事業主が雇用保険被保険者資格取得届の提出を失念したため不利益を被った被保険者に係る失業等給付の基本手当の所定給付日数の算定(概要)

《行政苦情救済推進会議の検討結果を踏まえたあっせん》

あっせん日:平成11年7月13日
あっせん先:労働省

 総務庁行政監察局は、下記の行政相談を受け、行政苦情救済推進会議(座長:茂串 俊)に諮り、その意見を踏まえて、平成11年7月13日、労働省に対し、改善を図るようあっせん。
 行政相談の申出要旨は、「十数年間勤務したX事業所を平成3年6月に退職し、その翌月から10年3月まで6年余りY事業所に勤めたが、Y事業所では退職時まで申出人の雇用保険被保険者資格取得届を公共職業安定所に提出することを失念していたため、失業等給付の基本手当の受給に当たっての被保険者期間は、X事業所からの通算ができないばかりでなく、Y事業所における被保険者期間についても資格取得届に基づく確認を受けた日から2年前までしか認められなった。X事業所勤務を含め通算して二十数年も雇用保険料を納付してきており、本来ならば失業等給付の基本手当を210日分受給できる資格があるにもかかわらず、Y事業所の手続ミスのために90日分しか受給できないのは納得できない。」というもの。
 当庁のあっせん内容は、行政苦情救済推進会議の意見(別添要旨参照)を踏まえ、
 雇用保険法における被保険者期間や所定給付日数の算定基礎期間の算定に当たり被保険者となったことの確認があった日の2年前の日前における被保険者であった期間を含めないとする規定の改正及び当面の措置としての本規定の運用の改善を図る余地について検討すること、
 本件申出のような事案の発生を予防するため、次の事項について検討すること、
  1.  雇用保険料を納付している被保険者について資格取得届に基づく資格取得の確認の有無を保険者である国が把握する仕組みや公共職業安定所の保管する被保険者名簿における被保険者の脱漏の有無を事業主に確認させる仕組みを導入すること
  2.  事業主に対する資格取得届の提出励行の指導並びに被保険者に対する事業主を通じた被保険者証の交付制度及び被保険者から公共職業安定所に対する確認請求制度の存在の被保険者に対する周知徹底を図ること
を求めるもの。

資 料
1 雇用保険制度の概要
(1)  被保険者
 雇用保険法では、労働者が雇用される事業は、業種や事業規模を問わず、雇用保険の適用事業とすることとし、また、被保険者とは、適用事業に雇用される労働者(65歳に達した日以降に雇用される者、季節的事業に雇用される者等を除く。)とされている。(法第4条第1項、第5条第1項、第6条)
 
(2)  雇用保険被保険者資格取得届
 雇用保険法は、事業主に対し労働者を雇用した月の翌月10日までに公共職業安定所への雇用保険被保険者資格取得届の提出を義務付けており、この届出に基づき被保険者となったことについて公共職業安定所の確認を受けなければ失業等給付の算定に当たり被保険者となっていないとみなされる。事業主がこの届出を行わなかった場合には、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処するとされており、また、被保険者は、いつでも被保険者であることの確認を公共職業安定所に請求することができるとされている。(法第7条、第8条、第9条、第83条第1号)
 
(3)  公共職業安定所による被保険者の確認
 事業主からの届出に基づき、公共職業安定所は、労働者名簿、出勤簿、賃金台帳、雇用契約書、辞令等により被保険者であることの確認を行い、事業主に対し確認通知書が交付される。確認通知書は、事業主用通知部分と被保険者用通知部分から構成されており、被保険者には事業主を通じて渡される。被保険者用の通知書は、雇用保険の被保険者証を兼ねており、被保険者番号が付与される。なお、被保険者は、転職等の異動があっても引き続き同一番号を使用することとされており、新たな事業所に勤めた場合には、事業主を通じて公共職業安定所に被保険者証を提出しなければならない。(法第9条)
資格取得届と確認
 
(4)  公共職業安定所の確認と被保険者期間及び基本手当の所定給付日数との関係等
 被保険者期間を計算する場合、確認のあった日の2年前の日前における被保険者であった期間は含めないこととされており、また、基本手当の所定給付日数を計算する場合においても、2年前の日前の期間はその算定基礎期間に含めないこととされている。(法第14条第3項第2号、第22条第7項)
 また、被保険者が複数の事業所に勤めた場合の被保険者であった期間について、前に勤めた事業所の被保険者であった期間と次に勤めた事業所の被保険者であった期間との間が1年を超えず、かつ、その間に失業等給付を受給していない場合には、両事業所の被保険者であった期間を通算するものとされている。(法第22条第6項)
被保険者期間と基本手当の給付日数の計算
 
(5)  雇用保険料
 雇用保険料は、事業主が労働保険概算保険料申告書に1か月平均雇用保険被保険者数の見込数を記載し、当該被保険者に支払う賃金の総額に雇用保険料率(原則1,000 分の14.5、現在暫定的に1,000 分の11.5)を乗じて算出した概算保険料額を年度当初に国庫に納付(3回まで分納可能)することとされ、年度末に精算することとされている。(労働保険の保険料の徴収等に関する法律第10条、第11条、第12条、第15条、第19条)
 なお、雇用保険料を徴収し、又はその還付を受ける権利は2年間で時効が成立することとされている。(労働保険の保険料の徴収等に関する法律第41条)
 
(6)  失業給付の基本手当の所定給付日数
 一般被保険者に係る失業等給付の基本手当の所定給付日数は、年齢等による就職の難易度及び被保険者として雇用されていた期間に応じて次表のとおり定められている。

  被保険者であった期間
年齢
1年以上
5年未満
5年以上
10年未満
10年以上
20年未満
20年以上
30歳未満 90日 90日 180日 −−
30歳以上45歳未満 90日 180日 210日 210日
45歳以上60歳未満 180日 210日 240日 300日
60歳以上65歳未満 240日 300日 300日 300日
 
2 雇用保険の適用状況 
(1)  適用事業数  約 200万 (平成10年10月現在)
(2)  被保険者数  約3430万人(資格取得届で確認された数、平成10年10月現在)
(3)  一般被保険者に係る失業給付の推移

(注)  被保険者数は年度末の数字、受給者実人員及び平均受給月額は年度間における月平均である。
 10年度は予算である。
年 度 被保険者数(千人) 受給者実人員(千人) 平均受給月額(円)


10
33,771
33,849
35,331
831
884
936
147,314
149,560
151,765

参 考

行政苦情救済推進会議における意見要旨

 雇用保険は本来保険者である国が責任をもって運営すべきであるにもかかわらず、公共職業安定所の確認のあった日の2年前の日前の被保険者期間を無効にし、事業主が資格取得届の提出を失念した責任をすべて被保険者と事業主(損害賠償)に負わせるという基本的な立法態度は問題であり、法改正が必要である。
 
 法改正をすることが一番好ましいと思うが、これには相当のエネルギーが必要である。本件の場合、前の事業所ではきちんと被保険者の確認を受けているわけであり、その被保険者期間を認めないというのは、常識的にみてもひどい感じがする。複数の事業所に勤務した場合、前の事業所を退職し次の事業所に勤めた日までの期間が1年未満であり、そこでの保険料納付等が客観的かつ明白に証明される場合には、前に勤めた被保険者としての確認がなされた年限と、次に勤めた事業所で確認のあった日前の2年とを通算して算定基礎期間にするということについて労働省は検討の余地があるのではないか。
 
 労働省(保険者)がこれまで被保険者一人ひとりの資格取得と保険料納付の関係をチェックしてこなかったことは保険者としての責任を果していないと考えられるので、これをチェックする仕組みを早急に導入する必要がある。また、被保険者の正当な権利の保護を図るため、事業主や被保険者に対し現行の制度や仕組みについて周知徹底を図る必要がある。