人材派遣に関する行政評価・監視結果

―労働者派遣事業を中心として−


平成13年12月17日
徳島行政評価事務所

【行政評価・監視の背景事情等】
   近年、企業における日本型雇用慣行の見直し、人材流動化の進展等により、「人材派遣」を活用する企業が増加
   徳島県においても、派遣元事業主、派遣先、労働者派遣実績ともに増加傾向
   平成11年12月、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」(昭和60年法律第88号、以下「労働者派遣法」という。)の改正により、労働者派遣事業の対象となる職種が原則として自由化、営業職や販売職にも拡大
   派遣労働者は今後更に増加が見込まれる
   この行政評価・監視は、派遣労働者の適正な労働条件の確保等を図る観点から、派遣元事業主及び派遣先等における法令等の遵守状況、労働局の指導監督状況等を調査し、関係行政の改善に資するため実施
【調査実施時期等】
実地調査時期: 平成13年8月〜11月
調査担当部局: 徳島行政評価事務所(所長:木下順稔)
調査対象機関: 徳島労働局、徳島公共職業安定所、阿南公共職業安定所
事業者(派遣元事業主18、派遣先7)、派遣労働者27人


派遣元事業主の事業種別抽出状況
(単位:事業主、%)
事業種別 派遣元事業主数 調査対象事業主数 抽出率
          徳島職安管内 阿南職安管内           徳島職安管内 阿南職安管内           徳島職安管内 阿南職安管内
一般労働者派遣事業 26 23 13 12 50.0 52.2 33.3
特定労働者派遣事業 31 22 16.1 18.2 50.0
57 45 18 16 31.6 35.6 40.0
(注)事業主数は平成13年8月1日現在のもの。

【結果の通知】
通知年月日 平成13年12月17日
通知先 徳島労働局

(本件に関する問い合わせ先)
徳島行政評価事務所
電話:088-654-1531













行政評価・監視結果の概要



1  派遣元事業主における事業運営の適正化

   労働者の派遣事業を行う者(派遣元事業主)は、労働者派遣事業の適正な運用を確保するため、労働者派遣法及び関係法令並びに「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成11年労働省告示第137号、以下「派遣元指針」という。)を遵守することとされている。一方、公共職業安定所は、派遣元事業主に対する定期指導(定期的に行う実地指導)、集団指導(派遣元事業主を一堂に集めた労働者派遣事業制度の説明会等)等を実施している。

(1)   派遣元事業主に対する指導監督の実施
   定期指導は、主として口頭による聞き取り調査となっており、関係帳簿類(労働者派遣契約書、派遣元管理台帳等)の点検等による事実確認が不十分
   平成11年度及び12年度における定期指導(指摘件数)の実績は、徳島公共職業安定所:19事業主(10件)、阿南公共職業安定所:2事業主(2件)
   定期指導では、派遣元事業主における労働者派遣事業の実態を的確に把握するため、関係帳簿類の点検、確認が必要

   定期指導時の改善指摘は口頭で行っており、指摘を受けた派遣元事業主から改善状況の報告を求めるなど事後のフォローが不十分であり、さらに、指摘事項を是正しない派遣元事業主に対する指導もできていない。
   平成11年度及び12年度の定期指導において、徳島及び阿南公共職業安定所から改善の指摘を受けながら、これを是正していないもの(3事業主)
   指摘事項のフォローが重要であり、また、指摘に伴う是正措置を講じない場合の指導手順を定めておくことが必要

(2)   派遣元事業主による労働者派遣事業の実施
   18派遣元事業主において、労働者派遣法及び派遣元指針により派遣元事業主が遵守すべき「労働者派遣契約の締結」、「個人情報適正管理規程の作成」等16事項の履行状況を調査した結果、以下のとおり、適正に履行されていない状況がみられた。〈18派遣元事業主全てにおいて、16事項延べ75件の不適切事例〉

   遵守すべき16事項全てを適正に履行している者はいない。不適正事項数が1事項と少ない者がいる一方で、16事項の3分の1(6事項)以上の事項を履行していない者もいる。この中には、「専ら特定派遣制限」など勧告、ひいては許可の取消し及び事業廃止命令等の対象となる事項を履行していない者もいる。
   不適正事項数:1事項が3事業主、2〜5事項が9事業主、6事項以上が6事業主
   派遣元事業主が履行すべき義務の周知徹底を図るための集団指導が必要
   不適正事項数の多かった派遣元事業主に重点をおいた指導監督が必要

   遵守すべき16事項の中には、履行していない者が1事業主と少ない事項がある一方で、18事業主の3分の1(6事業主)以上が履行していない事項もある。この中には、派遣元事業主が作成すべき派遣元管理台帳の内容不備など11事業主が履行していない事項がある。
   未履行事業主数:1事業主が2事項、2〜5事業主が8事項、6事業主以上が6事項
   多くの派遣元事業主が履行していない事項に重点をおいた指導監督が必要

   《主な不適切事例》
    派遣契約を締結せず、派遣先からの注文書等により労働者を派遣している事例
   派遣元事業主は、派遣先との間で、派遣労働者が従事する業務、就業場所など必要最低限の就業条件を定めた労働者派遣契約を締結することとされているが、同契約を締結せず、関連グループ会社からの注文書等により労働者を派遣しているもの(3事業主)

    派遣労働者に係る個人情報適正管理規程を作成していない事例
   派遣元事業主は、派遣労働者の個人情報を取り扱うことができる範囲等を定めた個人情報適正管理規程を作成することとされているが、履行義務の認識不足などから、同規程を作成していないもの(5事業主)

    雇用保険・社会保険に加入させないで労働者を派遣している事例
   雇用・社会保険の加入要件を満たす派遣労働者について、派遣元事業主は、同保険に加入させてから派遣することとされているが、雇用保険、社会保険に加入させないで労働者を派遣しているもの(5事業主)


 〈改善所見〉
  徳島労働局は、
1)    派遣元事業主が履行すべき義務の周知徹底を図るため、県内の全派遣元事業主を対象とした集団指導を実施すること。
   また、集団指導の実施後、履行義務に則った労働者派遣契約の締結、就業条件の明示等が行われているかを確認するため、全派遣元事業主に対する実地指導を行うこと。
   全派遣元事業主に対する実地指導及び今後の定期指導に当たっては、口頭による聞き取り調査に止まらず、労働者派遣法で規定されている関係帳簿類等の点検、確認を行うこと。
2)    全派遣元事業主に対する実地指導により把握した実情を踏まえて、今後の定期指導においては、 i)不適正事項の多かった派遣元事業主、 ii)多くの派遣元事業主が遵守していない事項など、特に改善を推進すべき点を重点事項として明定し、効率的で実効性のある指導監督を行うこと。
3)    定期指導時に指摘した事項については、事後のフォローアップ調査を実施する、改善状況の報告を求めるなど改善を促すための対策を講ずること。
   また、再三の指導によってもなお違法行為を是正しない場合の文書による指導、改善命令等の措置に至る実施手順を策定するなどこれらの措置の活用の円滑化を図ること。


   派遣先における就業管理の適正化

     派遣元事業主から派遣労働者を受け入れる派遣先は、派遣労働者の適正な派遣就業を確保するため、労働者派遣法及び関係法令並びに派遣先が講ずべき措置に関する指針(以下「派遣先指針」という。)を遵守することとされている。また、公共職業安定所は、法令事項の遵守について指導及び助言等を行うこととされている。

(1)   派遣先に対する指導の充実
   業種別会合等の機会を捉えた集団指導を実施していない、派遣元事業主を通じた法令遵守事項の派遣先への周知が不十分など公共職業安定所による派遣先に対する指導等は不十分な状況

(2)   派遣先における派遣労働者の適正な派遣就業の確保

   7派遣先における派遣労働者の派遣就業の実態等を調査した結果、以下のとおり、労働者派遣法等を遵守していない事例がみられた。<7派遣先中6派遣先において、7事項延べ17件の不適切事例>

《主な不適切事例》

   無許可又は無届の事業主から派遣労働者を受け入れている事例
      無許可又は無届の事業主からの派遣労働者受入が禁止されているが、許可又は届出のない事業主から派遣労働者を受け入れているもの(2派遣先)。中には、5年以上の長期にわたり無届の事業主から派遣労働者を受け入れているものあり

   派遣先管理台帳を作成していない事例
      派遣労働者の就業実態を的確に把握するために作成が義務づけられている派遣先管理台帳を、7派遣先のうち6派遣先が未作成

   派遣労働者を派遣先が特定している事例
   派遣労働関係においては派遣先による派遣労働者の特定行為(履歴書の事前送付、事前面接)が禁止されているが、事前に履歴書等を送付させるなど特定行為を行っているもの(3派遣先)
   意見を聴取した派遣労働者の半数以上が特定行為ありと回答(27人中14人)


 〈改善所見〉
  徳島労働局は、
1)    派遣先が遵守すべき事項について一覧表を作成し、これを派遣元事業主を通じて派遣先に配布するなど効果的な措置を講ずること。
2)    派遣先に対し、業種別会合等の機会を捉えた集団指導の実施等により、派遣先が遵守すべき事項について指導するとともに、派遣先指針の周知徹底に努めること。
3)    派遣労働者に対して、労働者の権利を守るために設定されている法違反申告制度、派遣就業相談制度等を派遣元事業主を通じて周知するとともに、派遣労働者からの苦情等により労働者派遣法を遵守していない派遣先を把握した場合は、労働者派遣法に則り速やかに改善措置を講ずること。