(2)供給者(民間企業・公的分野)のデジタル化の推進 先に述べたが、人口減少・少子高齢化に伴う労働人口の減少や国内市場の縮小、さらにはデジタル経済の進展による産業構造の変化に伴うデジタル競争力の低迷、といった社会・経済課題を解決するには、生産性向上と新たな付加価値の創出が必要である。その際に重要となる取組が、企業によるデジタル・トランスフォーメーションの実施であり、「誰一人取り残さない」デジタル化の観点では、企業によるデジタル・トランスフォ−メーションの実施を後押しする取組が重要となる。 また、利用者(国民)がデジタル化の恩恵を実感するには、公的分野のデジタル化も重要である。具体的には、利用者とのインタフェースだけでなく、内部手続きも含めたデジタル化を進めることにより、業務の効率化と住民サービスの向上を図っていくことが、これまで以上に求められている。言い換えれば、公的分野においてもデジタル・トランスフォーメーションの実施が民間企業と同様に求められているといえよう。 ア データ流通・連携の推進 デジタル化の進展に伴い、大量に生成・流通するデジタルデータはあらゆる価値創出の源泉であり、デジタルデータから新たな発見を生み出し、精度の高い判断につなげるためには、データ流通環境の整備が必要となってくる。 現在は、データ流通のためのプラットフォームが主要分野単位で形成されているが、今後、デジタルデータから新たなサービスや価値を生み出して行くには、分野横断的な情報流通プラットフォームを構築し、既に構築されている各分野のプラットフォームを連携させる取組が重要となる。 現在、個別の法制度において、当該制度に基づいて収集されたデータの目的外利用に制限が設けられているケースがある。当該制度の創設の趣旨に鑑みればやむを得ない面がある一方、今後、データの流通・活用の円滑化を図るにあたってはこれらの制度が障壁となる可能性がある。より利便性の高いサービスを実現させるためには、制度のあり方について検討を進める必要があるだろう。 さらに、分野横断的なデータ流通・活用を進めるためには、データの標準化や共通のセキュリティ対策、本人同意の取り方、情報提供ルールの整備といった取組も併せて進める必要がある。加えて、PDS(パーソナル・データ・ストア)や情報銀行を含むデータ流通市場の形成に向けた取組も必要であろう。 なお、デジタルデータは国境を越えて世界規模で流通しているが、特定の主体がデジタルデータを大量に収集し、囲い込むことで公正な競争の阻害や安全保障上の懸念となることのないよう、データ流通に関連する国際的なルール作りや討議に積極的に参画し、「信頼性のある自由なデータ流通(Data Free Flow with Trust)」を推進することも重要である。 イ デジタル人材の確保・育成 我が国におけるデジタル人材は、ICT産業(通信事業者、ICTベンダー、ICTサービス事業者)に偏在していると言われており、ユーザ企業や公的機関におけるデジタル人材の不足が、民間企業や公的分野のデジタル化が進まない要因の一つとしてかねてより指摘されてきた。今後、民間企業や公的機関がデジタル化を進めていくには、これら組織の内部でもデジタル人材を確保し、システム開発・運用の内製化や、調達・発注能力の向上を図る必要がある 6 。そのためには、これら組織が人材を確保できるよう、人材の流動性を高めることも重要であり、優秀な人材が官民を行き来しながらキャリアアップを図れるような環境整備が必要と考えられる。 また、デジタル・トランスフォーメーションを進める上では、デジタル技術を理解する人材の他に、ビジネスを理解する人材及びビジネスとデジタルをマッチングするデザイン人材が必要と言われている。今後、デジタル化された社会においては、高度な専門人材だけでなく、これらのビジネスとデジタルの目利きができる「一般的な」デジタル人材を育成し、各企業で確保する取組が必要となる。そのためには、小学校でのプログラミング教育から大学等における数理・データサイエンス・AI等の高等教育、企業等の組織内教育など、様々な段階で、かつ様々なレベルの人材を育成していく必要がある。 また、セキュリティ分野など、特に高度な能力を必要とする人材や、アジャイル対応など、経験者不足で人材が育っていない分野においては、国内に限定せず、海外の先進企業との連携や、海外人材の活用(オンラインなど)、なども視野に、人材の育成・確保に取り組む必要がある。 ウ オープン化・クラウド化への対応 経済産業省のDXレポート 7 でも言及されているように、多くの企業や行政機関において旧来型の情報システム(レガシーシステム)が未だに使用されており、諸外国に比べて、オープン化、クラウド化への対応が遅れている。今後、デジタル・トランスフォーメーションの実施に合わせてクラウド化を進めていくことが必要であろう。 その際、企業や公的機関が、自身が保有するデジタルデータや自身の業務の標準化に併せて取り組むことにより、情報システムの共同利用が進み、コスト削減や情報セキュリティの向上といった効果が見込めるほか、業務の標準化による組織内での人材流動性の向上、データ標準化によるデータ流通・活用の促進など、様々な効果が期待できる。 エ デジタルを活用した働き方改革 デジタルの活用は、あらゆる活動において時間と場所の制約を超えることを意味する。働き方においては、テレワークの実施が可能となり、そのことは働き方改革にも寄与する。コロナ禍においては、特に緊急事態宣言が発令されている間は、外出抑制や職場における「密」を避ける観点から、企業等におけるテレワークの導入が進んだものの、生産性の低下やコミュニケーションに齟齬をきたすなどの理由により、テレワークを取り止める企業等も現れるなど、完全に世の中に定着したとは言い難い状況にある。 他方、テレワークを含む多様な働き方を許容することは、感染症や自然災害等に対する強靱性(レジリエンス)の確保に資するだけでなく、労働参加の拡大にもつながることから、労働人口の減少に悩む我が国にとって一つの重要な解決手段である。今後は、企業等におけるテレワークの実施が拡大し、世の中に定着するよう様々な支援策を講じていく必要がある。また、テレワークを実施する企業等においては、それまでの組織や文化をデジタル社会に適合したものに変えていく観点から、就業環境の改革を併せて行うなど、抜本的に勤務のあり方を見直すことも重要であろう。 6 経済産業省の試算によると、今後、数十万人規模で、IT人材の需給ギャップ(供給不足)が生じるとされている。 7 DXレポート 〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html)