労働者災害補償保険事業に関する行政監察結果(要旨)


勧告日 :平成11年12月21日
勧告先 :労働省
実施時期:平成10年8月〜11年12月

[監察の背景事情等]

 労災保険事業は、被災労働者の負傷等に対する必要な保険給付を行うとともに、社会復帰の促進、援護等のための労働福祉事業を実施し、労働者の福祉の増進に寄与することを目的
 
 保険加入事業数: 約 270万事業(約 4,844万人)  保険料収入額 : 1兆 5,486億円
 保険給付の額 :   8,464億円  労働福祉事業費:
2,574億円
 政府は、平成9年12月、労働福祉事業団(労災病院)について、「(1)勤労者医療の中核的機能を高めるため、労災指定医療機関や産業医等との連携システムを含め、その機能の再構築を図る。(2)労災病院の実態(労災患者入院比率8パーセント)にも照らし、その運営の在り方につき、統合及び民営化を含め検討する。(3)毎年度損失が生じている経営状況を改善し、労災保険からの出資金の縮減を図る。」ことを閣議決定
 本監察は、このような状況を踏まえ、労災保険の適用、徴収等保険業務の実施状況、労働福祉事業の実施状況等を調査し、関係行政の改善に資するため実施
 調査対象機関: 労働省(労働基準局(18)、労働基準監督署(19))、厚生省、労働福祉事業団、都道府県(18)、関係団体等
 担当部局  : 行政監察局、管区行政監察局(7)、四国行政監察支局、行政監察事務所(10)

 

[主な勧告事項]

 労災保険未加入事業の解消

 
 労災保険は、国家公務員、地方公務員、船員保険被保険者、農林水産の事業(5人未満の労働者を使用する個人経営の事業)を除き、労働者を使用するすべての事業に適用
 未加入の事業で労働災害が発生した場合も、労働者保護の観点から、保険給付を実施
 労働省は、労災保険への未加入事業は90万事業程度と推定(平成9年度末現在)
 未加入事業の把握を積極的かつ的確に行っていない例(8労基局)あり
 平成3年の事業所統計調査後の新設事業所の情報を収集せず、新たな未加入事業を把握していない例、新たに把握した事業について加入の有無を確認することなく未加入事業の名簿を作成している例あり
 労基局等の加入勧奨に応じていない事業主が相当数みられるが、労基局は職権による保険関係成立手続をほとんど行っていない。
 3労基局
164事業加入勧奨
70事業(42.7%)未加入
 18事務組合県会 3万 6,830事業加入勧奨 7,093事業(19.3%)未加入
 (加入勧奨業務の受託団体)
<勧告要旨>

 労災保険制度の健全な運営を推進する観点から、未加入事業の積極的かつ的確な把握を行い、再三の加入勧奨に応じない事業主については、職権による保険関係成立手続を行うこと。

 

 労災病院の在り方の見直し

労災病院は、昭和20年代後半から30年代に集中的に設置。現在、39病院
 被災労働者の大幅な減少、労災指定医療機関の増加などから労災病院の労働災害の「専門病院」としての役割が低下
 
 被災労働者    : 昭和43年度 1,717千人
平成9年度 649千人
 労災指定医療機関 : 昭和40年 13,805機関
平成9年 27,538機関
   労災患者に対する医療供給体制は労災病院の設置当初と比較して格段に整備充実
 労災病院における労災患者の割合は低下
 
区 分
入院患者数
うち労災患者数(割合)
外来患者数
うち労災患者数(割合)
昭和40年度
平成9年度
3,128 千人
5,418 千人
1,168 千人(37.3%
 323 千人 ( 6.0%
2,455千人
10,352千人
302千人(12.3%
353千人 ( 3.4%
 メンタルヘルス、深夜業・VDT作業による健康障害等労働環境の変化に伴う新たな健康問題への対応が課題
 個別の労災病院の配置状況をみると、同一の二次医療圏等に複数設置されているものが4地区9病院あり(北海道、愛知、北九州及び首都圏)、これらの病院はいずれも出資金に見合う減価償却費を含めた損益で3年連続して損失を計上
 労災病院全体の損益は、毎年度損失を計上
 
 昭和63年度から平成9年度までの10年間の施設及び機器等の整備費は約 3,640億円。このうち労災保険からの出資金は 3,302億円(90.7%)
 10年間の損失金累計は約 1,370億円
 利益を計上している病院あり
 
 平成7年度:2病院、8年度:2病院、9年度:1病院
<勧告要旨>
1.  労災病院をめぐる環境の変化に的確に対応するため、労災病院の機能の再構築を進めるとともに、同一の二次医療圏等に複数設置されているなど労災病院の配置状況、損益ベースにおける経営状況、労災患者の利用実態等を総合的に勘案し、労災病院として存置する必要性の乏しい施設については、その統合又は民営化を進めることとし、そのため、早急に再編整備計画を策定し、速やかに当該計画の実現を図ること。
2.  上記の再編整備計画の実現までの間においても、単年度損益を改善し、出資金の更なる抑制を行い、その縮減を図ること。

 

 その他の労働福祉事業の見直し

 
休 養 所  傷病の治ゆした被災労働者のための温泉保養等の休養施設 (8施設)
リハビリテーション学院  労災病院に勤務する理学療法士及び作業療法士の養成施設 (1施設)
労災保険会館  被災労働者等の宿泊、教養文化、健康増進のための福祉施設(1施設)
 
(1)  休養所の廃止
 
 休養所の利用は低調
 
 宿泊利用率:平成4年度 36.5 % →平成9年度 31.7 %
 休養所の延べ宿泊者数82,028人のうち被災労働者は 1,846人(2.3%)(平成9年度)
 休養所の収支は赤字。労災保険からは、毎年度多額の出資金を支出
 
 平成9年度の運営収支は約 2,800万円の赤字。休養所の運営を受託している(財)労働福祉共済会の欠損金累計は約 7,000万円
 施設の建て替えや大規模補修等のため、約32億円の出資金を支出(平成5年度〜9年度)
(2)  リハビリテーション学院の廃止
 
 平成4年度から9年度の学院卒業生 253人のうち労災病院への就職は 109人(43.1 %)
 学院の職員給与及び運営費の補てんのため、約2億円の交付金を支出(平成9年度)
 理学療法士等の民間等の養成施設は著しく増加。厚生省は、平成11年末時点で需給バランスがほぼ均衡するものと予測
 
 学院の設置当時(昭和42年度) 6施設(入学定員 140人)→平成10年度 197施設(入学定員 6,510人)
(3)  労災保険会館の民営化の検討
 
 労災保険会館は、民間等の会議室を備えた宿泊施設と大差なし
 
 平成9年度の宿泊利用者19,721人に占める被災労働者等は 965人(4.9%)
 その他施設(会議室及びアスレチック施設)もほとんどが一般の利用
 平成8年度、9年度の労災保険会館の施設、備品等の整備に約 5,500万円の出資金を支出
 
 運営を受託している財労働福祉共済会は、平成8年度、9年度とも約 1,200万円の黒字
<勧告要旨>
1.  休養所は、民間への売却等により、順次、廃止すること。
 なお、廃止までの間、新たな建て替え、大規模補修等は行わないこと。
2.  リハビリテーション学院を自ら設置・運営して理学療法士等を養成する必要性が乏しくなっている状況にかんがみ、学院を廃止すること。
3.  労災保険会館の施設等整備のための出資金の支出を抑制し、民営化について検討すること。

 

 労働福祉事業の評価及び労災保険財政に係る情報開示の推進

 
 評価のための実施要領は未整備。個別事業の実態を踏まえた具体的な評価は未実施
 労災保険率の設定根拠、保険財政の将来見通しなどについての情報が未開示
<勧告要旨>
1.  労働福祉事業を評価する仕組み、評価に際しての実施要領等を整備するとともに、個々の事業分野ごとに適切な評価を行うこと。
2.  現行の労災保険率の設定根拠、保険財政の将来見通し等について、国民に分かりやすい形で公表すること。

 

[その他の勧告事項]

  1. 保険給付の支給制限等に係る運用の統一化
  2. 労災保険担当職員の配置の見直し(労基局間、監督署間)
  3. 経営改善計画の策定、要員の合理化等労災病院の経営の改善
  4. 特殊健康診断業務に対する交付金の廃止の検討


[局長通知事項]

  1. 認定業務の迅速な処理
  2. 滞納保険料及び第三者行為災害に係る債権管理の改善
  3. 産業保険推進センターの産業保険相談員の配置の見直し等
  4. 労災ケアプラザ事業及び在宅介護支援事業の効果的な運営