[総合評価]
1 国の振興開発政策と奄美群島振興開発基金の位置付け
   国は、奄美群島が昭和28年に本土復帰したことに伴い、戦災による荒廃からの急速な復興を図るとともに住民生活の安定に資するため、奄美群島振興開発特別措置法(昭和29年法律第189号)に基づいた総合的な振興開発計画を策定し、各般の振興開発事業を推進している。
 奄美群島振興開発基金(以下「奄美基金」という。)は、国及び地方公共団体とともに振興開発事業を担う推進主体として、昭和30年9月に設立され、「奄美群島振興開発計画」(内閣総理大臣決定)に基づく事業の実施に伴い必要となる資金を群島内の中小事業者に供給すること等により、一般の金融機関が行う金融及び民間の投資を補完又は奨励するため、保証、融資及び出資の各事業を実施することとされている。
 これらの事業に係る資金は、国、鹿児島県及び群島内市町村からの出資金並びに鹿児島県からの借入金で賄われており、平成10年度末現在の総資産は404億円、出資金累計額は104億円、借入金残高は61億円となっている。
 なお、出資事業は、平成元年度に創設されたが、これまでのところその実績はない。
2 保証事業
   奄美基金における保証事業は、農業協同組合や漁業協同組合の経営基盤が弱いことや第1次産業の就業ウェイトが高いことなどの群島の特殊事情から、第2次及び第3次産業のみならず、第1次産業についても信用保証を行う特徴を持っている。
 保証実績は、新規保証及び保証残高の双方とも、昭和60年度以降はほぼ横ばい、平成6年度以降は微減で推移している。
 なお、奄美群島内については、奄美基金の保証対象地域となっていることから、運用上、信用保証協会は保証事業を実施していない。
  (1) 保証事業の動向
     奄美基金の保証事業の特徴である第1次産業への保証実績をみると、保証残高に占めるその割合が平成元年度末の3.0パーセント(7億円)から10年度末の1.2パーセント(3億円)へ低下している。
 次に、奄美基金の保証利用度(中小企業向貸付残高に占める保証残高の割合)をみると、昭和60年度の17.4パ−セントをピークに平成9年度には13.7パーセントまで低下している。この要因は、奄美基金の保証残高がほぼ横ばいで推移した一方で、群島内の中小企業向貸付残高が伸びたためである。このことは、群島内における中小事業者の信用力が向上しつつあることなどの現れと考えられる。
 しかしながら、保証利用度は、平成9年度における全国の信用保証協会の平均8.1パーセントと比べなお高く、全国の中小事業者に比べ群島内の中小事業者の信用力は低いものとなっている。現に、平成10年度の奄美基金の代位弁済率(保証債務平均残高に占める代位弁済額の割合)は2.99パーセントであり、全国の信用保証協会の平均2.06パーセントに比べ高く、事業リスクも大きい状態となっている。このようなことから、奄美基金の保証事業は、群島内における中小事業者による利用度の低下はみられるものの、なおその存在意義を有していると認められる。
  (2) 保証事業の現況
     近年の景気低迷の影響を受け、奄美群島内の各金融機関で返済不能となった貸付金が増大したことから、奄美基金の代位弁済額は、平成元年度の5億円から10年度の7億円へと増加し、これに伴い、求償権残高も元年度の13億円から10年度の25億円へと増加している。特に、償却の対象となる代位弁済後4事業年度以上経過した求償権残高が、平成元年度の2億円から10年度の7億円へと急増している。
 奄美基金の求償権償却引当金は、代位弁済額の総額を毎年度3分の1ずつ3年間で積み立てることとされており、また、求償権の償却は、代位弁済後4事業年度を経過した求償権のうち回収額が代位弁済額の25パーセント未満で回収見込みの薄いものなどをその対象とすることとされている。
 このようなリスク管理の下で、費用として処理される求償権償却引当金繰入が平成元年度の9億円から10年度は14億円へ、求償権償却損失が元年度の1億円から10年度は2億円へと増加している。
 なお、平成9年度以降の求償権の償却は、代位弁済後5事業年度以上経過したものから実施されており、これにより費用の増加を抑制する結果となっている。
 一方、収益をみると、保証料等収入は保証残高が横ばいであることから伸び悩んでおり、また、受取利息(保証基金及び預託金の運用益)は、近年の低金利の下で、平成元年度の1億2,600万円から10年度は3,800万円に激減している。
 このような状況の中で、奄美基金では、平成2年度以降、毎期当期損失を計上したため、元年度末で3億7,900万円あった剰余金を取り崩しており、10年度末には4,500万円の欠損金が発生し、経営は悪化している。
  (3) 資本収益力の低下と出資金投入の意義
     奄美基金の資本収益力(資本金に占める事業収入の割合)は、保証料等の事業収入が伸び悩んでいることに加え、資本金が増加していることから低下傾向にあり、平成元年度の0.16が10年度は0.09となっている。
 一方、奄美基金の保証事業については、事業リスクが大きいにもかかわらず、このような事業リスクを担保するための特別な仕組みは設けられていない。また、中小企業信用保険の適用がないため、奄美基金が行う代位弁済は全額自己負担となっている。このため、事業収入では賄いきれない事業リスクについては、出資金の投入により資本金(保証基金)を積み増し、その運用益を充当することにより対応していくことが不可避な構造となっている。
 次に、出資金の投入状況をみると、平成10年度末の出資金累計額は26億円で、この半分の13億円を国が負担している。また、奄美基金が平成10年度時点の保証残高等を基に造成目標として算出した資本金(保証基金)約44億円を造成するためには、今後の国の負担は約6億5,000万円と試算される。
 出資金の投入効果は、運用益による事業外収益の増加に現れる。近年の低金利状況の下では、運用益は減少しており、事業リスクを賄うことが困難となっていることから、今後の金利動向にもよるが、出資金の運用益のみによる財務の健全化には限界がある。
3 融資事業
   奄美基金における融資事業では、地場産業の振興に重点を置いた長期低利の貸付けを行っている。
 融資実績は、新規貸付け及び貸付残高の双方とも、昭和58年度以降、ほぼ横ばいで推移している。
  (1) 損益の状況
     損益の状況をみると、調達金利と貸付金利との金利差の拡大などに伴い、平成2年度以降、毎期当期利益を計上するようになったことから、累積欠損金は、平成元年度末の4億6,400万円から10年度末の1億6,800万円に減少している。
 しかしながら、当期利益が小幅に推移していること及び後述する回収不能債権、延滞債権及び貸付条件変更債権(以下「延滞債権等」という。)の状況からみて、累積欠損金の解消には長期を要するとみざるを得ない。
  (2) 延滞債権等の状況
     延滞債権等の状況をみると、まず、回収不能債権については、平成8年度末に算定した回収不能債権額1億2,300万円を収支状況を勘案して3事業年度で償却する計画であるが、10年度末で8,900万円が残存している状況にある。また、平成9年度及び10年度に新たに発生した回収不能債権があり、回収不能債権の総額は増大しているとみられるが、その額は明らかにされていない。
 次に、延滞債権(弁済期限を6か月以上経過して延滞となっている貸付元金残高)については、平成7年度末に41億円であったものが10年度末に31億円へ減少している一方、貸付条件変更債権(元本支払を猶予するなど貸付条件を緩和した債権)については、単年度ベースでの額が平成7年度の9億円から10年度は15億円へ増加している。
 また、奄美基金では、これまでのところ、査定に必要なノウハウや体制が整っていないとして、貸倒リスクについて十分な把握がなされていない。
 貸倒引当金の引当率については、昭和56年度に1000分の0.8に設定して以降、今日までそのまま適用されており、この間、平成8年度まで貸倒償却処理は行われていない。この引当率は、農林漁業金融公庫の1000分の5及び国民生活金融公庫の1000分の3.8(ともに平成10年度実績)に比べても低いものとなっている。
 このように、現在の貸倒引当金の計上は、延滞債権等の状況から判断すると、貸倒リスクに見合ったものとなっていない。
4 奄美基金の課題
   以上から、奄美基金が行う保証事業及び融資事業については、次のような課題がみられる。
  (1)  保証事業にあっては、群島内における中小事業者による利用度の低下はみられるものの、なお存在意義を有していると認められることから、保証残高、代位弁済率等の事業実績を踏まえつつ、経営基盤の一層の強化を図るなど、財務の健全性を確保していくことが課題である。このためには、出資金の一層の増額等について検討するとともに、審査や債権管理の一層の充実強化を通じて保証事業のリスク(代位弁済率)を低く抑える措置を講ずることも必要である。
  (2)  融資事業にあっては、貸倒リスクに見合った貸倒引当となっていないこと及び累積欠損金の解消には長期を要するとみざるを得ないことから、貸倒リスクを明らかにし、それに見合った貸倒引当金の計上を行うとともに、保証事業と同様、経営基盤や審査の充実強化等の措置について検討することが必要である。