(2)ICT海外展開のための環境整備/円滑な情報流通の推進のための環境整備 ア 信頼性のある自由なデータ流通(DFFT) DFFT(Data Free Flow with Trust(信頼性のある自由なデータ流通))については、2020年(令和2年)7月に開催されたG20デジタル経済大臣会合及び同年11月に開催されたG20サミットにおいてその重要性が再確認されたところである。総務省では、DFFTを推進するため5G日本モデルの採用を働きかける5G活用型の産業基盤の展開及びプライバシーやセキュリティを考慮した安全・安心なICT環境整備の促進を行うとともに、G7・G20、OECD、二国間協議等の場を活用し、信頼性のある自由なデータ流通を推進するためのルール形成に向けた国際的議論に積極的に参画している。 イ サイバー空間の国際的なルールに関する議論への対応 (ア)サイバー空間の国際ルールづくり いわゆる「アラブの春」に代表されるような民主化運動において、インターネットやソーシャルメディアは大きな役割を果たしたと言われている。そのため、一部の新興国・途上国においては、インターネットへの規制や政府の管理を強化する動きが強まっている一方、欧米諸国の多くは、首脳や閣僚が主導して情報の自由な流通やインターネットのオープン性等の基本理念を表明しており、2011年(平成23年)以降、インターネットに関わる様々な国際会合が開催され、サイバー空間の国際ルールの在り方に関する議論が活発に行われている。 2012年(平成24年)に開催された世界国際電気通信会議(WCIT-12)では、インターネットへの国やITUの関与の在り方や、セキュリティや迷惑メール対策の国際ルール化が主な争点となったが、国際的な合意の形成にまでは至らず、最終的には途上国を中心とした支持により投票を経て国際電気通信規則(ITR)の改正が採択された(我が国を含む、欧米諸国等55か国が署名せず)。2018年(平成30年)に開催されたITU全権委員会議(PP-18)においても、サイバー空間におけるITUまたは政府の役割強化を含む国際ルールづくりがアラブ・アフリカ地域等より提案されたが合意に至らず、提案が取り下げられる結果となった。また、同会議では近年のICT環境の変化に応じてITRを改正すべく新たなWCITの開催も提案されたが、規制強化につながることを懸念した先進諸国が強く反対したため、妥協する形でITRに関するレビューが実施されている。 総務省は、サイバー空間の国際的なルールづくりに関し、@民主主義を支えるだけでなく、イノベーションの源泉として経済成長のエンジンとなる情報の自由な流通に最大限配慮すること、Aサイバーセキュリティを十分に確保するためには、実際にインターネットを利用し、ネットワークを管理している民間企業や学術界、市民社会などあらゆる関係者の参画(マルチステークホルダーの枠組)が不可欠であることの2点を重視し、二国間及び多国間会合における議論に積極的に参加している 1 。 (イ)サイバーセキュリティに関する二国間対話 サイバーセキュリティに関する二国間の議論については、政府横断的な取組が行われており、主な取組として、日米間で2019年(令和元年)10月に開催された第7回「日米サイバー対話」において、情勢認識、両国における取組、国際場裡における協力、能力構築支援等、サイバーに関する幅広い日米協力について議論された。同様に、日EU間で2019年(令和元年)6月に第4回「日EUサイバー対話」、日仏間で同年7月に第5回「日仏サイバー協議」、日露間で同年11月に第3回「日露サイバー協議」、日ウクライナ間で2020年(令和2年)1月に第2回「日ウクライナサイバー協議」、日英間で同年1月に第5回「日英サイバー協議」、日中韓で同年12月に「日中韓サイバー協議」が開催される等、各国との連携強化を進めている。また、総務省とイスラエル・国家サイバー総局との間で2018年(平成30年)11月に署名したサイバーセキュリティ分野における協力に関する覚書に基づき、人材育成協力等の施策を推進した。 ウ ICT分野における貿易自由化の推進 世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)を中心とする多角的自由貿易体制を補完し、2国間の経済連携を推進するとの観点から、我が国は経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)や自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)の締結に積極的に取り組んでいる。2018年(平成30年)12月には、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11:Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership)、2019年(平成31年)2月には、日EU経済連携協定(日EU・EPA)、2021年(令和3年)1月には日英包括的経済連携(日英EPA)協定が発効し、また、2020年(令和2年)11月には地域的な包括的経済連携協定(RCEP)の署名が行われた。さらに、シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN全体、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー、オーストラリア及びモンゴルとの間でもEPAを締結している他、さらに、現在も日中韓FTA等の交渉を行っている。なお、いずれのEPA交渉においても、電気通信分野については、WTO水準以上の自由化約束を達成すべく、外資規制の撤廃・緩和等の要求を行うほか、相互接続ルール等の競争促進的な規律の整備に係る交渉や、締結国間での協力に関する協議も行っている。 エ 戦略的国際標準化の推進 情報通信分野の国際標準化は、規格の共通化を図ることで世界的な市場の創出につながる重要な政策課題であり、国際標準の策定において戦略的にイニシアティブを確保することが、国際競争力強化の観点から極めて重要である。 Society 5.0の実現に向け、5G、AI、IoT等の導入・利用が拡大し、グローバル規模でのデジタル化が進展する中でICT分野における標準化の対象・役割も変化していることを踏まえ、効果的に社会実装の視点を踏まえた標準化活動を行うため、情報通信審議会技術戦略委員会の答申等を踏まえた戦略を推進している。 具体的には、デジュール 2 に加えフォーラム 3 標準化に関する動向調査や規格策定、国際標準化人材の育成、標準化活動の重要性について理解を深める取組等を実施するとともに、国際標準の獲得を目指した日EU共同研究や、社会実装への期待が大きい分野(ワイヤレス工場等)に係る研究開発や実証実験などを実施している。 1 サイバー空間の在り方に関する国際議論の動向:https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/cyberspace_rule/index.html 2 デジュール標準:国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)等の公的な国際標準化機関によって策定された標準 3 フォーラム標準:複数の企業や大学等が集まり、これらの関係者間の合意により策定された標準