(2)社会課題とICT導入事例 それぞれの地域における課題とその解決の目的に適したICTの導入を行うことで、より効果的で中長期的な地域の発展が期待できる。以下で、各地域においてその地域が抱える課題解決のためにどのようなICTの導入がなされているのか、その内容を概観することにより課題先進国である我が国全体が抱える課題解決への可能性を考察する。 ア コワーキングスペース/ワーケーション誘致による関係人口の拡大の取組 (ア)人口減少が地域経済に与える影響 前項にて先述した通り、我が国では他国と比較しても急速に少子高齢化が進行している。生産年齢人口は1995年をピークに減少に転じており、生産年齢人口割合は2020年には59.1%であるが、2055年には51.6%にまで減少すると見込まれている。総人口も国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によれば、2055年には1億人を下回ることが予測されている(図表2-1-2-2)。 図表2-1-2-2 我が国の高齢化の推移と将来推計 (出典)総務省統計局「国勢調査結果」 7 、国立社会保障・人口問題研究所(2017)「日本の将来推計人口」 8 を基に作成 人口減少と高齢化は地域経済を縮小させ、さらなる人口減少と少子高齢化につながる悪循環を加速させるおそれが指摘されており(図表2-1-2-3)、課題解決に向けた取組が求められている。 図表2-1-2-3 地方の課題(人口減少、高齢化と地域経済縮小の悪循環にかかわるもの) (出典)総務省(2019)「AI技術等の活用による社会課題の解決のためのプロジェクトに係る調査研究」 このような課題に対し、国立大学法人筑波大学システム情報系社会工学域の川島宏一教授は、「ICTは効率や効果を追求するだけでなく、多様な価値や行動を支える基盤として重要な役割を担っている。住む場所や働き方に多様な選択肢ができることにより、地域に雇用が生まれ、また画期的なイノベーションを起こす可能性も期待できる」とICTの活用による解決の可能性を指摘する 9 。 特に「テレワーク」は時間・場所を有効に活用できる柔軟な働き方を実現する。工場や接客業等の一部の職を除く、幅広い職種において活用が可能であり、また、育児や介護による離職や病気や障害により就労に制約がある者も含め、テレワークを活用することで就労が可能となる。こうしたことから現在、全国の地方公共団体において、地域活性化に資する施策として企業等のテレワークを誘致する取組が進められている。 総務省(2020) 10 による調査では、企業におけるテレワークの導入率は2012年の11.5%から2019年には20.2%と増加しており(図表2-1-2-4)、新型コロナウイルス感染症の影響により更に導入が進むと考えられる(第3節にて詳述)。 図表2-1-2-4 企業のテレワーク導入率の推移 11 (出典)総務省「通信利用動向調査」各年版を基に作成 (イ)海外と国内における取組 A ポルトガルの事例 テレワークを行うスペースとしてコワーキングスペースを開設し、地域活性化に成功した事例としてポルトガルの「LXファクトリー」という文化発信基地を紹介する。 首都リスボンの旧市街南西部アルカンタラ地区は、かつては多くの工場が立ち並ぶ工業エリアであったが、現在はほとんどすべての工場が廃業している。しかしその一角にできたLXファクトリーは、現在50を超える店舗が建ち並び休日となると大勢の人で賑わう場所となっている。その賑わいのきっかけは2007年に不動産デベロッパーが残された工場群の一部に小さなコワーキングスペースを設けたことが始まりだという。松永・徳田(2017) 12 によれば「コワーキングスペースができたことで人気の無かったこの場所にクリエイティブ系の人たちが出入りするようになった。そうするうちにまだ空いたままの工場スペースに可能性を見出し、工場敷地内の通路に面したところに出店を希望する人たちが出てきた。(中略)コンテンツあるいはアクティビティが豊かな空間資源を使い、小さな変化を積み重ねることで、新しい街の活気を作った好事例である」という。 このように人の交流が途絶えた場所であっても、コワーキングスペースの設置をきっかけに関係人口が増加することで、新たな産業を誘致することに繋がり、地域を活性化させる可能性がある。 B 長野県の事例 我が国においても、「ワーケーション」 13 を通じて地域活性化を図る動きが生まれている。 長野県では「信州リゾートテレワーク」事業を2018年度に開始した。県内7カ所(2020年3月現在)をモデル地域に設定し、各地域の特性を活かした様々な拠点の整備を実施。随時利用できる街中のコワーキングスペースから会議室等の環境を整えた大規模な宿泊施設に至るまで、多様な働き方を可能にする施設が展開されている。また、和歌山県等の他団体と共に「ワーケーション自治体協議会」を立ち上げ、テレワークが可能にする新たな働き方の一形態として、ワーケーションの普及に取組んでいる。 ●背景と目的 長野県がワーケーションの取組を始めたきっかけは、地域における人口減少と少子高齢化を背景とした地元商店街の衰退にある。商店街振興策のひとつとして、これまで対象としてきた県内の地元住民だけでなく、県外からの人の流れを呼び込むことに着目して、2018年度より事業を開始し商店街の空き店舗など遊休施設の活用や、地元住民との交流を通じた地域の活性化を目指す取組を行っている。 ワーケーションを実施する県内の各地域においては、特に閑散期の集客効果が重要なポイントであり、県の主要産業である観光業では繁忙期と閑散期の平準化が常に課題とされてきた。ワーケーションを取り入れることによって、観光のみを主目的とする訪問とは異なる、幅広いニーズによる集客時期の分散が見込めるほか、研修等で長期滞在するケースを想定して1泊当たりの単価を下げることで、旅行商品としての優位性も高められる(図表2-1-2-5)。 図表2-1-2-5 長野県の「信州リゾートテレワーク」に取り組む意義 (出典)総務省(2020)「社会全体のICT化に関する調査研究」 ●環境の整備 ワーケーション事業を始める以前の2015年度から、県としてコワーキングスペースの整備等に取組んでいたが、当時はテレワークができる施設が数軒のみであったため、総務省が提供する補助制度を一部利用し、民間から公設民営まで幅広い施設の展開を進めてきた(図表2-1-2-6)。例えばモデル地域のひとつである軽井沢では、民間事業者による取組が多い点が特徴の一つである。この展開において行政はあくまで側面支援に徹しており、行政の支援が終了した後の事業の継続性という点において、非常に重要なポイントとなっている。 図表2-1-2-6 信州リゾートテレワーク対応施設マップ (出典)長野県HP 14 通信環境については、山間部が多いためにそれほど良好ではなく通信速度に一定の地域差はあるものの、一般的なテレワークには十分であり、これまでに新たな通信環境の整備が求められるシーンはそれほど多くなかったことから、大半は既存の通信環境のまま事業を実施している。 ●取組の現状 モデル事業開始から2020年で2年目となるが、当初の目的のひとつであった商店街振興における成果として、複数の地域での新たなゲストハウスやコワーキングスペース等の開設や店舗へのコワーキングスペースの設置による既存ビジネスの活性化も見込まれている。さらに滞在が数日に及ぶケースでは、地元の飲食業等への波及効果が期待されるのに加え、ワイナリー巡り等のモデル地域周辺の地域の観光と組み合わせたツアーも実施されており、幅広く地域経済の活性化に繋がる取組となっている。 ワーケーション人口の推移については、民間事業者が運営する施設も多く利用形態が多様であることから正確な定量把握が難しいものの、県が実施するイベント等を通じてモデル地域におけるワーケーションを体験利用した人数は、初年度の30人から2019年度は約230人 15 となっており、地域における施設の増加も含め着実に浸透してきていることが伺える。 ●今後の展開 ワーケーションをきっかけとして、商店街振興に留まらず、移住人口の増加や企業立地の促進による地域活性化が期待されている。すぐに直接的な移住等の効果につながらない場合でも、地域を訪れる人が増えることで、地域社会全体における関係人口の増加につながる可能性がある。 長野県では今後もモデル地域を増やしていくと同時に、各地の様々なワーケーションの取組に関する事例を収集し共有することを目的に、県内の参加自治体や民間組織を集めてネットワーク会議を立ち上げる予定となっている。 さらに、2019年7月には「ワーケーション自治体協議会」を設立しており、今後ワーケーションに取組む他の地方公共団体とも協力し、ワーケーションの認知と普及に向けた取組を展開していく。 イ eスポーツによる地域の魅力向上の取組 (ア)我が国の都市への人口集中の動き 世界的に地方圏から都市圏への人口集中が進んでいる中、我が国は世界でも特に都市への人口集中が進んでいる。 図表2-1-2-7 は各年の転入超過数を示したものであるが、東京圏への転入超過が1996年以降続いているのに伴って地方圏からの転出超過が続いている。 図表2-1-2-7 三大都市圏及び地方圏における人口移動(転入超過数)の推移 16 (出典)総務省「住民基本台帳人口移動報告」(日本人移動者)を基に作成 年齢階層別にみても、特に20歳〜24歳の東京圏への転入が多くなっており、地方にとってはこれら若年層の流出が地域の高齢化と将来的な担い手不足を引き起こす可能性があり、対策が求められている(図表2-1-2-8)。 図表2-1-2-8 東京圏の年齢階層別転入超過数 (出典)総務省「住民基本台帳人口移動報告」(2010-2019年/日本人移動者)を基に作成 (イ)QoL向上の必要性 内閣府による調査(図表2-1-2-9)によると、理想と思う仕事の条件として「収入が安定している仕事」「自分にとって楽しい仕事」に次いで、44.5%が「私生活とバランスがとれる仕事」を理想の仕事の条件としている。また、今後の生活の力点として重視するものとしても「健康」「資産・貯蓄」に次いで「レジャー・余暇生活」が28.0%となっており、仕事面での安定だけでなく、余暇時間の充実に対しての要求も高くなっている(図表2-1-2-10)。企業の誘致に留まらず、こうしたQoLの向上に関する対策も地域活性化を考える上では重要になってくると考えられる。 図表2-1-2-9 理想と思う仕事 (出典)内閣府(2019)「国民生活に関する世論調査」 図表2-1-2-10 生活者の今後の生活の力点 (出典)内閣府(2019)「国民生活に関する世論調査」 (ウ)有馬温泉の取組 この点に着目し、QoL向上を通じた若年層の引止め策として、eスポーツによる地域活性化が考えられる。例えば、兵庫県には有馬温泉観光協会の後援により、地方の温泉地におけるeスポーツの取組を通じて地域振興を図るeスポーツチームがある。有馬温泉で旅館の専務を務めている金井庸泰氏は、「TRES CORVOS ARIMA(トレスコルヴォスアリマ)」というeスポーツチームを率いつつ、eスポーツバーを経営し、eスポーツを地域コミュニティに根付かせようと活動している。 ●背景と目的 金井氏はかつてより旅館業やサービス業における就業者の「雇用満足度」について問題意識を持っていた。旅館業では早朝から深夜までと就業時間が長いことなどから、従業員が自分のために費やす時間を十分に確保できずにフラストレーションを溜め、結果として特に若い世代の離職へと繋がる懸念があった。そこで金井氏はそうした若い世代が旅館の就業者として旅行客の目を気にせず、かつフラストレーションを発散できる場所を作るため、eスポーツの取組に着手した。 ●eスポーツ市場の拡大 ゲームに対する依存症等のネガティブなイメージも先行する一方で、近年我が国におけるeスポーツ市場は急速に拡大しており、各地でeスポーツを活用した地域振興の取組が増加している。2019年時点では前年比127%の61.2億円となっており、今後も市場の伸長が続くと予想されている(図表2-1-2-11)。 図表2-1-2-11 日本eスポーツ市場規模 17 (出典)KADOKAWA Game Linkage(2020) 18 また世界では我が国に先行してeスポーツ市場規模が拡大しており、Newzoo社の調べ 19 では2019年には約10億ドル、2022年にはさらに約18億ドルまで伸長すると予測されており、ゲーム業界だけでなく、メディアや広告主、投資家からの注目も集めている。 ●地域展開のポイント 自治体が主体となって企画する大規模なイベントもあるが、eスポーツの地域展開においては民間での小さな活動の積み重ねが重要となる。有馬温泉に2018年5月に開店したeスポーツバー「BAR DE GOZAR」を拠点とした地域振興の活動も、民間による取組のひとつである(図表2-1-2-12)。 図表2-1-2-12 関西初のeスポーツ観戦バー「BAR DE GOZAR」の店内 (出典)「BAR DE GOZAR」HP 20 バーを経営する金井氏は有馬温泉観光協会の後援のもと、北海道のいわない温泉や群馬県の草津温泉等の他の温泉街とeスポーツを通じて交流を深める「湯桶杯」を開催するなど、周辺地域とも連携し地域振興のための様々な取組を行っている。ただし未だeスポーツ単体では十分な集客を見込めないこともあり、温泉施設の活用や、他のイベントと組合せることで成功体験を積み重ね、少しずつ文化として地域に根付かせようと活動している。 著名人の招待や大きな施設の設置等、大規模なイベントを開催すれば短期的な盛り上がりは創出できるが、中長期的な地域の成長を目的としている場合には継続的に実施可能な規模でのイベントの開催が求められる。 ●今後の展開 これまで地域の就労者の満足度向上と地域活性化の取組として実施してきたものから、今後は有馬温泉ならではの特色あるイベントを行い、地域のファンを増やしていく取組への転換が検討されている。eスポーツはインターネットの活用によりオンラインでも対戦することが可能であり、わざわざ他の地域に赴く事なくプレイ可能な点も魅力の一つである。しかし、かつて囲碁の対局を有名温泉地で行っていた例を参考に会場を純和風の雰囲気にするなど、そこでしか味わえない体験を提供することでeスポーツプレイヤーの誘致と独自のコミュニティ形成を目指している。 こうした娯楽文化が地域に根付くことによって、その地域における就労者の余暇時間への満足度を向上させることが可能になり、若い世代の地域定着のきっかけになるだろう。また他地域との連携により関係人口が増加することや、eスポーツを通じた観光客の増加も期待される。 ウ インフラ管理・災害対策と市民協働用アプリ (ア)インフラの老朽化 我が国のインフラは、2018年時点で道路橋の約25%、水門等の河川管理施設の約32%が建設から50年以上経過しており、それぞれ2033年には約63%、約62%にまで増加する見込みである(図表2-1-2-13)。 図表2-1-2-13 建設後50年以上経過する社会資本の割合 21 (出典)国土交通省(2019)「令和元年版国土交通白書」 例えば、橋梁72万橋のうち約71%が市町村道であるが(図表2-1-2-14)、町では24%が、村では59%の高い割合で橋梁保全業務に携わる土木技術者数が0人となっている(図表2-1-2-15)。自治体では、増加する老朽化インフラの管理を少人数又は専門外の職員で行わなければならない状況となっていることが伺える。 図表2-1-2-14 道路種別別橋梁数 (出典)国土交通省HP 22 図表2-1-2-15 市区町村における橋梁保全業務に携わる土木技術者数 (出典)国土交通省HP (イ)災害・防災対策の必要性 一方でインフラの災害・防災対策も進められている。電気通信事業者は2011年の東日本大震災時の大規模な停波をきっかけとして、災害時の対策を講じるとともに、マニュアルの作成や訓練を進めてきた。また各地域自治体においても、IoTの進展とともに河川の水位計測システムの整備や災害発生時の連携システムの構築等の様々な防災対策を講じており、ICTを用いて効率的な災害対策、防災対策が求められている(図表2-1-2-16)。 図表2-1-2-16 我が国における近年の甚大災害発生状況(2014年以降) (出典)内閣府(2020)「令和2年版防災白書」 (ウ)市民協働とAI活用によるインフラ管理 こうした背景のもと、千葉市では、2014年に市民がスマートフォンアプリを利用してインフラ等の不具合を行政に知らせる「ちば市民協働レポート(ちばレポ)」を導入した。2019年4月からは、東京大学生産技術研究所、合同会社GeorepublicJapan、一般社団法人社会基盤情報流通推進協議会が主体となり、千葉市を含む複数の自治体等が参加するコンソーシアムで共同運用する「My City Report(MCR)」として全国の自治体で展開可能となっている。 MCRには「ちばレポ」の後継システムにあたる「市民協働用アプリケーション(MCR for Citizens)」に加え、AIを活用した道路舗装損傷の自動検出等の機能を持つ「道路管理者向けアプリケーション(MCR for Road Managers)」が実装されており、効率的なインフラ管理の実施を目指している。 ●背景と目的 千葉市では「人口減少と少子高齢社会」、「地域コミュニティの希薄化(核家族化や単身世帯の増加、町内自治会加入率の低下)」、「ICTの普及(ネット普及率の増加及びスマホ保有率の増加)」という3つの地域を取り巻く環境変化を背景に、行政としてICTを活用することで市民との間に新たな関係を構築すべきと考え、市民が行政に参画するためのツールとして「ちばレポ」を構築した。 「ちばレポ」は、市内で起きている様々な課題を、市民がレポートすることで、市民と行政、市民と市民との間で共有し、合理的、効率的に解決することを目指すものである。また、市民が自主的に課題に対応することにより、自らが住む地域の行政への参加意識を向上させることも大きな狙いである。さらに、将来的に行政職員数が減少することが想定される中で、市役所業務の省力化についても、市民の力を借りることで可能になると期待されている。 ●ちばレポ/市民協働用アプリ(MCR for Citizens) ちばレポには「市民と行政の新しいチャネル」と「市民と行政の協働の機会」を創出する大きく2つの機能が備わっている。1つ目の「市民と行政の新しいチャネル」機能は、市内で起きている様々な課題を、スマホアプリを通じて報告してもらうもので、道路損傷や公園の遊具の破損等、地域の困った課題を報告してもらうものと、市が設定したテーマに沿って報告を募集する仕組みがある。2つ目の「市民と行政の協働の機会」を創出する機能には、市が主体となって市民協働による解決活動をイベントとして立ち上げ、参加者募集や実施報告等をアプリ上で行う機能と、市民が何らかの課題(ゴミが落ちていた、集水桝の周りに雑草が生えていた等)を見つけたときに、このぐらいなら自分で解決できると思ったら自主的に解決し、そのことをレポート・共有する仕組みがある(図表2-1-2-17)。 図表2-1-2-17 「ちばレポ」のシステム構成 (出典)千葉市提供資料「ちばレポ(ちば市民協働レポート)〜ICTを活用した協働のまちづくり〜」 アプリ導入前後で、従来の電話による通報の数とアプリによる市内の課題レポートの投稿数の合計値に大きな変化はなく、現在のところアプリ経由のレポートは通報全体の1割強と決して多くない。しかし市民にとっては時間や場所を問わず、また通報先の部署を考えずに簡易にレポートできることで利便性が向上し、さらに通報後の対応状況が可視化されているため安心できるというメリットがある。行政側にとっても、アプリ経由の報告には画像や位置情報が添付されているため、対応の優先度などの判断をしやすくなったことや、電話による通報を含めて一元管理が可能になったことで、業務の効率化に結び付いている。 ●道路管理者向けアプリ(MCR for Road Managers) 道路管理者向けアプリは、市民ではなく道路管理者が使用するアプリであり、「道路損傷自動検出スマートフォンアプリ」と「道路管理者向けダッシュボード」で構成されている。コンソーシアム参加の他自治体では、既に使用を開始しているところもあるが、千葉市では道路管理業務にどのように活用できるかを検討中の段階である。 しかし前述した通り特に小規模な自治体においては、職員数の減少に伴い道路点検業務の負担が今後課題となるところも多い。そこで、例えば道路管理以外を目的とした業務で外出する際に、このアプリを入れたスマートフォンを公用車に搭載し、他の業務と並行して道路損傷等を確認するという使い方をすることにより、道路管理のコスト削減に役立つことが期待される。また、目視で修理の必要性を判断するには一定の経験とスキルが必要であるが、AIの活用によってスキルの未熟な職員であっても業務に当たれるというメリットもある。さらに、収集データを分析し、道路の状態を1つ1つの点ではなく点を結んだ線として認識することで、路線全体の老朽化度合いを判断し修繕計画に反映することも将来的に期待されている。 ●関連部署・企業との連携 「ちばレポ」は、広聴業務を所管する市民局が導入主体であるが、導入に当たっては、道路を所管する建設局や公園を所管する都市局等、関係のある複数の部局を集めたプロジェクト形式とし、システムを利用することとなる部門が最初から主体的に検討に関わったことが一つの成功要因だと思われる。仮に、市民局の主導によりシステムを構築し、その後、利用部門におろす手法だった場合には、導入から運用への円滑な移行が難しくなったことも想像できる。 ●今後の展開 今後特に活用領域として注目されるのは防災領域であるが、災害発生時や直後ではなく、災害復旧時に役立つ可能性に期待されている。「ちばレポ」は即時的な運用はしていない(1日の中で随時確認してレポートがあれば対応する運用)ことや、レポーターに二次災害の危険が及ぶことを考慮し、災害発生時や直後の救援要請等への使用は想定していない。しかし、大きな災害が発生した場合には、市職員のみで広範囲にわたる被害状況を子細に把握することが難しいことから、この取組が発生後の復旧対応の優先度等を判断するための情報収集手段として役立つのではないかと考えられている。 実際に、令和元年房総半島台風(台風第15号)発生後に、道路の倒木や集水桝周囲の状況等、身近な被害について報告を求めたところ、40数件のレポートがあった。今後の災害発生時に備え、活用方法を検討しているところである。 9 総務省(2020)「社会全体のICT化に関する調査研究」有識者ヒアリング 10 総務省(2020)「令和元年通信利用動向調査(企業編)」 11 無回答を除く 12 松永安光・徳田光弘 編著(2017)『世界の地方創生 辺境のスタートアップたち』 13 ワーケーションとは、仕事(Work)と休暇(Vacation)とを組み合わせた造語である。ICTを活用すること(テレワークなど)により、リゾート地など普段の職場とは異なる場所で仕事をしつつ、別の日又は時間帯には休暇取得や地域ならではの活動を行うことが可能となる。 14 長野県 「“信州リゾートテレワーク”のご案内」 (https://www.pref.nagano.lg.jp/kankoshin/shinshu_resorttelework.html) 15 長野県庁の創業・サービス産業振興室で集計した人数(2020年3月12日時点、信州リゾートテレワーク7拠点分) 16 地域区分は以下の通り。  東京圏:埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県  名古屋圏:岐阜県、愛知県、三重県  大阪圏:京都府、大阪府、兵庫県、奈良県  三大都市圏:東京圏、名古屋圏、大阪圏  地方圏:三大都市圏以外の地域 17 2020年以降の数値は、2020年2月時点での予測 18  https://www.kadokawa.co.jp/topics/4161 19  https://newzoo.com/insights/articles/newzoo-global-esports-economy-will-top-1-billion-for-the-first-time-in-2019/ 20  http://alimali.jp/gozar/ 21 注1)道路橋約73万橋のうち、建設年度不明橋梁の約23万橋については、割合の算出にあたり除いている。(2017年度集計)  注2)トンネル約1万1千本のうち、建設年度不明トンネルの約400本については、割合の算出にあたり除いている、(2017年度集計)  注3)国管理の施設のみ。建設年度が不明な約1,000施設を含む。(50年以内に整備された施設については概ね記録が存在していることから、建設年度が不明な建設は約50年以上経過した施設として整理している。)(2017年度集計)  注4)建設年度が不明な約2万qを含む。(30年以内に布設された管きょについては概ね記録が存在していることから、建設年度が不明な施設は約30年以上経過した施設として整理し、記録が確認できる経過年数毎の整備延長割合により不明な施設の整備延長を按分し、計上している。)(2017年度集計)  注5)建設年度不明岸壁の約100施設については、割合の算出にあたり除いている。(2017年度集計) 22 老朽化対策の取組み 令和元年6月時点 https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/yobohozen.html