2 我が国のICT分野の動向 国際情勢が複雑化、グローバル・プラットフォーマーの影響力が増大する中で、我が国でも、ICTインフラの高度化・強靱化やデータガバナンスの促進など様々な取組が行われている(詳細は、第2章を参照。)。 加入電話の契約数などが減少し、2025年頃に中継交換機・信号交換機が維持限界を迎えることなどを踏まえ、NTTは、2015年に、2025年までにNTT東日本・西日本の公衆交換電話網(PSTN)をIP網へ移行する構想を発表し、2021年に移行を開始した。 通信インフラについては一層の高度化が進み、2020年3月にNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが5Gサービスの提供を開始した。5Gは、高速大容量、高信頼・低遅延、多数同時接続の特徴を有し、そのユースケースとしては、4K・8Kのライブ配信、没入感の高いVR/AR体験、スポーツ観戦の多角化、遠隔手術、自動運転などが挙げられている。また、ニーズに応じて通信事業者だけでなく様々な主体が利用可能な「ローカル5G」の制度が新設され、医療・ヘルスケア、農業・漁業、製造業(工場)など多様な分野での5G利活用の推進に向けて実証実験などが行われている。 5Gの次の規格である6G/Beyond 5Gに向けた議論も各国で始まっており、我が国でも、2030年代を見据えて、次世代ネットワークの構築に向けた技術戦略などについての検討が行われている。 放送ネットワークについては、2018年にBSで本格的に家庭向け新4K8K衛星放送が開始され、高度化が進んでおり、2022年4月時点で新4K8K衛星放送の視聴可能台数は1,264万台に達している 5 。 このようにICTの高度化が進展する中で、ICTを活用した様々なサービスが登場し、ICTの利活用が社会・経済活動の様々な分野において浸透している。 例えば、シェアリングエコノミー(個人などが保有する活用可能な資産など(スキルや時間などの無形のものを含む)を、インターネット上のマッチングプラットフォームを介して他の個人なども利用可能とする経済活性化活動 6 )が進展し、「モノ」のシェア(例:Mercari)、「空間・場所」のシェア(例:Airbnb)、「移動手段」のシェア(例:Uber)、サービス参加者が他の人々や組織などに金銭を貸し出す「お金」のシェア(例:READY FOR)、家事代行や育児代行など「スキル・人材」のシェア(例:AsMama)など、2010年半ば以降、様々なサービスが普及した。 2015年にNetflixやAmazon Prime Videoが我が国で動画配信サービスを開始し、ネット動画視聴が急速に普及・浸透した。また、YouTubeやTikTokなどの普及により誰もが一層容易にコンテンツを発信・提供できるようになったことで、情報発信主体の多様化がさらに進展した。 放送事業者は、動画配信サービス提供事業者への出資やコンテンツの提供を行うほか、自らプラットフォームを構築して、VOD(Video On Demand) 7 サービスや番組編成型のストリーミングサービス 8 を提供する例もみられるようになった。例えば、2015年に、在京民放キー局5社各社が個別に実施している無料ネット動画配信(見逃し配信サービス 9 )を共通のポータルから利用できる「TVer」が開始され、その再生数は順調に増加しており 10 、また、日本テレビが2021年10月から、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビが2022年4月から、番組のリアルタイム配信サービスを提供している。 AIも、様々な商品・サービスに組み込まれて利活用が進んでいる。身近なところでは、インターネットの検索エンジンやスマートフォンの音声応答アプリケーション、音声検索や音声入力機能、各社の掃除ロボットなどが例として挙げられる。また、ソフトバンクロボティクスの「Pepper」のように、AIを搭載した人型ロボットも実用化されている(図表1-5-2-1)。 図表1-5-2-1 AIを搭載した人型ロボット Pepper/(c)SoftBank Robotics (出典)ソフトバンクロボティクス 序章でみたとおり、防災、医療など社会経済生活の様々な分野でICTの利活用が進む中で、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、テレワークをはじめ、オンライン学習、オンライン診療など、非接触・非対面での生活様式を可能とするICTの利活用が一層進展している。 例えば、民間企業におけるテレワークは新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い急速に導入が進み、総務省の通信利用動向調査によると、企業におけるテレワーク導入率は、2021年8月末時点で51.9%と、2019年の20.2%から大きく増加している 11 。 教育分野では、小・中学校、高校、大学などの臨時休業により対面での授業が困難となったことから、オンラインを活用した授業などが実施された。2020年4月から5月までの緊急事態宣言直後に内閣府が実施した調査では、オンライン教育を受けている小・中学生の割合は、全国で45.1%、東京23区では69.2%となった。 医療分野でも、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、医療機関の受診が困難となったことなどを踏まえ、2020年4月より、時限的・特例的な取扱いとして、初診から電話やオンラインにより診断や処方を行うことが可能となり、その結果、2021年6月末時点でオンライン診療などを実施可能とする医療機関が全体の15.0%となっている。また、服薬指導についても、薬剤師が、患者や服薬状況などに関する情報を得た上で電話や情報通信機器を用いて適切に実施可能と判断した場合には、電話や情報通信機器による服薬指導などを実施することが可能とされた 12 。 また、在宅勤務の増加や外出自粛を受けて、SNSやテレビ会議システム(例:Zoom)などを活用したオンライン会議やオンライン飲み会、動画配信プラットフォームなどを活用したオンラインコンサートなど、イベントのオンライン開催も急速に浸透していった(図表1-5-2-2)。 図表1-5-2-2 オンライン会議の様子 (出典)写真AC このように、ICTは、教育、医療、労働などあらゆる社会経済活動を支える「インフラのインフラ」としての役割を果たすようになっている。 5 一般社団法人放送サービス高度化推進協会 https://www.apab.or.jp/ 6 政府CIOポータル シェアリングエコノミー促進室ホームページ https://cio.go.jp/share-eco-center 7 放送された番組や公開終了後の映画などの動画コンテンツをユーザーが視聴したいときに視聴できる動画サービス 8 VODとは異なり、予め決められた番組編成(タイムテーブル)に従い動画コンテンツが配信されるサービス 9 放送された番組を放送直後から一定期間(一週間など)視聴できるVODサービス 10 https://www.soumu.go.jp/main_content/000808154.pdf 11 総務省「令和3年通信利用動向調査」(令和3年8月末時点の調査)。常用雇用者規模100人以上の企業が対象。 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05.html 12 厚生労働省「令和3年版厚生労働白書」第1部第1章第1節参照。 https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/20/index.html