要援護高齢者対策に関する行政監察結果
−保健・福祉対策を中心として−(要旨)

 

勧告日:平成11年9月24日
勧告先:厚生省
実施時期:平成10年8月〜11年9月

監察の背景事情等
 少子・高齢化の進行に伴い、寝たきり老人等の要援護高齢者数は、現在、200万人以上に上っており、平成37年(2025年)には 520万人へと急激に増加の見込み
 高齢者介護に係る問題は、国民にとって老後の最大の不安要因の一つになっており、高齢者に対する自立支援や家族の介護負担の軽減等のための社会的な支援施策の確立が大きな課題
 このため、平成12年度からは、新たに、保健・福祉・医療サービスの総合的な提供を目指す介護保険制度の実施が予定されており、本制度への円滑な移行に向けて、ニーズを踏まえたサービス提供基盤の整備、適切かつ効率的なサービスの提供等のための制度・運営の見直し等が求められている。
 調査対象機関:厚生省、都道府県(17)、市町村(51)、関係団体、事業者等
 担当部局:行政監察局、管区行政監察局(7)、四国行政監察支局、行政監察事務所(9)

調査結果
1 ニーズを踏まえたサービス提供基盤整備計画の策定

 地方公共団体が老人保健福祉計画を作成する際の各種施設サービスの目標量の設定に関し、国は、参酌標準として、施設の種類ごとの整備率を提示。現行計画は平成11年度で終了、12年度から新計画(介護保険事業計画を包含)

   国は、参酌標準は参考として提示したものとしているが、調査した都道府県、市町村では、老人保健福祉計画における施設の種類別の整備率を、国の参酌標準に沿って設定している傾向
 調査した地方公共団体における特別養護老人ホーム及びケアハウスの整備率設定状況
 施 設 名 国の参酌標準(整備率)  地方公共団体における整備率の設定状況 
特別養護老人ホーム 65歳以上人口の1%強 29/31市町村は 1.0%から1.5%に設定
ケアハウス     〃   0.5%程度 9/17都道府県は 0.47%から0.5%に設定
 特別養護老人ホームについて、老人保健福祉計画上整備率を1.0%から1.5%に設定し、入所需要数(入所者数+在宅の入所希望者数)を把握している17市町村のうち、平成9年度の入所需要数に対し計画上の整備目標量が20%以上下(上)回っているものは、9市町村
   ケアハウスの整備率が 0.47%から0.5%に設定されている9都道府県においては、計画どおりの需要が見込まれないことなどの理由から、平成9年度の計画達成率は、40.6%と低調
勧告要旨

 介護保険事業計画の作成に当たっては、在宅サービスを重視しつつ、地域の需要に即した介護保険施設の整備が行われるよう、適切な目標量の設定のために必要な措置を講ずること。


2 サービス提供基盤の整備推進

  (1) 介護保険施設の在り方の見直し
 特別養護老人ホームは、常時介護が必要な寝たきり老人等を入所させ、老人保健施設は、入所者の機能回復を図って家庭復帰等を目指す施設であり、両施設は、制度上、その役割・機能を異にしている。

   調査した35特別養護老人ホームと35老人保健施設の調査日現在の入所者の態様をみると、それぞれ、寝たきり者の割合は64.5%と46.2%、痴呆度の高い者の割合は53.1%と48.8%と必要とする介護の程度には大差なし。このため、老人保健施設における機能訓練は、特別養護老人ホームと同様、機能の減退を防止するための訓練が中心とならざるを得ない状況
   調査した36市町村の特別養護老人ホームの入所希望者6,716人の31.3%(2,103人)は、老人保健施設に入所中。施設の中には、入所者の8割以上が特別養護老人ホームの入所申請済みである等老人保健施設が特別養護老人ホームの代替施設として利用されている実態
   両施設は、介護保険制度の下では、医療施設である療養型病床群とともに、利用者の選択に基づきサービスを提供する施設となる(特別養護老人ホーム→指定介護老人福祉施設 老人保健施設→介護老人保健施設)。
勧告要旨

 介護保険制度に基づく指定介護老人福祉施設と介護老人保健施設について、指定介護療養型医療施設を含めて役割・機能の見直しを行い、一元化を含めその在り方を検討すること。


  (2) 施設基準等の見直し
 特別養護老人ホームの運営の効率化を図ることが、施設経営の安定化、施設整備の推進のためにも重要
   特別養護老人ホームの寮母、看護婦等直接処遇職員は、原則として常勤職員とされ、非常勤職員を配置する場合は、全体の2割未満とする等の要件があるため、効率的、弾力的な職員配置が困難
 調理業務の外部委託は可能であるが、施設内の調理室を使用して調理させることが要件
 一方、病院については、一定の条件の下で、病院外の調理加工施設での調理が可能
 調査した40市町村の平成9年度における特別養護老人ホームの在宅の入所希望者数、入所者数に対する在宅の入所希望者数の割合を人口規模別にみると、在宅の入所希望者数全体(4,000人程度の見込み)の約80%を政令指定都市等(7市・区)が占め、入所者数に対する割合も40市町村全体の16.6%に対して政令指定都市等が18.9%と高い。国は、これまで施設規模の要件の緩和等を進めてきているが、大都市地域では施設整備が進んでいない状況
勧告要旨

 直接処遇職員に係る非常勤職員の配置及び調理業務の外部委託に関する要件を緩和するとともに、大都市地域を中心に、円滑な施設整備の推進方策について検討すること。


3 ホームヘルパー業務の見直し

 ホームヘルパー業務においては、医療行為に該当するものは実施不可(看護婦等が実施)
 医療行為は、医師の医学的判断、技術によらなければ人体に危害を及ぼすおそれのある行為で、具体的には、社会通念に照らして個別に 判断することとされている。

 医療行為の範囲は、不明確であり、身体介護に伴って必要となる行為が医療行為に該当するか否かの判断は事業者により区々。また、医療行為を行うことができる看護婦等を訪問させる老人訪問看護事業については、週2回以下が全体の約88%(34事業者、利用者1,593人)
 このため、事業者の中には、状況によってはホームヘルパーが行わざるを得ない等として、傷口のガーゼ交換、血圧・体温測定、軟膏の塗布、座薬の注入、浣腸、目薬の点眼等の一部を実施しているものがみられ、また、これらの行為を実施できるようにしてほしい旨の要望あり
 ホームヘルパーが、身体介護に関連する行為をできる限り幅広く行えるようにすることが、利用者等のニーズに沿うとともに、介護家族の負担軽減、看護婦等の人材活用の効率化等にも資する。
勧告要旨

 身体介護に伴って必要となる行為をできる限り幅広くホームヘルパーが取り扱えるよう、その業務を見直し、具体的に示すこと。


4 サービス利用者に対する情報の積極的な提供

   介護保険制度において、利用者が自ら介護等サービスを的確に選択するためには、サービス内容、サービス提供事業者に関し、必要な情報が多様な媒体を通じて幅広く提供されることが不可欠
   サービス提供事業者に関する情報を提供するための電子情報ネットワークシステムが運用開始されたが、第三者によるサービス評価結果、事業者の経営状況等の情報は含まれていない。
   現行のサービス評価事業は、都道府県が実施。評価委員会の委員(施設代表者を含む。)が1日程度施設に出向いて評価を行い、意見交換・助言等を通じて自主改善を促すもの
   老人保健施設、療養型病床群については、法令に基づき広告事項が制限されており、第三者によるサービス評価結果、施設の経営状況等については広告不可で情報提供の義務付けもなし。
勧告要旨
  1.  施設の状況、提供されるサービスの内容、事業の経営状況、第三者評価結果等、利用者が必要とする情報の内容を検討し、早急に、これらの情報が適時、適切に入手できる情報提供システムを整備・運用すること。
     また、第三者評価については、客観的かつ充実した評価のための仕組みを検討すること。
  2.  老人保健施設、療養型病床群に係る広告及び情報提供については、第三者評価結果、施設の経営状況等を含め、利用者が適切な選択をするために必要となる情報をできる限り幅広く提供できるよう広告規制の緩和及び情報提供の拡充を検討すること。

5 その他の勧告事項

   ショートステイ専用床における恒常的な空床の他用途への転換等空床の活用方策の検討
   特別養護老人ホームにおける入所措置等の適正化、入所措置基準に適合しない入所者等の円滑な退所方策の検討等