(3)平成30年7月豪雨における情報行動 ア 平成30年7月豪雨における被災者の情報行動 (ア)調査概要・対象とするメディア 総務省では、被災地域における住民の情報行動を分析するためのアンケート調査を、また、自治体職員や企業の関係者、ボランティアの活動をなされていた方々等を対象にインタビュー調査を実施した。 対象地域は、被害状況等に基づき選定した、広島市安芸区、広島県坂町、広島県三原市、岡山県倉敷市真備地区としている。 アンケート調査に当たっては、東日本大震災における情報通信の在り方に関する調査結果(以下「東日本大震災調査」という。)及び熊本地震におけるICT利活用状況に関する調査結果(以下「熊本地震調査結果」という。)47とも比較できるよう、対象のメディアを放送系のメディア、移動及び固定通信、防災行政無線などとし、各端末でのアプリケーションの活用状況等も調査した(図表2-4-4-8)。 図表2-4-4-8 対象とするメディア (出典)総務省(2017)「平成29年版情報通信白書」を基に作成 図表2-4-4-9 調査対象者48 (出典)総務省(2019)「豪雨災害におけるICT利活用状況調査」 以下、本項において、上記調査結果に言及する場合は、「インタビュー調査結果によると」「アンケート調査結果によると」と表記する。 図表2-4-4-10 アンケート調査対象者の属性 (出典)総務省(2019)「豪雨災害におけるICT利活用状況調査」 調査対象地域によって、年齢構成、利用機器・サービス、被災状況等が異なるため、ICT機器の利用状況については、対象地域別、年代別の結果も交えつつ概観する。 普段使っているICT機器の利用率は、テレビ(地上波放送の受信)が各地域で70%〜80%と割合が高くなっている。携帯電話、パソコン等の通信機器の利用率については、年齢構成の違い等により各対象地域で異なっており、比較的50代以下の構成比が高い広島市安芸区及び三原市ではスマートフォンやパソコンが多く利用されている(図表2-4-4-11)。 図表2-4-4-11 アンケート調査対象者のICT機器の利用状況(対象地域別) (出典)総務省(2019)「豪雨災害におけるICT利活用状況調査」 年代別にICT機器の利用状況を概観すると、50代以下でスマートフォンの利用率が高い一方で、60代以上ではスマートフォンの利用率が下がる傾向が顕著になっている(図表2-4-4-12)。 図表2-4-4-12 アンケート調査対象者のICT機器の利用状況(年代別) (出典)総務省(2019)「豪雨災害におけるICT利活用状況調査」 (イ)被災者の情報行動 インターネットサービスの利用状況についてみたものが、図表2-4-4-13である。年代別の傾向の違いが顕著であり、20代30代では90%程度がインターネットを、80%程度がLINEをよく利用すると回答しているが、60代では20%台にまで低下している。 図表2-4-4-13 調査対象者のインターネットサービスの利用状況 (出典)総務省(2019)「豪雨災害におけるICT利活用状況調査」 警報発令時、発災時、発災後から発災1週間以内、発災1週間以降に分けて、情報収集に利用した手段をみると、携帯電話による通話が最も多く、次いで地上波放送、携帯メール、LINEとなっており、普段から利用されている手段がよく利用される傾向にある。 時系列での変化が大きいのは地上波放送、比較的変化があるのはケーブルテレビ放送、近隣住民の口コミ、行政機関のホームページとなっており、その他の手段については、目だった時系列変化はみられない。 特に、地上波放送の推移が特徴的であり、警報発令時には40%であったのが発災時には30%程度となり、発災1週間以降では50%程度利用されている。洪水や土砂災害の発災直前〜発災時は場所による状況の違いが大きいことから、放送以外の手段でのよりきめの細かい情報が求められた一方、復旧期の情報収集では放送が活用されたと考えられる(図表2-4-4-14)。 図表2-4-4-14 情報収集に利用した手段(時系列変化) (出典)総務省(2019)「豪雨災害におけるICT利活用状況調査」 情報収集に役立った手段も、概ね情報収集に利用した手段と同様の傾向を示している(図表2-4-4-15)。 図表2-4-4-15 情報収集に役立った手段(時系列変化) (出典)総務省(2019)「豪雨災害におけるICT利活用状況調査」 なお、情報収集に役立った手段の時系列変化を、東日本大震災調査、熊本地震調査と比較すると、東日本大震災では、多くのメディアで時間経過によって役立ったという回答の割合が上昇(ただしラジオは時間経過により低下)したのに対し、熊本地震調査では時間経過による変化が小さくなっており、平成30年7月豪雨の調査結果も熊本地震調査と概ね似た傾向を示している(図表2-4-4-16)。これは、熊本地震や平成30年7月豪雨においては、通信・放送インフラへの被害が比較的限定的であったことを示すものと考えられる。 図表2-4-4-16 東日本大震災及び熊本地震で情報収集に役立った手段(時系列変化) (出典)総務省(2017)「平成29年版情報通信白書」 イ 避難時のICT環境の整備 避難時のICT環境に関しては、地方公共団体、電気通信事業者やメーカー等による公衆無線LANの開放や携帯電話充電器の貸与、被災者や避難所等へのテレビ設置等の支援が行われた。 公衆無線LANについては、携帯電話事業者等による「00000(ファイブゼロ)JAPAN」の提供等を通じて、被災者の通信環境を確保する取組が実施された。 「00000JAPAN」とは、各事業者が提供するWi-Fiサービスを、大規模災害発生時に被災者の通信接続手段の1つとして利用してもらうことを目的に、災害用の統一SSID「00000JAPAN」として公衆無線LANサービスを提供するものである。本取組は東日本大震災を教訓として始められており、2013年9月に岩手県釜石市で実証実験が行われた。その後、2014年5月に正式運用が開始され、2016年の熊本地震で初めて実運用に至った。 平成30年7月豪雨の避難所でのICT環境について、アンケート調査の対象者に「携帯電話回線による通信」「無料Wi-Fiサービス」「充電サービス」「無料公衆電話による通話」のそれぞれの利用状況を尋ねた結果が、図表2-4-4-17である。 図表2-4-4-17 避難所におけるICTサービスの利用 (出典)総務省(2019)「豪雨災害におけるICT利活用状況調査」 平成30年7月豪雨においては、概ね携帯電話による通信が可能であったことから、アンケート調査対象者の避難者では携帯電話回線による通信の利用が多く、無料Wi-Fiの利用や無料公衆電話による通話の利用は限定的であった。また、60代以上を中心に無回答が目立つことから、認知度やわかりやすさの点で課題が残されている可能性がある。もっとも、災害時においても複数の通信や情報伝達手段を確保することの重要性は随所で指摘されており、この点で無料Wi-Fiサービスの果たす役割は重要と考えられる。 また、充電サービスについては、熊本地震の調査結果と比較すると十分に利用できた者の割合が高まっている傾向にある。熊本地震の際は、電気通信事業者から「避難所に充電器を設置して回ったが、避難所の情報が整理されておらず、設置に時間がかかった」との意見もあったが、平成30年7月豪雨の際は、電気通信事業者から「これまでの別の災害時の対応と同様に、行政のHPで情報を確認しながら能動的に動きつつ、要請にも対応した」等の意見があり、被災地が広範であったものの、過去の災害の教訓を生かし対応した様子がうかがえる49。 なお、インタビュー調査の対象者のうち複数の役場の職員や避難所の運営者からは、Wi-Fi、充電器及び無料公衆電話が役立った、避難者に活用されている旨のコメントもあった。 47 平成23年版情報通信白書 http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/h23.html 平成24年版情報通信白書 http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/h24.html 総務省(2012)「災害時における情報通信の在り方に関する調査」 http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h24_05_gaiyo.pdf、http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h24_05_houkoku_siryo.pdf 平成29年版情報通信白書 http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc150000.html 総務省(2017)「熊本地震における情報通信の在り方に関する調査結果」 http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin02_02000108.html 48 東日本大震災のアンケート調査は、インタビュー調査対象者(自治体、企業の関係者及びボランティア等)を対象とし、熊本地震のアンケート調査は、インタビュー調査対象者とウェブアンケート調査から構成されているのに対し、今回調査のアンケート調査は、坂町、三原市については訪問調査、倉敷市については郵送調査で行っている。 49 ただし、自治体ごとに避難所の情報などHPで開示される情報の様式が異なることや情報の鮮度についての指摘もあった。たとえば、「300人収容」と書いてあるため避難者数だと思って行ったところ実際には数人しか避難していなかったり、避難所の統廃合によって避難者が少ないと思っていたところに避難者があふれていた例があったなど。