アルコール専売事業に関する行政監察に基づく勧告に対する改善措置状況の概要

【調査の実施時期等】 実地調査時期:平成8年4月〜5月
  調査対象機関:通商産業省、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)等
【勧告日及び勧告先】 平成9年6月24日、通商産業省に対し勧告
【回 答 年 月 日】 通商産業省:平成10年3月20日
【その後の改善措置
 状況の回答年月日】
通商産業省:平成12年6月7日

【監察の背景事情等】
 我が国における工業用アルコール(エチルアルコールでアルコール分が90度以上のものをいう。原料・製造方法の違いにより、発酵アルコールと合成アルコールがある。)の製造・販売については、昭和12年以降、専売制が採られている。
 工業用アルコールは、食料品工業、化学工業等の基礎原料として広範に使用されており、その用途及び製造量は戦後の我が国経済の発展により大幅に拡大・増加(平成8年度の製造量は約28万kl)している。
 しかしながら、工業用アルコールについては、1.製造、流通等に係る一層の規制緩和及び民間能力の積極的活用、2.専売事業に係る通商産業省及び発酵アルコールを製造している新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の組織・業務運営の一層の合理化・効率化等による安定的かつ低廉な供給が求められている。
 この監察は、以上のような状況を踏まえ、アルコール専売事業により供給されている工業用アルコールの安定的かつ低廉な供給を図るとともに、現行の専売制度下においても、規制緩和、官民の役割分担の見直し等を図る観点からその運営状況を調査し、関係行政の改善に資するため実施。
【勧告後の主な動き】
平成9年12月3日 行政改革会議の最終報告:「アルコール専売について積極的に民営化を検討する必要がある」
平成11年4月27日 閣議決定「国の行政組織等の減量、効率化等に関する基本的計画」:「アルコール専売を廃止し、NEDOに暫定措置として5年間を目途に一手購入機能を付与するとともに民営化のための準備を行い、当該期間終了後、NEDOの製造部門を暫定的な特殊会社とし、2年以内に民間への株式売却を開始し、できるだけ早期に完全売却を図る。このため、工業用アルコールに係る事業法制の整備、暫定措置期間、特殊会社に関する一体的な立法措置を速やかに講じる。通商産業省のアルコール担当部局について、以上に対応した見直しを行う」
平成12年3月30日 上記の閣議決定に基づく新たなアルコール事業法制としてのアルコール事業法(平成12年法律第36号)が成立。この法律の成立に伴い、アルコール専売法及びアルコール専売事業特別会計法は廃止

主  な  勧  告  事  項
関係省庁が講じた改善措置状況
 NEDOの発酵アルコール製造工場の再編整理の推進等による製造経費の削減等
  (1)  発酵アルコール製造工場の再編整理の推進
 
<勧告>
 NEDOに対し、発酵アルコールの製造経費の一層の低廉化及び社会・経済情勢の変化に対応した合理的かつ効率的な生産・流通体制を確立するため、小規模で生産性が低く、原料・製品の輸送・流通を行う上で非効率となっている工場を中心に、発酵アルコール製造工場の再編整理を推進するよう指導すること

(説明)
 NEDOの発酵アルコール製造7工場全体の稼働率は77%。大規模工場の製造余力で小規模3工場の年間製造量を賄える状況。小規模工場の製造原価(製品1kl当たり)は大規模工場の約1.5倍〜2.7倍
→○

 発酵アルコール製造工場の再編整理については、行政改革会議最終報告においてアルコール専売の民営化を検討する必要があるとされたこと及び勧告の指摘等を踏まえ、NEDO(アルコール部門)を市場原理に即した事業主体に変革する観点から、また、NEDO(アルコール部門)の全工場、流通体制等をも視野に入れた全体的・総合的視点から検討し、成案を得た上で必要な措置を講じる方針。
 なお、これらの検討と並行して、定員削減による合理化努力に既に着手(平成10年度において16人削減)

   
→○  新たに制定されたアルコール事業法において、NEDO(アルコール部門)のアルコール製造業務については、法律の施行後5年を目途に終了させるとともに、NEDOからアルコール製造業務の全部を引き継ぐ政府全額出資の株式会社を設立し、当該株式会社を早期に民営化するため、必要な措置を講ずることを規定。
 通商産業省は、今後は、これに基づき、NEDO(アルコール部門)のアルコール製造工場の再編整理を推進する予定であり、勧告の指摘を踏まえ、小規模で生産性が低く、原料・製品の輸送・流通を行う上で非効率となっている工場を廃止するとともに、石岡工場を茨城県鹿島臨海工業地帯に移転し平成13年度に操業を開始する予定。
 なお、これらの合理化の推進と並行して、NEDO(アルコール部門)の定員を、平成11年度には16人削減(全体の4%に相当)し、12年度にも15人削減(全体の4%に相当)
  (2)  業務の合理化・効率化の推進による製造経費の削減等
 
<勧告>
 NEDOに対し、業務の合理化・効率化による製造経費の削減等を図る観点から、次の措置を講ずるよう指導すること
1.  高コストとなっている国内産生かんしょの使用の廃止
2.  工場等における警備業務及び原料輸送業務の委託に当たって、競争契約方式の導入等を行うこと

(説明)
 国内産生かんしょは他の原料に比べ約4〜5倍割高。また、製造工程・設備も他の原料に比べ別途のものが必要
 工場等の警備業務、原料輸送業務に係る民間委託は、いずれも随意契約で契約相手方が固定化し、競争性が乏しい
(国内産生かんしょの使用)
→○  国内産生かんしょを使用した発酵アルコールの製造については、平成11年度に廃止
   
(警備業務等の委託への競争契約方式の導入等)
→○  警備業務の委託について、平成10年度から一般競争入札を導入した結果、7工場合計の契約額は前年度に比べ約2,400万円削減。
 原料輸送業務の委託についても、競争契約方式の導入の検討も含め、委託経費の節減を推進
  (3)  民間企業に対する発酵アルコール製造委託価格の適正化等による製造委託の推進
 
<勧告>
 発酵アルコール製造への民間企業の積極的な参入促進によるアルコール製造経費の削減を図るため、次の措置を講ずること
1.  間接的経費等を含めた適正な発酵アルコール製造委託予定価格の設定
2.  民間企業に対する発酵アルコールの製造委託数量の拡大

(説明)
 製造委託に係る予定価格で積算されていない経費:工場の固定費(労務費、経費)、本社管理費等
 調査した民間の酒類製造企業15社においては、すべての企業が現在の蒸留酒製造の技術・施設設備により発酵アルコールの製造が可能であり、また、15社中13社は発酵アルコール製造事業への参入意欲あり
(発酵アルコール製造委託価格の適正化)
→○  発酵アルコール製造委託に係る予定価格について、平成9年度から、労務費、減価償却費等間接的経費を含めたものに変更するなど、発酵アルコール製造事業への民間企業の参入の促進を図る措置を実施
(参考)上記の結果、新潟保管庫への納入分について、平成8年度は実施された3回の入札において落札業者がなかったが、9年度は落札業者あり

(民間企業に対する発酵アルコールの製造委託数量の拡大)
→○  民間企業に対する発酵アルコールの製造委託は、平成8年度から年間4,000kl(製造予定数量の2.3%)で開始したが、9年度には10,000kl(製造予定数量の5.6%)、10年度には20,000kl(製造予定数量の10.5%)と順次拡大。
   
→○  平成11年度には20,000kl(製造予定数量の10.5%)を民間企業に製造委託し、12年度においても20,000kl(製造予定数量の10.5%)を委託する予定。
 なお、アルコール事業法の成立により、平成13年度からは、アルコール製造業務はアルコール製造業者が行うこととなり、国からの製造委託方式は廃止
  (4)  官民の役割分担の見直し等の視点からみた今後のNEDOの発酵アルコール製造部門の在り方の検討
 
<勧告>
 官民の役割分担の見直し等の視点からみたアルコール専売制度の合理化・効率化に向け、長期的・総合的視点に立って今後のNEDOの発酵アルコール製造部門の在り方の抜本的改革について検討すること
→○  NEDOのアルコール製造業務については、アルコール事業法において、法律の施行後5年を目途に終了させるとともに、NEDOからアルコール製造業務の全部を引き継ぐ株式会社を設立し、当該株式会社をできる限り早期に民営化するため、必要な措置を講ずるとされるなど、NEDOの発酵アルコール製造部門の抜本的な改革方策が決定
 合成アルコールの製造受託者間の競争を促す製造委託経費の算定方式の導入
 
<勧告>
 合成アルコールの製造受託費の算定に当たっては、事業者間の間接的な競争を促し製造委託経費の削減を図ることができる算定方式とすること

(説明)
 合成アルコールの民間製造委託費の算定は各社ごとの総括原価方式。受託企業2社間で1kl当たり2,877円(販売価格の3%)の価格差あり
→○  合成アルコール製造委託費の算定については、平成8年度から、総括原価方式に加え、製造受託者間の間接的な競争を促す新しい算定方式を導入。この新方式の導入により、製造受託者間の製造経費(総コスト)を比較査定し、総コストの高い事業者については、そのコスト差の約2割に相当する額を製造委託費の算定において削減。
 さらに、製造受託者間の更なる競争を促すことができるよう、平成10年度の価格算定から、原価要素別に事業者間の経営効率化の度合いを相対比較する方式を導入。この結果、平成10年度においては、前年度に比べ440万円の製造委託費を節減。
 なお、アルコール事業法の成立により、平成13年度からは、合成アルコール製造事業はアルコール製造業者が行うこととなり、国からの製造委託は廃止
 工業用アルコールの販売、管理業務の合理化・効率化の推進
  (1) アルコール製造工場からの庫出し段階における売渡しによる回送、保管業務等の合理化・効率化
 
<勧告>
 アルコール管理業務の簡素合理化及び民間能力の活用の観点から、アルコール専売事業特別会計から普通売捌人への工業用アルコールの売渡しを原則庫出し段階において行うこととし、これに伴い同特別会計が行っているアルコールの回送業務、売渡業務及び保管業務について、大幅な合理化・効率化を図ること

(説明)
 特別会計から普通売捌人(1社)への売渡しは、通商産業局とこれに対応する同社の支社等との間でアルコールの種類ごとに日々行われ、また、製造工場から需要地近郊の政府保管庫への回送は、特別会計の負担で,通商産業局等が実施(民間事業者への委託)。このため、これら売渡業務及び回送業務等に係る通商産業局の業務量は多大
→○  アルコール売渡業務については、勧告の指摘を踏まえ、アルコール売捌規則(昭和12年大蔵省令第11号)を改正し、平成11年5月1日から、契約事務及びそれに係る経理事務について本省への一元化を図り、業務の合理化・効率化を推進。
 なお、アルコール事業法の成立により、平成13年度からは、アルコールの製造及び流通管理業務等はアルコール製造業者及び販売業者等が行うこととなり、政府が行っていたアルコールの売渡業務、回送業務及び保管業務は廃止
  (2)  使用済申告制度及び使用済証明制度の廃止
 
<勧告>
 使用済申告制度については、新規需要者に対し一定期間課する場合等特に必要な場合を除き原則廃止し、また使用済証明制度は廃止すること

(説明)
 使用済申告内容は、需要者のアルコール受払簿の記載内容と概ね同一であり、立入検査時の確認で十分。また、使用済証明書は、需要者及び通商産業局においても使用せず、他の行政目的への利用もなし
→○  使用済証明制度は、アルコール売捌規則の改正により、平成11年4月1日から原則廃止し、業務の合理化・効率化を推進。
 また、使用済申告制度については、アルコール専売制度の廃止に伴い廃止。
 なお、アルコール事業法においては、アルコールの製造、販売、使用等を行おうとして許可を受けた業者に対して、流通管理を行うため、それぞれの業務に関する報告義務を規定
 

(3)

 小売人の種類別規制の緩和
 
<勧告>
 小売人の種類別規制を現在の6種類から2種類に統合整理すること

(説明)
 小売人は、アルコールの販売荷姿、容量等に応じ6種類に区分され、小売人からの申請に基づき管轄の通商産業局長が指定
→○  小売人の指定区分については、勧告の指摘を踏まえ、「アルコール売捌人指定事務取扱要領」(昭和35年3月22日付け35軽局第280号)を改正し、平成10年4月1日から、6種類あった区分を2種類に統合
 

(4)

 政府直接販売の廃止
 
<勧告>
 政府による需要者への直接販売を廃止すること

(説明)
 戦前軍需物資(火薬類)を製造していた特定2社には、他の需要者に対し普通売捌人が販売する価格に比べ1割安価で政府が直接販売。しかし、当該2社では現在は軍需物資を製造しておらず、政府が直接販売する理由に乏しい
→○  平成10年4月1日から、政府による需要者への直接販売を廃止
 通商産業省の要員・組織の合理化等の推進
 
<勧告>
 業務運営の合理化・効率化の推進によるアルコール管理コストの削減を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
1.  既存の規制緩和等による合理化措置に対応したアルコール専売事業特別会計に係る要員の合理化及びアルコール事務所の廃止等の組織の合理化を図ること
2.  今後のアルコール販売、管理業務の合理化・効率化の推進に対応した要員・組織の合理化を図ること
3.  発地変性確認業務について、嘱託職員の活用あるいは民間委託等の合理化方策を検討すること

(説明)
 アルコール専売事業特別会計所属の職員数(平成8年4月1日現在)
   通商産業省本省(1課1室) : 65 人
   通商産業局(8局) :162 人
   アルコール事務所(4所) : 10 人
 
:237 人
 平成7年3月の規制緩和推進計画による業務の合理化等に伴い、通商産業局職員の削減とアルコール事務所の廃止が可能
     
(通商産業省の要員の合理化の推進)
→○  アルコール専売事業特別会計に係る定員については、平成10年度において38人を削減(前年度比約16%)。
 また、平成11年度には10年度の195人から46人削減(前年度比約24%)、12年度には59人削減(前年度比約40%)

(アルコール事務所の廃止等)
→○  アルコール事務所については、アルコール事業法への移行に伴う体制整備を図りつつ、条件が整い次第廃止する方針。
 なお、職員駐在については、平成9年4月から延岡駐在所を廃止、また、9年10月には門司駐在所の駐在員を2人から1人に削減し、11年4月に同駐在所を廃止

(発地変性確認業務の合理化)
→○  発地変性確認業務については、勧告の指摘を踏まえ、平成11年4月1日から通商産業局職員の立会いを原則廃止。これに伴い、発地変性の確認は、需要者が選任した変性管理責任者の責任において実施
 販売価格改定時における情報公開の推進
 
<勧告>
 工業用アルコールの政府売渡価格・販売価格の価格改定時において、その具体的な理由、原材料価格、製造原価等の数値的根拠、通商産業省の一般管理費用及び経営合理化方策等に関する情報を積極的に公開すること

(説明)
 公共料金の価格改定時における情報公開については、「今後における公共料金の取扱いについて」(平成6年11月18日閣議了解)において、改定の理由、根拠、具体的な経営の合理化策等を十分明らかにする等、公共料金関連事業の内容の透明性の確保を要請
→○  平成9年10月1日の価格改定時において、価格改定の数値的根拠、具体的理由等を記載した「工業用アルコールの政府売渡価格等の改定の概要」を作成して、通商産業省基礎産業局アルコール課及び各通商産業局アルコール課に備え置いて閲覧に供する等積極的に情報を公開。
 今後とも、価格改定時においては、上記と同様に、情報公開を積極的に行う予定
 その他の主な事項
  (1)  NEDOの利益積立金制度の見直し等
 
<勧告>
 NEDOの利益積立金の限度額の設定などその制度の在り方を見直すとともに、経営実態に則した有効な活用方策について検討すること
→○  NEDOのアルコール製造勘定における利益積立金制度について、アルコール事業法に基づくNEDOの経営形態、業務内容の具体的な見直しの中で検討する予定
  (2)  荷姿別販売価格区分の見直し
 
<勧告>
 アルコールの荷姿別の販売価格区分の内容を見直すこと
→○  平成9年10月1日、アルコールの荷姿別販売価格区分を数量別価格区分に変更
  (3)  食酢製造の原料用に係る政府売渡価格の優遇措置の廃止
 
<勧告>
 食酢製造の原料用に使用する場合に係る政府売渡価格の優遇措置を廃止すること
→○  平成9年10月1日、食酢製造用とそれ以外の用途として販売する場合の政府売渡価格差を従来の約半分に縮小したが、さらに、残りの価格差も早期に解消する予定
  (4)  規制緩和の一層の推進
 
<勧告>
 合成アルコールの管理に関する規制緩和措置及び変性措置に応じた工業アルコールの販売・流通に関する規制緩和措置の可能性について調査検討すること
→○  アルコール事業法においては、アルコール専売制度を廃止するとともに、アルコールの製造、販売、使用等を行う者に対する許可制度及び報告徴収等による事後チェックを主体とした流通管理を行うこととしている。これに伴い、合成アルコールの国からの製造委託は廃止され、また、アルコールの変性措置についても廃止