4.財務の状況
ここでは、財務の安全性(健全性)または設備投資の妥当性を見る指標として、以下の指標を用いる。
(1) 当座比率
現金預金+未収金
当座比率(%)= ――――――――― ×100
流動負債
|
当該団体 |
類似団体平均 |
全国平均 |
A 市 |
当座比率 |
|
|
368.1 |
317.8 |
【指標の見方】
当座比率は、支払義務としての流動負債に対する支払手段としての当座資産(流動資産のうち、現金・預金、換金性の高い未収金等)の割合を示すものであり、短期債務に対する支払能力をあらわしている。
当座比率により支払能力を見る場合、単に数値の大小にとどまらず、その要因が当座資産の大小にあるのか、流動負債の大小にあるのかを確かめることが大切である。
【全体の傾向】
当座比率については、給水人口規模が小さいほど概ね高くなっている。これは、給水人口規模が大きな事業に比べ当座資産が実額では少額であるものの、流動負債との比較で見れば大きくなっているからである。一方、給水人口規模が大きな事業は、当該比率が相対的に低くても、規模の経済(スケールメリット)により支払い能力が確保されていると考えられる。
【A市の場合】
A市の平成15年度末の当座資産は約6億9千万円、流動負債が約2億2千万円で当座比率が317.8%と、全国平均を下回っている。これは、全国平均の当座資産が約10億2千万円、流動負債が約2億8千万円であるのと比較すると、流動負債は全国平均を下回っており、当座資産の額は全国平均の約2/3であるためである。なお、全国平均を下回っているものの、100%を大きく超えているため、当座の支払能力には問題ないものと考えられる。
当座比率グラフ
(2) 自己資本構成比率
自己資本金+剰余金
自己資本構成比率(%)= ―――――――――― ×100
負債・資本合計
|
当該団体 |
類似団体平均 |
全国平均 |
A 市 |
自己資本構成比率 |
|
|
56.7 |
66.2 |
【指標の見方】
財務状態の長期的な安全性の見方として、その事業の資本構成がどのようになっているかが重要である。自己資本構成比率は総資本(負債及び資本)に占める自己資本の割合であり、水道事業は施設の建設費の大部分を企業債(借入資本金)によって調達していることから、自己資本構成比率は低いものとならざるを得ないが、事業経営の安定化を図るためには、自己資本の造成が必要である。また、自己資本は、負債と異なり原則として返済する必要のない資本であり、支払利息が発生しないことから、自己資本による建設投資を行う方が資本費を抑える結果となる。
なお、自己資本のうち剰余金等の内部留保の構成率が高いほど資本構成の安全性が高いといえるが、例えば、起債の借入を抑制するために、建設投資の財源を料金を源泉とする利益剰余金に過度に求めているような場合においては、自己資本構成比率は高い数値となるものの世代間の負担の公平性が損なわれるといったことも考えられるため留意する必要がある。
【全体の傾向】
自己資本構成比率については、給水人口規模が大きな事業が若干低くなる傾向を示している。
【A市の場合】
A市の自己資本構成比率は、全国平均と比べて高い比率となっており、資本構成の安定度は高いといえる。
さらに、A市の自己資本の構成を見ると、工事負担金による資本剰余金の割合が高いという特徴があることから、開発業者等からの負担金収入によって自己資本の造成が図られているものと考えられる。
自己資本構成比率グラフ
(3) 固定資産対長期資本比率
固定資産
固定資産対長期資本比率(%)= ――――――――――――― ×100
固定負債+資本金+剰余金
|
当該団体 |
類似団体平均 |
全国平均 |
A 市 |
固定資産対長期資本比率 |
|
|
92.8 |
95.2 |
【指標の見方】
前掲の自己資本構成比率と同様、事業の固定的・長期的安全性を見る指標である。固定資産対長期資本比率は、資金が長期的に拘束される固定資産が、どの程度返済期限のない自己資本や長期に活用可能な固定負債などの長期資本{自己資本(自己資本金+剰余金)及び長期借入金(借入資本金+固定負債)}によって調達されているかを示すものである。この比率は常に100%以下で、かつ、低いことが望ましい。100%を上回っている場合には、固定資産の一部が一時借入金等の流動負債によって調達されていることを示す。
一般に、最も安全性を阻害するのが流動負債で固定資産を取得することで、この場合、当該比率は著しく高くなり、当座比率も低下するなど不良債務発生の原因となる。なお、(1)の当座比率と関連づけて資金収支のバランスを分析すると良い。
【全体の傾向】
固定資産対長期資本比率については、給水人口規模の大きい事業が高い傾向にあり、当座比率と逆の傾向を示している。この傾向にも、規模の経済(スケールメリット)が働いているものと考えられる。
【A市の場合】
A市の固定資産対長期資本比率は95.2%であり、全国平均92.8%に比べ高い数値となっている。
これは、有形固定資産減価償却率の項で述べたとおり、ここ数年の更新工事によって新たに取得した固定資産の資産合計に占める割合が高くなっているためであると考えられる。
固定資産対長期資本比率グラフ
【A市の場合】のまとめ
以上のことから、A市については次のように要約できる。
1.事業の概況については、普及率は全国平均を大きく上回っており、平均有収水量はほぼ全国平均並となっている。地理的条件を見ると、有収水量密度は全国平均以上であり、施設整備の投資効果を比較的得やすいものと想定される。また、需要構造については、有収水量に占める家庭用水量の比率が高い割合(80%)となっていることから、業務用等の大口使用者が少ないという特徴がある。
2.施設の効率性については、配水管使用効率は全国平均を下回っているが、施設利用率、有収率ともに全国平均を上回っており、施設の拡張や老朽管の更新が計画的になされているようである。
3.経営の効率性については、いずれの指標も全国平均と比べて良好な数値を示しているが、水源に占める受水の割合が高いことにより、取水・浄水施設の資本費や維持管理費に相当する額が各費用に直接的に表れておらず、受水費として表されている点には注意を要する。
4.財務の状況については、当座比率は100%を超えており、自己資本構成比率も全国平均より大幅に高いため、短期債務に対する支払能力及び資本構成の安定度は確保されている。
なお、供用開始から40年以上が経過し、特に管路の更新時期にさしかかっていることや、人口増加に比べて有収水量が伸び悩む傾向が見られるようになってきていること等から、今後の経営状況に注意する必要がある。
平成15年度水道事業経営指標