(1)テレワークの推進 総務省をはじめ関係省庁においては、従来から、時間や場所を有効に活用した働き方を実現するテレワークの導入を推進しており、企業にとっての競争力強化のみならず、新しいビジネスの創出や労働形態の改革、事業継続性の向上をもたらすとともに、多様化する個々人のライフスタイルに応じた柔軟かつバランスの取れた働き方の実現に寄与するものであるとして、テレワークの専門家であるテレワークマネージャーや補助金等によるテレワーク導入のサポートを行ってきた。 2019年9月末時点での企業におけるテレワーク導入率は20.2% 51 であったが、東京2020大会に向けてさらに導入が進められていたところ、この度の感染症拡大の対策において改めてその有用性と必要性が見直されている。前述したように、新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためには、多くの人が集まる場所での感染の危険性を減らすことが重要であり、通勤ラッシュや人混みを回避し、在宅での勤務も可能となるテレワークは、その有効な対策の一つである。総務省では、2月25日に新型コロナウイルス感染症対策本部において決定された「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」に基づき、患者・感染者との接触機会を減らす観点から、可能な限り、テレワークを積極的に活用するよう呼び掛けている。 我が国の企業においては、新型コロナウイルス感染症対策として早い時期では1月末の時点から在宅勤務が実施されている。特に早くに対応を実施し話題となったGMOインターネットグループ 52 は、観光客が多く集まる拠点(渋谷・大阪・福岡)において、約4,000名のパートナー(従業員)を対象に在宅勤務を実施した。その他にも時差通勤やテレワークなどを以前から導入していたり、政府がテレワーク普及啓発のための国民運動として2017年から行っている「テレワーク・デイズ」に参加した企業などが早期から在宅勤務を実施している。 ア テレワーク実施率の変化 新型コロナウイルス感染症対策としてのテレワークの導入・実施に関しては、様々な組織において実態調査が行われている。以下でそのいくつかを取り上げ、我が国におけるテレワークの現状を考察する。 3月31日に国土交通省から発表されたテレワーク人口実態調査 53 によると、新型コロナウイルス感染防止策として2〜3月上旬に、勤務先から感染症対策の一環としてテレワーク(在宅勤務)を実施するよう指示があった人の割合は、できるだけ実施するよう推奨された人と合わせて19.1%であった(図表2-3-2-2)。 図表2-3-2-2 勤務先からのテレワーク実施(在宅勤務に限る)の指示の有無 (出典)国土交通省(2020)「平成31年度(令和元年度)テレワーク人口実態調査」 一方で、今回の対策の一環として改めて又は初めてテレワークを実施した人は9.7%いるものの、通勤せず自宅で仕事した人は合わせて12.6%にとどまることがわかった(図表2-3-2-3)。 図表2-3-2-3 感染症対策としてのテレワーク(在宅勤務に限る)の実施有無 54 (出典)国土交通省(2020)「平成31年度(令和元年度)テレワーク人口実態調査」 またテレワーク(在宅勤務)を実施した人のうち、実施するうえで何らかの問題があったとした人の割合は72.2%で、「会社でないと閲覧・参照できない資料やデータなどがあった」が26.8%と最も多くなっており、次いで「営業・取引先等との連絡・意思疎通に苦労した」、「同僚や上司などとの連絡・意思疎通に苦労した」などコミュニケーションに課題があったと回答した割合が18.9%となった(図表2-3-2-4)。 図表2-3-2-4 テレワーク(在宅勤務に限る)を実施してみて問題があったこと (出典)国土交通省(2020)「平成31年度(令和元年度)テレワーク人口実態調査」 パーソル総合研究所は、3月9日から15日までに全国の正社員2万人に対し、新型コロナウイルスによるテレワーク実施の実態について調査を実施した 55 。この調査によると、正社員におけるテレワークの実施率は13.2%で、テレワークを実施していない人のうち、「希望しているができていない」割合は33.7%となっており、テレワーク実施のための環境が整っていないことがうかがえる。 その後、同研究所が、7都府県への緊急事態宣言後のテレワーク実態について、4月10日から12日までに全国の2.5万人に対して実施した第2回調査では、テレワーク実施率は全国平均で27.9%と、1か月前と比較して2倍以上に増加している(図表2-3-2-5)。 図表2-3-2-5 3月と4月のテレワーク実施率 (出典)パーソル総合研究所(2020) 56 エリア別に正社員のテレワーク実施率を見てみると、4月7日の緊急事態宣言における対象地域の7都府県で38.8%である一方で、それ以外の地域では13.8%となっており、7都府県はそれ以外の地域に比べて2.8倍の実施率という結果となった。東京都に限れば49.1%(3月半ばは23.1%)が実施しており、地域によって差が大きいことが分かる(図表2-3-2-6)。 図表2-3-2-6 地域別の3月と4月のテレワーク実施率 57 (出典)パーソル総合研究所(2020)を基に作成 各調査の調査対象、調査実施時期によってテレワーク実施率の結果には違いがあり、かつ業種によってはテレワークに適さない業種もあるものの、国土交通省の調査では新型コロナウイルス感染症対策として新たにテレワークを実施した人は15.6%おり、またパーソル総合研究所の調査でも会社からの推奨・命令率と従業員の実施率が共に増加していることから、全体ではテレワーク実施率は増加傾向にあるといえるだろう。 また、公益財団法人日本生産性本部の調査 58 で、テレワーク実施者のうち、新型コロナウイルス感染症収束後もテレワークを行いたいか意向を尋ねたところ「そう思う」が24.3%、「どちらかといえばそう思う」が38.4%であり、テレワークを継続して実施したいと感じている人は6割以上となっている(図表2-3-2-7)。 図表2-3-2-7 収束後もテレワークを行いたいか(2020年5月時点) (出典)公益財団法人日本生産性本部(2020)「第1回 働く人の意識調査」を基に作成 イ 中央官庁・地方公共団体におけるテレワークの導入状況 中央官庁においては、大部屋での勤務であるケースが多く、仮に感染者が一人でも出た場合、同室の全員が濃厚接触者として出勤停止になりかねないリスクを抱えている。そこで業務の分散により職員全員が影響を受けるリスクを軽減しつつ、テレワークの環境整備に向けて動いている。 内閣官房、内閣府、総務省、法務省、財務省、外務省、農林水産省など10を超える中央官庁では2月から時差出勤やテレワークを進め、3月には職場ごとに2つのチーム制を敷き、一方のチームが出勤時はもう一方は在宅勤務とし、互いの接触を避けることとした 59 。 同じく地方公共団体においても 60 、例えば東京都墨田区では、職場に出勤する班とテレワークを行う班に分かれて勤務のシフトを組んでいるほか、立川市も班分けをして交代で業務にあたっている。渋谷区は政府の緊急事態宣言に合わせて、出勤する職員を通常の3分の1に抑えることを目標とし、窓口業務の縮小やテレワークへの切替えにより出勤する職員を6割削減した。以前から職員一人ひとりにタブレット端末を支給し、公文書の決裁を電子化するなど業務のデジタル化を進めていたことが素早い対応につながったといえる。また、一部の緊急性がない業務を取りやめたほか、4月11日からは10か所ある出張所のうち4か所を閉鎖した。しかしこれ以上削減を進めると窓口業務が滞るおそれがあり、住民サービスと職員の衛生環境の確保とで、どのようにバランスを図るかが課題となっている。 ウ テレワーク導入支援の強化 新型コロナウイルス感染症対策の一環として中央官庁、地方公共団体だけでなく、企業におけるテレワークの導入が強く推奨される中、企業におけるテレワークの導入を支援するため、政府は助成金や専門家による相談体制整備等の支援策を展開している。 総務省は、2月25日に新型コロナウイルス感染症対策本部において新型コロナウイルス感染症対策の基本方針が決定されたことを受け、HPにてテレワークの積極的な活用についての支援情報やセキュリティ確保のためのガイドラインを掲載したほか、関係省庁におけるテレワーク導入支援の施策を紹介した 61 。2020年(令和2年)に開催予定であった「テレワーク・デイズ」の取組については、期間を限定せず、継続したテレワーク推進の呼びかけ、情報提供等の強化として行うこととし、テレワーク・デイズの WEB サイトにおけるテレワーク関連情報の発信等に取り組んでいる(図表2-3-2-8)。 図表2-3-2-8 テレワーク・デイズのWEBサイト (出典) https://teleworkdays.go.jp/ また、テレワークの導入や活用を検討する企業・団体等を対象に総務省が実施している「総務省令和2年度 テレワークマネージャー派遣事業」について、昨年度の実施期間を2月末から3月末まで延長するとともに、今年度当初からも、途切れることなく、対面ではなくWebや電話での相談に応じている。具体的には、テレワークに適したシステム(在宅勤務などを行うためのICT機器、システム)や情報セキュリティ、勤怠労務管理、その他テレワーク全般に関する相談を受け付け、専門家(テレワークマネージャー)による助言や支援を実施しており、4月20日に閣議決定された緊急経済対策としても、専門家の拡充やセキュリティ強化に向けた施策を措置している。 厚生労働省でもこれまで実施してきた通常の「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」とは別に、「働き方改革推進支援助成金(新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース)」 62 を新たに設け、新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークを新規 63 で導入する中小企業事業主に対して、その費用の一部を助成している。 エ コミュニケーションツールの利用拡大 テレワークの増加に伴って、コラボレーションツール 64 やWebミーティング用のツールの利用が急速に拡大している。米マイクロソフトは、3月11日時点で3,200万人だったOffice365のチームコラボレーションサービス「Microsoft Teams」の1日当たりの利用者数が翌週の3月18日までに1,200万人増えて4,400万人に達したと発表した 65 。また、4月9日には、同サービスで実施される1日当たりの会議実行時間が3月31日時点で3月16日の9億分から200%増(3倍)の27億分に上ったと発表した(図表2-3-2-9)。 図表2-3-2-9 Microsoft Teamsでの1日あたりの会議時間(分) (出典)Microsoft 365 66 さらに、ビデオ会議システムを提供している米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズも、4月2日の段階では2億人であったWeb会議の1日当たり参加者が、4月22日に3億人に達したと発表した 67 。我が国においてもZoomによるWeb会議システムの導入に向けて日本法人への問い合わせが急増しているという。 一方で、こうしたツールの脆弱性や利用者のICTリテラシーの低さを突いたサイバー攻撃も増加している。(3で後述。) 51 総務省(2020)「令和元年通信利用動向調査」 52 GMOインターネット株式会社(2020.01.26)「新型コロナウイルスの感染拡大に備え在宅勤務体制へ移行」(https://www.gmo.jp/news/article/6641/) 53 国土交通省(2020)「令和元年度テレワーク人口実態調査」(http://www.mlit.go.jp/toshi/daisei/content/001338545.pdf)この調査は3月9日から10日に実施し、人口実態調査回答者のうち、雇用型就業者35,807人にアンケートを配布し、4,532人から回答を得た 54 設問対象者は「現在は自営業・自由業、または収入のある仕事をしていない」と回答した人を除いた人 55 パーソル総合研究所(2020)「新型コロナによるテレワークへの影響について、全国2万人規模の緊急調査結果」(https://rc.persol-group.co.jp/news/202003230001.html) 56 「緊急事態宣言(7都府県)後のテレワークの実態について、全国2.5万人規模の調査結果」(https://rc.persol-group.co.jp/news/202004170001.html) 57 緊急事態宣言対象地域 : 東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡 58  https://www.jpc-net.jp/research/detail/004392.html 59 毎日新聞(2020.04.14)「新型コロナ 省庁「7割減」に壁 在宅勤務、向かぬ部署も」(https://mainichi.jp/articles/20200414/ddm/041/040/057000c) 60 NHK(2020.04.14)「窓口業務縮小 施設休止 都内自治体で職員のテレワーク進める」(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200414/k10012386781000.html) SankeiBiz(2020.04.20)「各自治体「働き方改革」で新型コロナ防げ 在宅勤務拡大」(https://www.sankeibiz.jp/workstyle/news/200420/ecd2004200655001-n1.htm) 61  https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/02ryutsu02_04000341.html 62  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/syokubaisikitelework.html 63 試行的に導入している事業主も対象 64 チーム内でのコミュニケーションや情報共有、スケジュール共有等を行える機能を有したツール 65 業務チャット「Teams」利用1.4倍 世界の在宅勤務お助け(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57828450Y0A400C2000000/) 66 Microsoft 365(2020.04.09)“Remote work trend report: meetings”(https://www.microsoft.com/en-us/microsoft-365/blog/2020/04/09/remote-work-trend-report-meetings/) 67 ITmedia NEWS(2020.04.24)「Zoomの会議参加者数、20日で1億増加し、3億人に」(https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2004/24/news068.html)