4.財務の状況
ここでは、財務の安全性(健全性)または設備投資の妥当性を見る指標として、以下の指標を用いる。
(1) 当座比率
現金預金+未収金
当座比率(%)= ――――――――― ×100
流動負債
|
当該団体 |
類似団体平均 |
全国平均 |
A 市 |
当座比率 |
|
|
385.0 |
708.5 |
【指標の見方】
当座比率は、支払義務としての流動負債に対する支払手段としての当座資産(流動資産のうち、現金・預金、換金性の高い未収金等)の割合を示すものであり、短期債務に対する支払能力をあらわしている。
当座比率により支払能力を見る場合、単に数値の大小にとどまらず、その要因が当座資産の大小にあるのか、流動負債の大小にあるのかを確かめることが大切である。
【全体の傾向】
当座比率については、給水人口規模が小さいほど概ね高くなっている。これは、給水人口規模が大きな事業に比べ当座資産が実額では少額であるものの、流動負債との比較で見れば大きくなっているからである。一方、給水人口規模が大きな事業は、当該比率が相対的に低くても、規模の経済(スケールメリット)により支払い能力が確保されていると考えられる。
【A市の場合】
A市の当座比率は、全国平均を大きく上回っており、当座の支払能力には問題ないものと考えられる。逆に、企業内に留まっている当座資産が大きくなるため、効率的な運用を考えていく必要があると考えられる。
当座比率グラフ
(2) 自己資本構成比率
自己資本金+剰余金
自己資本構成比率(%)= ―――――――――― ×100
負債・資本合計
|
当該団体 |
類似団体平均 |
全国平均 |
A 市 |
自己資本構成比率 |
|
|
59.3 |
51.0 |
【指標の見方】
財務状態の長期的な安全性の見方として、その事業の資本構成がどのようになっているかが重要である。自己資本構成比率は総資本(負債及び資本)に占める自己資本の割合であり、水道事業は施設の建設費の大部分を企業債(借入資本金)によって調達していることから、自己資本構成比率は低いものとならざるを得ないが、事業経営の安定化を図るためには、自己資本の造成が必要である。また、自己資本は、負債と異なり原則として返済する必要のない資本であり、支払利息が発生しないことから、自己資本による建設投資を行う方が資本費を抑える結果となる。
なお、自己資本のうち剰余金等の内部留保の構成率が高いほど資本構成の安全性が高いといえるが、例えば、起債の借入を抑制するために、建設投資の財源を料金を源泉とする利益剰余金に過度に求めているような場合においては、自己資本構成比率は高い数値となるものの世代間の負担の公平性が損なわれるといったことも考えられるため留意する必要がある。
【全体の傾向】
自己資本構成比率については、給水人口規模が大きな事業が若干低くなる傾向を示している。
【A市の場合】
A市の自己資本構成比率は、全国平均と比べて低くなっている。前年度と比べると、企業債残高が減少したため、1.6ポイント増加している。A市の自己資本の構成は、固有資本金が少なく、工事負担金や加入金、組入資本金など、事業活動によって造成されたものが大部分を占めている。
自己資本構成比率グラフ
(3) 固定資産対長期資本比率
固定資産
固定資産対長期資本比率(%)= ――――――――――――― ×100
固定負債+資本金+剰余金
|
当該団体 |
類似団体平均 |
全国平均 |
A 市 |
固定資産対長期資本比率 |
|
|
92.4 |
86.5 |
【指標の見方】
前掲の自己資本構成比率と同様、事業の固定的・長期的安全性を見る指標である。固定資産対長期資本比率は、資金が長期的に拘束される固定資産が、どの程度返済期限のない自己資本や長期に活用可能な固定負債などの長期資本{自己資本(自己資本金+剰余金)及び長期借入金(借入資本金+固定負債)}によって調達されているかを示すものである。この比率は常に100%以下で、かつ、低いことが望ましい。100%を上回っている場合には、固定資産の一部が一時借入金等の流動負債によって調達されていることを示す。
一般に、最も安全性を阻害するのは流動負債で固定資産を取得することで、この場合、当該比率は著しく高くなり、当座比率も低下するなど不良債務発生の原因となる。なお、(1)の当座比率と関連づけて資金収支のバランスを分析すると良い。
【全体の傾向】
固定資産対長期資本比率については、給水人口規模の大きい事業が高い傾向にあり、当座比率と逆の傾向を示している。この傾向にも、規模の経済(スケールメリット)が働いているものと考えられる。
【A市の場合】
A市の固定資産対長期資本比率は全国平均に比べ低い数値となっている。前述した当座比率も高いことから、財務の安全性については、良好と言える。
固定資産対長期資本比率グラフ
【A市の場合】のまとめ
以上のことから、A市については次のように要約できる。
1.普及率は、全国平均より低いが、これは、合併により簡易水道給水区域が増えたためであり、簡易水道を含めた全市の普及率は、98.3%である。平均有収水量は全国平均並であるが、合併により給水区域が広がったため、有収水量密度は全国平均より低い。
2.施設利用率は、全国平均より高く、有収率、配水管使用効率もほぼ全国平均並であることから、有効な施設利用がなされていると言える。
3.累積欠損金もなく、総収支比率、経常収支比率、料金回収率のいずれも100%を超えており、繰入金比率も低いことから、独立採算による経営を実施し、その状況は良好と言える。しかしながら、職員一人当たりの給水人口や給水収益は全国平均より低く、給水収益に対する職員給与費の割合も高いことから、生産性は低いと言える。
4.当座比率は全国平均を大幅に上回っているため、短期債務に対する支払い能力は確保されている。また、自己資本構成比率は、全国平均より低くなっているが、年々比率は上昇していること、固定資産対長期資本比率が全国平均を下回っていることから、長期的にも安全であると言える。
5.現在の経営状況、財務状況は比較的良好であるといえるが、有収水量が減少傾向にあるなど、経営を取り巻く環境は厳しいので、今後の事業運営に注意する必要がある。
平成17年度水道事業経営指標