(1)我が国及び世界が乗り越えるべき社会課題 ア 新型コロナウイルス感染症への対応 目下、世界規模での最大の社会課題であり、感染症が収束するまでの間は、感染リスクを抑えながら国民生活や経済活動への影響を最小限に食い止めるか、そのために、デジタル技術を活用しながら、非接触・非対面での行動様式や社会全体としての行動変容の在り方などを確立させていくかが重要な課題となっている。 イ 我が国を含む世界的な課題 (ア)持続可能な社会の構築 2015年に国際連合は持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)を採択し、持続可能な世界を実現するための17のゴールと169のターゲットを掲げた(図表3-1-1-1)。これまでの人間の活動から生じた様々な課題(貧困・飢餓、気候変動、差別、環境破壊等)を解決するために、将来的な持続可能性を考慮した開発の実施が世界的な課題となっている。 図表3-1-1-1 持続可能な開発目標(SDGs) (出典)外務省ホームページ (イ)グリーン・カーボンニュートラル (ア)とも重複するが、途上国も含めた経済発展により生じているCO2排出量の増大は地球温暖化の原因となり、地球規模での生態系の破壊等を招く一因になっていると言われている。そのため、再生可能エネルギーの活用など、温室効果ガスを削減するための様々な取組に注目が集まっている。 (ウ)災害の激甚化 世界規模での気候変動は、干ばつや水害等の自然災害の激甚化の一要因と考えられており、各国で甚大な人的・物的被害をもたらしている。これらの災害による被害を最小化するための取組(観測、資源管理、情報伝達等)が求められている。 (エ)情報過多、情報独占への対応 デジタル化の進展により距離等の制約を受けることなく、デジタル化された情報が瞬時にオンライン上で流通・共有され、容易に複製される環境が整っている。情報伝達コストの低減により利便性が上昇する反面、偽情報と呼ばれるフェイクニュースなども瞬時に流通することで社会的混乱を招くほか、情報操作や世論誘導、プライバシーの侵害への懸念もより深刻となっている。情報の真偽を見極めるリテラシーの向上のほか、適切な情報を抽出するマッチングやキュレーションといったサービスが求められている。 (オ)嗜好の多様化 デジタル化の進展により、これまでは一定の規模がなければ成立しなかったミクロの取引の成立が可能となり、利用者の需要にきめ細かく応えることが可能な環境が整うこととなった1。このいわゆる「市場の細粒化」の進展に伴い、供給側もまた、利用者の嗜好の多様化への対応が必要となってくる。このことは、新たなビジネスチャンスをもたらす一方、行政分野などでは多様化する住民ニーズへの対応はコスト増にもつながり得ることから、最適なサービスのあり方を見直す必要も生じることが考えられる。 (カ)ウェルビーイング志向の高まり 新型コロナウイルスの流行によって、経済的な成功よりも生きがいや健康に楽しく生きることを優先させる「ウェルビーイング」への志向が個人に高まっていると言われる。その志向の高まりが日常生活や経済活動に変化をもたらし、ひいては社会構造の変革へとつながる可能性が考えられる。 なお、我が国の消費者に対して、今後の社会において重視する事項を尋ねたところ、「健康な暮らし」が「食べるものや金銭的に困らない暮らし」を僅かではあるが上回る結果となった(図表3-1-1-2)。 図表3-1-1-2 今後の社会において重視する事項(複数回答) (出典)総務省(2021)「ウィズコロナにおけるデジタル活用の実態と利用者意識の変化に関する調査研究」 ウ 特に我が国で注視すべき課題 (ア)人口減少・高齢化 先進国は軒並み同様の課題を抱えているが、我が国において少子高齢化はより深刻な課題である。少子高齢化は生産年齢人口の減少を通じて様々な業種における労働力不足を招くほか、市場の縮小にもつながる。また、人口構造の変化に伴い若年層の経済的負担増につながるなど社会保障制度の維持に影響を及ぼす。 (イ)生産性向上 我が国の経済はバブル崩壊以降、長期の低迷期にある。少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や国際競争力の低下などが深刻な我が国において、企業の経営資源を最大限に活用し、投資に対して最大限の効果を生み出す生産性向上の取組は、我が国経済の再生を図る上で不可欠となっている。 (ウ)都市と地方の問題 都市圏の人口割合は世界的に増加傾向にあるが、我が国においても、三大都市圏(東京圏、名古屋圏、大阪圏)を中心に、都市部へ人口が集中している 2 。このような都市部への人口集中は、都市における過密化等による感染症リスクや自然災害リスクの増加や交通混雑等を引き起こす一方で、地方における人口流出による地域経済・産業の担い手不足、コミュニティ維持の困難を引き起こす要因となる。 1 「市場の細粒化」について、詳しくは、令和元年版情報通信白書を参照のこと。 2 我が国では、高度経済成長期以降、東京圏への転入超過、バブル崩壊後の一時期を除いて続いており、2019年は145,576人の転入超過となるなど、コロナ禍以前は、東京一極集中の構造が是正されない状況が続いていた。