(1)多国間の枠組における国際政策の推進 ア G7・G20 社会経済活動のグローバル化・デジタル化により国境を越えた情報流通やビジネス・サービスが進展する中、G7、G20の枠組でも活発な議論が行われている。その発端となったのは、我が国が議長国を務めた2016年(平成28年)4月のG7香川・高松情報通信大臣会合である。同会合は、G7の枠組みで21年ぶりに開催された情報通信大臣会合であり、@質の高いICTインフラを通じたデジタル・ディバイドの解消、Aサイバーセキュリティやプライバシー保護を踏まえた情報の自由な流通の推進、BIoT、ビッグデータ、AI等の新たなイノベーションの促進、CICTの利活用を通じた健康医療、高齢化社会、女性活躍、防災等の地球規模課題への対処等に合意し、デジタル経済の発展に向けた政策議論において大きな成果をあげることが出来た。 また、G7のみならず、存在感を増している中国、ロシア、インド等を含むG20の枠組みにおいても、デジタル経済に関する議論が継続的に行われるようになっている。具体的には、G7香川・高松情報通信大臣会合以降、2016年(平成28年)9月のG20首脳会合(中国)において、デジタル経済に関する独立の成果文書が初めて採択された後、2017年(平成29年)4月には、G20の枠組みで初となるデジタル経済大臣会合(ドイツ)が開催され、その成果は、2018年(平成30年)のG20デジタル経済大臣会合(アルゼンチン)にも受け継がれた。 また、2019年(令和元年)6月8日及び9日、総務省、外務省、経済産業省が、茨城県つくば市において「G20茨城つくば貿易・デジタル経済大臣会合」を開催した。石田総務大臣、河野外務大臣、世耕経産大臣が共同議長を務め、SDGsの推進、信頼性のあるデータの自由な流通の促進(DFFT。データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト)、AIに関する原則の検討、デジタル経済におけるセキュリティに関する新たな共通認識などに関して議論を行った。特に、G7 香川・高松情報通信大臣会合以降、国際的な議論が継続されてきたAIについては、G20ではじめて「人間中心」の考えを踏まえたAI原則に合意し、G20大阪サミットでの首脳レベルでの合意にもつながった。加えて、信頼性のある自由なデータ流通の概念の合意は、G20大阪サミットの機会において、信頼性のある自由なデータ流通を促進し、デジタル経済、特にデータ流通や電子商取引に関する国際的なルール作りを進めていくプロセスである「大阪トラック」の立ち上げにつながった。DFFTの議論は継続し、2020年G20デジタル経済大臣会合(サウジアラビア:遠隔開催)でその重要性が再確認されたほか、2021年(令和3年)4月には、G7デジタル・技術大臣会合(英国:遠隔開催)が開催され、インターネットの遮断やネットワーク制限を含む、デジタル時代における民主主義的価値を損なう可能性のある措置への反対を表明するとともに、信頼性のある自由なデータ流通の具体的な推進に向けたG7間の協力のためのロードマップが策定し、ロードマップ内で@データローカライゼーション、A規制協力、Bガバメントアクセス、C優先分野におけるデータ共有アプローチの4つの協力分野での作業が提案された。 我が国は、引き続き、信頼性のある自由なデータ流通の促進をはじめとした、デジタル経済に関するルール作りに向けた国際的議論に貢献していく。 イ アジア太平洋経済協力(APEC) アジア太平洋経済協力(APEC:Asia−Pacific Economic Cooperation)は、アジア・太平洋地域の持続可能な発展を目的とし、域内の主要国・地域が参加する国際会議である。電気通信分野に関する議論は、電気通信・情報作業部会(TEL:Telecommunications and Information Working Group)及び電気通信・情報産業大臣会合(TELMIN:Ministerial Meeting on Telecommunications and Information Industry)を中心に行われている。 これまで、TELにおいては、2015年(平成27年)3月にマレーシア(クアラルンプール)で開催された第10回TELMIN(TELMIN10)において承認された「TEL戦略的行動計画2016-2020」に基づき、ICTを通じたイノベーションの推進、ブロードバンドアクセスの向上、IoTの展開、情報の自由な流通の促進等に関する議論を深めてきたところであるが、2020年のTELにおいて次の5年間に向けた「TEL戦略的行動計画2021-2025」が承認され、今後はICTインフラとコネクティビティ、信頼性があり安全で回復力のあるICT、イノベーション及び経済統合・包摂性のためのICT政策、ICTとアプリケーションの協調の4つの分野を優先分野として議論していくことで決定された。総務省としても、年2回開催されるTEL会合において、電子政府に関するプロジェクトの推進や我が国におけるICT政策の周知等の活動を通じ、TEL会合の運営に積極的に貢献している。 ウ アジア・太平洋電気通信共同体(APT) アジア・太平洋電気通信共同体(APT:Asia-Pacific Telecommunity)は、1979年(昭和54年)に設立されたアジア・太平洋地域における情報通信分野の国際機関で、現在、我が国の近藤勝則氏(総務省出身)が事務総長を務めている。APTは、同地域における電気通信や情報基盤の均衡した発展を目的として、研修やセミナーを通じた人材育成、標準化や無線通信等の地域的政策調整等を行っている。 総務省は、APTへの拠出金を通じて、ブロードバンドや無線通信など我が国が強みを有するICT分野において研修生の受け入れ、ICT技術者/研究者交流などの活動を支援している。2020年度(令和2年度)は、7件のオンライン研修(20か国・地域から100名以上が参加)、6件の国際共同研究及び1件のパイロットプロジェクトの実施を支援した。 エ 東南アジア諸国連合(ASEAN) 東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of South‐East Asian Nations)は、東南アジア10か国からなる地域協力機構であり、経済成長、社会・文化的発展の促進、政治・経済的安定の確保、域内諸問題に関する協力を主な目的としている。 我が国は、ASEANの対話国の一つとして、日ASEANデジタル大臣会合等の機会を活かし、日ASEAN協力の強化に向けた提案や意見交換を行っており、双方の合意が得られたワークショップ等の提案については、我が国拠出金により設立された日ASEAN情報通信技術(ICT)基金等を活用し実施されている。 特に、サイバーセキュリティ分野については、人材育成を中心に日ASEAN間の協力を強化している。2017年(平成29年)12月にカンボジアで開催された第12回日ASEAN情報通信大臣会合において、我が国の支援により、ASEANのサイバーセキュリティ分野の人材育成の強化に向けたプロジェクトをタイで実施することが合意されたことを受け、2018年(平成30年)9月に日ASEANサイバーセキュリティ能力構築センター(AJCCBC:ASEAN Japan Cybersecurity Capacity Building Centre)をタイ・バンコクに設立した。現在、同センターにおいて、ASEAN各国の政府機関及び重要インフラ事業者のサイバーセキュリティ担当者を対象として、実践的サイバー防御演習(CYDER)をはじめとするサイバーセキュリティ演習等をオンライン形式又は実地形式にて継続的に実施している。また、昨今のコロナ禍の状況を踏まえ、2020年度より、同センターにおいて、オンライン形式で学習可能な自己学習教材等の提供を開始している。 一方、総務省は、ASEAN各国のISP事業者を対象とした日ASEAN情報セキュリティワークショップを定期的に開催するなど、関係者間の情報共有の促進及び連携体制の構築・強化を図っている。2020年度においては、日ASEAN間のサイバーセキュリティに係るオンライン情報共有基盤を構築し、その運用を開始している。 オ 国際電気通信連合(ITU) 国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union(本部:スイス(ジュネーブ)。193か国が加盟))は、1865年パリで創設の万国電信連合と1906年ベルリンで創設の国際無線電信連合が、1932年マドリッドにおいて統合の後に発足した組織である。 国際連合(UN)の専門機関の一つで、電気通信の改善と合理的利用のため国際協力を増進し、電気通信業務の能率増進、利用増大と普及のため、技術的手段の発達と能率的運用を促進することを目的としている。 ITUは、 @ 無線通信部門(ITU−R:ITU Radiocommunication Sector) A 電気通信標準化部門(ITU−T:ITU Telecommunication Standardization Sector) B 電気通信開発部門(ITU−D:ITU Telecommunication Development Sector) の3部門から成り、周波数の分配、電気通信技術の標準化及び開発途上国における電気通信分野の開発支援等の活動を行っている。我が国は、各部門における研究委員会(SG:Study Group)の議長・副議長及び研究課題の責任者を多数輩出し、勧告を提案するなど、積極的に貢献を行っている。 (ア)ITU−Rにおける取組 ITU−Rでは、あらゆる無線通信業務による無線周波数の合理的・効率的・経済的かつ公正な利用を確保するため、周波数の使用に関する研究を行い、無線通信に関する標準を策定するなどの活動を行っている。中でも、各研究委員会(SG:Study Group)から提出される勧告案の承認、次期研究会期における課題や体制等の審議等を目的とする無線通信総会(RA:Radiocommunication Assembly)及び国際的な周波数分配等を規定する無線通信規則の改正を目的とする世界無線通信会議(WRC:World Radiocommunication Conferences)は、3〜4年に一度開催されるITU-R最大級の会合である。 2019年(令和元年)10月から11月にかけて、2019年無線通信総会(RA-19)及び2019年世界無線通信会議(WRC-19)が、エジプト(シャルム・エル・シェイク)において開催された。 RA-19では、審議の結果、2件の新規勧告及び3件の改定勧告の承認、2件の新規決議及び23件の改訂決議等の承認、次研究会期における研究課題の承認等が行われた。次研究会期におけるSGの役職については、SG 6(放送業務)の議長に西田幸博氏(NHK)、SG 4(衛星業務)の副議長に河野宇博氏(スカパーJSAT)、SG 5(地上業務)の副議長に新博行氏(NTTドコモ)がそれぞれ任命された。 WRC-19では、第5世代移動通信システム(5G)での利用を念頭においた国際的な移動通信(IMT:International Mobile Telecommunication)用周波数の拡大や、極めて高い周波数帯であり、これまで受動業務にのみ使用されていた275GHz-450GHz帯の新たな通信用途での利用等が合意された。また、2023年(令和5年)に開催が予定されているWRC-23の議題についても審議が行われ、IMT用周波数の更なる拡大等を議題とすることが合意された。 (イ) ITU−Tにおける取組 ITU-Tでは、通信ネットワークの技術、運用方法に関する国際標準や、その策定に必要な技術的な検討が行われている。ITU-Tの最高意思決定会合であり、4年に1度開催される世界電気通信標準化総会(WTSA:World Telecommunication Standardization Assembly)が、2020年(令和2年)11月に開催される予定であったが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、2022年(令和4年)3月へ延期となった。WTSAに向けた検討としては、2020年(令和2年)2月に開催されたITU-Tの各研究委員会(SG)の標準化活動等に対し助言を行う役割等を担っている電気通信標準化諮問委員会(TSAG:Telecommunication Standardization Advisory Group)会合で、次会期の活動に昨今の標準化展望の大きな変化を取り入れるため、現在のSG構成を見直すことが電気通信標準化局長から提言された。これを受けて、2020年(令和2年)8月の中間会合と同年9月の会合で議論が行われたが、WTSAの延期に伴い、2021年(令和3年)1月の会合において、次回のWTSAでは現在のSG構成を維持することに各国から幅広い支持があったほか、これまでのSG再編に関する議論と今後の再編議論の方向性を含み置き、次々回のWTSAに向けて、課題構成の最適配分を中心に分析を行うためのコレスポンデンスグループ(CG:Correspondence Group)が設置され、検討を開始することとなった。 近年、注目が集まっている量子通信に関係する標準化活動としては、第13研究委員会(SG13)及び第17研究委員会(SG17)において、量子鍵配送(QKD:Quantum Key Distribution)に関する研究が進められている。SG13においては、国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)、日本電気 株式会社(NEC)、及び株式会社 東芝が、量子通信関連の勧告化(QKDをサポートするネットワークに関する概要、要求条件、アーキテクチャ等)を主導し、2019年(令和元年)にITU-T標準として初めて承認されるなど、我が国のQKDネットワーク技術が国際標準の骨格形成に大きく貢献した。 また、ホットトピック関連ではITUメンバー外でも参加が可能なフォーカスグループ(FG)の活動として、2020年度(令和2年度)においてはFG-AN(自律型ネットワーク)、FG-AI4NDM(防災用AI)が新たに設置される等、将来のネットワークやAIに関する新たな検討が開始されている。 さらに、SG17においては、IoT推進コンソーシアム・総務省・経済産業省が2016年(平成28年)7月に策定した「IoTセキュリティガイドライン」に基づくIoTのセキュリティ管理策をまとめた寄書を我が国から入力しており、勧告化に向けた審議が行われている。 (ウ)ITU−Dにおける取組 ITU-Dでは、途上国における情報通信分野の開発支援を行っている。 ITU-Dにおける最高意思決定会議としては、4年に1度世界電気通信開発会議(WTDC:World Telecommunication Development Conference)が開催されている。今研究会期(2018年〜2021年(平成30年〜令和3年))においては、WTDC-17(2017年(平成29年)10月開催、於:アルゼンチン(ブエノスアイレス)))で採択された戦略目標及び行動計画等に基づき、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献しつつ、研究委員会(SG)での研究、ICT開発支援プロジェクトの実施、ICT人材育成、統計調査の実施及びデータの分析・公表等の活動を推進しているところである。次回のWTDC-21は2022年(令和4年)6月6日から15日にかけてエチオピア(アディスアベバ)で開催予定であり、今会期の活動成果を取りまとめるとともに、それらを踏まえて審議が行われ、次会期の活動に関する体制、戦略目標、行動計画等が策定される見込みである。また、活動の成果として今研究会期におけるSGでの研究成果も報告される予定である。今研究会期のSGの活動としては、年2回の会合期間(春のSG会合、秋のラポータ会合)中に集中的にルーラル通信、障害者のアクセス、スマート社会、eヘルス、サイバーセキュリティ、防災ICT等14の研究課題についての議論が行われており、ベストプラクティスの共有やガイドラインの策定等を通じ、途上国における情報通信分野の戦略、政策等の立案支援、ICTアプリケーションやサービスの利活用の促進支援を進めている。我が国としても、SGの研究課題の役職者に6名を就任させて研究活動をリードするとともに、積極的な寄書の提出によるベストプラクティスの共有を通じてSGの活動に大きく貢献している。このほか、我が国主導でのeヘルス、防災ICT等に関するワークショップの開催及び展示ブースの出展等により、我が国ICTの技術やシステムの国際展開支援を行っている。また、COVID-19で浮かび上がった世界的な通信網増強ニーズを踏まえ、ITUと総務省が協力して、デジタルインフラ及びエコシステム強化のためのConnect2Recoverイニシアティブを2020年に開始した(図表5-8-2-1)。当初、インターネット接続率の低いアフリカ地域を対象としていたが、サウジアラビア政府がイニシアティブ発足とともに参画し、オーストラリア政府も参加を表明するなど全世界を支援対象とするプロジェクトに拡大している。このように、総務省は、ITUを通じてICT開発支援プロジェクトを行っている。 図表5-8-2-1 Connect2Recoverイニシアティブ カ 国際連合 (ア)国連総会第一委員会 軍縮と国際安全保障を扱っている国連総会第一委員会においては、2004年(平成16年)以降、「国際安全保障の文脈における情報及び電気通信分野の進歩」に関する政府専門家会合(GGE:Group of Governmental Experts)を5会期にわたって開催し、国家のICT利用に関する規範やサイバー空間におけるルールづくり等について議論を行ってきた。第6期は、2019年(令和元年)12月から開催され、2021年(令和3年)の国連総会において議論の成果を報告する予定である。また、国連全加盟国が参加可能な議論の場として、2019年から国連の下に初めて立ち上がったオープン・エンド作業部会(OEWG:Open-Ended Working Group)にも日本は積極的に関与してきており、GGEでの議論との相互補完性にも留意しながら議論に貢献している。 (イ)国連総会第二委員会・経済社会理事会(ECOSOC) 経済と金融を扱っている国連総会第二委員会においては、開発とICTについての議論が行われている。また、情報通信分野における初めての国連サミットとして開催された世界情報社会サミット(WSIS:World Summit on the Information Society、2003年(平成15年)にジュネーブ、2005年(平成17年)にチュニスで開催。)のフォローアップとして、経済社会理事会(ECOSOC:Economic and Social Council)に設置されている「開発のための科学技術委員会」(CSTD:Commission on Science and Technology for Development)を中心に議論されている。 具体的には、インターネットに関する国際的な公共政策課題について、各政府が同等の立場でそれぞれの役割・責任を果たすために何をするべきかを議論するため、国連総会決議に基づき、CSTDの下に「協力強化に関するワーキンググループ(WGEC:Working Group on Enhanced Cooperation)」が設置されている。 (ウ)インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF) インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF:Internet Governance Forum)は、インターネットに関する様々な公共政策課題について対話を行うための国際的なフォーラムであり、2006年(平成18年)以降毎年開催されている。同フォーラムは、2005年(平成17年)のWSISチュニス会合及び2015年(平成27年)12月のWSIS+10ハイレベル会合の成果文書に基づき国連が事務局を設置し、政府、産業界、学術界、市民社会等のマルチステークホルダーによって運営され、2015年(平成27年)の成果文書に基づき2025年(令和7年)までの開催が決定されており、2023年(令和5年)会合は日本での開催が予定されている。 2020年(令和2年)11月には、新型コロナウイルス感染症流行の影響により遠隔で第15回会合が開催された。我が国も、同会合内でインターネット上のトラストに関するオープンフォーラムを主催したほか、国連主催の閉幕セッションに登壇し、コネクティビティやインターネット空間における信頼構築が重要であることやマルチステークホルダーアプローチによるインターネットガバナンスを体現するIGFの役割の重要性を改めて指摘するなど、同会合への積極的な貢献を果たした。 キ 世界貿易機関(WTO) 2001年(平成13年)11月から開始された世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)ドーハ・ラウンド交渉においても、電気通信分野はサービス貿易分野における最も重要な分野の一つとして認識され、貿易政策検討制度(TPRM)の枠組み等を通じて、各国の電気通信市場の一層の自由化に向けた検討が進められていた。しかし、同ラウンド交渉は、各国の意見対立により中断、再開を繰り返している状況にある。一方、電子商取引分野については、2017年(平成29年)12月に開催されたWTO第11回閣僚会議(於アルゼンチン)において、我が国がオーストラリア及びシンガポールと主導する形で電子商取引に関する共同声明を発出し、将来のWTO交渉に向けた探求的作業を開始することとされた。これを受け、2018年(平成30年)3月より、有志国会合における議論が開始され、2019年(平成31年)1月の非公式閣僚会合(於スイス・ダボス)においては、WTOにおける電子商取引分野の交渉開始の意思を確認するとともに、高い水準の合意と可能な限り多くのWTO加盟国の参加の実現を追求すること等を内容とした共同声明が有志国(76ヶ国)によって発出された。我が国は、2018年(平成30年)3月以降、オーストラリア及びシンガポールと共に共同議長国として議論を主導している。 ク 経済協力開発機構(OECD) 経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development)は、1961年(昭和36年)に設立された、政治問題及び軍事問題を除き、経済及び社会のあらゆる分野にわたって広範囲に意見及び情報を交換し、各国の政策の調和を図ることを目的とする国際機関であり、デジタル経済政策委員会(CDEP:Committee on Digital Economy Policy)が情報通信分野の政策課題等の議論の場となっている。OECDの特徴は、他の国際機関に比べ、最新の政策課題について、より多くのデータ分析が行われている(エビデンスベース)点や、関係する多くのステークホルダーが政策的な議論に参加している点(マルチステークホルダーアプローチ)にある。CDEPは、電気通信政策、情報セキュリティ、プライバシー、AI(人工知能)といったデジタル経済分野の先導的な議論を行っている。総務省は、OECD事務局への人材派遣や財政支援を通じた支援に加え、CDEP議長を総務省職員から輩出(2020年(令和2年)1月〜)する等、OECDにおける政策議論に積極的に貢献している。 2016年(平成28年)の「カンクン閣僚宣言」を踏まえて取組が進められている「Going Digitalプロジェクト」は、デジタル化が社会全体にもたらす便益と課題を明らかにし、デジタル化の推進に向けた政策提言を行うこと等を目的とするものである。プロジェクトの対象は情報通信分野にとどまらず、雇用や技能、教育等広範にわたり、関係部局と連携して取組が進められている。現在は、第1フェーズ(2017-18)及び第2フェーズ(2019-20)が終了し、第3フェーズ(2021-2022)の取組として、@データのスチュワードシップ(管理の責務)・共有・アクセス・コントロール、Aトラストを確保した越境データ流通の促進、B企業と市場を形成するデータ、Cデータ計測、の4つのモジュールごとに議論されている。 また、OECDは、2016年(平成28年)からAIに関する取組を進めている。これは、同年4月のG7香川・高松情報通信大臣会合において、AIの研究開発等に関するガイドラインの策定等に向けた国際的な議論の必要性が提起されたことを受けたものであり、総務省と国際カンファレンスを共催(2017年(平成29年)10月)したほか、AIの普及動向や政策課題に関する分析レポートやAIに関する理事会勧告の作成に向けた検討を進めてきた。 OECDでは、2019年(令和元年)5月の閣僚理事会において、AIに携わる者が共有すべき原則や加えて政府が取り組むべき事項等示し、AIに関する初の政府間の合意文書となる「AIに関する理事会勧告」を採択・公表した。なお、この理事会勧告の内容は、2019年(令和元年)6月に開催されたG20茨城つくば貿易・デジタル経済大臣会合及びG20大阪サミットにおいて「G20AI原則」として採択された。2020年(令和2年)1月には、本勧告の履行のための実務者向けのガイダンスを公表するとともに、AIに関連する情報共有や政策的な議論を行うためのプラットフォーム「AI政策に関するオブザーバトリー(OECD.AI) 4 」を立ち上げた。本プラットフォームの更なる活用を図るため、AIに関する政策、技術的・商業的専門知識に関して専門的知見から助言を行う専門家ネットワークとして2020年(令和2年)2月に「OECD Network of Experts on AI(ONE AI)」が設置され、AIに関する研究開発や普及の動向等に関するデータの収集・分析や加盟国関係者間での情報共有が進められている。また、フランス及びカナダの主導により「人間中心」の考えに基づく責任あるAIの開発と使用に取り組む国際的なイニシアティブとして2020年(令和2年)6月に「AIに関するグローバルパートナーシップ(Global Partnership on AI:GPAI)」が立ち上げられ(日本を含む14か国及びEUが創設メンバーとして参加し、OECDに事務局を設置)、ONE AIとGPAIで連携を図りながらそれぞれの活動を行っている。 ケ その他 インターネットの利用に必要不可欠なIPアドレスやドメイン名といったインターネット資源については、重複割当ての防止等全世界的な管理・調整を適切に行うことが重要である。現在、インターネット資源の国際的な管理・調整は、1998年(平成10年)に非営利法人として発足したICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)が行っており、ICANNは、年に3回の会合を開催し、IPアドレスの割当てやドメイン名の調整のほか、ルートサーバー・システムの運用・展開の調整や、これらの技術的業務に関連するポリシー策定の調整を行っている。総務省は、ICANNの政府諮問委員会(各国政府の代表者等から構成)の正式なメンバーとして、その活動に積極的に貢献している。2016年(平成28年)11月より、我が国の前村昌紀氏(一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC))がICANN理事を務めており、2019年(平成31年)3月に再選された(同年11月から3年間の任期更新)。 ICANNにおける近年の主な議論として、2018年(平成30年)5月に施行された欧州GDPR(一般データ保護規則)に適合させるためにWHOISの仕様を見直す議論がある。WHOISとは、各インターネットレジストリが公開を義務づけられているデータベースであり、ドメイン名の運用者や技術担当者の連絡先が含まれている。これは、インターネットの技術的な問題が生じた場合に、各技術担当者間で直接調整可能することを目的としたものである。GDPRの施行に伴い、暫定的に、WHOIS上の情報を一部非公開とするよう運用されているところ、各国の法執行機関等が正当な目的に基づき非公開情報へのアクセスを確保できるよう、仕様の見直しに関する議論が本格化している。 また、2019年(平成31年)3月には、ICANN第64回会合が19年ぶりに日本(神戸)で開催され、インターネットガバナンスにおける日本のプレゼンスの向上に貢献した。 4 https://www.oecd.ai/