2 生成AIのインパクト (1) 生成AIの急速な進化と普及 ディープラーニングの基盤技術により、AIの性能が飛躍的に向上したことで、様々なコンテンツを生成できるAIが誕生した。「生成AI」は、テキスト、画像、音声などを自律的に生成できるAI技術の総称であり、2022年のOpenAIによる対話型AI“ChatGPT”の発表を契機に、特に注目された分野である。ChatGPTは、わずか5日で100万ユーザーを獲得し、さらに公開から2か月後にはユーザー数が1億人を突破するという、これまでのオンラインサービスなどと比較しても驚異的なスピードでユーザー数が拡大している(図表T-3-1-2)。OpenAI以外にも、大手企業からスタートアップ企業まで多くの企業が生成AIの開発を発表し、世界的な開発競争が起こっている。 図表T-3-1-2 各種サービスにおける1億ユーザー達成までにかかった期間 (出典)Reuters等を基に作成 生成AIは、ユーザー側の調整やスキルなしに自然な言語で指示を出すだけで容易に活用できるものであり、テキスト、画像、映像等の多様な形式(マルチモーダル)のアウトプットが取得できるものである(図表T-3-1-3)(図表T-3-1-4)。 図表T-3-1-3 生成AIの概要 (出典)ボストン コンサルティング グループ Bommasani et al.“On the Opportunities and Risks of Foundation Models,” Center for Research on Foundation Models, 2021を基に分析 図表T-3-1-4 主な生成AIサービスの種類と機能 (出典)各種公開資料を基に作成 このブームの背景として、複数の要因が挙げられる。まず、ディープラーニング(深層学習)やトランスフォーマーモデルの開発・大規模化により、自然言語処理や画像生成などのタスクにおけるモデルの精度が飛躍的に向上した。そして、膨大な量のデータを用いてトレーニングされ、様々なタスクに適用可能な知識を獲得した基盤モデル(Foundation Model)や大規模言語モデル(LLM)の登場により、新たなタスクに対応するためにモデルを再トレーニングする必要がなくなり、開発や利用が大幅に容易化されるとともに、AIがより複雑なタスクをこなせるようになり、その有用性が広く認知された。さらに、クラウドコンピューティングの発展やGPU 5 の進化により計算資源が拡充されるとともにソースコードの公開(オープンソース化)によりAIの開発や利用が一般の開発者や企業にも開かれ、より広範な分野での活用が可能になったことも一因と言える。また、使いやすいユーザーインターフェース(UI)、API(Application Programming Interface)による提供が行われたことで、AIとの対話がより身近なものとなり、AIを利用して情報を取得したり、タスクを実行したりする際に、より直感的で使いやすい方法を享受できるようになった。高い汎用性・マルチモーダル機能を通じてAIが単一のタスクに限定されず、様々なデータ形式や入力に対応し、多様なタスクを同時に処理できるようになったことで、その有用性が一層高まった。また、人間の意図・価値観に合わせてAIを振る舞わせる仕組み(いわゆるAIアライメント)の取組が進んだことも挙げられる。AIが人間と協調して働く環境が整い、多くの業界でAIの導入が促進された 6 7 (図表T-3-1-5)。 図表T-3-1-5 生成AIブームにある技術的要因 (出典)各種公開資料を基に作成 5 Graphics Processing Unit。元々グラフィックス処理用に開発されたプロセッサだが、高い並列処理能力によりAIの深層学習のような大規模な計算処理を行うのに適している。 6 国立研究開発法人科学振興機構 研究開発戦略センター,「人工知能研究の新潮流2」2023年7月,(2024/3/22参照) 7 塩崎潤一,「生成AIで変わる未来の風景」,『野村総合研究所』2023年12月,(2024/3/22参照)