日本道路公団の財務調査結果の概要

通知先: 建設省
通知日: 平成11年4月30日

財務の構造

事業の概要
  1.  公団は有料道路を建設・管理する法人として、昭和31年4月に設立
    ○ 高速道路
    1. 国が建設路線を決定(国土開発幹線自動車道建設法による建設予定路線= 11,520‡q)
      建設大臣から公団へ事業の「施行命令」(7,944‡q)
    2. 建設費の回収の仕組みは「プール制」(道路網全体で償還/40年償還)
    ○一般有料道路
    1. 公団が建設路線を決定/建設大臣の事業許可を受け建設。
    2. 「個別採算制」により建設費を回収/料金は個別の道路ごとに設定/30年(40年)で償還
  2. 建設のための財源のほとんどを「道路債券」により調達
財務の概要
  1. 資産総額は30兆8,854億円(道路関係法人の中で最大/本四公団の10倍、首都高公団の5倍)
  2. 料金収入で金利と管理費を賄い、元本の償還が進んでいる → キャッシュフローの現状は健全
道路建設費等の償還状況
(1) 高速道路
 
  1. 償還計画とその改定状況
    1. 償還計画(建設費等の償還の見通し)は、新たな施行命令が出されるたびに見直す仕組み
    2. 計画は「交通量推計」を基礎とした収入見通しと費用見通しによって策定
    償還計画上の未償還残高の推移
  2. 償還状況
      「高速道路」全体の収支率は57 (=100円の収入をあげるのに要する費用が57円)
     → 償還は現状では順調
 
収支率の推移
年度 H.3’ 4’ 5’ 6’ 7’ 8’
収支率 70 70 73 65 60 57
(2) 一般有料道路
   営業中の44道路のうち、25道路が収支率100を超える状況(収入<費用)

経営内容とその課題

高速道路事業
(1) 路線別の経営状況
 路線別の収支状況には格差。 また、新規路線ほど収支率が悪い傾向
  1.  路線ごとの収支状況には格差/また営業中35路線のうち21路線の収支差率がマイナス
    高速道路の路線別収支差率
  2.  供用開始時期が新しい路線ほど収支率が悪い傾向
    供用開始年次別路線別収支率
(2) 償還計画の構造的な問題点
交通量の推計に基づき収入見通しを立てる「償還計画」は、実績との乖離の発生が不可避的
収入が見込みを下回った場合、管理費の抑制等の経営努力だけで補うのは相当に困難
  1.  交通量の見通しと実績には14%強の乖離(H8)
  2.  償還計画は短期間で改定(2〜5年)
     → 順調に達成されているか否かが意識されにくい
  3.  償還計画は、交通量の継続的な伸び等を見込み、返済額は後年度ほど多くなるように設定
交通量の将来推計と実績の推移
(3) 償還をめぐる状況
新規路線の建設費は増嵩 / 資産効率(道路資産が料金収入を獲得する効率)は次第に低下
  1.  昭和60年代の建設コストは昭和40年代の約4.7倍
  2.  通行台数は増加←→1台当たり利用距離は減少/総利用量の伸びと道路資産額の伸びが接近
    資産効率の推移  → 「資産効率」は、料金値上げにかかわらず、下がり気味の傾向

 (ポイント)
資産効率が低下しており、高速道路全体の収支基盤へ与える影響が懸念される
(4) プール制
高速道路資産に見合った料金収入の確保の上で、今のところ、有効に機能
採算の良い路線が悪い路線の欠損を補っている(内部補助効果)
  1. 現状では、道路資産の伸び(H8の対S62比で2.06倍)に見合った料金収入(同2.04倍)を確保
  2. これは、収支率の良い東名(14)と中央・名神(16)が高速道路全体の収支率を支えているため
  3. しかし、これら2路線から得られる収益には自ずと限界
    現に、2路線の収支差の累計と高速道路の資産額のギャップは拡大の傾向。
    東名・名神の収支差累計と高速道路資産価額の伸びの状況
 (ポイント)
今後、採算性の低い路線について、新たに償還の対象への編入が進むこととなれば、「高速道路事業」の経営に及ぼす影響が懸念される
一般有料道路事業
(1) 無料開放道路の償還の実態
個別採算制の下、償還期間が満了し無料開放された道路の5割強は、自力での償還ができず

無料開放済み76道路のうち40道路は、自力での償還ができず「損失補てん引当金」を充当

補てんなし
自力償還はしたが、
決算処理上、精算的
費用を補てんしたもの
自力での償還ができなかったもの(40)
元本の一部が不足したもの 元本全額が不足したもの
道路数
32
15
25
 ※「損失補てん引当金」は、各道路の料金収入の一部を積み立て、 開放する道路の未償還額に充当する制度であり、各道路の収支のリスク管理等が適正に行われるならば有効な仕組み
(2) 償還の現状と見通し
営業中の道路には、償還計画の達成が困難と考えられるものが少なくない
  1. 営業中の46道路中30道路が回収率マイナス(投下資金の償還が進まず、累積欠損が発生)
    営業中道路の償還残期間と回収率の関係
  2. 30道路分の償還対象総額は2兆2,655億円 ←→ 「損失補てん引当金」の残高は 2,314億円
  3. 公団でも、一定条件下で、平成33年度に34道路につき引当金が6,000億円不足すると試算
 (ポイント)
損失補てん引当金制度を将来にわたり、いかに的確に機能させていくかが大きな課題
(3) 東京湾横断道路事業
東京湾横断道路の開通により、一般有料道路事業のリスクの構造が大きく変化
  1.  平成9年から、東京湾横断道路の管理運営を、一般有料道路事業の一環として公団が担当
  2.  東京湾横断道路の償還対象総額(1兆4,058億円)は、一般有料道路のそれの約4割と大規模
  3.  利用実績は、償還計画で見込んでいる交通量の5割程度 → 収支見通しは楽観を許さず
 (ポイント)
「一般有料道路事業」の経営の健全性確保のため、東京湾横断道路の的確な収支管理が不可欠