高速道路に関する行政監察結果
−都市高速道路を中心として−(要旨)

 

勧告日:平成11年8月3日
勧告先:建設省
実地調査時期:平成9年8月〜11月

監察の背景事情等
 首都高速道路公団(以下「首都公団」という。)及び阪神高速道路公団(以下「阪神公団」という。)による都市高速道路事業は、地下構造の採用等により建設費が増加する一方で、通行台数の伸びは鈍化しており、採算の確保が課題
 このような事業環境の現状にかんがみ、両公団の経営及び事業運営の状況を調査
 調査対象機関:建設省、首都高速道路公団、阪神高速道路公団

主な勧告事項
1 都市高速道路事業の透明性の確保
(1)

 経営責任の明確化及び基本計画指示手続の透明性の確保

  •  都市高速道路は、財政投融資資金等で建設し、料金収入で償還する有料道路制度により整備。両公団は、事業主体として経営責任を負うことになる。
  •  建設費の増加に伴い要償還額が増大する一方、通行台数の伸びは事業の初期段階に比べ次第に鈍化。両公団の料金収入は、近年、経済の低迷等から償還計画上の予定料金収入を下回る結果となっている。
  •  国民や利用者の負担を伴う有料道路の整備を、採算を確保しつつ円滑に推進するためには、両公団が責任を持って経営努力を行うとともに、国民や利用者の理解の下に都市高速道路の建設の決定が行われることが重要

     平成9年度建設中路線の1km当たり建設費
       首都公団: 473億 8,000万円(昭和37〜50年度に供用した路線 31億 2,000万円の15.2倍)
       阪神公団: 262億 8,000万円(昭和39〜50年度に供用した路線 37億 3,000万円の 7.0倍)
     平成9年度末の要償還額、平成9年度の1日平均通行台数及び料金収入
       首都公団: 3兆 9,300億円(昭和62年度末の1兆 6,900億円の 2.3倍)115万台(昭和62年度の 93万台の 1.2倍)2,581億 4,000万円(昭和62年度の1,776億 9,000万円の 1.5倍)
       阪神公団: 3兆1,500億円(昭和62年度末の 9,600億円の 3.3倍)94万台(昭和62年度の 74万台の 1.3倍)1,686億 9,000万円(昭和62年度の 1,030億 3,000万円の 1.6倍)
 
 基本計画の指示に当たり、両公団が経営の観点から意見を述べる仕組みなし。このような仕組みを設けることによって、両公団が基本計画の遂行に関する経営責任を認識する契機となり、効率的な事業実施のインセンティブを持ちやすくなることを期待
 基本計画の指示の前に、償還対象路線の事業費、通行台数、料金及び償還期間、公的負担等を仮定した採算に関する検討結果が公表され、これに対する国民や利用者の意見が都市高速道路事業に反映される仕組みなし
勧告要旨
  1. 基本計画の指示に当たり、両公団から経営の観点からの意見を聴取する仕組みを構築すること。
  2. 基本計画の指示の前に、供用後の料金見通し及びその検討において用いた国・地方公共団体の公的負担等の前提条件が公表され、これに対する国民や利用者の意見が事業に適切に反映される仕組みを構築すること。

(2)

 経営管理の的確化

  •  両公団は償還計画を達成する経営責任を課せられており、事業環境の変化の下で、より一層的確な経営管理が必要。さらに、自力での資金調達に努めることとされている(平成9年12月26日閣議決定)。このため、明確な経営目標の設定とその達成状況の的確な把握に基づく経営執行が必要
 
 償還計画の達成状況の評価に当たっては、決算の結果、経営成績を表示するものとして公表が義務付けられている損益計算書上の償還準備金繰入額及びその累計である貸借対照表上の償還準備金額が償還計画を達成する上で過不足があるか否かの観点から評価することが必要。しかし、償還計画の収入には損益計算書の収益にない借入金等が、また、支出には損益計算書の費用にない建設費等が含まれているなど、償還計画の収入・支出の構成は、損益計算書の収益・費用の構成と相違しているため、損益計算書上の収益と費用の差である償還準備金繰入額等を償還計画上の収支差(償還金)と直ちに対比し、評価することが困難。このため、償還計画に基づき、償還準備金繰入額等と対比し得る新たな定量的な中期的経営目標を定めるとともに、これを毎年度の予算等に反映させることが必要
 このような状況の下で、各役員が分担管理する各部門についても、それぞれ果たさなければならない具体的な遂行目標がなく、その達成状況の適切な評価が困難
勧告要旨
  1. 償還計画に基づき、定量的な中期的経営目標を定めるとともに、これを毎年度の予算等に反映させること。また、毎年度の決算の結果表示される償還準備金繰入額及び償還準備金額については、償還計画を達成する上で過不足があるか否かについて適切に評価し得るものとすること。
  2. 定量的な中期的経営目標に基づき、各役員が分担管理する各部門ごとの遂行目標を設定し、その達成状況を適切に評価すること。

2 業務委託等契約の適切化
 
  •  両公団の契約は、会計規程に基づき、一定の場合を除き競争入札が原則
  •  両公団は、建設、維持修繕及び料金収受業務について、小規模案件、緊急案件等を除き、競争入札とすること(平成9年12月26日閣議決定)
 
 随意契約により委託等を行っている業務の一部を調査した結果、首都公団の駐車場管理業務等3業務、阪神公団の建物清掃業務等5業務については、全部又は一部について随意契約の相手方以外の者でも施行可能であり、競争入札が適当
 両公団の料金収受業務の委託については、入札参加希望者は、有料道路の料金収受
 業務の管理・監督職の経験者を現場代理人として確保しない限り、料金収受業務の委託に係る指名競争入札に参加できない状況
勧告要旨
  1. 随意契約により委託等を実施している業務のうち、首都公団の駐車場管理業務等3業務、阪神公団の建物清掃業務等5業務については、全部又は一部について競争入札により委託等を実施すること。
  2. 料金収受業務の委託に係る指名競争入札について、現場代理人の資格要件の緩和について検討すること。

3 業務の合理化
 
  •  組織及び事業の抜本的な見直しによる建設費及び管理費の節減(平成9年12月26日閣議決定)
 
 両公団における用地取得の交渉等業務及び首都公団における管制補助業務については、外部委託の拡大を図る余地。両公団における消耗品の管理等の簡易かつ定型的な庶務業務及び資料作成等の補助業務については非常勤職員で対応する余地
 首都公団は、平成6年度以降赤字決算の駐車場の経営改善計画(平成9年度〜11年度)を策定したが、景気回復の遅れ等による収入減、施設の老朽化による維持修繕費の増加により計画の実現は厳しい状況。一方、駐車場管理部の間接管理部門の要員が全体の40パーセントを占めるなど合理化は不十分
 首都公団における料金収受業務の監督業務については、収入に係る帳簿と証拠書類との悉皆照合を抽出照合に変更するなどの業務の合理化により、12営業管理所・9分室の組織・要員の合理化を図る余地
勧告要旨
  1. 両公団は用地取得の交渉等業務の外部委託、首都公団は管制補助業務の外部委託の拡大を図り、また、両公団は簡易かつ定型的な庶務業務及び資料作成等の補助業務は非常勤職員の雇用で対応し、要員の合理化を行うこと。
  2. 首都公団は、駐車場事業の経営改善を図る観点から、駐車場管理部の組織体制の合理化等を含む抜本的な経営合理化計画を策定し、計画的に経営の合理化を実施すること。
  3. 首都公団は、料金収受業務の監督業務の合理化を行い、営業管理所等を廃止するとともに、要員の合理化を行うこと。

4 組織・要員の合理化
(1)

 組織の合理化

  • 平成9年度
首都公団: 本社9部2室等、出先機関4建設部局、3管理部及び2保全部、1駐車場管理部(役員8人、職員 1,425人)
阪神公団: 本社8部2室、出先機関4建設部及び1建設事務所、3管理部、1東京事務所(役員7人、職員 902人)
 
 首都公団の湾岸線建設局と神奈川建設局については、所掌する湾岸線(3期、4期)の竣功に伴い、ピーク時に比較して業務量が減少しており、業務量に対応した組織体制の効率化を図る観点から、今後の新規路線の事業化に伴う業務量を勘案しつつ両局の統合等の組織の再編・合理化を図る余地
 阪神公団の神戸第一建設部については、所掌する路線の大部分が近い将来竣功する一方で、神戸第二建設部については、新規路線を所掌しており、その事業の着実な実施を図るためには当該事業に重点的に取り組むことが効率的であることから、所掌事業の進捗状況を踏まえ、両部の統合を図る余地
 首都公団の東京第一管理部と東京第一保全部については、速やかに統合後の移転先の選定等の条件整備を行い、両部の統合の円滑な実現を図る余地
 首都公団の本社経理部管財課については、阪神公団が同内容で同程度の業務量を独立した課を設置せずに問題なく処理している状況からみて、廃止する余地
勧告要旨

組織体制をより効率的なものとするよう、指摘した出先機関の統合等及び本社の課組織の廃止等の組織の合理化を図ること。


(2)

 要員の合理化

  • 平成9年度
首都公団: 本社 494人、出先機関 931人、計1,425 人
阪神公団: 本社 303人、出先機関 599人、計 902 人
 首都公団本社の組織の中には、基本的な業務指標を基に、同内容の業務を所掌している阪神公団の組織と要員1人当たりの業務量を比較すると、阪神公団の組織の業務量を下回っているものあり(経理部契約課、工事検査担当調査役等)
 両公団の出先機関の組織の中には、基本的な業務指標を基に、同種の業務を所掌する組織間で要員1人当たりの業務量を比較すると、他の組織の業務量を下回っているものあり(首都公団:建設部・局の環境対策課、工事課等、管理部の経理課、交通管理課等、
阪神公団:建設部の工事第一課等、管理部の道路管理課等)
勧告要旨

指摘した組織を含め組織全般について業務量に対応した要員配置となるよう見直しを行い、要員の合理化を図ること。