(3)匿名加工情報のさらなる活用 ア 匿名加工情報の活用に関する消費者の意識 情報銀行の取組の推進に加えて、企業側による匿名加工情報の活用の拡大も、企業のパーソナルデータ活用を促すことが期待される取組と言えるだろう。 消費者がパーソナルデータの安心・安全な提供のために効果的と思う取組を尋ねると、日本、米国及びドイツにおいて、「個人が特定できないように、提供されたデータに対して匿名化などの加工処理を実施」が最も多く選択された(図表3-3-4-6)。我が国においては、そのほかに、「データ漏えい等の問題が発生した場合における対応策や責任範囲の明確化」、「プライバシー保護対策における認証の取得」などが多くの回答者に挙げられている。 図表3-3-4-6 消費者がパーソナルデータの安心・安全な提供のために効果的と思う取組(複数選択) (出典)総務省(2020)「データの流通環境等に関する消費者の意識に関する調査研究」 また、消費者に対するアンケートにおいて、個人が特定できないように加工されたパーソナルデータの企業によるデータの利活用についてどのように思うか尋ねている(図表3-3-4-7)。この設問においては、日本、米国及びドイツの回答者の6割前後、中国においては7割を超える回答者が安心できると回答している。 図表3-3-4-7 個人が特定できないように加工されたパーソナルデータの活用についての消費者の意見 (出典)総務省(2020)「データの流通環境等に関する消費者の意識に関する調査研究」 我が国の消費者のうち、サービスやアプリケーションを利用するにあたりパーソナルデータを提供することについて不安を感じている消費者が約8割に上っていたことを踏まえると、企業が匿名化されたパーソナルデータを活用することによって、消費者のパーソナルデータの活用に対する不安は軽減されうると言えるだろう。 イ 匿名加工情報の活用に関する企業の意識 一方で企業側は、この匿名加工情報についてどの程度の取組を進めているのだろうか。 企業側における匿名加工情報の提供や活用の状況について尋ねた設問に対し、我が国の企業の半数は「匿名加工情報について知らない」と答えている(図表3-3-4-8)。また、匿名加工情報を提供・活用している、又は検討中である(「既に提供、又は活用している」、「匿名加工情報を提供、又は活用することを検討している」又は「ニーズや有用性があれば提供を検討する」)とした割合は、米国、ドイツともに半数を超えているのに対し、日本は2割強にとどまっている。さらに、既に提供又は活用している割合についても米国やドイツが2割前後であるのに対し、日本は1割強となっている。 図表3-3-4-8 企業の匿名加工情報の提供・活用状況 (出典)総務省(2020)「データの流通環境等に関する消費者の意識に関する調査研究」 それでは匿名加工情報の活用が広がらない理由はどのようなところにあるのだろうか。 匿名加工情報を提供又は活用するに当たっての課題について尋ねると、対象国間で回答の傾向に差が出た(図表3-3-4-9)。匿名加工情報の活用が我が国に比べて進んでいる米国及びドイツにおいては、「匿名加工情報の提供・活用に求められる情報の公開義務」(米国)、「データの匿名加工処理に係るコスト」(ドイツ)といった点が最も多くの回答者によって課題として挙げられており、匿名加工情報の活用を実際に始めた際の課題が見え始めていると言える。一方、我が国においては、「匿名加工にあたって削除した情報や加工方法に関する情報の漏えいを防止する安全管理措置」や、「保有しているデータの適切な匿名加工方法」といった、匿名加工情報の活用を開始するに当たっての障壁となる課題が多くの回答者によって挙げられており、日本と米国及びドイツの間での匿名加工情報に関する活用度の差が浮かび上がっている。 図表3-3-4-9 匿名加工情報の提供・活用に当たっての課題(複数選択) (出典)総務省(2020)「データの流通環境等に関する消費者の意識に関する調査研究」 ウ 匿名加工情報等の活用に向けた動き 消費者のアンケート結果から分かるように、匿名加工情報は消費者にとってその活用に不安を比較的感じにくい情報であり、企業にとっては活用を進めやすいデータであると言える。しかしながら、米国やドイツの企業に比べ、日本の企業においては活用が進んでいるとは言えない。 実際にこのような匿名加工情報はどのように活用することが考えられるのだろうか。 (ア)ジェーシービーによる取組 ジェーシービーでは、小売業界のマーケティング担当者や証券アナリスト、行政機関などに向け、日本の消費活動を把握する指標である「JCB消費NOW」を提供しているが、この作成に当たりグループ会社が発行するクレジットカード会員の属性や決済情報を基に作成した匿名加工情報を活用している 13 。 同社では、JCBグループ会員の顧客情報・クレジット利用情報の中から統計のサンプルとなるデータをランダムに抽出し、抽出の対象となったデータを法令で定める適切な加工を施すことで、個人を特定することができない匿名加工情報にしている(図表3-3-4-10)。その後、個人が特定されやすい少数のデータ(属性が一致する人数が2名以下のレコード)を削除し、属性の偏り、カード決済・現金決済の消費増減のバランスを調整するなど統計の補正を行った上で、「JCB消費NOW」を作成し、専用ウェブサイトで会員登録をした利用者に提供している。 図表3-3-4-10 JCB消費NOWの作成手順のイメージ (出典)ジェーシービーウェブサイト (イ)住信SBIネット銀行による取組 また、国の行政機関や独立行政法人等が保有する個人情報を、特定の個人が識別できないように加工し、かつその個人情報を復元して特定の個人を再識別できないように加工した「非識別加工情報」についても、同様に活用の動きが見られつつある。 2019年8月には、住信SBIネット銀行が、独立行政法人住宅金融支援機構が保有する100万件以上のユーザの非識別加工情報を活用し、幅広い顧客層に安価で良質な住宅ローンを提供するためのAI審査モデルの構築に向けた取組を開始した 14 。今後、非識別加工情報と同社のAI技術を活用した審査業務の高度化により、クレジットコストの抑制とローコストオペレーションを推進することで、日本社会全体における与信・貸出コスト低減を牽引するとしている。 (ウ)NTTテクノクロスの取組 先に紹介したように、我が国における匿名加工情報の活用に当たっての課題として、適切な加工方法に関する課題が最も多く挙げられている一方で、データの匿名化効果によるデータの有用性の喪失を懸念する回答者も一定数見られる。 このような課題に対応するため、現在では新たなサービスも提供され始めており、例えば、NTTテクノクロスは、匿名加工情報の作成を支援するソフトウェア等を提供している(図表3-3-4-11)。 図表3-3-4-11 NTTテクノクロスの提供する匿名加工情報の作成ソフトウェア (出典)NTTテクノクロスウェブサイト 15 同社では、個人情報を法令にしたがって適切に匿名加工情報に加工することを支援するソフトウェア「匿名加工情報作成ソフトウェア」を提供しており、このソフトウェアを利用することで、データの特性や利用目的に応じて最適な加工技法の選択と加工後の結果を評価することができる。加えて、パーソナルデータの利活用に向けて必要となる、同意、利用規約、契約、委託先管理、第三者提供等のための支援や、データ匿名化手法、安全管理等のためのシステム提案、開発支援を実施する「パーソナルデータ活用支援サービス(匿名加工情報活用向け)」も提供している。 同社によれば、ソフトウェアに関して、製品販売開始からの問合せ・引合いは100件以上あり、分野としては、医療分野、特に次世代医療基盤法の認定事業者を目指す企業、病院等の医療機関、製薬会社、調剤薬局、医療データ(健診/検診データ、レセプトデータ等)を扱うサービス・ソリューションを提供する企業等からの問合せ・導入実績が多く、次いで金融分野からの問合せ等があるという。 同社は2018年7月から製品販売をしているが、近年、問合せの理由が情報収集から実際の導入検討へシフトしていると感じているという。また、データ分析をしたいと考えるデータ利用者(受領者)のほか、データ提供を受けるに当たって匿名化の仕組みをデータ提供者に求める必要があるような場合に際しても問合せがあるという。 このような匿名加工情報の活用を促す技術を提供するサービスの広がりにより、匿名加工情報を活用することへの障壁が下がり、効果的な活用が広がっていくことが期待される。 13 ジェーシービー、ナウキャスト(2018)「JCBとナウキャスト、ビッグデータを活用した消費指数「JCB消費NOW」をリニューアル」(https://www.global.jcb/ja/press/00000000162706.html) ジェーシービーWebサイト(https://www.jcb.co.jp/service/pop/jcbconsumptionnow.html) 14 住信SBIネット銀行(2019)「非識別加工情報を利活用した事業に関する取組みについて 〜国内初!「非識別加工情報」の民間事業者の取得〜」(https://www.netbk.co.jp/contents/company/press/2019/corp_news_20190815.html) 15  https://www.ntt-tx.co.jp/products/anontool/