(4)ICTを用いた社会課題解決のポイント このように、社会課題解決のため自治体や民間等によりそれぞれの地域の特性を活かした施策が行われている。一方で地域を跨いで展開可能な取組もあり、一部地域のみならずそうした取組が全国各地に展開されることで、課題先進国である我が国全体の発展に寄与すると考えられる。そこで先述した成功事例に共通してみられる工夫から、ICTを用いた社会課題解決を成功に導くポイントを4つに絞ってまとめ、各地域での課題解決策推進のための示唆とする。 ア 持続可能な規模でのプロジェクト推進 有馬温泉の取組において、事業推進のポイントとして、まずはできることから始めて、少しずつ広げていくことが、長続きすることにつながることを示した。社会課題は短期的な取組によって解決されるものではなく、中長期的な対応が必要となる。まずは予算のかからない小規模なプロジェクトからスタートし、成功体験を積み重ねながら徐々に地域に展開していくことが、新しい事業を地域に根付かせるポイントといえる。 イ 市民との関係構築 地域の担い手である市民の協力と理解は、社会課題解決において重要なポイントである。千葉市の「ちばレポ」は、市民によるレポートで成り立っている。自治体は市民の利用を促進するために、「テーマレポート」といった市民が参加しやすい企画を定期的に実施しており、地域活動への継続的な参加を促している。その他にも市民による継続的な協力を得るためにUI/UX 27 の向上や、高松市の取組のようにデータの取得や利活用方法について市民の理解を得ることも重要である。 ウ 地域展開 IoT共通プラットフォーム(FIWARE)の利用や、複数の自治体等が参加するコンソーシアムで共同運用する「My City Report(MCR)」、ワーケーション、eスポーツ等、他の自治体との情報交換や連携して事業を進めることでコスト削減や効率的な事業推進が期待できる。地域を担う人材や予算が減少していく中で、独自に一からシステムを構築するのではなく、既にある技術や先行事例を取り入れることで省力化していくことが大切である。 エ 関係機関との連携 千葉市が「ちばレポ」導入時に内部の関係部局や地域の関係機関とプロジェクト開始当初から連携して推進したことでスムーズなシステムの運用が実現したように、ICT導入時にはそれを運用する主体が検討段階からプロジェクトに参加し、目的とその必要性について議論し理解していることがポイントとなる。例えばデータの収集においては、データを利用する主体が本当に必要とするデータを必要とする形で収集できなければ、いくらデータを収集しても活用されないことになる。また、インフラのデータは紙媒体のものがほとんどであり、これらのデータを収集・利活用するためには、紙データの電子化やシステムの構築にコストが必要であることから、データ化を促進するための支援が不可欠である。 また、人口減少時代における地域活性化には、自治体が民間企業などと連携し、地域創造に資する事業を行うことで、効果的な結果を出すことが期待できる。家中他(2019) 28 においても、「多元的な利害関係者と水平的なパートナーシップを結んで協働することが求められているが、その際、多元的なアクターがばらばらにならないように、「舵取り」することが政府の役割だと考えられる」としている。 深刻化する社会課題への対処に当たっては、自治体が地域の担い手である市民や企業と連携することで、効果的な結果を出すことが可能となる。ICTの進展とインターネットの普及により、効率化や協働プラットフォームの提供等、様々な課題解決手段を構築することが容易になってきており、これらのICTを効果的に用いて、多様な主体が連携し課題解決に向けて関わっていくことが求められる。 27 UI(User Interface:ユーザーインタフェース)、UX(User Experience:ユーザーエクスペリエンス) 28 家中茂/藤井正/小野達也/山下博樹 編著(2019)『新版 地域政策入門』