2 我が国のICT分野の動向 この時期には、我が国でも、インターネットが急速に普及 5 するとともに音声サービスやインターネット接続サービスにおける携帯電話の存在感が高まりを見せた。 インターネットの普及開始当初に主流であったダイヤルアップ接続では通話とインターネット接続とを同時に行えず、また、インターネットを利用するごとに接続が必要だったが、2000年には、ADSLインターネット接続サービスの提供が開始され、これにより、通話とインターネット接続とを同時に行うことが可能となり、また、インターネットへの常時接続が可能となった。ADSLインターネット接続サービスについては、同年、事業者間での通信設備の接続に関するルール整備が行われたこともあり 6 、2001年からは、Yahoo!BB など低廉な価格のサービスを提供する新規事業者が参入し、開始当初から提供していた NTT 東日本も含めて、料金が低廉化していった。また、開始当初に1.5Mbpsであった回線速度が2004年には50Mbpsに達するなど、高速化も進んだ。料金の低廉化と回線速度の高速化の結果、契約数は急激に拡大し、開始から3年後の2003年には1,000万を超える成長を見せた。 この時期の通信サービスの特徴としては、前述のとおりウェブブラウザの普及によって、インターネットを通して文字ベースの情報だけでなく写真などの画像なども組み合わせて閲覧できるようになったことが挙げられる。 このようなインターネットの普及に伴い、この頃、我が国でもインターネットを用いたビジネスやサービスが拡大した 7 。例えば、1997年、楽天はいち早くインターネット上にショッピングモール「楽天市場」を立ち上げ、低い初期投資でインターネット上での店舗開設を可能とするECモールとして急速に拡大していった。また、1996年、ヤフーはインターネット利用者の「入り口(ポータル:portal)」として我が国のポータルサイトの代表格である検索サービス「Yahoo! Japan」の提供を開始し、その後、アクセス数拡大に向け、ニュースなどの配信、電子掲示板、ショッピングやオークションなどサイト上で多様なサービスを提供するようになった。 携帯電話サービスについては、前述のとおり1994年に利用者が端末を所有できる端末売切制度が導入されたことや1996年に料金認可制が廃止され料金低廉化が進んだことなどにより、1996年から2002年にかけて年間約1,000万契約のペースで増加し、2000年には移動電話サービス(携帯電話とPHS)の契約者数が固定電話サービス(加入電話とISDN)の契約者数を上回った(図表1-3-2-1)。また、1999年にNTTドコモが「iモード」の提供を開始したことをきっかけに、電子メールの送受信のほか、銀行振込み、チケット購入など多様な携帯電話専用のサイトにアクセスできるサービスが本格化し、2005年末には移動端末によるインターネット利用者数がパソコンによるインターネット利用者数を上回った。 図表1-3-2-1 通信サービス加入契約者数の推移 (出典)総務省「情報通信統計データベース 8 」 この時期、郵政省では、通信市場における公正競争の一層の促進、インターネットや携帯電話サービスなどの急速な普及に対応した情報通信利用環境の整備などを目指し、様々な取組を実施した。例えば、長距離通信市場などにおける一層の公正競争の促進、NTTの経営の向上などのため、NTTは持株会社の下に長距離・国際通信会社と2つの地域通信会社に再編成されることとなり 9 、1999年にNTT(日本電信電話株式会社:持株会社)、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(長距離・国際通信会社)、東日本電信電話株式会社(地域通信会社)、西日本電信電話株式会社(地域通信会社)という4社になった。 また、地域通信市場の競争が進展する中で、2001年に、ユニバーサルサービス(国民生活に必要不可欠であるためあまねく日本全国における提供が確保されるべき通信サービス。固定電話、公衆電話、緊急通報が該当。)の提供を確保するため、その確保に係る費用の一部を各通信事業者が負担する基金制度(ユニバーサルサービス交付金制度)が整備された 10 。さらに、通信料金の低廉化に向けて、2003年には、通信料金などについての事前届出制を原則廃止し、業務改善命令などによる事後的な救済措置を図ることとされるとともに、利用者の安心・安全な通信サービスの利用に向けて、通信事業者などに対し、契約締結時に料金その他の提供条件の概要について説明する義務、利用者からの苦情及び問合せについて適切かつ迅速に処理する義務、事業の一部又は全部を休廃止しようとする際の利用者へ事前に周知する義務を課すこととされた 11 。 また、移動通信に関する新たな動きとして、電波の割当てを受けて移動通信サービスを提供する移動通信事業者(MNO:Mobile Network Operator)から移動通信ネットワークを調達して、エンドユーザーに対して移動通信サービスを提供する仮想移動体通信事業者(MVNO:Mobile Virtual Network Operator)が2001年からサービスを開始し、2002年には、総務省が「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用に関するガイドライン」を公表した。 一方で、インターネットの急速な普及により誰もが容易に情報を発信することができるようになったことに伴い、違法・有害情報の拡散などインターネットの「負の側面」も拡大した。このような状況に対応するため、この時期、業界団体による取組や法整備による対応が行われた。具体的には、1998年、テレコムサービス協会が、違法・有害情報が発信されたことを知った場合のプロバイダなどによる対応について定めた「インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライン」を策定・公表した。また、インターネット上の情報の流通によって権利の侵害があった場合について、プロバイダなどの損害賠償責任が免除される要件を明確化するとともにプロバイダに対する発信者情報の開示を請求する権利を定めた特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律第137号)が2001年に制定された。さらに、2000年前後に発生した個人情報漏えい事件やインターネットの普及に伴う電子商取引の拡大などを契機として、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)が2003年に制定された。 この時期の放送市場では、放送系メディア(地上放送、衛星放送、ケーブルテレビ)のデジタル化が進展し、現在のデジタル放送の基礎が出来上がった。放送のデジタル化の意義としては、@映像・音声の高品質化や多チャンネル化、Aデータ放送など放送サービスの高度化やインターネットなどの通信網との連携サービスの実現、B高齢者・障害者にやさしいサービスの充実などのメリットが挙げられる。 我が国初のデジタル放送として1996年からCSデジタル放送のサービスが開始されたほか、1998年にはケーブルテレビでもデジタル放送の導入が始まり、2000年にはBSデジタル放送のサービスも開始された。国民に広く親しまれていた地上放送については、2003年より三大広域圏(関東、近畿、中京)でデジタル放送が開始された。放送のデジタル化により、放送番組としてハイビジョン 12 の高精細な映像が提供されるようになり、また、デバイス面でも、旧来のブラウン管に代わり、液晶やプラズマなど薄型ディスプレイの技術革新やインチあたりの価格の低廉化が進められた。 5 平成13年版情報通信白書では、2001年(平成13年)を我が国の「ブロードバンド元年」と位置づけている。 6 2000年には、メタルの加入者回線などを細分化(アンバンドル)して接続するための(いわゆるドライカッパ、ラインシェアリング)接続料及び接続条件や、競争事業者が接続のための局内設備を東・西NTTの局舎に設置(コロケーション)するための条件や手続などについてルール整備が行われ、2001年には、加入者系光ファイバのアンバンドルについても開放するための(いわゆるダークファイバなど)ルールが整備された。 7 平成12年版通信白書の冒頭では「インターネットビジネスが拡大し、新しいビジネスが生み出されているだけでなく、企業の効率化のための有効なツールとして活用されている。暮らしの面でも、人々の生活の中に定着し、コミュニケーションを拡大するだけでなく、時間の使い方や生活のスタイルにも影響を与えている」として、「ITがひらく21世紀〜インターネットとモバイル通信が拡げるフロンティア」と題する特集を編集している。 8 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/field/tsuushin02.html 9 1997年の日本電信電話株式会社に関する法律の改正によるもの。 10 2001年の電気通信事業法の改正によるもの。なお、交付金制度は、2006年から運用が開始された。 11 2003年の電気通信事業法の改正によるもの。 12 従来のテレビに比べ、テレビ画面の縦横比を3:4から9:16に、走査線数を525本から1,125本に、音声をアナログ方式からデジタル方式にすることにより、広い画面で鮮明な映像と高品質な音声が得られるテレビジョン方式である。 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h01/html/h01a01040501.html