4.財務の状況
ここでは、財務の安全性(健全性)または設備投資の妥当性を見る指標として、以下の指標を用いる。
(1) 当座比率(酸性試験比率)
現金預金+未収金
当座比率(%)= ――――――――― ×100
流動負債
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当該団体 |
類似団体平均 |
全国平均 |
A 市 |
当座比率 |
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373.5 |
825.6 |
【指標の見方】
当座比率は、支払義務としての流動負債に対する支払手段としての当座資産(流動資産のうち、現金・預金、換金性の高い未収金等)の割合を示すものであり、短期債務に対する支払能力を表している。
当座比率により支払能力を見る場合、単に数値の大小にとどまらず、その要因が当座資産の大小にあるのか、流動負債の大小にあるのかを確かめることが大切である。
【全体の傾向】
当座比率については、給水人口規模が小さいほど概ね高くなっている。これは、給水人口規模が大きな事業に比べ当座資産が実額では少額であるものの、流動負債との比較で見れば大きくなっているからである。一方、給水人口規模が大きな事業は、当該比率が相対的に低くても、規模の経済(スケールメリット)により支払い能力が確保されていると考えられる。
【A市の場合】
A市の当座比率は、全国平均や類似団体平均(493.1%)を上回っており、当座の支払能力には問題ないものと考えられる。
当座比率グラフ
(2) 自己資本構成比率
自己資本金+剰余金
自己資本構成比率(%)= ―――――――――― ×100
負債・資本合計
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当該団体 |
類似団体平均 |
全国平均 |
A 市 |
自己資本構成比率 |
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63.7 |
63.1 |
【指標の見方】
財務状態の長期的な安全性の見方として、その事業の資本構成がどのようになっているかが重要である。自己資本構成比率は総資本(負債及び資本)に占める自己資本の割合であり、水道事業は施設の建設費の大部分を企業債(借入資本金)によって調達していることから、自己資本構成比率は低くなる傾向にあるが、事業経営の安定化を図るためには、自己資本の造成が必要である。また、自己資本は、負債と異なり原則として返済する必要のない資本であり、支払利息が発生しないことから、自己資本による建設投資を行う方が資本費を抑える結果となる。
なお、事業開始当初や拡張期は世代間の負担の公平の観点から、投資財源を料金よりも起債に頼ることが一般的であるが、投資が安定し投資金額も減少する維持更新の時期に入ると、投資財源を起債から料金へシフトすることによって長期的に安定した財政状態を保つことができることから、事業のライフサイクルに合わせて財源構成を検討する必要がある。
【全体の傾向】
自己資本構成比率については、基本的に給水人口規模による顕著な差はない状況となっている。
【A市の場合】
A市の自己資本構成比率は、全国平均と同程度であるが類似団体平均(69.9%)を下回っている。
A市の自己資本の構成は、類似団体と比べて内部利益(組入資本金+利益剰余金)の割合が高い(約5割、類似団体平均は約3割)、つまり料金を財源として資本造成をしている割合が高いことから、自立性が高く安定した財政状態であると言える。
自己資本構成比率グラフ
(3) 固定資産対長期資本比率
固定資産
固定資産対長期資本比率(%)= ――――――――――――― ×100
固定負債+資本金+剰余金
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当該団体 |
類似団体平均 |
全国平均 |
A 市 |
固定資産対長期資本比率 |
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92.4 |
89.7 |
【指標の見方】
前掲の自己資本構成比率と同様、事業の固定的・長期的安全性を見る指標である。固定資産対長期資本比率は、資金が長期的に拘束される固定資産が、どの程度返済期限のない自己資本や長期に活用可能な固定負債などの長期資本{自己資本(自己資本金+剰余金)及び長期借入金(借入資本金+固定負債)}によって調達されているかを示すものである。この比率は常に100%以下で、かつ、低いことが望ましい。100%を上回っている場合には、固定資産の一部が一時借入金等の流動負債によって調達されていることを示す。
一般に、最も安全性を阻害するのは流動負債で固定資産を取得することで、この場合、当該比率は著しく高くなり、当座比率も低下するなど不良債務発生の原因となる。なお、(1)の当座比率と関連づけて資金収支のバランスを分析すると良い。
【全体の傾向】
固定資産対長期資本比率については、給水人口規模の大きい事業が高い傾向にあり、当座比率と逆の傾向を示している。この傾向にも、規模の経済(スケールメリット)が働いているものと考えられる。
【A市の場合】
A市の固定資産対長期資本比率は全国平均より低く類似団体平均(89.5%)と同程度であるため平均的であるといえる。
固定資産対長期資本比率グラフ
【A市の場合】のまとめ
以上のことから、A市については次のように要約できる。
1.事業の概況については、普及率は全国平均を大きく上回っており、ほとんどの市民が公営水道の供給を受けている状況にある。また、需要構造については、平均有収水量は全国平均を下回っているものの、人口は増加し続けており、また家庭要の水量の占める割合が多いことから安定している。
2.施設の効率性については、現在は平均的であると言えるが、施設利用率、最大稼働率が年々減少していることから今後の水需要に注意しながら事業規模の適正を検討していく必要がある。
3.経営の効率性については、累積欠損金もなく、総収支比率、経常収支比率はいずれも100%を超えており、また、職員一人当たりの給水人口や給水収益も全国平均を上回っていることから効率的な経営ができている。
4.財務の状況については、当座比率は全国平均を上回っているため、短期債務に対する支払能力は確保されている。また、自己資本構成比率は全国平均と同程度であり、内部利益により自己資本造成ができていることから良好である。
平成20年度水道事業経営指標