4.財務の状況
ここでは、財務の安全性(健全性)または設備投資の妥当性を見る指標として、以下の指標を用いる。
(1) 当座比率
現金預金+未収金
当座比率(%)= ――――――――― ×100
流動負債
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当該団体 |
類似団体平均 |
全国平均 |
A 市 |
当座比率 |
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379.1 |
474.7 |
【指標の見方】
当座比率は、支払義務としての流動負債に対する支払手段としての当座資産(流動資産のうち、現金・預金、換金性の高い未収金等)の割合を示すものであり、短期債務に対する支払能力を表している。
当座比率により支払能力を見る場合、単に数値の大小にとどまらず、その要因が当座資産の大小にあるのか、流動負債の大小にあるのかを確かめることが大切である。
【全体の傾向】
当座比率については、給水人口規模が小さいほど概ね高くなっている。これは、給水人口規模が大きな事業に比べ当座資産が実額では少額であるものの、流動負債との比較で見れば大きくなっているからである。一方、給水人口規模が大きな事業は、当該比率が相対的に低くても、規模の経済(スケールメリット)により支払能力が確保されていると考えられる。
【A市の場合】
A市の当座比率は、全国平均を上回っており、当座の支払能力には問題ないものと考えられる。ただし、A市の当座資産(約10億円)は、全国平均(約15億円)及び類似団体平均(約22億円)に比べ低いことに留意する必要がある。
当座比率グラフ
(2) 自己資本構成比率
自己資本金+剰余金
自己資本構成比率(%)= ―――――――――― ×100
負債・資本合計
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当該団体 |
類似団体平均 |
全国平均 |
A 市 |
自己資本構成比率 |
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62.3 |
40.7 |
【指標の見方】
財務状態の長期的な安全性の見方として、その事業の資本構成がどのようになっているかが重要である。自己資本構成比率は総資本(負債及び資本)に占める自己資本の割合であり、水道事業は施設の建設費の大部分を企業債(借入資本金)によって調達していることから、自己資本構成比率は低くなる傾向にあるが、事業経営の安定化を図るためには、自己資本の造成が必要である。また、自己資本は、負債と異なり原則として返済する必要のない資本であり、支払利息が発生しないことから、自己資本による建設投資を行う方が資本費を抑える結果となる。
なお、自己資本のうち剰余金等の内部留保の構成率が高いほど資本構成の安全性が高いといえるが、例えば、起債の借入を抑制するために、建設投資の財源を料金を源泉とする利益剰余金に過度に求めているような場合においては、自己資本構成比率は高い数値となるものの世代間の負担の公平性が損なわれるといったことも考えられるため留意する必要がある。
【全体の傾向】
自己資本構成比率については、基本的に給水人口規模による顕著な差はない状況となっている。
【A市の場合】
A市の自己資本構成比率は、全国平均や類似団体平均(61.5%)を大きく下回っており、これまで施設の建設・更新の多くを企業債に依存していたことが要因であると考えられる。
A市の自己資本の構成は、固有資本金が少なく、繰入資本金及び国県補助金によるものが5割以上を占めている。
自己資本構成比率グラフ
(3) 固定資産対長期資本比率
固定資産
固定資産対長期資本比率(%)= ――――――――――――― ×100
固定負債+資本金+剰余金
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当該団体 |
類似団体平均 |
全国平均 |
A 市 |
固定資産対長期資本比率 |
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92.4 |
95.4 |
【指標の見方】
前掲の自己資本構成比率と同様、事業の固定的・長期的安全性を見る指標である。固定資産対長期資本比率は、資金が長期的に拘束される固定資産が、どの程度返済期限のない自己資本や長期に活用可能な固定負債などの長期資本{自己資本(自己資本金+剰余金)及び長期借入金(借入資本金+固定負債)}によって調達されているかを示すものである。この比率は常に100%以下で、かつ、低いことが望ましい。100%を上回っている場合には、固定資産の一部が一時借入金等の流動負債によって調達されていることを示す。
一般に、最も安全性を阻害するのは流動負債で固定資産を取得することで、この場合、当該比率は著しく高くなり、当座比率も低下するなど不良債務発生の原因となる。なお、(1)の当座比率と関連づけて資金収支のバランスを分析すると良い。
【全体の傾向】
固定資産対長期資本比率については、給水人口規模の大きい事業が高い傾向にあり、当座比率と逆の傾向を示している。この傾向にも、規模の経済(スケールメリット)が働いているものと考えられる。
【A市の場合】
A市の固定資産対長期資本比率は全国平均や類似団体平均(90.0%)に比べ高い数値となっている。これは、前述したように当座資産が平均に比べ少ないことが要因であると考えられる。
固定資産対長期資本比率グラフ
【A市の場合】のまとめ
以上のことから、A市については次のように要約できる。
1.事業の概況については、普及率は全国平均を大きく上回っており、すべての市民が公営水道の供給を受けている状況にある。また、需要構造については、平均有収水量は全国平均を上回っているものの、近年家庭用以外の水量が大きく減少してきている。
2.施設の効率性については、配水管使用効率がかなり高く、投資効率が非常によい状況である上、施設利用率及び有収率ともに全国平均を上回っており、規模に即した水源の整理や計画的な老朽管の更新が行われているようである。
3.経営の効率性については、累積欠損金もなく、総収支比率、経常収支比率はいずれも100%を超えているものの、供給単価が低いため全国平均に比べ低い比率となっている。また、近年経費の削減に努めているものの、職員一人当たりの給水人口や給水収益も全国平均を下回っており、生産性は高いと言えない状況である。
4.財務の状況については、当座比率は全国平均を上回っているため、短期債務に対する支払能力は確保されているが、当座資産が平均より少ない。また、自己資本構成比率は全国平均を大幅に下回っていることから、これまで施設の更新財源の多くを企業債に依存してきた上、再投資を行うために十分な資金が内部に留保されてこなかったことがうかがえる。
5.現在の経営状況及び財務状況は比較的良好であると言えるが、自己資本比率と料金回収率が低い状況にあって、有収水量が近年減少傾向にあることから、事業を取り巻く状況の変化に十分注意して経営を行う必要がある。
平成19年度水道事業経営指標