(2) 領域をまたいだビッグテック企業の影響力の拡大動向 ビッグテック企業は、技術革新と市場拡大を通じてデジタル産業のあらゆる層に影響力を拡大し、複数の領域にまたがる事業展開を行っている。これらの企業は、当初は利用者向けのアプリケーションやサービスから事業を開始し、段階的に実体的なインフラ層にまで進出や関与を強めてきた。現在では、クラウドサービス、データセンター、通信インフラといったデジタル産業、そして電力インフラに至るまで、多くの領域にわたって影響力を強化しており、さらに、生成AI等の新たな技術革新の主導権をも握っている。 ここでは、特に近年、ビッグテック企業の新たな動きが大きくなっている、ネットワーク・インフラ層、エネルギー供給層、生成AIに対するこれら事業者のアプローチについて取り上げる。 ア ネットワーク・インフラ層 データの伝送等の効率を高めるため、ビッグテック企業は通信インフラへの投資を開始している。特に注目されるのは海底ケーブルへの投資である。通信インフラの効率化とコスト削減を目的に、Googleは海底ケーブルを自社で敷設し、データセンター間の高速通信網を確立した。MetaやMicrosoft、Amazonも同様に海底ケーブルの建設に参加している 2 。これにより、ビッグテック企業は大陸間のデータ転送速度を向上させ、自社サービスの品質を高めると同時に、通信インフラ市場での影響力を強めている。 2010年代前半までは、主に通信事業者(インターネットバックボーンプロバイダ)による海底ケーブルの敷設と利用が主流であり、コンテンツプロバイダ 3 による海底ケーブル使用帯域は、2011年は10%に満たなかった。しかし、2010年代後半からはGoogle、Meta、Microsoft、Amazonといったビッグテック企業が、その敷設と利用を拡大し、2020年には、コンテンツプロバイダが、海底ケーブル使用帯域の7割近くを占めている(図表T-1-3-2)。 図表T-1-3-2 海底ケーブルの使用帯域幅の推移 (出典)TeleGeography“A Complete List of Content Providers’ Submarine Cable Holdings”を基に作成 国際通信の99%を担う海底ケーブルにおいて、ビッグテック企業が海底ケーブル投資において大きな存在感を示すことで、従来の通信事業者主導の市場構造をも変化させている。 イ エネルギー供給層 データセンターの運営には莫大な電力が必要であり、安定した電力供給はビッグテック企業のビジネスにとって不可欠である。今後は生成AIの需要増大に伴い、電力需要も増加するものと想定されている。エネルギー供給の安定性とコスト効率、再生エネルギーの活用を高めることを目指し、一部のビッグテック企業は、発電所に関する契約や投資等を通じて関与を強める動きが見られる。例えばGoogleは、日本国内の800か所以上で開発が進められる太陽光発電所に関する契約を行っている 4 。 ウ 生成AI分野の先導 ビッグテック企業は、膨大な資金力、先進的な技術開発力、世界トップクラスの人材、そして日々蓄積される膨大なデータを活用し、生成AI分野においても圧倒的な主導権を確立し、競争を繰り広げている。この競争力は、当該企業等が構築してきた多層的な基盤によって支えられており、簡単に追随できない優位性を生み出している。 ビッグテック企業各社のLLMの開発状況や、生成AIの社会実装状況としては、例えば、MicrosoftはOpenAIとの協同で「Copilot」を展開し、ビジネスツールへの生成AIの統合を進めている 5 。また、Metaは、同社の開発したLLMの「Llama」を公開して展開しており、多くの企業が利用可能なエコシステムを構築している 6 。ビッグテック企業はこれらの取組により、アプリケーションから、モデル、インフラ(計算資源、データ、専門人材)層に至るまでの総合的な影響力を持ちながら、生成AI技術の進化と社会実装を牽引している。 なお、現在は米国ビッグテック企業が依然として各レイヤーで大きな地位を占めているものの、近年では中国も含めた世界をリードする各企業がAI事業にも注力している 7 。 このように、海外のビッグテック企業はデジタル産業の基盤から最先端技術まで、幅広い領域で影響力を持つに至っており、結果として、この動きは従来の産業構造に大きな変革をもたらし、既存の通信事業者やエネルギー企業、更にはAI開発を行う新興企業にも多大な影響を与えている(図表T-1-3-3)。 図表T-1-3-3 生成AI関連市場の市場構造図 (出典)公正取引委員会「生成AIを巡る競争(ディスカッションペーパー)」 8 2 DIAMOND Online「大手通信会社が没落しグーグル・フェイスブックが主役に、海底ケーブル敷設の牽引役交代」(2022年10月5日)(https://diamond.jp/articles/-/310530) 3 ここでの「コンテンツプロバイダ」は、ハイパースケーラー、オーバー・ザ・トップ・プロバイダ、インターネット・コンテンツ・プロバイダ、クラウドサービスプロバイダ等と言われるネットワークを指し、インターネットベースのコンテンツおよびプラットフォームプロバイダ(Google、Meta、Microsoft、Apple等)、クラウドサービス/プラットフォームプロバイダ(Amazon、Microsoft、Oracle、Alibaba、Google等)、コンテンツ配信ネットワーク(CDN)(Akamai、CloudFlare等)を含む。 4 総務省・経済産業省 デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合(第7回)資料「日本のデジタルインフラを取り巻く環境と課題について」(2024年5月30日)(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/digital_infrastructure/0007/007_widepj.pdf) 5 NIKKEI FT the World「米MicrosoftとGoogle、AIコスト増で投資家に警戒感」(2024年2月5日)(https://www.nikkei.com/prime/ft/article/DGXZQOCB0229Z0S4A200C2000000) 6 経済産業省 商務情報政策局「デジタル社会の実現に向けて」(2024年10月)(https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/024_04_00.pdf) 7 そのほか、米国・中国のプラットフォーム事業者のAIに関する取組については、第U部第1章第6節2「主要なプラットフォーム事業者の動向」参照 8 公正取引委員会「生成AIを巡る競争(ディスカッションペーパー)」〈https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/oct/241002_generativeai_02.pdf〉