、その他のシステム/ツールについては、数%程度であった(図表2-4-2-13)。 図表2-4-2-13 業務効率向上・低下につながる情報共有・コミュニケーションのためのシステム/ツール (出典)総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」 労務・庶務管理のためのシステム/ツールの導入状況について見ると、勤怠管理とスケジューラーの導入率が高くなっている(図表2-4-2-14)。また同様に、業務効率の向上または低下につながるシステム/ツールを聞いたところ、業務効率向上につながると回答した割合は、システム/ツールの導入状況とほぼ比例している。他方、業務効率の低下については、勤怠管理システムと回答した者のみが1割を超えたものの、その他のシステム/ツールについては、数%程度であった(図表2-4-2-15)。 図表2-4-2-14 労務・庶務管理のためのシステム/ツールの導入状況 (出典)総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」 図表2-4-2-15 業務効率向上・低下につながる労務・庶務管理のためのシステム/ツール (出典)総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」 ビジネスICTツールは、紙で行われてきた業務を単に電子に置き換えるのみならず、デジタルならではの価値を創出することも期待される。鶴(2016)では、「ICTの活用で従来よりも従業員の仕事ぶり(努力)のモニタリングや成果の計測が容易になったことも見逃せない。在宅ワークの場合でも、従業員の仕事ぶりを直接観察できないため、従来は成果が測りやすい業務に限られる傾向にあったが、モニタリングや成果が観察しやすくなれば、業務の幅は広がる」と指摘している。第1節で述べたとおり、ICTは取引費用を低減させるという特徴があり、このような特質を活用することにより、従来のコスト構造では不可能であったことが可能となるという点は、働き方についても該当すると考えられる。。 ウ ビジネスICTツールの導入と働き方改革実施の効果との関係 ビジネスICTツールの導入は、働き方改革実施の効果とどのように関係しているのだろうか。ツールの導入のほか、社内の制度整備等も含め、どのような取組を実施しているグループがプラスの変化という良いパフォーマンスをあげているのかを探るため、調査対象者を4グループに分類して分析を行った。 具体的には、「働き方(制度)改革度」25と「デジタル・リモートワーク度」26の二軸を設定し、それぞれの大小から、「未導入」グループ、社内制度が追いつかず現場でのシステム・ツール導入の取組が先行する「現場先行」グループ、取り組んではいるものの社内制度が先行し、システム・ツールの導入が不十分な「制度先行」グループ、社内制度とシステム・ツールの導入の双方に積極的に取り組んでいる「バランス型」グループの4つに分類した。 図表2-4-2-16 各グループの特徴 (出典)総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」 その結果、働き方改革実施でプラスの変化があったと回答した者の割合を、4グループ別に比較したところ、社内制度の整備とシステム・ツールの導入の双方に積極的に取り組んでいる「バランス型」が80.8%と他の3類型よりも高くなっている。そして、システム・ツールの導入が先行している「現場先行」は、社内制度の整備が先行している「制度先行」よりも、プラスの変化があったと回答した者の割合が少なかった。 このように、システム・ツールの導入のみならず、社内制度の整備も併せて取り組むことが、働き方改革実施の効果を上げるために有効であることが示唆される。 図表2-4-2-17 働き方改革実施によるプラスの変化 (出典)総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」 業種別に4グループの分布を概観すると、建設業、金融・保険業では、「バランス型」の割合が比較的高い一方、運輸・輸送業、医療・福祉では、「未導入」の割合が比較的高いことがわかる。 図表2-4-2-18 フレキシブル度の分布(業種別) (出典)総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」 規模別では、規模が大きいほど「バランス型」の割合が高まっている。 システム・ツールの導入や社内制度の整備を行うに当たっては、規模の小さい組織の方が柔軟かつ迅速に行える可能性と、これらには一定程度のリソースが必要であることから間接部門が比較的充実している業種又は規模の企業から進む可能性の2つが考えられるが、本調査結果を基にする限りでは、後者の可能性が高いと考えられる。 図表2-4-2-19 フレキシブル度の分布(規模別) (出典)総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」 23 総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」 24 前述のとおり、通信利用動向調査における企業のテレワーク導入率は19.1%であるが、「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」(2019)では異なるサンプルを基に調査を行っているため、通信利用動向調査とテレワーク導入率が異なっている。 25 総務省(2019)で実施したアンケート調査にて各企業の働き方改革の関連制度に関する項目(13項目)で、制度に取り組んでいるとした数を「働き方(制度)改革度」指標とした。 26 同アンケート調査にて各企業のテレワークを中心としたフレキシブルな働き方を可能にするシステム・ツールの項目(25項目)で、利活用しているとした数を「デジタル・リモートワーク度」指標とした。