5 放送コンテンツ制作・流通の促進 (1) 放送コンテンツの制作・流通の促進 ア 放送コンテンツなどの効果的なネット配信に関する取組 放送制度検討会の取りまとめにおいて、ローカル局をはじめとする放送事業者の設備負担を軽減し、コンテンツ制作に注力できる環境を整備していくことが重要であると言及されている。 こうした環境を整備する観点からは、放送事業者によるコンテンツの制作の促進に加え、そうしたコンテンツがより幅広く視聴されるよう、放送やインターネット上における流通の一層の促進が重要となると考えられる。特に、地域情報の発信において、今後ローカル放送局には大きな役割が期待されている。 インターネット動画配信サービスの伸長や視聴スタイルの多様化など放送を取り巻く環境が変化する中、放送がこれまで果たしてきた社会基盤としての役割を引き続き果たし続けるためには、放送波に限らず、インターネットにおける多様なプラットフォームの活用促進によって、我が国の放送コンテンツが国内外で広く流通することが重要であると考えられる。 このような考えの下、放送制度検討会の下に開催される会合として、「放送コンテンツの制作・流通の促進に関するワーキンググループ」を2022年(令和4年)12月より開催し、インターネット時代における、放送コンテンツの制作・流通を促進するための方策の在り方について、関係事業者等の協力を得つつ検討を行っている。 イ 放送分野の視聴データ活用とプライバシー保護の在り方 インターネットに接続されたテレビ受信機などから放送番組の視聴履歴などを収集・分析すれば、例えば、地域ごとの視聴者のきめ細かい視聴ニーズに寄り添った番組制作や災害情報の提供などに有効に活用することが可能となる一方で、個々の視聴者の政治信条や病歴のようなセンシティブな個人情報を推知することなども技術的には可能となってしまうという課題がある。 総務省では、放送分野の個人情報保護について、放送の公共性に鑑み、動画共有サイトの閲覧履歴などにも適用される個人情報保護法上の最低限のルールに加え、放送受信者等の個人情報を取り扱うすべての者が遵守するべき放送分野固有のルールを「放送受信者等の個人情報保護に関するガイドライン」で定めている。さらに、2021年(令和3年)4月から「放送分野の視聴データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会」を開催し、2022年(令和4年)及び2023年(令和5年)に改正個人情報保護法を踏まえた同ガイドラインの改正を行ったところ、引き続きデータ利活用とプライバシー保護のバランスのとれたルール形成の観点から、放送に伴い収集される視聴履歴などの取扱いに関するルールの在り方に加えて、放送コンテンツのネット配信における配信履歴などの取扱いに関するルールの在り方についても検討を行っている。 ウ 放送番組の同時配信等に係る権利処理の円滑化 スマートデバイスの普及などに伴う視聴環境の変化を踏まえ、放送事業者は、放送番組のインターネットでの同時配信等(同時配信、追っかけ配信及び見逃し配信をいう。以下同じ。)の取組を進めている。これは、高品質なコンテンツの視聴機会を拡大させるものであり、視聴者の利便性向上やコンテンツ産業の振興・国際競争力の確保などの観点から重要な取組となっている。一方で、放送番組には多様かつ大量の著作物等が利用されており、同時配信等にあたって著作権等の処理ができないことにより「フタかぶせ」が生じる場合があるなど、権利処理上の課題が存在しており、同時配信等を推進するに当たっては、著作物等をより迅速かつ円滑に利用できる環境を整備する必要があった。 そこで、総務省において、同時配信等に係る権利処理の円滑化に向け、著作権法(昭和45年法律第48号)を所管する文化庁とともに関係者から意見を聴取するなど、制度改正の方向性を検討した結果、令和3年通常国会で著作権法の一部を改正する法律(令和3年法律第52号)が成立し、当該円滑化に関する措置が講じられた。改正後、2022年(令和4年)4月には民放5系列揃っての同時配信が実現するなど、本格化しつつある同時配信等について、権利処理の動向を注視しながら、更なる円滑化に向けた検討を行っている。 エ 放送コンテンツの適正な製作取引の推進 総務省では、放送コンテンツ分野における製作環境の改善及び製作意欲の向上などを図る観点から、有識者などで構成される「放送コンテンツの適正な製作取引の推進に関する検証・検討会議」を開催し、同会議での議論などに基づき、「放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン」(第7版)(以下「ガイドライン」という。)を策定し、放送事業者及び番組製作会社に対して、放送コンテンツの製作取引の適正化を促す取組を進めている。 具体的には、放送コンテンツの製作取引の状況を把握するため定期的にガイドラインのフォローアップ調査を実施するとともに、ガイドラインの遵守状況について放送事業者及び番組製作会社に対してヒアリングを行うなどの実態把握を進め、発覚した問題点について下請中小企業振興法(昭和45年法律第145号)第4条に基づく指導などを行うほか、ガイドラインの周知・啓発のための講習会を開催し、製作取引に関する個別具体的な問題について弁護士に無料で相談できる窓口「放送コンテンツ製作取引・法律相談ホットライン」を開設している。