(3)電磁波センシング基盤技術 NICTでは、ゲリラ豪雨・竜巻に代表される突発的大気現象の早期捕捉・発達メカニズムの解明に貢献することを目的として、風、水蒸気、雲、降水等を高い時間空間分解能で観測する技術の研究開発を実施している。2018年度(平成30年度)は、フェーズドアレイ気象レーダーの二重偏波化(マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダー(MP-PAWR))に関する研究開発を他機関との連携により実施し、レーダーの性能評価後、2018年(平成30年)7月下旬より観測運用を開始した(図表4-7-6-2)。また、地デジ放送波の伝搬遅延を高精度に測定し、豪雨の早期検出等に有用な水蒸気量を推定する技術に関しては、面的観測を目指して首都圏に観測網の整備を進めたほか、多点展開に必要な装置の小型化・省電力化を目指した試作を行った。 図表4-7-6-2 マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダー(MP-PAWR) さらにNICTでは、天候や昼夜によらず地表面を詳細に撮像できる航空機搭載合成開口レーダー(SAR)の研究開発を進めており、2018年度(平成30年度)は、画質(空間分解能等)を高めた次世代航空機搭載合成開口レーダー(Pi-SAR X3)の製作とPi-SAR X3を機体に設置するための機体改修の設計作業に取り組んでいる。また、これまでPi-SAR2で試験観測によって得られた観測データを用いて深層学習による土地被覆分類手法の開発やGISデータとSAR画像と融合した被災地解析手法(浸水領域の抽出や浸水深の算定等)の開発を実施し、情報抽出技術の更なる高度化を実施した。 この他、NICTでは、地球規模の気候変動の診断・予測精度向上に有用な衛星搭載センサの研究開発を実施しており、サブミリ波サウンダーのための2THz帯受信機の開発や衛星搭載雲プロファイリングレーダー(EarthCARE/CPR)の開発及び地上検証用雲レーダーの開発を実施している。また、通信/放送/測位/衛星利用などに影響を及ぼす太陽活動や地球近傍の電磁波環境などの監視を行い「宇宙天気予報」を配信している。2017年度(平成29年度)には、9月6日に11年ぶりに発生した大規模太陽フレアについて、いち早く警報を発信し衛星運用者等に対処を促すなどの活動を行った。 政策フォーカス 「グローバルコミュニケーション計画」の推進 〜多言語音声翻訳技術の成果展開〜 ○「グローバルコミュニケーション計画」の推進 2018年(平成30年)12月、我が国の年間訪日外国人旅行者数が初めて3,000万人を突破したことが、独立行政法人国際観光振興機構から発表された8 。2020年(令和2年)の訪日外国人旅行者数4,000万人という政府目標の達成に向けて、着実に増加してきている。また、在留外国人数も近年増加傾向にあり、2018年(平成30年)12月末には約273万人と過去最高を記録9 。同月、法務省を中心に「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」が策定される10 など、新たな外国人材の受入れ及び我が国で生活する外国人との共生社会の実現に向けた環境整備が進められている。 このように、外国人と交流する機会がますます増加する中、にわかに注目を浴びつつある技術がある。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が30年以上にわたり取り組んでいる、多言語音声翻訳技術である。これは、音声の入出力により日本語と外国語間の翻訳を可能とする技術である。 総務省では、2014年(平成26年)4月に「グローバルコミュニケーション計画11」を発表し、世界の「言葉の壁」をなくし、グローバルで自由な交流の実現に向けて、NICTが開発した多言語音声翻訳技術の精度を高めるとともに、民間が提供する様々なアプリケーションに適用する社会実証等を実施している(図表1)。 図表1 「グローバルコミュニケーション計画」の推進 さらに、NICTを中心とした産学官の力を結集し、2014年(平成26年)12月、グローバルコミュニケーション開発推進協議会12 が設立。2020年(令和2年)のオリンピック・パラリンピック東京大会を見据え、多言語音声翻訳技術の精度を高め、社会の様々な場面で利用可能とするために必要な活動を行い、産学官連携によるオールジャパン体制で「グローバルコミュニケーション計画」を推進している。本協議会には、経済界、情報通信事業者、学識経験者等、産学官の幅広い分野からの参加があり、研究者・事業者・利用者等が広く結集し交流を図るとともに、産学官連携による研究開発・実証実験などを推進している。 また、これら研究開発や社会実証に加え、多言語音声翻訳技術の周知に関する取組も実施しており、その一例を紹介する。 多言語音声翻訳技術をより広く普及させる契機とし、また、同技術の社会実装を加速化するため、総務省とNICTの主催により、翻訳技術の新しい使い方のアイデアを募集する「アイデアコンテスト」と、試作品などを募集する「試作品(PoC)コンテスト」から構成される、「多言語音声翻訳コンテスト」を2018年(平成30年)11月から2019年(平成31年)3月まで開催した(図表2)13。当コンテストでは、実際にNICTの多言語音声翻訳技術が自由に利用できるサンドボックスサーバーを開放し、試作品コンテストにおける作品製作に活用された。 図表2 試作品コンテスト表彰式を終えて ○多言語音声翻訳技術の成果展開 産学官の連携による「グローバルコミュニケーション計画」を推進してきた結果、近年、翻訳精度が向上し、実用可能な一定のレベルまで到達したという認識が広まり、NICTの多言語音声翻訳技術が活用された民間製品やサービスが次々と登場するようになった14。 このような社会実装に向けた動きを更に加速させ、インバウンド観光産業の活性化や外国人材との共生等にも寄与すべく、多言語音声翻訳技術をより簡便に利用できる環境の整備に向け、総務省の委託研究開発成果が活用された民間事業者による多言語音声翻訳プラットフォームの運用が、2019年(平成31年)4月から開始された15。この多言語音声翻訳プラットフォームの活用により、従来のように、サービスごとに翻訳サーバーを整備する必要がなくなり、ネットワーク経由で簡単に翻訳機能を提供できるようになるとともに、翻訳クラウドサーバーが共用可能となることで運用コストを低減し、翻訳技術を低廉に活用できるようになることが期待されている(図表3)。 図表3 「多言語音声翻訳プラットフォーム」のイメージ 総務省は、これらの取組を通じて多言語音声翻訳技術が様々な場面で手軽に使えるまで普及し、多くの外国人の方と「言葉の壁」を感じることなく、自然にコミュニケーションできる社会の実現を目指している。 8 https://www.jnto.go.jp/jpn/news/press_releases/pdf/181219.pdf 9 http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00081.html 10 http://www.moj.go.jp/hisho/seisakuhyouka/hisho04_00066.html 11 http://www.soumu.go.jp/main_content/000285578.pdf 12 http://gcp.nict.go.jp/ 13 http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin03_02000257.html http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin03_02000264.html https://tagen.go.jp/本事業は、内閣府の「官民研究開発投資拡大プログラム」(PRISM:プリズム)予算を活用して実施。 14 http://gcp.nict.go.jp/news/products_and_services_GCP.pdf 15 http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin03_02000276.html