1 管理業者業務の適正化 |
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我が国における戦後の住宅政策は、終戦直後の住宅難や経済復興期における産業、労働力の都市への集中に伴う住宅不足の解消が課題とされ、政策の重点は住宅金融公庫法(昭和25年法律第156号)、公営住宅法(昭和26年法律第193号)、日本住宅公団法(昭和30年法律第53号)等の住宅法制の整備による住宅の量的確保に置かれた。この結果、昭和40年代には住宅政策の目標であった1世帯1住宅が達成された。しかし、我が国の住宅は、特に大都市圏においていまだ居住人員に比べ狭隘なものが多く、その解消が課題とされ、住宅政策の重点は、制度金融等の誘導施策を通じた居住水準の向上等に置かれるようになってきている。
賃貸又は分譲により供給される中高層共同住宅は、建物を高層化し宅地を効率的に使用することにより、戸建て住宅に比べ相対的に賃貸価格や分譲価格が抑えられることなどから、住宅が不足し地価水準の高い都市地域の需要を背景にして昭和20年代後半から建設されるようになり、40年代になると、その建設も本格化し、急激に増加するようになった。
このうち、中高層分譲共同住宅(以下「分譲マンション」という。)については、国民の持家志向の高まりとともに、新築戸数は昭和20年代以降一貫して増え続けており、平成10年度の「住宅・土地統計調査」によると、全国の持家総戸数2,648万戸の10.0パーセント、三大都市圏の持家総戸数1,226万戸の17.5パーセントを占めている。「建築着工統計調査」によると、分譲マンションは、平成10年末現在で昭和46年末の約20倍に当たる約352万戸(推計値)に達しており、また、分譲マンションの年間の着工戸数をみると、平成6年度以降持家及び分譲住宅着工戸数の20パーセント台で推移し、10年度の持家及び分譲住宅着工戸数約72万戸のうち約16万6,000戸(23.1パーセント)となっている。全国で着工される分譲マンションのうち三大都市圏で着工されるものの占める割合は、平成7年度から9年度にかけ80パーセント弱で推移しており、10年度は84.4パーセントと更に高くなっている。このように分譲マンションは、都市居住者のニーズを満たす都市型持家住宅として、着実に増加している。
分譲マンションの住戸である専有部分を除く建物並びにその敷地及び附属施設といった共用部分については、建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号)第3条に定める区分所有者の団体(以下「管理組合」という。)によって管理が行われることとなるが、管理組合はマンションを管理する専門的なノウハウを有しておらず、また、区分所有者の多くも管理に専念できないのが通常であることから、分譲マンションの販売においては、マンションの管理を業とする者(以下「管理業者」という。)に当該マンションの管理を委託することを前提として、宅地建物取引業者(以下「宅建業者」という。)によってあらかじめ管理業者が選定され、管理組合と管理業者との間で締結される管理委託契約は、当該管理業者が作成した案を管理組合が承認する方法で行われるのが一般的である。このように、分譲マンションの管理委託が管理業者等の主導の下に行われるため、管理組合と管理業者との間でトラブルを生じることが少なくなく、信用力を備えた優良な管理業者の育成に対する管理組合や区分所有者の期待は高いものとなっている。
このため、建設大臣の諮問機関である住宅宅地審議会は、管理業者等が作成する管理委託契約書案の妥当性を確保するため、管理委託契約の標準的なモデルとして、昭和57年1月に「中高層共同住宅標準管理委託契約書」(以下「標準管理委託契約書」という。)を建設大臣に答申している。
また、建設省は、分譲マンション管理業の健全な発達を図り、分譲マンションにおける良好な住生活を確保することを目的として、昭和60年8月に「中高層分譲共同住宅管理業者登録規程」(昭和60年建設省告示第1115号。以下「管理業者登録規程」という。)を定め、管理業者登録制度を創設するとともに、「中高層分譲共同住宅管理業務処理準則」(昭和62年建設省告示第1035号。以下「処理準則」という。)を定め、登録管理業者としての責務を明らかにしている。平成10年度末現在、本制度に基づく登録管理業者数は、501業者となっている。
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今回、管理業者登録制度の仕組み及び執行状況、管理委託契約書の記載内容、管理業者の受託管理業務の実施状況等を調査した結果、次のような問題がみられた。 |
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(1) |
管理委託契約の締結状況及び管理委託契約書の記載内容 |
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今回調査した269管理組合(登録管理業者管理171マンション、非登録管理業者管理98マンション)について、管理組合と管理業者との間で締結されている管理委託契約書(269契約書)の記載内容等を調査した結果、次のとおり、記載内容等が管理組合に不利となっている事例がみられる。
なお、これらの事例の中には、非登録管理業者によるものだけでなく、登録管理業者によるものも含まれている。 |
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1. |
委託業務経費の見積り及び管理委託契約の締結 |
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委託業務経費の見積り及び管理委託契約の締結についてみると、次のとおり、管理業者として当然に求められる行為が適切に行われていないものがみられた。 |
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i ) |
管理組合が分譲マンションの管理を委託しようとする場合、委託業務の内容ごとに所要の経費を明確にした見積りを管理業者に求めることは、適切な管理業者を選定する上で必要な行為とみられるが、管理業者の中には、この業界では見積書提出の慣例はないとして見積書の提出を拒否しているもの(2登録管理業者(171登録管理業者の1.2パーセント)、1非登録管理業者) |
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ii) |
委託業務の内容を管理組合及び管理業者の双方が書面により確認しておくことは、契約に係るトラブルを回避する上から必要な行為とみられる。しかし、書面ではなく口頭により業務委託契約を行っていたため、管理組合が管理業者に書面による契約の締結を求めたところ、管理業者がこれに応じないもの(3登録管理業者(同1.8パーセント)、1非登録管理業者) |
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2. |
管理委託契約書の記載内容 |
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管理委託契約書の記載内容についてみると、次のとおり、管理業者による適切な管理を確保する上で、契約書に規定しておくことが必要とみられる事項が規定されていないものや、規定されていてもその内容が不適切なものがみられた。 |
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i ) |
管理業者は、管理組合に対し、事業年度の終了後一定期間内に収支報告を行わなければならない旨の規定がないものや、収支報告の時期が定められていないもの等(29契約書(10.8パーセント)、18登録管理業者(171登録管理業者の10.5パーセント)、11非登録管理業者) |
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ii) |
契約の解除に関する規定がないものや管理組合側から契約の解除を提案することができないと規定しているもの等(42契約書(15.6パーセント)、26登録管理業者(同15.2パーセント)、16非登録管理業者) |
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iii) |
受託管理業務のうち、管理費の出納業務や各種契約の代行業務等の事務管理業務については、受託管理業務の根幹を成すものであることから、管理業者自ら実施することが必要な業務であるにもかかわらず、再委託を禁止する旨の規定がないもの(18契約書)や第三者に再委託することができると規定しているもの(99契約書)(117契約書(43.5パーセント)、68登録管理業者(同39.8パーセント)、49非登録管理業者) |
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(2) |
受託管理業務の実施状況 |
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今回調査した269管理組合における管理業者(269業者)による受託管理業務の実施状況についてみると、次の事例のとおり、管理業者による業務処理が不適切等の理由から、35組合(13.0パーセント、登録管理業者管理19マンション、非登録管理業者管理16マンション)が、管理業者の変更を行っており、このほか、同様の理由から管理業者の変更を検討している組合、自主管理への移行を行った組合もみられる。 |
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i ) |
管理業者の管理員が管理費等の一部を着服しているもの(1登録管理業者(171登録管理業者の0.6パーセント) |
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ii) |
修繕積立金の預金口座を管理業者名義にしていたため、管理組合名義に変更するよう求めたが、管理業者がこれに応じないもの(4登録管理業者(同2.3パーセント)。処理準則においても、管理組合からの預託金銭の預金口座は管理組合名義にすることとされている。) |
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iii) |
受託した管理費等の徴収事務について、管理費等の収納状況を管理組合に定期的に報告していないもの(11登録管理業者(同6.4パーセント)、8非登録管理業者。標準管理委託契約書では、毎月報告することとされている。) |
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iv) |
管理組合が受託管理業務に係る会計帳簿及び関係資料の閲覧を要求したが、管理業者がこれに応じないもの(2登録管理業者(同1.2パーセント)。処理準則においても、会計帳簿及び関係書類を管理組合の閲覧に供しなければならないとされている。) |
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v) |
事務管理業務は、受託管理業務の根幹を成すものであることから、管理業者自ら実施することが必要な業務であるにもかかわらず、事務管理業務を含め受託管理業務全部を一括して再委託しているもの(1登録管理業者(同0.6パーセント)、2非登録管理業者。処理準則においても、事務管理業務は、受託者自ら直接実施すべきものとして、再委託を禁止している。) |
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(3) |
建設省の対応 |
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建設大臣は、登録管理業者が管理業に関し不正又は著しく不当な行為をした場合等においては、管理業者登録規程第11条第1項基づき登録の消除を行うことができることとなっている。しかし、管理業者登録規程において、不正又は不当な行為を行った登録管理業者の登録を消除する規定は「不正又は著しく不当な行為」と漠然としたものであり、これに該当する行為が具体的に定められていない。また、これらの行為がどのような状況に至った場合に消除を行うのかを判断する基準も定められておらず、登録の消除規定は実効あるものとなっていない。さらに、登録管理業者による管理業務の実施状況が建設省に伝達される仕組みも構築されていない。このようなことから、登録管理業者による不正又は不当な行為を原因として当該登録管理業者の登録の消除が行われた実績はみられない。 |
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(4) |
登録管理業者情報の公開制度 |
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管理業者の変更や新築分譲マンションの管理の開始に当たり、管理組合や宅建業者は、管理業者の事業内容、経営成績、資産状況、実施体制等の管理業者選定のための情報が必要となる。現在の管理業者登録制度においては、登録簿等の公衆への閲覧の仕組みが設けられており、業者名、所在地、代表者名等が把握できる登録簿、管理業の経歴、直前3年間の営業収支等が把握できる登録申請書、最新の財務諸表、管理業の実績等が把握できる現況報告書等が公開されている。しかし、その閲覧場所は建設省内1か所に限定されており、また、インターネットによる情報提供も行われておらず、東京近郊以外の者にとっては、情報の入手が困難な状況にある。 |
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(5) |
管理費等預託金の保護 |
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管理業者が区分所有者から前払により徴収する管理費、水道料、冷暖房費、修繕積立金等のうち、修繕積立金を除く費用は、管理業者の預金口座に保管されるのが一般的である。このため、管理業者が倒産等をした場合、管理組合が金銭的な損害を被る場合が想定され、実際にも、今回調査した管理組合の中には、管理業者の倒産により管理業者に保管させていた管理費等を放棄せざるを得ない状況となっている事例がみられる。また、現行の管理業者登録制度では、管理業者の倒産等による管理組合の金銭的損害を保護する仕組みは設けられていない。
しかし、管理業者登録規程に基づく登録申請書及びその添付書類には、管理費等預託金の保護対策の有無及びその内容を記述する項目はなく、管理組合等は、管理を委託しようとする管理業者が預託金の保護対策を有しているかどうかを把握して管理業者を選択することができないものとなっている。
なお、社団法人高層住宅管理業協会では、平成8年10月から、会員の倒産等から管理組合の預託金(管理費等)を保全することを目的として、同協会会員であり、かつ管理業者登録制度の登録管理業者である者を対象として管理費等保証事業を行っている。しかし、平成10年度末現在の同事業の加入業者は246業者であり、同年度末現在の登録管理業者数の半数にすぎないものとなっている。
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したがって、建設省は、分譲マンションの管理業者による管理業務の一層の適正化を確保することによって分譲マンションの区分所有者の利益の保護と良好な住環境確保に資する観点から、次の措置を講ずる必要がある。 |
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1. |
管理業者登録規程の「登録の消除」の規定が実効あるものとなるよう見直すとともに登録の消除基準を策定し、登録の消除を的確に行うこと。
また、登録管理業者に関する情報を的確に把握する仕組みを構築すること。 |
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2. |
登録管理業者に係る情報の閲覧場所を拡大するとともに、登録管理業者情報についてインターネットにより一般への提供を行うこと。 |
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3. |
管理費等預託金の保護対策の有無等を記載する欄を管理業者登録規程に基づく登録申請書に設けること。 |
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2 重要事項説明等の充実 |
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宅建業者が建物等の取引を行うに当たっては、取引の相手方の利益保護の観点から、宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号。以下「宅建業法」という。)第35条第1項に基づき、宅建業者は、取引の相手方に対し、売買契約が成立するまでの間に、宅地建物取引主任者をして、当該物件に関し登記された権利の種類、内容等の重要事項を記載した書面(重要事項説明書)を交付して説明させなければならない(以下「重要事項説明」という。)とされており、当該物件が分譲マンション等の区分所有の建物の場合には、建物又はその敷地に関する権利及びこれらの管理又は使用に関する事項についても、重要事項説明書を交付して説明させなければならないとされている。
また、宅建業者は、宅建業法第37条第1項に基づき、建物等の売買等の契約を締結したときは、その相手方に遅滞なく、代金等の額並びにその支払の時期及び方法、物件引渡しの時期等のほか、当該物件の瑕疵を担保すべき責任についての定めがある場合には、その内容を記載した書面(以下「契約内容書面」という。)を交付しなければならないとされている。
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今回、分譲マンションの売買における重要事項説明のうち管理又は使用に関する事項及び契約内容書面のうち瑕疵を担保すべき責任と密接に関連する「アフターサービス」に関する事項について、制度及び運用状況等を調査した結果、次のような問題がみられた。 |
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(1) |
管理規約に関する重要事項説明 |
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分譲マンションの区分所有者の共同の利益と良好な住環境を確保するためには、分譲マンションの管理又は使用に関する基本的なルールである管理規約を定めることが必要となる。しかし、新築分譲マンションの場合には、分譲開始時点において管理規約の策定主体である管理組合が実質的に機能していないため、宅建業者が管理規約の案を策定し、管理組合がこれを承認する方法で定められるのが一般的である。このようなことから、宅建業者は、分譲マンションの購入予定者に対して、宅地建物取引業法施行規則(昭和32年建設省令第12号)第16条の2に基づく分譲マンションの管理又は使用に関する重要事項として、分譲マンションを販売する時点で管理規約案(中古分譲マンションの販売の際の管理規約を含む。以下同じ。)が策定されている場合には、当該管理規約案に記載されている事項のうち、i
)建物の敷地に関する権利の種類及び内容、ii)共用部分に関する規約の定めの内容、iii)専用部分の利用制限に関する規約の定めの内容、iv)特定の者への建物等の使用許可に関する規約の定めの内容、v)修繕積立金に関する規約の定めの内容及び積立額、vi)通常の管理費の額、vii)管理の受託者の氏名及び住所(法人の場合は、名称及び主たる事務所の所在地)の7事項について説明しなければならないこととされている。
しかし、342管理組合の管理規約を調査した結果、次のとおり、宅建業法において重要事項としての説明を義務付けられていない事項ではあるが、購入者に金銭的な負担の増加や購入者の権利が不当に侵害されるおそれがあり、区分所有者にとって不利となっている規定がみられた。これらの規定は、宅建業者からあらかじめ説明がなされていれば、購入者は修正又は削除を求めるかあるいは承認しないと思われるものであり、購入者の利益の保護を図るためには、現行の宅建業法の重要事項説明の充実が必要な状況となっている。
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i ) |
分譲マンションの修繕積立金は、全戸が毎月着実に積み立てることが前提であるにもかかわらず、販売業者である宅建業者は分譲マンションの未販売住戸の修繕積立金を負担しなくてもよいとする規定(7規約(2.0パーセント)) |
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ii) |
分譲マンションの管理費は、全戸から徴収することが前提であるにもかかわらず、宅建業者が空室の管理費を負担するのは、年間を通じ管理委託費等の支出が管理費収入を超過することとなった場合の不足分のみとする規定(6規約(1.8パーセント)) |
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iii) |
管理規約は分譲マンションにおける区分所有者間の共同居住ルールを定めているものであるにもかかわらず、販売業者である宅建業者が近接地に中高層建物を建築する際、区分所有者は異議を申し立てることができない旨の規定 |
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(2) |
アフターサービスに関する契約内容書面 |
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一定期間内に無償で補修を行う「アフターサービス」について調査した結果、不具合が生じた場合にはアフターサービスとして無償で補修を行うとの説明を宅建業者から受けている分譲マンションの購入者212戸のうち、契約内容書面にその内容が記載されていないものが7戸(3.3パーセント)みられ、その中には、補修の実施義務の有無について宅建業者と購入者との間でトラブルが生じている事例がみられる。
これら取引後の宅建業者の売主責任についての取決めは購入者の利益に深くかかわるものであり、宅建業者と購入者の双方がその内容を正確に認識しておくことが必要であるが、分譲マンションの売買時に販売業者である宅建業者が購入者に交付しなければならない書面の記載事項を定めた宅建業法第37条第1項では、建物等の瑕疵を担保すべき責任についての定めがあるときは、その内容を記載した書面を交付しなければならないと定めている。
また、これとは別に、主に宅建業者を会員とする社団法人日本高層住宅協会及び社団法人不動産協会では、それぞれアフターサービスの規準を作成し、傘下会員に対して、これを売買契約締結時にアフターサービスに関する書面として購入者に交付するよう働き掛けている。
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したがって、建設省は、分譲マンションの取引において購入者の利益の一層の保護を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。 |
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1. |
管理規約案のうち、区分所有者に金銭的な負担増をもたらすおそれのある事項等区分所有者が不利となる規定については、法令上、宅建業者が重要事項として説明すべき事項として位置付けること。 |
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2. |
無償補修義務を定めるアフターサービスについては、契約内容書面として、宅建業者から購入者に的確に交付されるよう指導を徹底すること。 |
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3 標準管理委託契約書の見直し等 |
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管理組合と管理業者との間で締結される管理委託契約の内容に不十分なものが多く、混乱を生じることが数多くあったため、前述のとおり建設大臣の諮問機関である住宅宅地審議会は、項目1で述べたとおり、管理業者が作成する管理委託契約書案の妥当性を確保することを目的として、昭和57年1月、標準管理委託契約書を建設大臣に答申し、これを受けて建設省は、都道府県、宅建業者団体等を通じて宅建業者、管理業者及び管理組合に対して標準管理委託契約書の活用及び周知のための文書を発している。 |
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今回、標準管理委託契約書の周知状況、運用状況等を調査した結果、次のような問題がみられた。 |
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(1) |
標準管理委託契約書の周知 |
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18都道府県及び18都道府県宅地建物取引業協会等による平成5年1月以降の標準管理委託契約書の周知状況についてみると、標準管理委託契約書の周知は、法令に基づき都道府県に委任されたものではないため、都道府県では、建設省からの文書を受理しているものの、管理業者及び管理組合に周知を行わなければならない責務はないとして、18都道府県のうち16都道府県では周知を行っていない。また、都道府県宅地建物取引業協会等による傘下の宅建業者等への周知についても、18団体のうち6団体では、宅建業に関する事項ではないとして、周知を行っていない。このようなことから、今回調査した269管理組合から標準管理委託契約書の存在について聴取した結果、同契約書の存在を承知していないとするものが198組合(73.6パーセント)に上り、平成4年勧告時(313管理組合中114組合(36.4パーセント))と比較すると37ポイントも増加している。
また、269管理組合について管理委託契約書の記載内容を調査した結果、次のとおり、標準管理委託契約書上規定すべきとされている事項が規定されていないもの、標準管理委託契約書の規定内容に比べて管理組合が不利となっているものがみられ、標準管理委託契約書の一層の周知が必要な状況となっている。
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i ) |
標準管理委託契約書では、管理業者は事業年度終了後、管理組合に対し速やかに収支報告を行わなければならないと規定しているにもかかわらず、管理委託契約書において定期的に収支報告を行わなければならない旨の規定がないものや収支報告の時期を定めていない規定等29契約書(10.8パーセント) |
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ii) |
標準管理委託契約書では、管理組合及び管理業者は、その相手方が契約に定められた義務の履行を怠った場合、相当の期間を定めその履行を催促し、その催促に応じない場合は、契約を解除できると規定しているにもかかわらず、管理委託契約書において契約の解除に関する規定がないものや管理組合側から契約の解除を提案することができないとする旨の規定等42契約書(15.6パーセント) |
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iii) |
標準管理委託契約書では、受託管理業務のうち事務管理業務については、責任の所在を明らかにしておく必要があることから管理業者自ら実施することが必要な業務であるため、再委託を禁止するよう規定しているにもかかわらず、管理委託契約書において事務管理業務の再委託を禁止する旨の規定がないものや第三者に再委託することができる旨の規定等117契約書(43.5パーセント) |
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iv) |
標準管理委託契約書上規定されていない事項であるが、管理委託費の数か月分を保証金として管理業者に預託しなければならない旨等明らかに管理組合が不利となる内容を規定しているもの8契約書(3.0パーセント) |
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(2) |
標準管理委託契約書の見直し |
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ア |
修繕積立金の預金口座 |
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分譲マンションの修繕積立金は、その戸数が多い場合などには巨額な金額が積み立てられており、また、大規模修繕等が行われるとき以外は使用されないため、建設省は、平成4年12月の通達により、管理組合自身による保管・管理が必要として、修繕積立金の預金口座は管理組合の理事長名義にするよう、管理業者団体等を通じて、管理業者等を指導している。しかし、標準管理委託契約書では、修繕積立金の預金口座名義を、原則、管理組合の理事長名義としているものの、「○○マンション管理組合管理代行○○管理会社名義」とすることも可能と規定している。
269管理組合の管理委託契約書を調査した結果、修繕積立金の預金口座を管理業者名義としているものが17組合(6.3パーセント)ある。このうち、4管理組合では、管理業者名義となっている預金口座名義を管理組合名義とするよう求めているが、管理業者がこれに応じていない。また、修繕積立金の預金口座を管理業者名義にする余地を残さないよう標準管理委託契約書の規定の改正を求める管理組合がみられる。
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イ |
定額管理費(管理委託費)の支払時期 |
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役務に関する対価の支払は、役務の提供がある程度行われた段階でなされるのが通常であるが、標準管理委託契約書では、前月までに定額管理費の全額を支払うよう規定しているため、調査したほとんどの管理組合では、管理委託契約書において定額管理費の支払時期を前払と定めている。定額管理費の支払時期については、管理組合と管理業者の協議により決定できるように、標準管理委託契約書の規定を改正してほしいとする管理組合等がみられる。 |
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したがって、建設省は、管理委託契約の一層の適正化を図る観点から、標準管理委託契約書の一層の周知を行うとともに、次の事項について、標準管理委託契約書の規定内容の改正を行う必要がある。 |
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1. |
修繕積立金の預金口座名義を管理組合の理事長名義に限定すること。 |
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2. |
定額管理費の支払時期は管理組合と管理業者の協議によって定めることとすること。 |