(3) 重要データの安心・安全な活用促進 ア 防災情報システムの整備 我が国は世界有数の災害大国であり、大規模な自然災害が発生する都度、社会・経済的に大きな損害を被ってきた。今後も南海トラフ地震をはじめとする大規模な自然災害の発生が予測される中で、ICTを効率的に活用し災害に伴う人的・物的損害を軽減していくことが重要である。 (ア)災害に強い消防防災通信ネットワークの整備 被害状況などに係る情報の収集及び伝達を行うためには、災害時にも通信を確実に確保できる通信ネットワークが必要である。このため、現在、国、消防庁、地方自治体、住民などを結ぶ消防防災通信ネットワークを構成する主要な通信網として、@政府内の情報の収集及び伝達を行う中央防災無線網、A消防庁と都道府県を結ぶ消防防災無線、B都道府県と市町村などを結ぶ都道府県防災行政無線、C市町村と住民などを結ぶ市町村防災行政無線、D国と地方自治体又は地方自治体間を結ぶ衛星通信ネットワークなどが構築されている。また、衛星通信ネットワークについては、高性能かつ安価な次世代システムの導入に関する取組などを進めている。 (イ)災害対策用移動通信機器の配備 総務省では、携帯電話などの通信が遮断した場合でも被災地域における通信が確保できるよう、地方自治体などに、災害対策用移動通信機器を貸し出している(2025年5月現在、簡易無線1,065台、MCA無線179台及び衛星携帯電話100台を全国の総合通信局等に配備)。また、2024年1月に発生した石川県能登地方の地震を機に、新たに衛星インターネット機器や公共安全モバイルシステム等を整備した。これらの機器は、避難所における通信環境構築のほか、初動期における被災情報の収集伝達から応急復旧活動の迅速かつ円滑な遂行までの一連の活動に必要不可欠な情報伝達を補完するものとして活用されている。 (ウ)災害時の非常用通信手段の確保 災害時などに公衆通信網による電気通信サービスが利用困難となるような状況などに備え、総務省が研究開発したICTユニット(アタッシュケース型)を2016年度から全国の総合通信局等に配備し、地方自治体などの防災関係機関からの要請に応じて貸し出し、必要な通信手段の確保を支援する体制を整えている(2025年5月現在、25台を全国の総合通信局等に配備)。 (エ)全国瞬時警報システム(Jアラート)の安定的な運用 消防庁では、弾道ミサイル情報、緊急地震速報、大津波警報など、対処に時間的余裕のない事態に関する情報を、携帯電話などに配信される緊急速報メール、市町村防災行政無線などにより、国から住民まで瞬時に伝達するシステムである「全国瞬時警報システム(Jアラート)」を整備している。Jアラートによる緊急情報を迅速かつ確実に伝達するため、Jアラート関連機器に支障が生じないよう正常な動作の確認の徹底を市町村に対し呼びかけるとともに、Jアラートの情報伝達手段の多重化を推進している。 (オ)Lアラートの活用の推進 総務省では、地方自治体などが発出する避難指示などの災害関連情報を多数の放送局やインターネット事業者など多様なメディアに対して一斉に送信する共通基盤(Lアラート)の活用を推進している。Lアラートは、全47都道府県での運用が実現するなど全国的な普及が進み、災害情報インフラとして一定の役割を担うに至っている。 災害が激甚化・頻発化する中、今後もその役割を果たし続けていくため、Lアラートにおける安定性・信頼性の向上に向けた取り組みを行うとともに、政府全体の防災DXにも寄与するため、他の防災関係システムとのデータ連携に向けた検討を進めている。また、Lアラートの利活用を推進するため、地方自治体職員等利用者を対象としたセミナーを開催している。 イ 医療分野におけるICT利活用の推進 我が国は超高齢化社会に突入しており、医療・介護費の増大や医療資源の偏在などの課題に直面している。このため、総務省では、医療・介護・健康データを利活用するための基盤を構築・高度化することにより、医療・健康サービスの向上・効率化を図るべく、主に「遠隔医療の普及」と「PHR 4 データの活用」を推進している。 具体的には、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED:Japan Agency for Medical Research and Development)による研究事業として、医師の偏在対策の有力な解決策と期待される遠隔医療の普及に向けて、2022年度から手術支援ロボットを使用した遠隔手術支援に係る研究開発を行い、成果は日本外科学会による「遠隔手術ガイドライン」の改定版として、2025年夏目途に公表予定である。また、2023年度からは、医療の高度化や診察内容の精緻化を図るため、各種PHRサービスから医師が求めるPHRを取得するために必要なデータ流通基盤を構築・高度化するための研究開発を実施している。 このほか、医療情報を取り扱う情報システム・サービスに対するサイバー攻撃の多様化・巧妙化によるセキュリティ対策の変化や医療機関等と医療情報システム事業者との間の取決めの重要性が高まっていることを踏まえ、2024年度に「医療情報を取り扱う情報システム・サービス提供事業者における安全管理ガイドライン」(総務省・経済産業省)の改定を行った。さらに、2025年度においては、安全・安心なPHRサービスの利活用促進のため、「PHRサービス提供者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」(総務省・厚生労働省・経済産業省)についても、PHRサービスの多様化、セキュリティ要件の見直し等に伴い、約3年ぶりの改定を行った。 ウ 教育分野におけるICT利活用の推進 総務省では、教育分野でのICTの利活用を推進するため、文部科学省と連携し、2021年度から2022年度にかけて、学校外で事業者が保有するデジタル学習システム間でのデータ連携を可能とする基盤である「デジタル教育プラットフォーム」の実現に向け、必要な技術仕様(参照モデル)を策定した。 加えて、2023年度以降、教育データの安全・安心な利活用による個別最適な学びを実現するため、教育分野におけるPDS(Personal Data Store)の活用に向けて、実証も交えながらPDSの技術的要件等の確認や実運用上の留意点を抽出し、具備すべき要件を明確化するなど、検討を進めている。 エ 情報銀行の社会実装 個人情報を含むパーソナルデータの適切な利活用を推進する観点から、総務省及び経済産業省は、情報信託機能の認定スキームの在り方に関する検討会を立ち上げ、2018年6月に、民間団体などによる情報銀行の任意の認定の仕組みに関する「情報信託機能の認定に係る指針ver1.0」を取りまとめるとともに、継続的に指針の見直しを行い、この指針に基づく、情報銀行の認定団体に一般社団法人日本IT団体連盟がなっている。 2025年度においては、パーソナルデータを活用したサービス/ビジネスが変化・拡大していることを踏まえた情報銀行の在り方や活用方法について、引き続き検討を行っている。 4 Personal Health Recordの略語。一般的には、生涯にわたる個人の保健医療情報(健診(検診)情報、予防接種歴、薬剤情報、検査結果等診療関連情報及び個人が自ら日々測定するバイタル等)である。電子記録として本人等が正確に把握し、自身の健康増進等に活用することが期待される。