行政手続の公正及び透明性の確保に関する調査結果の概要

勧告日: 平成11年6月18日
勧告先: 総理府、公正取引委員会、国家公安委員会(警察庁)、総務庁、北海道開発庁、防衛庁、経済企画庁、科学技術庁、環境庁、沖縄開発庁、国土庁、法務省、外務省、大蔵省、文部省、厚生省、農林水産省、通商産業省、運輸省、郵政省、労働省、建設省、自治省
実施時期: 平成9年12月〜11年6月

〔調査の背景事情等〕

 行政手続法(平成5年法律第88号。以下「手続法」という。)は、我が国の行政運営における公正の確保及び透明性の向上を図るため、行政庁における処分、行政指導及び届出に関する手続に関し、共通する事項を定める法律として制定(平成6年10月1日に施行)
 同法の規定、趣旨に沿った許認可等の事務の適正な運営等が課題
 この調査は、手続法の推進体制等の充実、審査基準の設定・公表等の推進及び行政指導等に係る手続法の趣旨の徹底を図る観点から、各省庁等における手続法の施行及び運用状況を調査
 調査対象機関: 関係省庁(本省庁23、地方支分部局78)、都道府県(19)、市(331)等
 
調査対象機関 都道府県
本省庁 地方支分部局
勧告事項1関係
23
78
19
331
(うち289は書面による調査)
451
勧告事項2及び3関係
13
67
19
42
141

〔主な勧告事項〕

行政手続法の施行及び運用に係る推進体制、取組の充実
 行政機関における手続法の的確な施行及び運用を推進するための組織的な取組が不十分
  •  本省庁においては手続法の推進部局が設置済みとなっているが、地方支分部局では手続法の推進部局を設置していない機関がある(78機関のうち19機関)。
     なお、地方公共団体も含め、手続法の推進部局を設置している場合においても、行政機関の大半は、審査基準等の設定状況を形式的に把握しているにとどまっているなど、積極的な取組は行っていない。
  •  行政機関の大半は手続法に関する職員研修を未実施(実地調査対象162機関中143機関) 
 手続法の施行状況調査(注)の非対象市においては、手続法への対応が十分とはいえない状況
  •  施行状況調査非対象市(312)における審査基準、標準処理期間及び処分基準の平均設定率 (65.7%、45.9%、57.9%)は、施行状況調査対象市(19)の平均設定率(79.4%、51.1%、67.1%)に比べ低い(13.7ポイント、5.2ポイント、9.2ポイント)。
    (注) 総務庁(行政管理局)が、国(本省庁、一部の地方支分部局)、都道府県、政令指定都市及び県庁所在市を対象に、審査基準等の設定状況等について平成7年度から9年度にかけて毎年調査を実施
 事業者等の大半は手続法の趣旨を承知していない状況(聞き取り調査を行った453事業者等のうち374事業者等)

<勧告要旨>

 総務庁は、手続法の的確な施行と運用を図るため、次の措置を講ずること。
 各省庁、地方公共団体の手続法の推進部局における審査基準等の設定及び見直し、職員研修等を通じた手続法の趣旨の徹底の推進、国の地方支分部局における手続法の推進部局の明確化を各省庁に対して要請(地方公共団体については自治省に対して要請)
 手続法に関する施行状況調査の充実
 国民に対し手続法の趣旨を周知するための活動を強化
   
審査基準等の設定・公表及び見直しの推進
(1)  審査基準(60法律の申請に対する処分166事項について1,369件(注)を調査)
 (注) 件数は、事項数に調査対象行政機関数を乗じたものである。(2)及び(3)についても同様
 法令所管省庁が示している「申請に対する処分に係る審査基準の設定に関する指針」の中には、基準設定の要否や設定すべき基準の内容が不明確なものがある(6法律14事項)。
 法令所管省庁と処分を行う行政庁とで審査基準の設定の要否の判断が異なる状況がみられる。
  •  審査基準の設定が求められ法令所管省庁から基準設定の指針が示されている事項について、行政庁によっては設定不要とし、未設定となっているもの(18法律39事項81件)
  •  法令所管省庁では基準の設定を不要としているが、行政庁によっては法令所管省庁の通達等に基づき基準を設定しているもの(14法律27事項104件)や、通達等を審査に際して活用しているもの(10法律18事項41件)。これらの事項について設定不要の判断を見直す余地
 設定されている審査基準の内容が不十分又は不適切なもの
  •  設定内容が法令の規定のみ(12法律26事項47件)
  •  行政指導指針や利害関係者の同意の有無等不適切な事項を審査基準として設定(6法律10事項11件)
 申請の提出先機関等において審査基準の公表措置が講じられていないもの(6法律12事項16件)
   
(2)  標準処理期間(調査対象法律、処分、件数は(1)の審査基準と同じ。)
 法令所管省庁が「申請に対する処分に係る標準処理期間の設定指針」を示し、設定を指導している事項であっても、行政庁によっては標準処理期間が未設定(5法律6事項12件)
 標準処理期間の設定内容が処理の実態に即したものとなっておらず、申請者にとっての目安となっていないもの
  •  実際の処理期間よりもかなり長い標準処理期間を設定(9法律12事項53件)
  •  同一の許認可等の処分であっても、権限委任等により事務処理の態様が異なるが、一律の標準処理期間を設定(3法律4事項14件)
 申請の提出先機関において標準処理期間の公表措置が講じられていないもの(5法律8事項12件)

 

(3)  処分基準(61法律の不利益処分621事項について3,834件を調査)
 法令所管省庁が示している「不利益処分に係る処分基準の設定に関する指針」の中には、基準設定の要否や設定すべき基準の内容が不明確なものがある(6法律43事項)。
 法令所管省庁と処分を行う行政庁とで処分基準の設定の要否の判断が異なる状況がみられる。
  •  法令所管省庁が基準設定の指針を示すなど、設定が可能とみられる事項について、行政庁によっては設定不要とし、未設定となっているもの(20法律71事項171件)
  •  法令所管省庁では基準の設定を不要としているが、行政庁によっては法令所管省庁の通達等に基づき基準を設定しているもの(19法律78事項235件)や、通達等を処分の判断に活用しているもの(9法律38事項58件)。これらの事項について設定不要の判断を見直す余地
 設定内容が法令の規定のみ(9法律23事項35件)
 同一処分であっても、処分基準の公表の有無、公表の範囲が行政庁により異なるもの(10法律46事項)

<勧告要旨>

 各省庁は、審査基準、標準処理期間及び処分基準について、次により、設定及び見直しを図るとともに、法令所管省庁として、現行の指針の見直しも含め、的確な内容の指針を提示することにより、関係行政庁を指導していくこと。
  • 審査基準等の設定の推進(行政庁ごとに設定することの徹底、処分等の実態を踏まえ設定)
  • 審査基準等の内容の見直し(基準の具体化・明確化、標準処理期間の短期化等)
  • 審査基準等の公表の推進(審査基準及び標準処理期間の公表の徹底、処分基準を非公表としているものの再検討)
   
 行政手続法の趣旨の徹底
(1)  申請に対する処分
 申請内容を事前審査し、許認可等の要件を満たす見込みのある申請に限って正式に受け付けるなど、審査開始義務に反するような取扱いが行われているもの(13法律27事項延べ34機関における事例)
 申請が形式上の要件に適合しない場合の補正指示について、申請者に補正期限を示さず、補正等がなされない場合、拒否処分を行わずそのまま放置しているものや、申請書を返戻しているもの(2法律3事項延べ5機関における事例)
 関係する他の行政機関との連絡調整が不十分であることや経由機関における事務の遅延により事務処理が大幅に長期化しているもの(7法律7事項延べ7機関における事例)
 許認可等の有効期間の更新について、本来的には有効期間の満了日までに処理されることが望ましいが期日までの処理がなされていないもの(2法律2事項2機関における事例)
 申請に対する拒否処分の理由の提示について、拒否処分に該当する事実を示していないなど不十分なもの(2法律2事項8機関における事例)
   
(2)  申請に関連する行政指導
 申請に先立ち、その内容についてすべての申請者に対して事前協議等を行うことを求めているものや、許認可等の更新に際して念書徴収により次回更新時の申請範囲を制限しているもの(2法律2事項2機関における事例)
 許認可等の要件を満たさない場合に拒否処分を行わず、申請の取下げ指導又は申請書の返戻で対応しているもの(4法律6事項延べ7機関における事例)
 法令上申請の要件とされていない近隣利害関係者の同意書の提出等を行わせているもの(11法律12事項延べ42機関における事例)

 

(3)  不利益処分
 不利益処分を行うに際して、その名あて人に対し事前の意見陳述手続を執ることが必要な場合において、手続が執られていないもの(3法律4事項5機関における事例)
 意見陳述手続を執ることを要しない事案かどうか個別に判断を要する不利益処分について、一律に手続を執っていないもの(1法律1事項4機関における事例)
 聴聞報告書に聴聞主宰者の意見、判断を記載しておらず、聴聞の運営が法の趣旨に沿わないものとなっているもの(1法律2事項延べ2機関における事例)
 不利益処分の理由の提示について、処分の原因となる事実を示していないなど、不十分なもの(6法律7事項延べ10機関における事例)

<勧告要旨>

 各省庁は、手続法に沿った事務処理の推進を図るため、次の点に留意しつつ、同法の趣旨を徹底するとともに、法令所管省庁として、関係行政庁を適切に指導していくこと。
○申請に対する処分
  • 審査開始義務の遵守
  • 申請に対する的確な応答
  • 処理経過の明確化
  • 他の行政機関との連絡調整その他事務処理の迅速化
  • 拒否処分の理由の提示の徹底
○申請に関連する行政指導
  • 行政指導の任意性の徹底
  • 申請の取下げ指導の自粛
  • 法令上許認可等の申請の要件とされていない事項に関する行政指導の自粛
○不利益処分
  • 意見陳述手続の適正化
  • 不利益処分の理由の提示の徹底