4.財務の状況

 ここでは、財務の安全性(健全性)または設備投資の妥当性を見る指標として、以下の指標を用いる。

(1)当座比率(酸性試験比率)

            現金預金+未収金
  当座比率(%)= ――――――――― ×100
             流動負債
  当該団体 類似団体平均 全国平均 A  市
当座比率     419.9 832.4


【指標の見方】
 当座比率は、支払義務としての流動負債に対する支払手段としての当座資産(流動資産のうち、現金・預金、換金性の高い未収金等)の割合を示すものであり、短期債務に対する支払能力を表している。
 当座比率により支払能力を見る場合、単に数値の大小にとどまらず、その要因が当座資産の大小にあるのか、流動負債の大小にあるのかを確かめることが大切である。

【全体の傾向】
 当座比率については、給水人口規模が小さいほど概ね高くなっている。これは、給水人口規模が大きな事業に比べ当座資産が実額では少額であるものの、流動負債との比較で見れば大きくなっているからである。一方、給水人口規模が大きな事業は、当該比率が相対的に低くても、規模の経済(スケールメリット)により支払い能力が確保されていると考えられる。

【A市の場合】
 A市については、全国平均や類似団体平均(349.2%)と比較するとかなり高い水準にあり、当座の支払能力には問題ないものと考えられる。



(2)自己資本構成比率
                自己資本金+剰余金
  自己資本構成比率(%)= ―――――――――― ×100
                 負債・資本合計
  当該団体 類似団体平均 全国平均 A  市
自己資本構成比率     68.3 40.0


【指標の見方】
 財務状態の長期的な安全性の見方として、その事業の資本構成がどのようになっているかが重要である。自己資本構成比率は総資本(負債及び資本)に占める自己資本の割合であり、水道事業は施設の建設費の大部分を企業債(借入資本金)によって調達していることから、自己資本構成比率は低くなる傾向にあるが、事業経営の安定化を図るためには、自己資本の造成が必要である。また、自己資本は、負債と異なり原則として返済する必要のない資本であり、支払利息が発生しないことから、自己資本による建設投資を行う方が資本費を抑える結果となる。
 なお、事業開始当初や拡張期は世代間の負担の公平の観点から、投資財源を料金よりも起債に頼ることが一般的であるが、投資が安定し投資金額も減少する維持更新の時期に入ると、投資財源を起債から料金へシフトすることによって長期的に安定した財政状態を保つことができることから、事業のライフサイクルに合わせて財源構成を検討する必要がある。

【全体の傾向】
 自己資本構成比率については、基本的に給水人口規模による顕著な差はない状況となっている。

【A市の場合】
 A市の自己資本構成比率は、全国平均や類似団体平均(70.3%)を大きく下回っている。
 今後、累積欠損金を解消し、利益剰余金を原資とした資本造成に努めることが必要であると考えられる。



(3) 固定資産対長期資本比率
                      固定資産
  固定資産対長期資本比率(%)= ――――――――――――― ×100
                   固定負債+資本金+剰余金
  当該団体 類似団体平均 全国平均 A  市
固定資産対長期資本比率     91.3 97.0

【指標の見方】
 前掲の自己資本構成比率と同様、事業の固定的・長期的安全性を見る指標である。固定資産対長期資本比率は、資金が長期的に拘束される固定資産が、どの程度返済期限のない自己資本や長期に活用可能な固定負債などの長期資本{自己資本(自己資本金+剰余金)及び長期借入金(借入資本金+固定負債)}によって調達されているかを示すものである。この比率は常に100%以下で、かつ、低いことが望ましい。100%を上回っている場合には、固定資産の一部が一時借入金等の流動負債によって調達されていることを示す。
 一般に、最も安全性を阻害するのは流動負債で固定資産を取得することで、この場合、当該比率は著しく高くなり、当座比率も低下するなど不良債務発生の原因となる。なお、(1)の当座比率と関連づけて資金収支のバランスを分析すると良い。

【全体の傾向】
 固定資産対長期資本比率については、給水人口規模の大きい事業が高い傾向にあり、当座比率と逆の傾向を示している。この傾向にも、規模の経済(スケールメリット)が働いているものと考えられる。

【A市の場合】
 A市については、全国平均や類似団体平均(93.4%)を上回っているが、100%以下であり、前述の当座比率も高いことから、事業の安全性が確保されているといえる。




【A市の場合】のまとめ
 以上のことから、A市については次のように要約できる。

 A市の水道は、大正2年の給水開始以降、拡張や更新を繰り返して現在に至っている。平成24年度末において、末端給水事業の普及率は93.5%となって、ほとんどの住民が公営水道の恩恵を受けている。
 A市の水道会計は、建設改良費の増加による減価償却費の増・企業債利子の増により、一時期赤字経営となり、平成12年度以降は累積欠損金を計上する状況となった。このため、業務内容の見直しや職員数の削減等によるコストの減や、企業債の繰上償還による利子負担の軽減などの経営改善を行い、平成20年度に単年度黒字化を達成した。現在では総収支比率・経常収支比率はいずれも100%を超え、黒字経営を維持しており、累積欠損金を着実に解消している。
 有収率は上昇傾向にあるが、依然として全国平均や類似団体平均を下回っている状況であり、施設の効率性が低い水準にある。今後の人口や水需要の動向を踏まえつつ老朽施設の更新を行い、効率的な経営に努めていく必要がある。

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平成24年度水道事業経営指標