第2節 電気通信分野の動向 1 国内外における通信市場の動向 固定ブロードバンドサービスの契約数 1 は、主要国でいずれも2000年以降増加傾向にある(図表3-2-1-1)。国別でみると、中国は2008年に米国を抜き首位となり、2015年以降も大幅に増加している。中国の2000年から2020年までの年平均成長率(CAGR)は65%であり、米国(15%)や日本(22%)と比べて高い成長率となっている。 携帯電話の契約数 2 についても、主要国でいずれも増加傾向であり、特に中国は大幅に増加している(図表3-2-1-2)。中国の2000年から2020年までの年平均成長率(CAGR)は16%であり、米国(6%)や日本(6%)と比べて高い成長率となっている。なお、2020年の人口に対する携帯電話の契約数の割合は、日本は154.5%(2010年差57.4ポイント増)、米国は106.0%(2010年差16.3ポイント増)、中国は121.7%(2010年差53.8ポイント増)となっている 3 。 図表3-2-1-1 主要国の固定ブロードバンドサービス契約数の推移 4 (出典)ITU 5 図表3-2-1-2 主要国の携帯電話契約数の推移 (出典)ITU 6 2021年の世界のネットワーク機能仮想化の市場規模は、2兆8,942億円(前年比18.3%増)となっている(図表3-2-1-3)。サーバ仮想化の普及や所有コストの削減、ネットワークの弾力的な拡張性を背景に、ネットワーク仮想化技術は徐々に導入されている。 日本のネットワーク仮想化/自動化の市場規模(データセンターと企業ネットワーク向けの合計 7 )は、2021年に438億円となっており、2021年から2026年にかけて年間平均成長率3.0%で拡大見込みである(図表3-2-1-4)。データセンターでインフラストラクチャ構築、運用の手法として定着していることや、企業内LANでのネットワーク構築や運用の迅速化、効率化の必要性の高まりが緩やかな成長の背景にある。 図表3-2-1-3 世界のネットワーク仮想化市場規模の推移及び予測 (出典)360iResearch LLP 8 図表3-2-1-4 日本のネットワーク仮想化市場規模(売上高)の推移及び予測 (出典)IDC Japan 9 通信事業者のRAN(Radio Access Network:無線アクセスネットワーク)については、マルチベンダー化を実現するOpen RAN 10 や仮想化を実現するvRAN 11 などネットワーク機器の構成を刷新する取組が進んでいる。例えば、コアネットワークの仮想化については、AT&Tが自社で運営する移動通信サービス向けのコアネットワークをMicrosoftのパブリッククラウド「Microsoft Azure」へ移管し、5Gネットワークを展開する方針である 12 。我が国でも、4Gのネットワークではあるが、楽天モバイル株式会社が世界で初めてオープンで完全仮想化されたアーキテクチャを採用し、複数のベンダーから機器を調達し、仮想化されたネットワークを実装している 13 。 NTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)の構築については、海外では宇宙空間を活用したインターネット接続サービスが本格化しており、例えば、米・スペースXが衛星コンステレーションを用いた、ブロードバンド・インターネットサービス「Starlink(スターリンク)」を提供している 14 。我が国でも、携帯電話事業者を中心にNTNの構築に関する取組が進められている 15 。例えば、ソフトバンク株式会社とその子会社であるHAPSモバイル株式会社がHAPS(High Altitude Platform Station:成層圏通信プラットフォーム)の構築を目指す業界団体「HAPSアライアンス」に参画し、取組を本格化している。低軌道衛星を活用した衛星コンステレーションの導入について、KDDIは、2021年9月にスペースXとスターリンクをau基地局のバックホール回線に利用する契約を締結し、2022年を目処に全国約1,200か所から順次導入を開始することを計画している 16 。また、NTTとスカパーJSATは、静止衛星軌道上にデータセンター機能を持つ衛星を配備する宇宙データセンタ事業や宇宙RAN 17 などに関する事業を行う宇宙衛星事業の中核となる合弁会社「株式会社Space Compass」を2022年7月に設立することを発表している 18 。さらに、楽天モバイルは、米・AST SpaceMobile(AST)と低軌道人工衛星を使って宇宙から送信するモバイルブロードバンドネットワークを構築し、地球上におけるモバイル通信サービスの提供エリアを拡大する「楽天モバイルスペース計画」に取り組んでいる 19 。 1 ITU統計。Fixed-broadband subscriptionsを掲載。固定ブロードバンドは、上り回線又は下り回線のいずれか又は両方で256kbps以上の通信速度を提供する高速回線を指す。高速回線には、ケーブルモデム、DSL、光ファイバ及び衛星通信、固定無線アクセス、WiMAXなどが含まれ、移動体網(セルラー方式)を利用したデータ通信の契約数は含まれない。 2 ITU統計。Mobile-cellular subscriptionsを掲載。契約数には、ポストペイド型契約及びプリペイド型契約の契約数が含まれる。ただし、プリペイド型契約の場合は、一定期間(3か月など)利用した場合のみ含まれる。データカード、USBモデム経由は、含まれない。 3 モバイルの契約数にはプリペイド型契約も含まれている。 4 FTTH、DSL、CATV、FWAの契約数のほか、主にビジネス向けに提供されているVPNや広域イーサネットサービスの契約数も含まれている。 5 https://www.itu.int/en/ITU-D/Statistics/Pages/stat/default.aspx 6 https://www.itu.int/en/ITU-D/Statistics/Pages/stat/default.aspx 7 データセンターネットワーク及び企業ネットワークのネットワーク仮想化/自動化市場の合計値。ネットワーク仮想化/自動化は、ソフトウェア及びハードウェアを用いて、ネットワーク仮想化及びネットワーク自動化を実現する機能を指し、同市場は、ネットワークインフラストラクチャ及びネットワーク自動化/仮想化プラットフォームから成る。 8 https://premium.ipros.jp/gii/product/detail/2000662211/ 9 https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ49092722 10 Open Radio Access Network。分散ユニット(DU)と無線ユニット(RU)の間のインターフェースである「モバイルフロントホール」の規格について、O-RAN Allianceが「O-RANフロントホール」として標準化。これにより、様々なベンダーが通信ネットワーク機器を提供しやすくなると同時に、エリア構築のしやすさ、機器調達コストの低廉化が期待できる。 11 virtual Radio Access Network。無線アクセスネットワークの仮想化。仮想化技術とは、汎用ハードウェアにインストールした仮想化レイヤー上に通信ソフトウェアを展開させ、ハードウェア特性に依存せず動作させる技術。 12 businessnetwork.jp「走り出した「5G網をAzureへ」計画 クラウド移行でキャリアは何を得るか」(2022年5月23日) https://businessnetwork.jp/Detail/tabid/65/artid/9133/Default.aspx 13 日経XTECH「インテル独壇場にクアルコムら挑む、仮想化基地局「vRAN」主導権」(2022年4月1日) https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01273/00028/ 14 2022年3月時点でウクライナを含む29か国でベータテストを実施している。日経XTECH「地球を覆う人工衛星網がウクライナからの映像を届ける」https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02040/00002/ 15 NTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)の実現に向けた研究開発も進められており、例えば、NICTは、「衛星フレキシブルネットワーク基盤技術」の研究開発に取り組んでいる。 16 KDDI「SpaceXの衛星ブロードバンド「Starlink」と業務提携、au通信網に採用する契約に合意」(2021年9月13日) https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2021/09/13/5392.html 17 Radio Access Network 18 日本電信電話・スカパーJSAT「NTTとスカパーJSAT、株式会社 Space Compassの設立で合意〜持続可能な社会の実現に向けた新たな宇宙統合コンピューティング・ネットワーク事業をめざして〜」(2022年4月26日) https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/04/26/220426a.html 19 楽天「楽天、米AST & Science社へ出資し、戦略的パートナーシップを締結」(2020年3月3日) https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2020/0303_02.html