国立大学附属病院に関する行政監察結果(要旨)

勧告日: 平成11年5月18日
勧告先: 文部省

〔監察の背景事情等〕

国立大学附属病院:42大学に60病院(国立大学附属病院の機能:教育、研究、診療)
歳入歳出規模:7,405億円(平成9年度決算)、一般会計からの受入額は、平成5年度 1,467億円 → 9年度 1,554億円(繰入率は21.0%)
施設整備等のための借入金の残高:年々増大しており、平成9年度末で 8,853億円
収支率(病院収入÷病院支出×100。ただし施設整備費等は除く。):平均87.5%(平成9年度)
経営改善を推進するための経営管理の充実、経営の合理化・効率化等が課題
 本監察は、このような状況を踏まえ、国立大学附属病院の経営管理、医療関係業務、患者サービス等の実施状況を調査し、関係行政の改善に資するため実施したもの
調査対象機関: 文部省、厚生省、国立大学(20)(医学部附属病院(20)、歯学部附属病院(4) 、研究所附属病院(3) )、公・私立大学(11)(市立大学附属病院(1) 、私立大学附属病院(10))、都道府県(20)、関係団体等

〔主な勧告事項〕

経営管理の推進
(1)  経営改善の推進
  1.  各病院は経営意識が低く、具体的な経営改善計画を策定している病院はなし
     文部省は、各病院の経営実態について把握・分析しておらず、経営改善指導も未実施
  2.  病院の財務状況や経営管理の基礎となる各種数値を的確に把握・分析する仕組みが未整備
    ・ 文部省及び国立大学附属病院は、損益計算書、貸借対照表等の財務諸表を未作成
      一方、国立病院及び私立大学附属病院では、財務諸表を作成し財務状況を把握
    ・ 国立病院及び私立大学附属病院では経営分析のための経営管理指標を広範囲に設定
      一方、文部省は、統一的な経営管理指標を未設定。また、国立大学附属病院では、経営管理指標の設定が不十分
  3.  国立大学附属病院は、教育、研究及び医療に係る経費について一体として処理し、収支の差については、経費の性格にかかわらず一般会計から受入れ。支出内容の分析を行い、一般病院と同様に、一般医療に係る支出については、診療収入の範囲で賄う必要あり
  4.  経営状況等についての外部評価の実績があるものは1病院のみ
 

<勧告要旨>

  1.  国立大学附属病院に対して、経営改善計画を早急に策定するように指導するとともに、病院の経営実態の把握・分析を行い個別に病院の経営改善指導を行うこと
  2.  財務状況の的確な把握を行う上で必要な財務諸表及び経営改善を行う上で必要な経営管理指標を早急に設定するとともに、国立大学附属病院に対して、これらの的確な作成に努めるよう指導すること
  3.  国立大学附属病院の支出については、経営効率の観点から分析に努め、一般医療に係る支出については、診療収入の範囲で賄うという考え方に沿って一層の経営改善に努めること
  4.  国立大学附属病院に対して、経営面を十分考慮した病院の管理運営等について外部評価を行うよう指導すること
 
(2)

 経営管理体制の整備

 経営管理のための病院長の補佐機能や病院経営分析専門職員の活用は不十分。また、経営改善委員会等が未設置の病院、設置されている委員会が形骸化しているものあり
 ・ 病院長補佐等を設置している病院は27病院中6病院のみ。また、設置されていても経営管理面での機能の発揮が不十分
 ・ 病院経営分析専門職員の中には、本来業務に従事していない者等あり(19病院中12病院)
 ・ 経営改善委員会等を未設置の病院が8病院あり。また、設置されていても未開催であるなど形骸化しているものあり

<勧告要旨>

 国立大学附属病院に対して、1.経営管理面で病院長を補佐する機能の充実方策の検討、2.病院経営分析専門職員の本来業務への従事、3.経営改善委員会等を設置していない病院における委員会の設置及び設置している委員会の活性化を図るよう指導すること
(3)  分院の見直し
 3医学部附属病院分院のうち2分院は、温泉治療を中心に運営。しかし、設置当初の目的、意義が薄れている
 ・  講義科目としての温泉医学の廃止等教育研究環境の変化、民間病院の充実が図られてきたことによる地域医療における分院の役割が減少
 ・  収支率は、約60パーセントから70パーセントと低率
 ・ 残る1分院は、本院と分院の統合を推進中

<勧告要旨>

 国立大学医学部附属病院の分院については、早急に廃止すること
   
経営の合理化・効率化の推進
(1)  医療従事者の適正配置
  1.  医学部附属病院(20)の中には、看護助手を多数配置している病院があり、外部委託の推進による合理化が可能
     ・ 看護助手(行二職員)は全体的に減少傾向。しかし、病床数が同程度の病院と比較してみると、配置数に数倍の差(中には21倍もの差(5人:105人))あり
     ・ 看護助手を多数配置している病院では、外部委託になじむ業務を看護助手が実施
  2.  医学部附属病院(20)をみると、臨床検査技師の配置に大きな不均衡があり、中には各診療科に個別に配置しているなど合理化が可能
     ・ 検査件数が同程度の病院で比較してみると、配置数に2倍弱の差がある病院あり
     ・ 各診療科に個別に臨床検査技師を配置している病院あり(中には10診療科に14人配置)
  3.  医学部附属病院(20)の中には、医薬分業を推進し院外処方せんの発行率を高めることや機械化を図ることにより、外来における調剤業務等に係る薬剤師の合理化が可能な病院あり

<勧告要旨>

 国立大学附属病院に対して、外部委託の推進、配置の見直し等により、看護助手、臨床検査技師及び薬剤師の合理化を図るよう指導すること
(2)  業務の外部委託の推進とその適正化

 医学部附属病院(27)の中には、患者給食、医事事務、窓口事務の外部委託が不十分な病院あり。
 また、一般競争入札になじむ業務を随意契約としている病院あり
 ・ 外部委託を未実施の病院:患者給食10病院、医事事務4病院、窓口事務11病院
 ・ 患者給食の外部委託が未実施の病院の中には、行二職員の調理師を補充採用している病院あり(平成5年度〜9年度で6病院14人)
 ・ 洗濯、駐車場管理等一般競争入札になじむ業務を随意契約としている病院あり

<勧告要旨>

 国立大学附属病院に対して、更に外部委託を推進するとともに、外部委託の実施に当たって随意契約としている業務の一般競争入札の適用の拡大を推進するよう指導すること
(3)  病院運営の改善による収入確保
  1.  医学部附属病院(20)の平均病床利用率は、私立大学附属病院の平均と比較し低く、病床利用率が平均を下回っている病院の中には、入院待機者が多数いるにもかかわらず、病床配置の見直しを行っていない病院や、診療科間の病床の共通利用を行っていない病院あり
     ・ 調査した医学部附属病院の平均病床利用率は85.7%。一方、調査した私立大学附属病院の平均は91.1%
     ・ 入院待機者数は平均 641人(最高 1,190人)
  2.  医学部附属病院(20)の保険診療報酬請求の査定率(診療報酬請求額に占める減額の割合)は、私立大学附属病院と比較し高く、診療報酬請求事務に改善の余地あり
     ・ 調査した国立大学附属病院の平均査定率は0.92%、中には2.32%の病院もあり。一方、調査した私立大学附属病院の平均は0.53%
     ・ 査定率が高い病院の中には、病名の記載漏れ等により減額査定されている病院、医師等への注意喚起や再審査請求の指導が不十分な病院あり
  3.  医学部附属病院(20)の中には、診療報酬上の紹介率(初診患者数に占める紹介患者数の割合)が低い病院あり
     ・ 紹介率が高くなるに応じて診療報酬の加算が増大
     ・ 紹介率が52.6%の病院がある一方、中には19.7%と低い病院あり

<勧告要旨>

 国立大学附属病院に対して、1.病床配置の見直し等により病床の効率的な利用を図る、2.診療報酬請求前の点検の充実等による診療報酬請求事務のより一層適切な実施に努める、3.地域の医療機関等との一層の連携により診療報酬上の紹介率の向上に努めることについて指導すること
   
 患者サービス等の充実
  1.  医学部附属病院・の中には、再診患者の予約制が一部診療科のみの病院、時間指定なしの病院あり。また、初診患者の予約制は一部病院のみ。診療待ち時間の短縮化が不十分
     ・ 再診患者の予約制はすべての病院で導入されているが、中には一部診療科のみの予約制が6病院、コンピュータを活用した予約管理システムを導入しておらず、時間指定なしの予約制が4病院あり
     ・ 初診患者の予約制を実施しているのは4病院のみ
  2. ・ 医学部附属病院(20)の中には、ボランティアを受け入れていないもの、また、ボランティアに対して安全対策(事故防止・院内感染防止)の周知徹底等が不十分な病院あり
     ・ ボランティア活用例:車いす使用患者等の介助、小児患者の保育援助等
     ・ 20病院のうち2病院はボランティア受入れ未実施。また、活動上の注意事項の周知が口頭説明にとどまっている病院(3病院)や健康診断未実施の病院(2病院)あり

<勧告要旨>

 国立大学附属病院に対して、1.再診患者について、全診療科において時間を指定した予約制を導入すること及び初診患者に対する予約制の導入について検討すること、2.ボランティアを更に積極的に受け入れるとともに、ボランティア活動上の安全対策等を徹底することについて指導すること

〔その他の勧告事項〕

  1.  医薬分業の推進
  2.  契約事務担当職員の配置の適正化
  3.  病院経営に係る事務手続の簡素化等
    1.  診療等に関する諸料金規程の改正手続きの簡素化
    2.  過誤納金の還付処理の迅速化・簡素化
    3.  収納業務の合理化
  4.  インフォームド・コンセントの充実(カルテの開示等)