2 各地域におけるICTを用いた課題解決の取組 (1)ICTが果たす役割 少子高齢化と人口減少による生産年齢人口の減少は労働投入の減少となることから、労働者1人当たりの生産性を高めなければ、経済規模の縮小や人手不足の深刻化など、今後の経済・労働環境にマイナスの影響を与えることとなる。労働生産性とは、労働人口や労働時間などの労働投入量とその労働により産出された成果(付加価値)の比率であるが、投入した労働量に対して産出の割合が大きいほど、労働生産性が高いということになる(図表2-1-2-1)。 図表2-1-2-1 労働生産性 (出典)総務省 この労働生産性を向上させるためには2通りのアプローチがあると考えられる。ひとつは例えば農作物について何らかの付加価値をつけてブランド化するなど、労働投入量を増加させずに産出された成果(付加価値)を向上させることである。もうひとつは、付加価値額を増加させずに機械化・ロボット化等ICTの導入により業務効率化を図り、労働投入量を減少させることである。 ICTを導入することで1人当たりの生産性を向上させることができれば、人口減少による労働力不足の課題解決に寄与するだろう。またICTの導入による生活の質(QoL:Quality of Life)の向上で地方から都市部への人口流出を防ぎ、地域の活力を維持創出することにも寄与することが期待できる。 平成27年版情報通信白書では、地方創生を実現していく上でのICTの役割として、@ICTによる雇用の質の向上、AICTによる地域企業の商圏拡大、BICTによる交流人口の拡大、CICTによる新たなワークスタイルの実現の4つの可能性を挙げている。これらを踏まえた上でICTが社会課題解決に果たす役割として期待されるものを改めて整理すると、以下の4点に再定義できると考えられる。 ア ICTによる労働の質の向上 1つ目は「労働の質の向上」である。例えばRPA等のICTの導入で定型作業が自動化されることにより、業務の効率化が図られ、生産的な仕事に注力できる環境を整えることが可能になる。平成27年版情報通信白書では「雇用の質」について、地方では賃金や安定性、やりがい等の点で良質な雇用が不足しているため、若者流出による人口減少が起きていると指摘した。この雇用の質の向上はもちろんのこと、人口減少に伴い発生する人手不足をいかにICTによって補い生産性を向上させ、労働全般の質を向上させるかが重要となってくる。 イ ICTによる市場の拡大 2つ目は「市場の拡大」である。令和元年版情報通信白書では、ICTの普及で時間と場所の制約を超えて市場が拡大し、マッチングコストの低下により規模の制約を超えて多品種少量生産でも市場が成立するようになっていると指摘した。これはすなわち地方の小規模な市場であっても、インターネットで世界と繋がることであらゆる地域の消費者の様々なニーズに即した商品・サービスの提供が可能となることを意味する。また5Gも含めたインターネットの活用により遠隔地と繋がることで、モノだけでなく遠隔授業や遠隔医療等といったサービスもオンラインを通じて提供可能となるなど、取引対象の拡大といった側面での市場の拡大も期待できる。 ウ ICTによる関係人口の拡大 3つ目は「関係人口の拡大」である。「関係人口」とは、移住した「定住人口」でも観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す 6 。人口減少や少子高齢化に伴い地域の担い手が不足していく中で、交流人口を増加させるだけでは地域コミュニティの維持は困難であるし、また移住者がすぐに増加するとは限らない。そこで地域づくりの担い手として地域外の人材を地域の熱心なファンとして取り込む、すなわち関係人口を増加させることが重要となるが、この増加にICTを活用した情報発信や関係づくりの取組が貢献する。 エ ICTによる就労機会の拡大 4つ目は「就労機会の拡大」である。テレワークやクラウドソーシング、アバターロボットの導入等、場所に囚われない働き方が可能になったことで、育児・介護・障害等これまで様々な事情により就労が困難であった人が就労機会を得られるようになった。このようにインターネットに接続できる環境があれば、地方に住みながら都市圏の仕事を行うことも可能となるなど、ICTを活用することでより柔軟なワークスタイルを選択することが可能となる。 06 総務省 「関係人口ポータルサイト」(https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/)