4.財務比率


1.<流動性>

 事業の安全性(健全性)をみる重要な視点の一つとして、事業体の支払能力がある。支払能力は、
        支 払 手 段
  支払能力=─────────
        支 払 義 務
 のように、支払手段と支払義務の対比によって求められる。財務分析では、この支払能力のことを流動性という。
 流動性を測る指標として流動比率と当座比率がある。

 (注) 流動資産及び流動負債は、団体別でのみ計上されているため、施設別区分の分析は行わない。
           流 動 資 産
  流動比率(%)=──────── ×100
           流 動 負 債

           現金預金+(未収金−貸倒引当金)
  当座比率(%)=───────────────── ×100
             流 動 負 債

区    分 流動比率 当座比率
25 26 27 25 26 27
当 該 団 体            
類似団体平均            
団体別平均 777.6 269.7 362.1 634.5 231.5 325.0
B    県 1,315.8 507.6 531.6 1,288.3 497.9 508.1

【指標の見方】
 流動比率は、流動負債に対する流動資産の割合であり、短期債務に対する支払能力を表している。流動比率が100%を下回っていれば不良債務が発生していることになるため、当比率は100%以上であることが必要である。
 また、流動比率の補助比率として当座比率があり、これは、流動負債に対する支払手段としての流動資産のうち、現金・預金及び早々に回収されるべき未収金といった当座資産をどれだけ有しているかを示しており、事業体の支払能力をより厳密に測る指標である。
 これらの比率により支払能力をみる場合、単に数値の大小にとどまらず、その要因が流動資産(当座資産)の大小にあるのか、負債にあるのかを確かめることが大切である。
 加えて、比率が100%以上であっても、現金等が減少傾向にある場合や一時借入金といった流動負債が増加傾向にある場合には、将来の見込みも踏まえる必要がある。
 反対に、比率が100%未満であっても、流動負債には建設改良費等に充てられた企業債・他会計借入金等が含まれており、これらの財源により整備された施設について、将来、償還・返済の原資を給水収益等により得ることが予定されている場合には、一概に支払能力がないとはいえない点も踏まえる必要がある。
 さらに、流動比率と当座比率の差は当座資産の割合の差を示すと同時に、貯蔵品(たな卸資産)の占める割合の差を示している。したがって、両比率間の乖離が著しい場合は、貯蔵品を持ち過ぎていないか、貯蔵品管理のあり方を検討すべきである。
 なお、これらの比率の高い団体において、流動資産に占める現金の比率が高く、年間を通じてその傾向が強い場合には、資金の効率的な運用を図ることも考えられる。

【事業全体の傾向】
 流動比率及び当座比率については、現在配水能力規模が小さいほど高い傾向にある。
 これは、小規模な事業の方が流動資産及び流動負債それぞれの額は小さくなるが、支払い手段としての流動資産の額(または流動負債を差し引いた後の残額)は、規模に関わらず、ある程度の量が必要とされる(すなわち、規模が大きくなっても余裕資金の量はそれほど大きく増加しない)ためと考えられる。

【B県の分析】
 B県については、流動比率、当座比率ともに団体別平均を大きく上回っており、3か年の比率を見ても同様であることから、短期的な支払い能力に問題はないものと考えられる。

流動比率・当座比率(団体別)


2.<安全性>

 ここでは、自己資本構成比率により資本構成の安定度をみるとともに、固定資産対長期資本比率により設備投資の妥当性をみる。

 (注) 資本金等は、団体別でのみ計上されているため、施設別区分の分析は行わない。

              資本金+剰余金+評価差額等+繰延収益
 自己資本構成比率(%)=─────────────────── ×100
                  負債・資本合計

                        固 定 資 産
 固定資産対長期資本比率(%)=──────────────────────── ×100
                 固定負債+資本金+剰余金+評価差額等+繰延収益
 ※ 「負債・資本合計」=「総資本」

区    分 自己資本構成比率 固定資産
対長期資本比率
25 26 27 25 26 27
当 該 団 体            
類似団体平均            
団体別平均 70.6 66.8 68.5 89.7 90.5 88.6
B    県 83.0 81.5 83.9 82.1 82.7 81.6

【指標の見方】
 財政状態の長期的な安全性の見方として、その事業の資本構成割合は一つの重要な要素である。自己資本構成比率は総資本に対する資本金等の割合であり、工業用水道事業は施設建設費の大部分を企業債によって調達していることから、一般的に資本費によって恒常的経営が圧迫される傾向を持ち、事業開始当初の自己資本構成比率は低くなる傾向にあるが、事業の安定化を図るためには、その後の資本金等の造成を進めていく必要がある。
 仮に、事業実施資金の全てを企業債により調達した場合はその時点の金利の状況等により後の経営状態を大きく左右することが考えられるため、施設更新時には多少の自己資金をもって更新事業を実施することが経営を安定させるための一つの手法となる。
 また、資本金等のうち剰余金等の内部留保部分の構成比率が高いほど資本構成の安全性が高いので、資本金等の構成内容まで留意するとよい。
 資本金等は、負債と異なり原則として返済を求められることはない。また、借入金利子等の義務的な資本コストがかからない(ただし、地方公営企業法第18条の規定による出資を受けた場合は、同条第2項により、利益の状況に応じて納付金を納付するものとするとなっている。)ので、自己資本構成比率は利子負担率や、自己資本回転率、各種利益率などの収益性を比較する際にその大小の要因の一つとなる。また、固定負債構成比率は自己資本構成比率の対をなすものである。
 固定資産対長期資本比率は、固定資産がどの程度長期資本によって調達されているかを示すものである。この比率は常に100%以下で、かつ、低いことが望ましい。100%を上回っている場合には、固定資産の一部が一時借入金等の流動負債によって調達されていることを示し、不良債務発生の原因となる。

【事業全体の傾向】
 現在配水能力規模が大きな事業で、自己資本構成比率が低く、固定資産対長期資本比率が高くなる傾向にある。これは、規模が大きくなるほど、表流水などを水源にしている施設と比べて建設の投資額が高いダムを水源にしている施設の割合が高く、企業債等への依存が高くなる傾向にあることが要因となっている。

【団体別:B県の場合】
 B県については、自己資本構成比率が団体別平均を上回っており、3か年の比率を見ても同様であることから、資本構成の安全性は高いと考えられる。
 また、固定資産対長期資本比率は、団体別平均を下回っており、3か年の比率を見ても、100%を下回る状態が続いているため、事業の安全性の確保がされていると考えられる。

自己資本比率・固定資産対長期資本比率(団体別)
 
 
5 施設の効率性(稼動状況)→
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平成27年度工業用水道事業経営指標