4.財務の状況

 ここでは、財務の安全性(健全性)または設備投資の妥当性を見る指標として、以下の指標を用いる。

(1) 当座比率(酸性試験比率)

              現金預金+(未収金−貸倒引当金)
    当座比率(%)= ―――――――――――――――― ×100
                   流動負債
当該団体 類似団体平均 全国平均 A  市
当座比率     250.9 232.7


【指標の見方】
 当座比率は、支払義務としての流動負債に対する支払手段としての当座資産(流動資産のうち、現金・預金、換金性の高い未収金等)の割合を示すものであり、短期債務に対する支払能力を表している。
 当座比率により支払能力を見る場合、単に数値の大小にとどまらず、その要因が当座資産の大小にあるのか、流動負債の大小にあるのかを確かめることが大切である。

【全体の傾向】
 当座比率については、給水人口規模が小さいほど概ね高くなっている。これは、給水人口規模が大きな事業に比べ当座資産が実額では少額であるものの、流動負債との比較で見れば大きくなっているからである。一方、給水人口規模が大きな事業は、当該比率が相対的に低くても、規模の経済(スケールメリット)により支払い能力が確保されていると考えられる。

【A市の場合】
 A市の平成29年度末の当座資産は約17億5千万円、流動負債が約7億5千万円で当座比率が232.7%と、全国平均を下回っているが、類似団体平均(216.4%)を上回っている。当座比率が100%を超えており、当座の支払能力には問題ないものと考えられる。



(2) 自己資本構成比率
                  資本金+剰余金+評価差額等+繰延収益
    自己資本構成比率(%)= ――――――――――――――――――― ×100
                       負債・資本合計
当該団体 類似団体平均 全国平均 A  市
自己資本構成比率     70.7 45.1


【指標の見方】
 財務状態の長期的な安全性の見方として、その事業の資本構成がどのようになっているかが重要である。自己資本構成比率は総資本(負債及び資本)に占める資本金等の割合であり、水道事業は施設の建設費の大部分を企業債によって調達していることから、自己資本構成比率は低くなる傾向にあるが、事業経営の安定化を図るためには、資本金等の造成が必要である。また、資本金等は、負債と異なり原則として返済する必要のない資本であり、支払利息が発生しないことから、資本金等による建設投資を行う方が資本費を抑える結果となる。
 なお、事業開始当初や拡張期は世代間の負担の公平の観点から、投資財源を料金よりも起債に頼ることが一般的であるが、投資が安定し投資金額も減少する維持更新の時期に入ると、投資財源を起債から料金へシフトすることによって長期的に安定した財政状態を保つことができることから、事業のライフサイクルに合わせて財源構成を検討する必要がある。

【全体の傾向】
 自己資本構成比率については、基本的に給水人口規模による顕著な差はない状況となっている。

【A市の場合】
 A市の自己資本構成比率は、全国平均、類似団体平均(64.5%)を大幅に下回っている。数値は近年減少傾向にあることから、利益剰余金を原資とした資本造成に努め、自立性が高く安定した財政状態を構築していくことが求められる。



(3) 固定資産対長期資本比率
                              固定資産
    固定資産対長期資本比率(%)= ―――――――――――――――――――――――― ×100
                     固定負債+資本金+剰余金+評価差額等+繰延収益
当該団体 類似団体平均 全国平均 A  市
固定資産対長期資本比率     92.6 89.3

【指標の見方】
 前掲の自己資本構成比率と同様、事業の固定的・長期的安全性を見る指標である。固定資産対長期資本比率は、資金が長期的に拘束される固定資産が、どの程度長期資本によって調達されているかを示すものである。この比率は常に100%以下で、かつ、低いことが望ましい。100%を上回っている場合には、固定資産の一部が一時借入金等の流動負債によって調達されていることを示す。
 一般に、最も安全性を阻害するのは流動負債で固定資産を取得することで、この場合、当該比率は著しく高くなり、当座比率も低下するなど不良債務発生の原因となる。なお、(1)の当座比率と関連づけて資金収支のバランスを分析すると良い。

【全体の傾向】
 固定資産対長期資本比率については、給水人口規模の大きい事業が高い傾向にあり、当座比率と逆の傾向を示している。この傾向にも、規模の経済(スケールメリット)が働いているものと考えられる。

【A市の場合】
 A市については、全国平均や類似団体平均(94.5%)を下回っており、かつ100%以下であり、前述の当座比率も高いことから、事業の安全性が確保されているといえる。




【A市の場合】のまとめ
 以上のことから、A市については次のように要約できる。

 A市の水道は、昭和6年の給水開始以降、拡張や更新を繰り返して現在に至っている。平成29年度末において、末端給水事業の普及率は99.2%となっており、ほとんどの住民が公営水道の恩恵を受けている。
 経営の状況としては、累積欠損金もなく、総収支比率、経常収支比率はいずれも100%を超え、黒字経営を維持している。また、収益的収入における繰入金比率は0.4%で、1ヶ月20m3当たり家庭用料金は、4,005円である。
 一方で、有形固定資産減価償却率や給水収益に対する減価償却費の割合をみると、全国平均や類似団体平均と比較して施設の更新が遅れている状況が類推される。今後、人口や水需要の動向を踏まえ、計画的な施設の改良・更新に努めていく必要があると言える。


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平成29年度水道事業経営指標