3 違法・有害情報への対応の現状 第1章第5節でみたとおり、SNSや動画配信サービスなどの様々なインターネットサービスの普及により、あらゆる主体が情報の発信者となり、膨大な情報が流通し、様々な情報の入手が可能となるなど、ICTが日常生活や社会経済活動の基盤となる一方で、他人を誹謗中傷する表現や知的財産権侵害のコンテンツの流通など、違法・有害情報の流通が課題となっている。例えば、総務省実施の調査 19 によると、約半数(50.1%)の者が「他人を傷つけるような投稿(誹謗中傷)」を目撃しているという結果となっている(図表2-2-3-1)。 図表2-2-3-1 誹謗中傷等に関する投稿の目撃経験・投稿を目撃したサービス (出典)総務省プラットフォームサービスに関する研究会(第36回) 20 資料5より また、昨今では、何らかの意図を持った虚偽の情報や真偽が不明で不確かな情報などを拡散する偽情報の流通も課題となっており、SNSなどのプラットフォームサービスでは、自分と似た興味・関心・意見を持つ利用者が集まるコミュニティが形成され、自分と似た意見ばかりに触れてしまうようになる「エコーチェンバー」や、パーソナライズされた自分の好みの情報以外の情報が自動的にはじかれてしまう「フィルターバブル」など、利用者が実際に取得する情報の偏りが生ずることも指摘されている。このような課題は、世界で共通のものであり、各国で、利用者のICTリテラシー向上のための取組、ファクトチェックの推進のための取組、情報の流通を媒介する事業者による取組など、様々な取組が行われてきている。 最近の動きとしては、EUで、2022年4月に、全ての仲介サービス提供者(プラットフォーム事業者など)に対する違法コンテンツの流通に関する責任や事業者の規模に応じたユーザ保護のための義務を規定した「デジタルサービス法(Digital Services Act)」について暫定的に合意されるなど、制度的な対応も進められている。米国では、2016年の大統領選挙時における偽情報の問題などを契機として、偽情報対策の調査と議論が行われており、連邦議会でプラットフォーム事業者の取組に対する公聴会が行われるなど、プロバイダが第三者による発信内容そのものについて免責されることを規定した「通信品位法(Communications Decency Act of 1996)第230条」の見直しに関する検討の動きが出てきている。 我が国でも、インターネット上の誹謗中傷などによる権利侵害についてより円滑に被害者救済を図るため、発信者情報開示について新たな裁判制度(非訟手続)を創設することなどを内容とするプロバイダ責任制限法の改正(2021年4月に改正法が成立、2022年10月に施行)とともに、侮辱罪の法定刑の引上げを含む刑法の改正(2022年6月に改正法が成立し、侮辱罪の法定刑の引上げについては同年夏に施行予定)などの制度的な対応が実施されている。また、総務省は、2020年9月に取りまとめ、公表した「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」に基づき、関係団体などと連携しつつ、発信者情報開示制度のほか、ユーザに対する情報モラル及びICTリテラシーの啓発活動、プラットフォーム事業者の自主的な取組の支援及び透明性及びアカウンタビリティの向上(プラットフォーム事業者に対する継続的なモニタリングの実施)、相談対応の充実(違法・有害情報相談センターの体制強化、複数の相談機関間における連携強化及び複数相談窓口の案内図の周知)を実施している。さらに、一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)の誹謗中傷ホットラインによる苦情相談受付など民間事業者や団体による取組も進められている。 偽情報等については、総務省では偽情報等に関する国民の接触・受容・拡散状況や、情報流通に関する意識についての調査を継続的に実施しており、調査結果等も踏まえて偽情報等への対策の検討を進めている。さらに、特定非営利活動法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のファクトチェック・ガイドラインやレイティング基準の作成・公表などのファクトチェックの推進のための取組のほか、SIAが設置した「Disinformation対策フォーラム」における偽情報対策の検討など、民間の多様なステークホルダーにより様々な取組が進められている。 コラムCOLUMN 1 郵便・信書便の過去50年 郵便・信書便の歴史を、第1部と同様、白書刊行から50年間を5期に分けて振り返る。 1 1973−1985年頃 高度経済成長期における経済活動の拡大を受け、郵便・小包の物数が増大し、1979年度には我が国の総郵便物数は153億通 21 となり、米国、ソ連に次ぐ、世界第3位の水準にまで成長を遂げていた。 この時期には、輸送手段となる鉄道・航空機などの交通機関の更なる発達が実現するとともに、郵便事業における機械化・情報化が進展することで、サービス提供の一層の迅速化が図られた。郵便事業の機械化・情報化の主な取組として、1975年に書状の選別から郵袋納入までを一貫して処理する全自動処理システムが、1976年に郵便窓口引き受け用セルフサービス機が導入されるなどした。 図表1 郵便物数の推移 (出典)中村(1997) 22 から抜粋 2 1985−1995年頃 この時期には、活力ある地域社会の形成に向けた郵便サービスの在り方が注目を集めた。郵政省は、1987年に「郵トピア構想」を提唱し、地域における新しい郵便局サービスとして、「たうんめーる 23 」や「DMサポートサービス 24 」などの導入を実験的に進めていった(図表2)。 図表2 郵トピア構想モデル都市 (出典)平成元年版通信白書 25 から抜粋 また、情報通信技術を利活用した郵便サービスの質の向上が見られた時期でもあり、1988年に小包追跡システム及び国際ビジネス郵便(現EMS)追跡システムが、1991年に書留追跡システムが導入されることで、顧客からの着否照会に対する即座の回答が可能となった 26 。 3 1995−2005年頃 この時期には、郵便事業を提供するための体制に大きな変革が見られた。具体的には、2001年1月の中央省庁再編により、郵政省は総務省へと再編され、総務省の外局として郵政事業庁が設置された。その後、2003年4月に郵政事業庁は日本郵政公社として公社化され、明治時代以来続いた国の現業としての郵便事業の提供形態からの大きな転換が図られることとなった。また、日本郵政公社の発足と同時に、従前は独占事業となっていた信書の送達事業について、民間企業による参入が認められることとなった。 また、郵便事業の効率化・安定化を図るための多様な取組が創出された時期でもあった。特に1998年に行われた郵便番号の7桁化により、郵便番号から町域名レベルで住所を特定することが可能となり、また、この郵便番号と郵便物に記載された住所情報をOCR(Optical Character Reader)で読み取り、個別の住所ごとにバーコードを付与することで、仕分け作業を容易に行うことが可能となり、郵便作業全般が効率化された 27 。 4 2005−2015年頃 この時期には、「郵政民営化法」(平成17年法律第97号)の成立を受け、2007年10月に日本郵政グループが発足し、日本郵政株式会社(持株会社)、郵便事業株式会社、郵便局株式会社、株式会社ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命保険の5社体制となった。その後、郵政民営化法の改正を受け、2012年10月に、郵便事業株式会社と郵便局株式会社の合併による日本郵便株式会社の設立(現在の4社体制への再編)が実現するとともに、郵便局における金融のユニバーサルサービスの提供が義務付け 28 られることで、ユニバーサルサービスの範囲が拡充され、従前の郵便サービスのみならず、銀行窓口、保険窓口の基本的なサービスを郵便局において一体的に利用することができる仕組みが確保された。 5 2015年−現在 2015年11月に、日本郵政グループ3社の株式(政府が保有する日本郵政株式会社、日本郵政株式会社が保有する株式会社ゆうちょ銀行及び株式会社かんぽ生命保険の株式)の一部が東京証券取引所に上場され、これら株式の市場への売却が行われた。 この時期には、ICTが社会・経済活動において大きな役割を果たすようになる中で、日本郵政グループは他社との物流、モバイル事業、DX、EC分野での提携を進める 29 など、ICTを活用した郵便局ネットワークの高度化を図っている。このようなICTの活用を通じて、全国に広がる郵便局ネットワークを地域課題の解決のために活用するための取組も進められている。 【コラム1関連データ】 URL:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nf2c1000.html(データ集) 19 インターネット上の誹謗中傷情報の流通実態に関するアンケート調査 20 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/platform_service/02kiban18_02000207.html 21 日本郵便(2021)「すべてを、お客さまのために。―郵政百五十年のあゆみ―」資料p263. https://www.japanpost.jp/150th/digest/pdf/08.pdf 22 中村嘉明(1997)「郵便100有余年の歩み: 飛脚・馬車から自動車・飛行機へ, 手作業から機械化・情報化へ」『日本機械学会誌』Vol.100, No.939, pp.177-184. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmemag/100/939/100_KJ00003054331/_pdf/-char/ja 23 差出入が指定する一定のエリアの全戸にあて名の記載を省略した郵便物(たうんめーる)を配達するサービス。 24 自分のニーズにあったダイレクトメールを受け取りたいという個人の要望と個人のニーズにあったダイレクトメールを出したいという企業、商店などの要請を郵便局が結び付けるDMサポートサービス。 25 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h01/html/h01a01040600.html 26 中村嘉明(1997) 27 大江宏子・内田英夫(2007)「郵便事業にみる情報処理技術がもたらすパラダイム変換−郵便番号7ケタ化のインパクト−」『情報処理学会第69回全国大会講演論文集』。pp.341-342. https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=repository_action_common_download&item_id=173915&item_no=1&attribute_id=1&file_no=1 28 https://www.soumu.go.jp/main_content/000431455.pdf 29 楽天グループ「日本郵政グループと楽天グループの業務提携の進捗状況」(2021年4月28日) https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2021/0428_02.html