防衛庁調達業務等に関する行政監察
−調達実施本部−結果(要旨)

勧告先:防衛庁
勧告日:平成11年3月26日

監察の背景事情等

昨年4月から、防衛庁の調達業務、補給業務及び整備業務のうち、調達実施本部(調 本)及び陸上自衛隊が行っているものについて、主としてコストの低減の観点から、 幅広く調査を実施中
昨年秋、調本の元幹部が背任容疑で逮捕・起訴されるなど防衛調達における不祥事が発生し、調本の調達業務の適正化が喫緊の課題として浮上
そこで、調本の調達業務について、透明性、公正性の確保の観点から、最優先に調査し、制度上、手続上の改善方策を勧告
実地調査時期:平成10年10月〜11年3月

勧告事項

 調本における調達業務の適正化
(1)  調達契約における競争性の確保
(制度の概要等)
[中央調達] 調本が調達 (艦船・航空機等の主要なもの、大量に購入するもの等)
  [地方調達] :各自衛隊の部隊等が現地で調達 (食料、修理部品等)
中央調達の実績(平成9年度): 件数 9,880件 金額 1兆3,200 億円
うち随意契約  件数 3,450件(35.0%)、 金額 1兆1,277 億円(85.5%)
(調査結果の概要)
調査した一般競争契約88件のうち52件(6割)1社応札
この中には、仕様で特定製品名を例示しているため特定の企業の製品を指定しているとの誤解を与える可能性のあるもの等がみられる (X線テレビ装置等)
一般競争契約になじむ市販品を随意契約、又は指名競争契約により調達しているものあり (整備服等)
「長官指示」の随意契約の中には、建造設備の使用状況からみて受注可能な複数の企業があり、指名競争契約への移行の余地のあるものあり (掃海艇)
※長官指示: ライセンス国産するもの、防衛基盤の維持等について配慮を要する  もの等(航空機・艦船・誘導弾等)については、契約相手方を長官が指示して随意契約(平成9年度:23件)
  <勧告要旨>
  1. 特定の企業の製品を指定しているとの誤解を受ける可能性のあるものについては仕様における例示方法を改めるなど、競争契約の競争性を拡大すること。
  2. 市販品については、一般競争契約への移行を促進すること。
  3. 長官指示の随意契約について、複数の企業が製造能力を有する装備品等は原則として指名競争契約に移行する方向で検討すること
   
(2)  予定価格の算定の適正化
(制度の概要等)
[予定価格] :落札最高価格又は随意契約締結基準価格
予定価格算定基準訓令:予定価格は、計算価格を基準とし、計算は、原則として市場価格方式によること。ただし、防衛庁独自仕様のものは、市場価格が存在しないので、原価計算方式による。
 
  原価計算方式: 生産費用を構成要素(材料費、加工費等)ごとに積み上げて予定価格を算定
その際、企業の見積資料を査定して行うことが多い。
 
  ※原価計算
材料費等+加工費一般管理及び販売費利益等+輸送費等=予定価格

   (注1) 下線部は、間接的な経費であり、経費率を使用して計算 (経費率:企業の財務データ等を基に算定)
   (注2) 経費率は、加工費率(1作業時間単位ごとの標準賃金等)と総利益率(製造原価に乗ずる一定の比率)に分類される。
 

(調査結果の概要)
< 経費率の設定>
経費率については、訓令の根拠規定の内容が抽象的なため、裁量の余地が大きい  
  • 経費率は、訓令において、基本的に企業の有価証券報告書等を基に企業ごとに計算することとされ、更に様々な調整規定が設けられているが、どのような場合にどの程度の調整を行うかについての適用基準が示されていない。
    (例)同一事業分野の企業の総利益率を一番低い企業の率に合わせて調整している例、前年度からの激減又は激増を緩和するため一般管理及び販売費率を調整している例等
経費率の設定理由が決裁文書になく、事後検証不可能
<見積資料の査定>
各企業の見積資料の査定は、装備品等によって様々な方法が採られているが、各種方法の適用の在り方の統一的な基準が未確立。また、その適用理由を記録にとどめていないものあり
(例)材料費の査定に当たり、(1)既往費用に物価指数の変動率を適用するもの、(2)当該企業の過去の見積と実績の乖離率を適用するもの等 
<勧告要旨>
  1. 設定した経費率の妥当性を当事者以外の者が検証する仕組みを創設すること。
    経費率の設定に当たって客観性が確保されるよう算定訓令の見直し等を行うこと。
  2. 過去の査定方法の集積・分析を行うなど、客観的・統一的な査定方法の研究を行い、その確立を図ること。
 
 
不正事案の再発防止
(1)  企業に対する原価監査等の徹底・適正化
(制度の概要等)
[制度調査] 企業の原価元帳等のチェックを行う仕組み。過払い事案の発生を契機として、平成10年度から5年間で、契約実績のある 280社全社を調査する計画
[工数集計システム] :契約相手方の部門別保有総工数と予定価格算定業務から得られた計算工数を突き合わせて工数チェックに利用。平成8年度導入
 (注)工数:延べ作業時間(作業時間×要員数)
[常駐監査] :企業の工場等に職員が常駐して原価監査等を実施

(調査結果の概要)
[制度調査]は、専任体制がないこと等のため、10年度計画35社中、調査が終了したのは10社のみ。→14年度までに全社終了するのは厳しい状況
[工数集計システム]は、地方調達分について未整備 →企業の総工数と中央調達・地方調達を合わせた計算工数の突き合わせ等が不可能
[常駐監査]に係る費用(水道光熱費、電話料金等)は、区分されずに装備品等の経費に含まれている。
通信機器メーカー等4社の[過払い事案]に対する措置について、返納利息、取引停止処分内容が区々。当該過払い事案の発覚後5年以上経過し、防衛庁の再発防止対策の発表後1年以上経過しているが、統一的な措置基準が未策定
  <勧告要旨>
  1. 現行計画の制度調査について、実施体制の充実等により的確・迅速に実施すること。
    工数集計システムについて、地方調達分を入力した整備を図ること。
  2. 企業に常駐して原価監査等を行う場合は、費用負担の額を明確にすること。
  3. 過払い事案に対する措置基準を早期に策定し、公表すること。
 
(2)  調達業務に対する内部監視体制の強化
(制度の概要等)
会計監査、業務監査等:組織令により内局では[経理局]・[装備局]、調本内部 では[監査室]が所掌
調本の内部組織は、原価計算部門、契約部門等、部門ごとに課が分かれ、[相互牽制体制]が採られている。
防衛庁は、内局への監察機能の付与、調本の原価計算部門と契約部門への分離等の組織改革を実施する方向で検討中
(調査結果の概要)
[経理局]の監査は、会計監査訓令で調本が対象外とされている。
[装備局]の指導監督は、一般的な指導通達等にとどまっている
[監査室]の監査は、1課当たり年1日程度実地調査を実施している。個別案件に対する監査結果が記録されていないものあり
課レベルでは相互牽制の仕組みがあるが、これらの課を統括する[副本部長レベル]では、原価計算部門と契約部門が分かれておらず、事業分野別の分担となっており、調本全体として、相互牽制が不徹底
<勧告要旨>
  1. 内局の監査体制を整備・強化する等防衛庁全体として調達業務に対する監視機能を強化すること。
  2. 当面、調本の副本部長の分担を原価計算、契約等の機能別に改めた上、調本を原価計算部門と契約部門とに分離する等の機構改革を実施し、調達機構における相互牽制を徹底すること。