(1)コロナ禍の防災で浮き彫りとなった課題 令和2年7月豪雨では、九州で4日から7日にかけて、また、岐阜県周辺でも7日から8日にかけて記録的な大雨となった。気象庁は、熊本県、鹿児島県、福岡県、佐賀県、長崎県、岐阜県、長野県の7県に大雨特別警報を発表した。この豪雨により、全国で、死者、行方不明を含む人的被害が163人、住宅の全壊、半壊等の住家被害が16,599棟発生した 74 。 本災害は、新型コロナウイルス感染症の影響下で発生した、初めての大規模災害となった。感染症対策を講じながらの避難行動、災害対応となったことから、「避難所外避難者の状況把握」、「行政の人手不足」等の課題が浮き彫りになった。 ア 避難所外避難者の状況把握 政府は、避難所における新型コロナウイルスの感染防止を目的に、指定避難所以外の避難所の開設、ホテルや旅館等の宿泊施設に加え、知人・親戚宅への避難も検討する必要がある(分散避難)と方針を打ち出した 75 。一方で、分散避難については、避難者が避難先(ホテル等)の空き状況を把握できない 76 、避難所外にいる避難者の状況を行政が、把握できない等の問題が浮き彫りになった 77 。特に、避難所外の避難者の状況を行政が十分に把握できない場合、避難所にいる避難者との間で享受できるサービスに差が発生してしまう。また、車中泊をする場合は、衛生・健康面の懸念がある 78 ため、行政側の避難所外避難者の状況把握が大きな課題となっている。 イ 行政の人手不足 地方公共団体における災害対応職員については、コロナ禍以前より、人手不足の状態であった。共同通信が全国の自治体に行ったアンケートでは、約2割の自治体で防災の仕事に専従する職員が存在しないことが判明した 79 。加えて、コロナ禍における災害では、通常の災害対応に加え、感染症対策の必要があることから、発災時における自治体の業務は、ひっ迫している状況にある 80 。 74 内閣府「令和2年7月豪雨による被害状況等について」(2021.1.7)(http://www.bousai.go.jp/updates/r2_07ooame/pdf/r20703_ooame_40.pdf) 75 内閣府「新型コロナウイルス感染症を踏まえた災害対応のポイント【第1版】」(2020.6.16)(http://www.bousai.go.jp/index.html) 76 「「分散避難」浮かんだ課題満室ホテル相次ぐ」(日本経済新聞,2020.9.8)(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63598680Y0A900C2CC1000/) 77 「在宅避難で「格差」感染防止で在宅選択も、物資・情報届きにくく」(産経新聞,2020.7.16)(https://www.sankei.com/west/news/200716/wst2007160024-n1.html) 78 第12回福岡県防災講演会配布資料「熊本地震における車中避難者の実態とその後の支援について」(2016.9.2) (https://www.bousai.pref.fukuoka.jp/spc/images/2016bousaikouen/4inatsuki.pdf) 79 「防災専従職員不在は20% 全国自治体アンケート人手不足背景に体制未整備」(中日新聞,2021.3.7) (https://www.chunichi.co.jp/article/214080) 80 「コロナ禍においては、避難所の感染対策等に人的リソースを消費してしまうため、コロナ禍以前と比較すると災害情報の入力に人手を割く余裕がなくなっている。今後、地方公共団体側の業務プロセスの見直しも必要になる」との指摘もある(国立研究開発法人防災科学技術研究所 臼田裕一郎総合防災情報センター長へのヒアリングに基づく)。