(1)利用者(国民)におけるデジタル活用の促進 国民利用者にデジタルサービスを定着させ、利用を促すには、国民利用者のデジタルへの接触機会を少しでも増やし、デジタルを活用することの価値を実感してもらうことが重要である。そのためには、デジタルに接触する際の障壁を取り除く取組が引き続き重要となる。 ア デジタル・デバイドの解消 「誰一人取り残さない」デジタル化を進める観点では、地理的・経済的・身体的制約の有無にかかわらず、あらゆる人や団体が必要な時に必要なだけデジタルを利用できる環境(アクセシビリティ)を確保することが必要である。まず、デジタルサービスを利用する際の前提となるデジタルインフラの整備が求められる。最近では高速・大容量を生かしたサービスが相次いで登場しており、それらサービスの利用に必要不可欠な、より高速・大容量で安定したネットワークを有線/無線を問わず地域格差を最小限に抑え全国的に整備する必要がある。 前述した高速・大容量の有線/無線ネットワークは、自律分散的な社会・経済活動の屋台骨となるものであるが、さらに国・地方における行政内部のデジタル化を進めることにより、コロナ禍のような状況においても、また、過疎地のように住民サービスの低下が危惧される地域においても、住民が必要とする行政サービスをストレス無く利用できるような環境の整備も必要である。これにより、デジタルのメリットをフルに活かしたエンド・トゥ・エンドのサービスを効率的に提供・享受することが可能となる。 情報バリアフリー環境の整備も重要である。アプリケーション画面のユニバーサル利用を想定した利用者にわかりやすい設計の実施の他、障がい者が社会全体のデジタル化から取り残されることのないよう、電話リレーサービスや聴覚障害者向け会議支援システムのような利便の増進に資する情報通信機器やサービスの研究開発を進め、社会への普及を図っていくことにより、障がい者の社会参画を後押ししていくことが重要である。 さらに、経済的事情等の理由でデジタル利用が困難な者への対応も必要である。コロナ禍において大学等で遠隔教育が実施された際、通信事業者が学生の通信費を免除する措置を講じたことがあった。こうした生活困窮者のデジタル利用の実態を把握し、支援のあり方について検討していくことが必要である。 イ デジタル・リテラシーの向上 「誰一人取り残さない」デジタル化の実現に向けて、デジタル・リテラシーの向上が必要である。我が国では、「端末の操作が難しい」、「近くに相談できる人がいない」といった理由で、デジタル活用を躊躇する人たちが高齢者を中心に存在している。 これまでも地方公共団体や地域のパソコン教室等において、これらデジタル初心者をサポートする取組は行われてきたが、社会全体にデジタルの定着を図る観点では、より身近な場所で身近な人からスマートフォン等のデジタル機器の利用方法を学ぶことのできる「デジタル活用支援員」のような取組をさらに拡充させる必要がある。 他方、身体的制約等の理由により、デジタル機器の操作が困難な者も存在している。そのような人でもデジタルの恩恵を受けられるようなサポート体制の整備も必要であろう。 また、デジタル・リテラシーの向上には、単に機器を操作するスキルを上げるだけでなく、デジタルを利用する際の様々なリスクを知り、危険を回避できる知識を身に着ける必要がある。そのためには、若年層、高齢層に加え、生産年齢世代等の様々な層を対象とした教育・研修や、情報セキュリティや偽情報の対策等のリスク回避のための情報発信、啓発活動などを続ける必要がある。 なお、「一人も取り残さない」とは、単にデジタルを活用できるようにするとの話だけでなく、様々な立場の人が、それぞれの立場に合わせて社会参画できるソーシャル・インクルージョンを意味している。少子高齢化が進む我が国において、国際競争力を維持し、我が国の社会・経済機能を継続して確保していくためには、労働参加人口の拡大という観点でもデジタル・リテラシーの底上げは非常に重要である。 ウ UI/UXの改善 国民にデジタルサービスを利用してもらうためには、利用者にとって使いやすいサービスを供給者が構築・提供することが重要である。既に民間企業では、デザイン思考の導入等によりUI/UXを重視した顧客サービスを構築・提供しているが、公的機関が提供するサービスにおいても、同様にUI/UXの改善を図るべきであろう。 具体的には、国や地方公共団体等が提供するポータルサイトやウェブサイトについて、UIの点検を行い、改善すべき点があれば速やかに改善することが挙げられる。また、政府ウェブサイトのデザインやコンテンツ構成の標準化・統一化が図られれば、利用者にとっての利便性も増すであろう。 さらに、ライフイベントごとに、複数の手続きが一つで完結するワンストップサービスの推進も重要である。なお、ワンストップサービスの実現には、単にポータルサイトを立ち上げて窓口を一本化するだけでなく、複数部署間でのデータ連携を図ることで、手続きがデジタルで完結できるようにすることも、住民にとっての利便性向上と行政内部の効率化双方の観点から重要である。