2 課題に対する現状と先進事例 (1)我が国の政府及び地方公共団体における現状 我が国のこれまでの行政デジタル化に関する成果と課題を分析するため、また今後のデジタル化推進に向けた現時点の実態を把握するため、国又は地方公共団体等が実施している各種のアンケート調査等の結果を収集するとともに、その調査結果を分析した上で整理した。 ア 行政サービス (ア)政府における手続きオンライン化の現状 国の手続きにおけるオンライン利用率(オンラインで実施可能な手続におけるオンライン利用件数の割合)は、図表1-3-2-1に示す通り、緩やかに向上をみせている。 図表1-3-2-1 国の手続きにおけるオンライン利用率(オンラインで実施可能な手続におけるオンライン利用件数の割合)の推移 (出典)総務省(2021)「デジタル・ガバメントの推進等に関する調査研究」 「行政手続等の棚卸結果等の概要 調査対象期間 平成30年4月1日〜平成31年3月31日」 20 によれば、法令等に基づく手続は、全体で約56,000種類、年間24億件以上あり、このうちオンラインで実施できる手続の件数の割合(オンライン化率)は、種類数ベースで12%、件数ベースで77%であった。オンラインで実施できる手続件数のうち、実際にオンラインで実施されている手続件数の割合(オンライン利用率)は60%であった。 また、手続類型別では、「申請等」はオンライン化率が85%に対して、オンライン利用率は49%であった。(図表1-3-2-2) 図表1-3-2-2 オンライン実施状況(手続類型) (出典)「行政手続等の棚卸結果等の概要」(内閣官房IT総合戦略室 総務省) (イ)地方公共団体における手続きオンライン化の現状 2020年4月時点における市町村における電子申請システムの整備状況は、図表1-3-2-3に示すとおりである。多くが都道府県と域内市区町村との共同利用の形式をとっている。電子申請システムの整備がない市町村は192団体である。 図表1-3-2-3 電子申請システム整備状況(2020年4月1日時点) (出典)総務省(2021)「デジタル・ガバメントの推進等に関する調査研究」 地方公共団体の手続きにおけるオンライン利用率(「電子自治体オンライン利用促進指針」においてオンライン利用促進対象手続と選定された 21 手続におけるオンライン利用件数の割合)は、図表1-3-2-4に示す通り、2010年に40%台に到達して以降は緩やかな増加に留まり、2018年度時点で52.6%となっている。 図表1-3-2-4 地方公共団体の手続きにおけるオンライン利用率(オンライン利用促進対象手続におけるオンライン利用件数の割合)の推移 (出典)総務省(2021)「デジタル・ガバメントの推進等に関する調査研究」 また、「デジタル・ガバメント実行計画」において、住民のライフイベントに際し、多数存在する手続をワンストップで行うために必要と考えられる手続について、オンライン化が実現している市町村の数は図表1-3-2-5に示す通りである。 図表1-3-2-5 行政手続のマイナポータルでの利用可能手続の状況(2020年3月末時点) (出典)総務省(2021)「デジタル・ガバメントの推進等に関する調査研究」 子育てワンストップの導入団体が増加するなか、介護ワンストップ及び被災者支援ワンストップの導入団体はまだ一部に留まっている。 イ 情報連携及び認証の基盤 (ア)住基カード/マイナンバーカードの普及状況 住基カード及びマイナンバーカードの累計交付枚数ならびに人口に対する割合の推移を図表1-3-2-6に示す。住基カードは最大で人口の7.6%に留まっていたのに対し、マイナンバーカードは2021年5月末時点で31.7%に達している。なお、マイナンバーカードの累計有効申請受付枚数及び人口に対する割合は、同月末時点で49,913,618枚、39.3%となっている。 図表1-3-2-6 住基カード及びマイナンバーカードの人口に対する割合の推移 (出典)総務省(2021)「デジタル・ガバメントの推進等に関する調査研究」 2020年度のマイナンバーカードの交付枚数は、前年度の約4.1倍の15,579,073枚となり、1年間の交付枚数としては過去最多となった。これは、カード未取得者への申請書の個別送付やマイナポイント事業などの効果が現れたことによるものと考えられる。政府としては、「2022年度末までにほぼ全国民に行き渡ること」を目指して取り組んでおり、カードの一層の普及促進を図る必要がある。 ウ 行政内部業務及び情報システム (ア)政府情報システムの運用コスト削減状況 各府省においては、「政府情報システム改革ロードマップ」に基づき削減計画に取組んでおり、2013年に掲げた目標に対し、政府情報システム運用コスト削減率(対2013年度比)については2018年度末に-21.4%(−83,739百万円)、最終年度(2021年度)の削減率(見込額)は-29.4%(-115,269百万円)と、ほぼ目標達成が見込まれている。また、情報システム数については、2018年度末時点で-53.0%(-787システム)と、こちらも目標達成できている。21 (イ)自治体クラウド導入状況 「経済・財政再生計画 改革工程表」(2015)では、自治体クラウドの導入について「550団体を平成29年度末までに倍増(約1,000団体)する」との目標を示していたが、2018(平成30)年4月時点で1,060団体に達しており、この目標は達成された。 「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(2018)では「2023年度末までにクラウド導入団体を約1,600団体、自治体クラウド導入団体を約1,100団体にする」との目標が設定されたことを受け、更なる導入促進をはかってきた(図表1-3-2-7)。 図表1-3-2-7 クラウド導入市区町村数の推移と目標 (出典)総務省 自治体クラウドポータルサイト「クラウド導入状況(平成31年4月現在)」 22 (ウ)AI・RPA導入状況 2020(令和2)年12月に改定された「デジタル・ガバメント実行計画」では、本格的な人口減少社会を見据え、地方公共団体は限られた経営資源の中で持続可能な行政サービスを提供し続けていくために、AIやRPAなどのデジタル技術を今後積極的に活用すべきとした。 AIの導入済み団体数は、2020年度時点で、都道府県が68%まで増加し、指定都市は50%の団体で導入済みとなった。その他の市区町村は8%にとどまっているが、実証中、導入予定、導入検討中を含めると50%以上の自治体がAIの導入に向けて取り組んでいる(図表1-3-2-8)。 図表1-3-2-8 地方公共団体におけるAI導入状況 (出典)総務省 地方自治体のデジタルトランスフォーメーション推進に係る検討会(第3回)資料 また、RPA導入済み団体数は、都道府県が49%、指定都市が45%まで増加した。その他の市区町村は9%にとどまっているが、導入予定、導入検討中を含めると50%以上の自治体がRPAの導入に向けて取り組んでいる(図表1-3-2-9)。 図表1-3-2-9 地方公共団体におけるRPA導入状況 (出典)総務省 地方自治体のデジタルトランスフォーメーション推進に係る検討会(第3回)資料 全体として、都道府県・政令市での導入が進む一方で、小規模な自治体では導入が進んでいない。小規模自治体では、単独でのAI・RPAの導入については「費用対効果が見込めない」、「担当する人材が不足している」などの理由により、「導入予定がない」、「検討もしていない」という団体がある。 データの集積による機能の向上や導入費用の負担軽減の観点からも、複数団体による共同利用を推進する必要があるが、共同利用については、「業務システムや業務プロセスを統一する必要がある」、「推進主体となった場合の業務負担が大きい」などの課題があるとされている。 エ 組織・人材・ガバナンス CIOについては、首長の指示系統の明確化等の観点から、副知事や副市長等が任命される傾向にある。CIO/CIO補佐官を外部から任用している自治体数は、都道府県は「7」、市区町村は「37」であり、市区町村においては少数派であることがわかる(図表1-3-2-10)。 図表1-3-2-10 CIO、CIO補佐官の状況 (出典)総務省(2020)「自治体情報管理概要」 総務省の実施した「デジタル専門人材の確保に係るアンケート」(2020)によれば、DX推進に係る課題として、都道府県・市区町村ともに「財源の確保」を挙げる団体が多く、次いで、「情報主管課職員の確保」「デジタル専門人材の確保」を課題に挙げる団体が多い結果となった(図表1-3-2-11)。 図表1-3-2-11 DX推進に係る課題 (出典)総務省(2020)「デジタル専門人材の確保に係るアンケート」 デジタル専門人材の確保のための最大の課題としては、各団体で適切な人材が発見できないことがあげられる(図表1-3-2-12)。また、「その他」を選択した団体からは、団体側のデジタル専門人材の受入体制や業務適性等の検討が進んでいないという意見もあったほか、複数団体による専門人材の確保の意見も見られた。 図表1-3-2-12 デジタル専門人材の確保に係る課題 (出典)総務省(2020)「デジタル専門人材の確保に係るアンケート」 オ オープンデータに関する取組状況 (ア)官民データ活用推進計画の策定状況 官民データ法に基づき、中央省庁及び全都道府県では、2020年度までに官民データ活用推進計画の策定が義務付けられ(市町村は努力義務)、オープンデータの推進や分野横断的なデータ流通の促進のための規格整備等を推進することが求められている。IT総合戦略室の調査によれば、都道府県は2019(令和元)年7月時点で22団体 23 、市区町村は2020(令和2)年3月時点で90団体が策定済みとなっている 24 (図表1-3-2-13)。 図表1-3-2-13 地方自治体における官民データ活用推進計画の策定状況(2019年4月時点) (出典)内閣官房IT総合戦略室「地方自治体の官民データ活用推進計画の策定状況等について」(2019年4月19日) 25 (イ)政府におけるオープンデータの推進状況 政府におけるオープンデータの取組については、政府CIOポータルにおいて全府省庁の行政保有データの棚卸し結果が公開されている(図表1-3-2-14)。これによれば、2017(平成29)年4月1日時点の行政保有データ(統計関連)は、約46%がオープンデータとして公開、約40%が一部オープンデータとして公開している。オープンデータ化未対応または非公開の理由については、個別法令以外の合理的な理由によるものは約23%に留まっている。また、公開データのファイル形式は、EXCEL形式が約40%、構造化PDF形式が約37%、CSV形式が約8%となっており、「オープンデータ基本指針」等で示すデータの機械判読性の高い形式での公開に向けた取組のさらなる推進が必要なことが見てとれる。 図表1-3-2-14 行政保有データ(統計関連)の棚卸し結果 (出典)内閣官房IT総合戦略室「行政保有データ(統計関連)の棚卸し結果概要(平成29年12月取りまとめ)」 (ウ)地方公共団体におけるオープンデータの推進状況 地方公共団体におけるオープンデータ取組率は、2021(令和3)年4月時点で約65%(1,157/1,788自治体) 26 に留まっている(図表1-3-2-15)。都道府県は100%に達しているものの、市区町村における取組が途上であることがわかる。 図表1-3-2-15 地方公共団体のオープンデータ取組済み数の推移 (内閣官房IT総合戦略室調べ)(出典)政府CIOポータル「地方公共団体におけるオープンデータの取組状況」(令和3年4月12日時点) オープンデータで公開している分野について、内閣官房IT総合戦略室が実施した「地方公共団体へのオープンデータの取組に関するアンケート」 27 によれば、「防災分野の各種情報(指定緊急避難場所)」が最も多く、「基礎的な統計情報(人口、産業等)」、「公共施設の位置やサービスに関する情報(公共施設一覧、行政サービス一覧)」がそれに次ぐ結果となっている(図表1-3-2-16)。 図表1-3-2-16 現在公開しているオープンデータの分野 (出典)内閣官房IT総合戦略室(2021)「地方公共団体へのオープンデータの取組に関するアンケート」 「オープンデータ2.0」以降、オープンデータ利活用に向け、データの機械判読性を高めることが求められており、また、2020年に改定された「デジタル・ガバメント実行計画」においても、地方公共団体でも公開するデータの量のみならず、データの質の向上を図ることが重要であると示している。オープンデータの公開形式における現状については、「地方公共団体へのオープンデータの取組に関するアンケート」によれば、CSV等の3つ星データで公開していると回答した団体の割合は、全体の半数近くまで伸びている(図表1-3-2-17)。 図表1-3-2-17 現在公開しているオープンデータのデータ形式 28 (出典)内閣官房IT総合戦略室(2021)「地方公共団体へのオープンデータの取組に関するアンケート」 オープンデータに取り組むにあたっての課題や問題点としては、「オープンデータを担当する人的リソースがない」との回答が最も高く、「オープンデータの効果・メリット・ニーズが不明確」との回答がそれに次ぐ結果となっている(図表1-3-2-18)。 図表1-3-2-18 オープンデータに取り組むにあたっての課題や問題点(回答上位) (出典)内閣官房IT総合戦略室(2021)「地方公共団体へのオープンデータの取組に関するアンケート」 カ 電子行政の利用にかかる住民の意識 住民が電子行政手続きの利用についてどのような意識を有しているのか、株式会社トラストバンクが2020年7〜8月に実施したアンケートの結果を引用しながら見ていくこととする。 まず、オンライン行政手続きの利用意向については、「とても利用したいと思う」、「やや利用したいと思う」の合計で77.3%を占めている。その理由として、「24時間365日いつでも利用できるから」、「窓口に行かなくても申請できるから」が多くを占めた(図表1-3-2-19)。 図表1-3-2-19 オンライン行政手続きの利用意向及び理由 (出典)トラストバンク(2020)「行政手続きのデジタル化に関するアンケート」 続いて、実際に電子申請を利用した経験を聞いたところ、「利用経験あり」と答えた者は4分の1程度で、7割近くが「経験がない」と答えた。利用経験がない者にその理由を尋ねたところ、「電子申請できる行政手続きが限られている」、「電子申請できることを知らない」「電子申請の使い方が複雑で使いずらい」といった回答が上位を占めた(図表1-3-2-20)。 図表1-3-2-20 電子申請の利用経験と利用しない理由 (出典)トラストバンク(2020)「行政手続きのデジタル化に関するアンケート」 20 「行政手続等の棚卸結果等の概要 調査対象期間 平成30年4月1日〜平成31年3月31日」(内閣官房IT総合戦略室 総務省、2020.7.2)(https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/Inventory_overview.pdf) 21 政府CIOポータル ITダッシュボード(https://cio.go.jp/itdashboard) 22 総務省 自治体クラウドポータルサイト「クラウド導入状況(平成31年4月現在)」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000670680.pdf) 23 政府CIOポータル「地方の官民データ活用推進計画策定の手引(参考)計画策定済団体一覧(令和元年7月1日時点)」(https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/sakutei_ichiran.xlsx) 24 政府CIOポータル「市町村のデジタル化の取組に関する情報について」(https://cio.go.jp/Initiatives_municipalities) 25 内閣官房IT総合戦略室「地方自治体の官民データ活用推進計画の策定状況等について」(2019.4.19)(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/tihou/dai5/siryou4.pdf) 26 政府CIOポータル「地方公共団体におけるオープンデータの取組状況」(令和3年4月12日時点)(https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/opendata_lg_rate_20210412.pptx) 27 「地方公共団体へのオープンデータの取組に関するアンケート」(内閣官房IT総合戦略室、2021.6.9)(https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/r2_survey_results.pdf) 28 オープンデータの形式(参考:open data platform)1つ星:オープンなライセンスで提供されている(PDF等)、2つ星:構造化されたデータとして公開されている(XLS等)、3つ星:非独占の形式で公開されている(CSV等)、4つ星:物事の識別にURIを利用している(RDF等)、5つ星:他のデータにリンクしている(LOD等)