視聴覚障害者等向け放送の充実に関する研究会 第5回 議事要旨 1 日時:令和5年7月7日(金曜日)10時から11時30分まで(途中休憩あり) 2 場所:Web会議による開催 3 出席者 (1)構成員 音座長、山下座長代理、岩下構成員、近藤構成員、世木構成員、吉田構成員、新谷構成員(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会)、原田構成員(日本障害者リハビリテーション協会)、堀米構成員(全日本ろうあ連盟)、三宅構成員(日本視覚障害者団体連合)、小原構成員(NHK)、矢口構成員(日本テレビ)、中島構成員(TBSテレビ)、正岡構成員(フジテレビ)、二階堂構成員(テレビ朝日)、上野構成員(テレビ東京)、八木構成員(毎日放送)、市構成員(中京テレビ)、秦構成員(広島ホームテレビ)、菅野構成員(BSフジ)、長谷構成員(J SPORTS)、岡本構成員(衛星放送協会)、二瓶構成員(日本ケーブルテレビ連盟) (2)オブザーバー 内閣府 政策統括官(政策調整担当)付参事官(障害者施策担当)付、厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 企画課 自立支援振興室、一般社団法人電子情報技術産業協会 (3)総務省 山碕大臣官房審議官、佐伯地上放送課長、飯嶋衛星・地域放送課長、金子地域放送推進室長、福田地上放送課企画官、澤谷地上放送課課長補佐 4 議事概要 (1) 生成AIの活用について 事務局から、資料1「生成AIの活用について」に基づき説明後、本議題について意見交換を行った。 原田構成員 留意点について、自動音声認識の例を見ても分かるように、現時点ではAIのみでは成り立たない。人の修正と管理が必要であり、他の分野と同様に、使用にはリスクがあるのではないか。技術面での対応と社会的合意、双方が必要ではないかと思う。この研究会をきっかけに、今後もフォローアップの場などで引き続き話し合っていければよいと思う。 日本は災害が多いこと、高齢化率が高いことなどが特徴である。この分野での情報アクセシビリティーへの活用や配慮に期待したい。例えば緊急時を含めて場面を選ばない情報へのアクセス、あるいは世代やユーザーの特質を選ばない情報のアクセシビリティー、ユーザビリティーに期待をしたい。様々な議論や研究開発に幅広い利用者を参加させ、情報のアクセシビリティーを開発段階から考慮することが必要ではないか。簡単ではないが、ぜひ障害者や高齢者が参加するこの研究会から提起してほしい。 新谷構成員 従来から字幕の分野では、音声認識の活用が進んでいた。今回、議題となっている生成AIは、従来の音声認識の延長線上であるのか、次元の違った技術であるのか、教えていただきたい。 音声認識もしくはAIのこれからの大きな課題として、音声が伝える情報量を全て文字化すると、我々の認知能力では理解できないことがあるため、文字数の適正化、いわゆる要約が必要ではないか。AIを活用してこの課題はどうなるか。3年ほど前にGoogleの今の言語モデルで要約は可能だという記事があった。議事録作成技術の分野では、要約の技術はかなり普遍的な技術になっている。字幕というレベルでどの程度有効性があるのか、データを用いて教えていただきたい。 もう一つ大きな課題は、多人数の音声がかぶる場合に、AIはどう処理をするのか。人間は多人数が話していてもポイントだけつかんで、対話を進めていくが、AIという機械レベルの話になった場合、どのように処理するのか、多人数の会話を分かりやすい形に表記することが可能なのか、教えていただきたい。 事務局 生成AIで次元が変わるものなのかという御質問については、事務局として把握している範囲では2つ考えられる。1つは、より精度が高まる可能性、もう1つは、インプットとして入った文字情報も、そのまま文字として起こすだけではなく、要約というまさに生成するという部分が追加される可能性があると考える。 また、議事録の分野でも、要約の技術がより高精度になっていくことが、生成AIに期待されるところだと考える。 多人数の場合にどういった文字起こしをするかという御質問については、生成AIの種類にもよると思われ、議事録サービスでも精度等は様々あるものの、発言した内容で議事録を作成することが可能なものは、現時点でもあると承知している。 世木構成員 生放送の場合、未来の情報は出ていない状態で随時要約をしていくため、技術的に難しいのではないかと思う。全体の文章があって要約することと、生放送で字幕を要約することは、技術的には生放送のほうが難しいのではないか。 生成AIは話題になっており、非常に役に立つと思うが、放送局側として放送局が出す情報は、信頼できるものを提供することが本質ではないかと思う。そのため、情報がどのようにして作られたかということに対する責任は、放送局側が負うことになる。恐らく放送局はそうしたスタンスで進むのではないか思う。生成AIが使えるようになり、人手で行っていた業務が自動化されることはあるのかもしれないが、その情報を伝えるかどうかの判断は、最終的には放送局側が判断することになるため、今後もスタンスとしてはあまり変わらないと理解している。放送局から回答いただきたい。 小原構成員 一文単位で要約する場合、字幕放送では、文節あるいは文章の句読点ごとに文字を出す状況のため、先の見えない文章を要約するのは難しいということは同じ認識である。 信頼できるものを提供するのが放送局のスタンスということについては、生成AIはまだ課題も多いため、NHKでも現状、真実性も含めて検証していかないといけないと考えている。生成AIについては課題も多く、もう少し検証を進めないと放送に利用できないので、すぐに業務利用することは当面NHKでは予定していない。ただ、あくまで当面であるため、精度の向上など活用できる部分を見いだせた場合、可能性が開けてくることも考えられる。したがって、業務や放送内容が変わるかについては、現在では申し上げられない。 上野構成員 生成AIに対する評価、課題、リスクは、これから検証、洗い出しが必要であり、導入に関しては会社の経営判断にもかかわる問題だ。民放連は、個別の会社の集まりなので、統一的な意見をこの場で申し上げるのは難しい。 世木構成員が御指摘された、情報のアウトプットについては、情報の信頼性、公平性、これが第一だと考えている。それを担保するためにどういった技術を活用するかである。生成AIは大変便利で、未来のある技術だが、きちんとメリット、デメリットを踏まえて、正しい情報を出せるように活用する、あくまでも手段の一つという認識である。 堀米構成員 手話に関して、生成AIがどういう形で活用されるのか、イメージがつかめないので教えていただきたい。 事務局 手話分野での活用について、現時点で生成AIによるものはないと承知している。これから活用が進めば、各生成AIのソフトによって選択されるものだと思う。NHKの手話CGについて、イメージをお答えいただきたい。 小原構成員 NHKでは、気象庁の発表データなどを基に手話CGを自動生成する技術を試験提供している。これは定型文を分解して、単語や表現に対応する手話を、定型文の言語認識から引っ張っている。手話CGに生成AIがどう活きてくるかは学習のさせ方次第だが、文章を認識して、その文章の意味でその手話を選択して画面に表示する。学習をしていく上で、より早く、より正しいものを選びやすくなると思うが、生成AIによってその認識度が変わるかどうか、どの程度生成AIが寄与するのかについては、これからの研究によるものと考える。 (2) 「フォローアップの場」について 事務局から、資料2「「フォローアップの場」について」に基づき説明後、本議題について意見交換を行った。 原田構成員 私どもが行っているのは放送事業者との意見交換であり、障害者団体と放送局の2者が参加して、総務省はオブザーバーとして参加し、論点の改めての確認と相互理解が中心である。今後も相互理解や論点確認は引き続き必要だが、この研究会で様々な課題が明らかになっているため、ぜひ課題解決に進めるように、具体的な道筋を共有できるような場を期待したい。そこで総務省がどのように関わるのか知りたい。国も一定の関与をいただき、少しでも具体的に課題解決に進むような形になることを期待する。 参加者について、研究会や検討会よりも、もっとフレキシブルなものなのではないか。議論が拡散しないように留意も必要だが、障害者や高齢者、メーカーの方など異なる立場のできるだけ多様な人が参加できるとよいと思う。開催の時期と頻度について、時期は準備状況によるが、放送事業者でも利用者でも、立場や論点は非常に多岐にわたるため、分科会の形式などを採用することを考えていければいいと思う。 議題については、報告書で未解決な課題が明らかになっているため、そうしたことを話し合っていければよいと思う。緊急情報の読み上げや、手話放送をどう広げていくか、字幕の地域格差の課題、国会中継や政見放送、多様な障害者にどう対応していくかなどの論点も出されていた。一例だがこれらを取り上げていただきたい。 近藤構成員 原田構成員の御意見について、高齢者や防災への配慮、分科会形式での開催というものは全面的に賛成する。 参加者について、障害者を支援する周辺の方たちの参加を提案したい。障害者や高齢者だけではなく、その人たちを支援する周辺の人たちの大切さを、改めてお伝えしたい。生成AIのような画期的な技術が誕生しても、それを使いこなせない、その利便性を享受できない人たちがいる。その方たちが何に困っているのか、どういう支援をすればいいのか、当事者の方とその支援者をしているヘルパーや通訳者やボランティアや御家族や御友人を、小さな分科会で、困っているテーマごとに、できれば地域ごとにオンラインでも参加できるような仕組みを、総務省のほうで御検討いただきたい。 岩下構成員 近藤構成員の御発言に賛同する。障害者の場合も、支援者の存在は非常に大きい。NPOのメディア・アクセス・サポートセンターという字幕や音声解説のバリアフリーに関する取組を行っている団体にボランティアや映画業界の方が入っている。そのような様々な人たちが参加すると、広がりが出てくるのではないかと思う。実際にサポートに携わっている団体や個人が参加できるような仕組みにしていただけるといいと思う。 堀米構成員 フォローアップの場をつくることは賛成。障害者放送協議会として放送事業者の意見交換会をやっていた。ただ、これも手話放送、字幕放送、解説放送それぞれ3つの分科会に分かれて行っているが、議論する時間が非常に短いため、話が深まらない状況が続いている。できれば解説放送と同じように、手話放送に特化した意見交換会の検討をお願いしたい。 手話放送は目標値が非常に低く、地域の放送局ではできないという状況もあるため、どうやって放送の時間を増やしていくか、手話通訳のオン、オフといった技術的な面も含めて、議論を深めていきたい。 (10分間の休憩) (3) 意見交換 岩下構成員 解説放送における生成AIの活用について、OpenAIが提供するChatGPTのGPT4は有料版であるが、これを使うと、動画や写真などの映像情報について、何が映っているのか質問をすると答えてくれると聞いた。どの程度の正確性があるかは分からないが、非常に期待している。解説放送にも応用が十分できるのではないかと思う。 私が使用しているAIカメラを使うと、テレビの前でニュースを見る時に、例えばあらかじめ岸田首相や河野大臣を登録しておくと、その人たちが映った際に、「右に岸田首相、左に河野大臣」と教えてくれる。そういったことが既にできているため、活用するノウハウや知識をユーザーがまだ共有できていないのではないかと思う。これはメディアの責任でもあるがより広く広めることができたら、普及するのではないかと思う。 山下座長代理 生成AIは、うまく使えるようになると、視聴覚障害者の方々が非常に不便に感じられていた面を一挙に変えてくれる、ブレイクスルーになるかもしれない。NHKのミッションとして、新しい放送技術を開発して利用することがあるかと思う。民放の方は営利ベースでなければいけないところ、NHKは非営利で進めることができる自由度があり、人材もあるが、今日いただいたお話は制限的であった。生成AIの技術は進んでいるが言えないのか、それとも、発言されたことが今の全てなのか、教えていただけないか。5年後の見直しを待つ前に、放送の世界が変わっていることを期待しているため、今後進んでいくのか教えていただきたい。 小原構成員 NHKとしても現在の生成AIに対して、どのように使えるのか、どのようにしたら課題が克服できるのかも含めて、研究は緒に就いたばかりというのが実態。AIによる音声の自動認識技術の開発は実施してきたが、進化した生成AIが、そこにどううまくはまるかも含めて、まだ研究段階にあり、どんな成果が導き出されるか、もう少し時間が経たないと見えてこない。これから技術研究所を含めて研究していくことはNHKでも合意しているため、共有できるタイミングで発表していきたい。 岩下構成員 このような技術を取り入れると、お金がかかる。字幕、手話、解説放送も放送局でそれらを作る人を用意する必要がある。助成金があるのは承知しているが、字幕制作や人材育成にもお金がかかるため、そういうところに充当できるような仕組みを国のほうで用意いただけるとありがたいが、そういった検討も、フォローアップの場で実施する必要があると思う。 新谷構成員 要約の必要性について、テレビの場合、人間は1分間に200ワード程度の速さで発言しているが、それを画像とともに1分間に200ワードを表示していくと、読み取れないのではないかと思う。現在のテレビの表示方法は、2行の字幕が一定時間キープされて、次の2行の字幕に変わっていく表示方法である。先ほど述べたのは、テレビに表示される要約を、将来の情報を持ち込んだ形で要約するという意味ではなく、あくまでも発言されたる内容を全部文字にした場合、理解できないため、話された内容をある程度分かりやすく、短い文字数で表記してくれないか、という意味である。 世木構成員 要約の必要性があることは皆理解している。会議の議事録の場合、会議が全部終わったところで議事録を作成して、それを要約するという話であり、生放送で逐次話した言葉が字幕として出てくるものを要約することとは、状況が違うということを申し上げた。その必要性の有無についてお話ししたわけではなく、技術的な課題解決の難しさとして、発声がされた後でそれを要約するという話と、生放送でまだ話している最中のものを逐次要約していくというのは、技術的には生放送のほうが難しいのではないかというお話をさせていただいた。 三宅構成員 フォローアップの場は、各放送事業者が障害者団体の要望に対してここまでは取り組んできているということを紹介いただきたい。視覚障害者の立場から言うと、外国の方のインタビューや変声された声のインタビューなどテロップの情報をいかに伝えるか、速報で出てきた情報をいかに伝えるかについて、少しでも早く、確実に視覚障害者に届く取組があれば、ぜひ紹介いただきたい。 今後の放送指針について、大規模災害時等の部分で少し書きぶりが変わる可能性があるということがあった。そうであるのならば、どういうふうに変えていこうと考えておられるか、NHKや民放連から、こうした場でぜひ紹介いただきたい。 吉田構成員 フォローアップの場が形骸化しないことが大事だと思う。頻度については柔軟に、参加者については、障害当事者や高齢者、手話通訳に関わる方や支援者ももちろんだが、個人的には、社会福祉協議会や、都道府県のコミュケーション事業に関わっている社会福祉の仕事に従事している方をお呼びし、ディスカッションできる場があるといいと思う。分科会までいかなくとも、小規模な会をところどころ設けていただけると、お互いの知識や情報などもすり合わせできるため非常にありがたい。 岩下構成員 今回の取組にユニバーサル放送という言い方があった。ユニバーサルというと、この会合だと障害者が中心になっているが、決してこのサービスは障害者や高齢者だけが使えるものでない。例えば映画の音声ガイドでは、障害者が解説を聞くだけではなく、コメンタリーという監督や主役の俳優がコメントをしながら映画を楽しむというサービスもある。健常者が見ても聞いても面白いことがある。テレビの解説放送も、実は健常者が聞くと面白いことがある。そういうものを一般の人が知らないだけだと思う。ユーザーを増やすことでサービスは継続し、予算がつく可能性があるため、フォローアップの場でも、決して障害者だけではなく、一般の人で番組作成に関心を持つ人を巻き込んでいけたらよいのではないのかと思う。 山下座長代理 以前の研究会で構成員の方が、ある衛星放送で、NHKで過去放送された番組を再放送すると知り、楽しみにしていたところ、残念ながら字幕がついていなかったというお話をされていた。その衛星放送会社にお話しする機会があったのだが、字幕がついていることさえ知らなかったそうで、調べてくださったところ、番組を購入するとき、字幕つきのものを購入するオプションがあるが、知らなかったためにオプションにも気がつかなかったということだった。ちょっとしたことで障害者の方の福祉が改善するが、それを知らなければ全くそのサービスを提供できない。もちろんオプションは有料だが、知らなければそれを購入するかどうかの意思決定もできない。そういうときに、オプションで購入する余裕があるのなら、ぜひ購入してもらいたい。そうした意思決定に資するためにも、番組販売をする際は字幕つきの番組オプションがあることを、放送事業者には何らかの形で周知してもらえるとよいのではないかと思う。 事務局 これまでいただいた生成AI、フォローアップの場について、御意見を踏まえて、報告書の修正を検討したい。 原田構成員 今後のスケジュール感を伺いたい。 事務局 適宜、スケジュールについては皆様に御報告させていただきたい。 (4)その他 事務局から、追加意見については、令和5年7月14日(金曜日)までにメール等で事務局まで提出してほしい旨連絡があった。 (5)閉会 以上