2 対応の方向性 (1) デジタル社会を支える強靱なデジタル基盤の確保 AI等の進展に伴う通信需要等の一層の増加が見込まれるとともに、災害等の不測の事態に対して、デジタル基盤に依存する我々の社会生活への影響を最小限に抑えるためには、計算資源や通信、電力需要の急増に対応し、かつ、アクセスしやすく強靱性・冗長性のあるデジタル基盤の確保等の取組が重要となる 6 。 ア データセンター・海底ケーブルの地方分散 データセンター・海底ケーブルの地方分散については、総務省では、「東京圏等に集中するデータセンターの分散立地」や「日本を周回する海底ケーブルの構築」「国際海底ケーブルの多ルート化」を推進するべく、データセンターや海底ケーブル等の整備に対する支援を行うため、令和3年度補正予算「データセンター、海底ケーブルなどの地方分散によるデジタルインフラ強靱化事業」により、「デジタルインフラ整備基金」を設置し、データセンター、海底ケーブルなどの地方立地を行う民間事業者の支援を行っている。 また、総務省及び経済産業省が主催する「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合」において、2024年9月に取りまとめられた「中間とりまとめ3.0」では、2030年代のAI社会を支えるデジタルインフラの整備に向けて、引き続きデータセンターの分散立地の更なる推進に加えて、オール光ネットワークの国際連携等も見据えつつ、国際海底ケーブルの陸揚局の分散立地の促進が提言された。2025年3月から、総務省及び経済産業省は、AI活用を通じたDXの加速、成長と脱炭素の同時実現等に向け、データセンターの整備について主に電力・通信インフラの側面から検討を行い、官民の関係者における連携・協調を推進するべく「ワット・ビット連携官民懇談会」を開催している。 【関連データ】2030年代の我が国のデジタルインフラの「イメージ」(総務省・経済産業省「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合 中間とりまとめ3.0」概要より) URL:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/datashu.html#f00072(データ集) イ NTNの利活用 NTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク) は、離島・海上・山間部などの通信インフラの整備が地理的・経済的に困難な地域を効率的にカバーし、当該地域において通信サービスの提供を可能とするとともに、自然災害などにより既存の通信インフラが被災した際には臨時の通信手段として機能し得ることから、官民の双方で関心が高まっており、利活用が進みつつある。実際に、2024年1月に発生した石川県能登地方の地震に際しては、通信インフラの応急復旧や避難所などでの通信環境の確保のため、米国SpaceX社の衛星通信システム「Starlink」が広く利用された。 通信事業者各社は、NTNの利活用を積極的に推進しており、低軌道衛星による高速大容量の衛星通信サービスの提供に加え、衛星やドローンを活用したソリューションビジネスの展開、更にはHAPS 7 の実現に向けた技術開発などに取り組んでいる。また、2025年4月には、KDDI、沖縄セルラーが、Starlinkを用いて、スマートフォンが衛星と直接通信(衛星ダイレクト通信)し、空が見える状況であれば携帯電話の圏外エリアでも通信が可能なサービス「au Starlink Direct」の提供を開始した。 総務省では、これらの動きを踏まえつつ、2024年8月に取りまとめた「AI社会を支える次世代情報通信基盤の実現に向けた戦略 - Beyond 5G推進戦略2.0 -」に基づき、HAPSに関する技術実証を通じた国内導入に必要な制度整備・HAPS通信の高速大容量化に関する研究開発等を実施している。また、衛星通信サービスについても、衛星と携帯電話のダイレクト通信サービス、衛星光通信や電波利用の高度化に関する技術開発の支援や、必要な制度整備を実施している。 ウ デジタル基盤における脱炭素化に向けた対応 地球温暖化への対応が喫緊の課題となる中、通信設備やデータセンター・クラウドサービス、AI利用等における省電力化や脱炭素対応が求められている。 データセンターや通信インフラ等のデジタル基盤における消費電力量増大に対する技術的対応として、様々な省電力化技術・脱炭素推進技術の研究開発が行われている。その一つとして光電融合技術がある。光電融合技術とは、電気信号を扱う回路と光信号を扱う回路を融合する技術であり、省電力かつ低遅延を実現させることができる。 例えば、NTTは2019年に次世代光通信基盤構想「IOWN(アイオン)」 8 を打ち出し、光電融合技術の研究を進めており、光電融合技術をデータセンター間の接続やデータセンター内のボード間の接続、さらに半導体パッケージ間、あるいはパッケージ内でのデータ伝送に適用するロードマップを描いている。2023年3月にIOWN1.0の商用を開始しており、2025年度からデータセンターの消費電力量の削減が可能になるとしている。 総務省でも、「AI社会を支える次世代情報通信基盤の実現に向けた戦略 - Beyond 5G推進戦略2.0 -」(2024年8月総務省発表)に基づき、光電融合技術を活用したオール光ネットワーク技術の社会実装に向けた研究開発等を実施している。 ほか、前述の「ワット・ビット連携官民懇談会」において、AI活用を通じたDXの加速、成長と脱炭素の同時実現等に向け、データセンターの整備について主に電力・通信インフラの側面から検討を行い、官民の関係者における連携・協調を推進することとしている。 6 なお、総務省では、ここに記載したような課題や状況も踏まえ、2030年度末を見据えて必要となるデジタルインフラの整備方針とその実現に向けた具体的な推進方策を整理し、一体的・効率的に我が国デジタルインフラ整備の推進を図るため、2025年6月に「デジタルインフラ整備計画2030」を策定した(詳細は第U部第2章参照)。 7 High Altitude Platform Stationの略 8 資源エネルギー庁 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第56回会合)(2024年6月6日)資料4ヒアリング資料(日本電信電話株式会社)「IOWN構想から見た電力事業の今後」〈https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/056/056_008.pdf〉(2025年3月27日参照)