(2)行政サービスのデジタル化 行政サービスのデジタル化における各国・地域の取組概要を図表1-3-3-2に示す。各国とも、デジタル前提でのユーザー体験向上を重視し、政府ポータルサイトから各種手続きが可能となっている。日本のマイナンバーカードにあたる国民IDカードの整備状況については、各国の方針により様々であるが、民間の認証制度の活用も含む電子認証の仕組みが政府ポータルサイトへのログインなどに用いられている。 図表1-3-3-2 行政サービスのデジタル化における各国・地域の取組概要 (出典)総務省(2021)「デジタル・ガバメントの推進等に関する調査研究」 ア ユーザー中心のサービスデザイン徹底による「デジタルセルフサービス」の実現(デンマーク) デンマークでは、ユーザー中心のサービスデザインを徹底したうえで、法令のデジタル対応を義務化するなど規制によるデジタル・ファーストを徹底している。このため、コロナ禍における給付手続きにおいても、通知から手続き完了、振込までシンプルなワンストップサービスを実現している。 デンマークでは、国民IDとして1968年からCPR番号が導入されており、全国民に付与されているほか、在住する外国人にも付与されている。当初は税の徴収を確実かつ効率的に処理するために導入され、それから医療など他の行政サービスへと活用されるようになった 32 。また、民間においても、例えば銀行取引、携帯電話の契約や不動産売買など、信用調査が必要になる場合にCPR番号が活用されている。 市民向けのポータルサイトとして「Borger.dk」が2007年からデジタル化庁(Agency for digitisation)によって運用されている(図表1-3-3-3)。申請が必要な手続きや申請可能な助成金など、市民が必要としているサービスは同ポータルサイト内の個人ページである「My overview」に纏められており、市民が閲覧しているものやアクセスしているデータの分析により、手続きの支払期日や申請可能な助成金など、利用者ごとに情報が整理されている 33 。引っ越し手続きについても、同ポータルサイト上からワンストップで手続きが完了するなど、市民にとって使い勝手のよいサービスが提供されている 34 。 図表1-3-3-3 borger.dkのトップページ (出典)https://www.borger.dk/ また、2000年より行政機関からの通知は「Digital Post」と呼ばれる電子私書箱が活用されており、法律上、原則全市民が「Digital Post」を保有し、利用することが義務付けられている。通知だけでなく、行政機関への書類の送信も可能になっているほか、保険会社や銀行など民間企業からの書類の通知も可能になっている 35 。一方で、障害を持っている場合やホームレスなど「Digital Post」の利用が難しい市民には、郵便などオンラインでない通知方法を残している 36 。 行政サービスへの認証については、CPR番号とは別に「NemID」が用いられている。「NemID」はCPR番号を所有しており、15歳以上であれば取得可能である。カード、アプリケーションとセキュリティトークンなどの手段が用意されている。また、「NemID」は政府と金融機関における共通の認証システムとして採用されており 37 、オンラインバンキングにログインする際にも利用されている。 デンマークの全市民と企業は、政府からの還付金を受け取るための「ネム・コント(NemKonto)」と呼ばれる特定の口座に、所有する銀行口座を紐づける義務があり 38 、コロナ関連の給付金についても「ネム・コント」を保有する市民に、自動的に振り込みが行われている 39 。デンマークでは、新型コロナウイルス感染症対応として企業への補償や生活保護受給者への給付金支給が行われた。法人向け、個人向けともにデジタルポストで連絡が行われ、メール本文内のリンクから開ける「Borger.dk」の該当ページにおいて、オンライン上で手続きを行う手段が取られた。実際の給付金や補助金の受け取りは、法人、個人共に政府との連絡口座である「ネム・コント」に入金が行われた。 イ 市民からのフィードバックを踏まえたサービス改善の取組(英国) 政府ポータルサイトとして、「GOV.UK」が2012年からGDS(the Government Digital Service)によって運用されている。「GOV.UK」では市民が必要とする情報がトップページに体系的に纏められており、例えば、パスポートの更新や、自動車の仮免許証の申請など各種手続のほか、各種税金の支払いについても同ポータルサイトから可能になっている(図表1-3-3-4)。 図表1-3-3-4 GOV.UKのトップページ (出典)https://www.gov.uk/ また、「GOV.UK」では開発中のサービスをベータ版として逐次公開し、市民からの使い勝手などのフィードバックを受けて改善を図ることで、利用者目線のサービスを実現していることも特徴である 40 。 政府ポータルサイトにおける認証方法としては、「GOV.UK Verify」を用意している。英国において国民IDは存在しないが、Digidentity, Experian, Mydex, the Post OfficeやVerizonなど民間事業者の認証システムを活用することで、政府の電子サービスの利用を可能としている 41 。 32 「諸外国における国民ID制度の現状等に関する調査研究報告書」(国際大学 2012.4)(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h24_04_houkoku.pdf) 33 「Digitisation of the Public Sector in Denmark」(Agency for Digitaisation 2019.4)(https://www.dga.or.th/wp-content/uploads/2019/03/file_dff0e1173ce315d0a824c2236d78b943.pdf) 34 「Borger.dk の衝撃」(第一生命経済研究所 2021.1)(http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2020/wt2101b.pdf) 35 「諸外国における国民ID・電子私書箱の動向」(三菱総合研究所 2015.5.28)(https://www.soumu.go.jp/main_content/000360918.pdf) 36 「Exemption from Digital Post」(Agency for Digitisation 2021.3.29閲覧)(https://en.digst.dk/policy-and-strategy/mandatory-digitisation/digital-post/) 37 「デンマークのデジタル・ガバメント」(日本総合研究所 2020.11.2)(https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchfocus/pdf/12196.pdf) 38 「NemKonto」(NEMKONTO 2021.3.29閲覧)(https://www.nemkonto.dk/da/Servicemenu/Engelsk) 39 「One-time payment of DKK 1,000 for welfare beneficiaries」(Agency for Digitisation 2021.3.29閲覧)(https://lifeindenmark.borger.dk/economy-and-tax/social-benefits/one-time-payment-of-dkk-1-000-for-welfare-beneficiaries) 40 「デジタルガバメントに関する諸外国における先進事例の実態調査」(BCG 2017.3.31)(https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000454.pdf) 41 「What is identity assurance?」(GOV.UK 2014.1.23)(https://gds.blog.gov.uk/2014/01/23/what-is-identity-assurance/)