(2)オープンデータの活用 ア オープンデータを活用した社会課題解決に向けた取組 加えて、オープンデータの活用も今後の拡大が期待される取組だろう。 特に、新型コロナウイルス感染症の対策においては、シビックテックと呼ばれる、技術を活用して市民が中心となって社会課題を解決しようとする活動に注目が集まった。それらの動きの中には、多様な主体が有するデジタルデータを分かりやすい形で可視化し、対策に役立てようとするものが多くあった。 例えば、福井県鯖江市のソフトウェア開発企業jig.jpの会長で、内閣官房オープンデータ伝道師/総務省地域情報化アドバイザーの福野泰介氏が開発した「COVID-19 Japan 新型コロナウイルス対策ダッシュボード」 11 には、都道府県別累計PCR検査陽性者数、累計退院者数、死亡者数、現在患者数、感染症病床使用率(参考値)などが示されており、関連機関が発表する一次データとリアルタイムに連動している(図表3-2-3-3)。 図表3-2-3-3 オープンデータを活用した新型コロナウイルス感染症対策の例(空き病床数の可視化) (出典)「新型コロナウイルス対策ダッシュボード」ウェブサイト イ オープンデータ化の取組の現状 このように社会課題の解決に大きな役割を果たすことが期待されるオープンデータであるが、先述したように、日本企業による活用は進んでいない。 この要因として、利用可能なデータの種類が不足していることが考えられる。内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室が2019年に実施したアンケート 12 によれば、地方自治体において約5割の自治体がオープンデータについて取組を実施していないと回答しており、オープンデータ化の取組は十分に進んでいるとは言えない。 同アンケートにおいては、オープンデータ化に取り組むに当たっての課題や問題点について、オープンデータの効果・メリット・ニーズが不明確、人的リソースが不足しているといった項目を挙げる自治体が多くなっている。このほかにも、新型コロナウイルス感染症対策に係る取組においては、政府や各自治体が公表しているオープンデータの形式のばらつき等が指摘されており、オープンデータ活用に当たってはこのような障壁がその活用の妨げになっていた可能性がある。 ウ オープンデータの拡大に向けた取組 こうした中で、オープンデータの利用拡大を後押しするための政府による取組も進められている。 例えば我が国においては、先に紹介した世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画において、オープンデータが「データ流通の始点」として位置づけられ、国及び地方公共団体におけるオープンデータ化の促進のための方策が盛り込まれている。 また、新型コロナウイルス感染症に係る情報を市民がとりまとめて共有するにあたり障壁となっていた、オープンデータの形式のばらつき等についても、陽性患者数、検査実施件数等のデータの標準的なフォーマットがエンジニア有志により「新型コロナウイルス感染症対策に関するオープンデータ項目定義書」としてとりまとめられたことを受けて総務省が各自治体に情報提供を行うとともに、地方公共団体によるオープンデータの一層の推進と、シビックテックとの連携強化を促した 13 。 一方、欧州においてもオープンデータ化の推進に係る取組が進められている。2019年にはオープンデータ指令が発出され、オープンデータの利用促進、製品やサービスのイノベーション促進に向け、オープンデータの再利用と再利用を促進するための取り決めを規定している。同指令においては、@加盟国の公的部門団体が保有する既存の情報、A公営企業が保有する情報、B研究データをオープンデータ化することが求められている。 今後、オープンデータを活用した社会課題の解決の事例が増加していくのに伴い、オープンデータ化の重要性が次第に認知されていくだろう。それを通じて、データを保有する各主体による、利用者が使いやすい形でのオープンデータの公開が進み、企業や市民によるデジタルデータの活用が広まっていくことが期待される。 11  https://www.stopcovid19.jp 12 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室 (2019) 「地方公共団体へのオープンデータの取組に関するアンケート結果」(https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/survey_results.pdf) 13 総務省(2020)「新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に資する統計データ等の提供に係る要請」 https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02kiban01_04000143.html