4.財務の状況

 ここでは、財務の安全性(健全性)または設備投資の妥当性を見る指標として、以下の指標を用いる。

(1) 当座比率
            現金預金+未収金
  当座比率(%)= ――――――――― ×100
             流動負債
  当該団体 類似団体平均 全国平均 A  市
当座比率     378.6 562.5

【指標の見方】
 当座比率は、支払義務としての流動負債に対する支払手段としての当座資産(流動資産のうち、現金・預金、換金性の高い未収金等)の割合を示すものであり、短期債務に対する支払能力を表している。
  当座比率により支払能力を見る場合、単に数値の大小にとどまらず、その要因が当座資産の大小にあるのか、流動負債の大小にあるのかを確かめることが大切である。

【全体の傾向】
 当座比率については、給水人口規模が小さいほど概ね高くなっている。これは、給水人口規模が大きな事業に比べ当座資産が実額では少額であるものの、流動負債との比較で見れば大きくなっているからである。一方、給水人口規模が大きな事業は、当該比率が相対的に低くても、規模の経済(スケールメリット)により支払い能力が確保されていると考えられる。

【A市の場合】
 A市の当座比率は、全国平均を大きく上回っており、当座の支払能力には問題ないものと考えられる。但し、内部留保資金による建設改良工事の実施等により、近年当座比率が大幅に減少傾向にあるため、今後の資金繰りに留意する必要がある。なお、当座比率は類似団体平均(581.7%)との比較では同水準である。

当座比率グラフ


(2) 自己資本構成比率
                自己資本金+剰余金
  自己資本構成比率(%)= ―――――――――― ×100
                 負債・資本合計
  当該団体 類似団体平均 全国平均 A  市
自己資本構成比率     60.6 90.9

【指標の見方】
 財務状態の長期的な安全性の見方として、その事業の資本構成がどのようになっているかが重要である。自己資本構成比率は総資本(負債及び資本)に占める自己資本の割合であり、水道事業は施設の建設費の大部分を企業債(借入資本金)によって調達していることから、自己資本構成比率は低くなる傾向にあるが、事業経営の安定化を図るためには、自己資本の造成が必要である。また、自己資本は、負債と異なり原則として返済する必要のない資本であり、支払利息が発生しないことから、自己資本による建設投資を行う方が資本費を抑える結果となる。
  なお、自己資本のうち剰余金等の内部留保の構成率が高いほど資本構成の安全性が高いといえるが、例えば、起債の借入を抑制するために、建設投資の財源を料金を源泉とする利益剰余金に過度に求めているような場合においては、自己資本構成比率は高い数値となるものの世代間の負担の公平性が損なわれるといったことも考えられるため留意する必要がある。

【全体の傾向】
 自己資本構成比率については、基本的に給水人口規模による顕著な差はない状況となっている。

【A市の場合】
 A市の自己資本構成比率は、全国平均や類似団体平均(68.9%)を大きく上回っている。これは、近年企業債の発行を行っていないこと等によるものであり、自己資本の造成は図られているものの、世代間の負担の公平性に留意する必要がある。なお、対前年度比較では、未払金等流動負債の増加により、比率は若干低下している。
  A市の自己資本の構成は、固有資本金が少なく、工事負担金や組入資本金など、事業活動によって造成されたものが大部分を占めている。 

自己資本構成比率グラフ


(3) 固定資産対長期資本比率
                      固定資産
  固定資産対長期資本比率(%)= ――――――――――――― ×100
                   固定負債+資本金+剰余金
  当該団体 類似団体平均 全国平均 A  市
固定資産対長期資本比率     92.2 71.7

【指標の見方】
 前掲の自己資本構成比率と同様、事業の固定的・長期的安全性を見る指標である。固定資産対長期資本比率は、資金が長期的に拘束される固定資産が、どの程度返済期限のない自己資本や長期に活用可能な固定負債などの長期資本{自己資本(自己資本金+剰余金)及び長期借入金(借入資本金+固定負債)}によって調達されているかを示すものである。この比率は常に100%以下で、かつ、低いことが望ましい。100%を上回っている場合には、固定資産の一部が一時借入金等の流動負債によって調達されていることを示す。
  一般に、最も安全性を阻害するのは流動負債で固定資産を取得することで、この場合、当該比率は著しく高くなり、当座比率も低下するなど不良債務発生の原因となる。なお、(1)の当座比率と関連づけて資金収支のバランスを分析すると良い。

【全体の傾向】
 固定資産対長期資本比率については、給水人口規模の大きい事業が高い傾向にあり、当座比率と逆の傾向を示している。この傾向にも、規模の経済(スケールメリット)が働いているものと考えられる。

【A市の場合】
 A市の固定資産対長期資本比率は全国平均や類似団体平均(88.8%)に比べ低い数値となっている。前述した当座比率も高いことから、財務の安全性については、良好と言える。

固定資産対長期資本比率グラフ


【A市の場合】のまとめ
 以上のことから、A市については次のように要約できる。

1.事業の概況については、普及率は全国平均を大きく上回っており、殆どの市民が公営水道の供給を受けている状況にある。また、需要構造については、有収水量に占める家庭用水量の比率が非常に高く(95%)、平均有収水量も全国平均を下回っていることから、業務用等の大口使用者が少ないものと考えられる。

2.施設の効率性については、上記のとおり小口である家庭用水量が中心であることから、配水管使用効率が全国平均を下回るなど、投資効率は比較的低い状況にあるが、施設利用率、有収率ともに全国平均を上回っており、施設の拡張や老朽管の更新が計画的に行われているようである。

3.経営の効率性については、累積欠損金もなく、総収支比率、経常収支比率、料金回収率のいずれも100%を超えており、比較的健全な経営状況であると言える。また、職員一人当たりの給水人口や給水収益も全国平均を上回るとともに、給水収益に対する職員給与費の割合も低いことから、生産性は高い状況である。
  なお、収益的収入分の繰入金比率が高く、その大半が基準外繰入金であることから、内容を精査の上、本来水道事業会計が負担すべき経費に充てられているものが含まれているのであれば、早期の適正化を図っていくべきである。

4.財務の状況については、当座比率は全国平均を大幅に上回っているため、短期債務に対する支払い能力は確保されている。また、自己資本構成比率は全国平均を大幅に上回っており、固定資産対長期資本比率も全国平均を下回っていることから、長期的にも安全であると言える。
  なお、自己資本比率の高さは、近年建設改良事業の実施に際し、減価償却による内部留保資金等を充当し企業債を発行していないことに起因するものと思われるが、世代間の負担の公平性に留意する必要がある。

5.現在の経営状況、財務状況は比較的良好であると言えるが、供用開始から40年以上が経過し、管路の更新時期にさしかかっていることや、有収水量が近年減少傾向にあることなどから、事業を取り巻く状況の変化に十分注意して経営を行う必要がある。

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平成18年度水道事業経営指標