電波行政監察結果に基づく勧告














平成12年7月



総務庁





















前書き

   電波は、警察、消防、防災等の公共分野を始め、電気通信、運輸、放送等の産業分野やレジャー等の個人的利用の分野に至るまで幅広く利用され、社会経済、国民生活において必要不可欠なものとなっている。
   近年、我が国においては、社会経済活動の高度化、技術革新の進展に伴う電波利用の多様化、電気通信事業の自由化等を背景に、電波の利用が飛躍的に拡大しており、これに伴い、平成11年度末現在の無線局数は、元年度末現在の約10倍に当たる5,748万局に達し、今後、移動通信の分野を中心に一層増加していくことが見込まれている。
   一方、電波は、有限稀少な資源であり、また、共通の空間に発射されるものであること等から、無線局相互の混信を防ぎ公平かつ能率的な利用を確保する必要がある。このため、電波法(昭和25年法律第131号)に基づき、利用分野や用途等ごとに周波数の割当てが行われているのを始め、原則として、無線局の開設には免許が必要とされているほか、無線設備の操作は一定の資格を有する者が行うこととされているなど、無線局の開設、運用及び維持管理に関して各種の規制が行われている。
   このような中で、郵政省は、電波利用の急速な拡大に伴い発生する諸課題を解決するための施策に要する費用について、受益者である免許人の負担で賄う電波利用料制度を創設するほか、未利用周波数帯の利用技術の開発等による電波の有効利用の推進、免許を必要としない無線局の範囲の拡大や免許申請手続の簡素化等による利用者負担の軽減と行政事務の簡素合理化等に取り組んできている。
   しかしながら、電波利用料制度については、無線局数の増加を背景に予算規模が年々拡大しており、制度導入の趣旨を十分踏まえ、支出対象となる事務の一層の効果的かつ効率的な実施等が求められている。また、電波利用の急速な拡大等に伴い、無線局への割当て可能な周波数が逼迫してきている状況等を踏まえ、免許人に対する電波の有効利用技術の一層の導入促進を図るとともに無線設備の性能・信頼性の向上、国民の電波利用ニーズの多様化等に対応した無線局の免許や検査の簡素合理化等になお一層取り組んでいくことが要請されている。
   さらに、電波行政に係る組織、体制については、民間能力を活用した認定点検事業者制度が導入されたことにより、無線局検査の業務量が減少していること等を踏まえ、その簡素・効率化を図る観点からの見直しが必要となっている。
   この監察は、このような状況を踏まえ、電波行政に係る制度及び実施体制並びに業務の実施状況を調査し、関係行政の改善に資するために実施したものである。




目次


   電波利用料財源からの支出の合理化・適切化及び透明性の確保

   周波数の有効利用の推進

   免許の簡素合理化等
(1)   免許不要局の拡大等
(2)   無線局の免許申請等の事務手続の簡素合理化
(3)   無線従事者制度の見直し
(4)   無線局検査の簡素合理化

   組織及び業務運営の簡素・効率化




   電波利用料財源からの支出の合理化・適切化及び透明性の確保
   電波利用料制度は、急増する不法無線局への対応、増大する電波行政事務の効率化、周波数逼迫への対応等の課題を解決するための諸施策に要する費用を、その直接の受益者である免許人に負担させる仕組みとして創設されたものであり、平成5年4月から施行されている。
   この電波利用料の使途については、電波法(昭和25年法律第131号)第103条の2において、電波の適正な利用の確保に関し郵政大臣が無線局全体の受益を直接の目的として行う事務の処理に要する費用(電波利用共益費用)の財源に充てることとされている。その事務の例示として、i)電波の監視及び規正並びに不法に開設された無線局の探査の事務、ii)総合無線局管理ファイルの作成及び管理の事務、iii)電波のより能率的な利用に資する技術を用いた無線設備について無線設備の技術基準を定めるために行う試験及びその結果の分析の事務の3つが法定されている。
   電波利用料に係る歳入・歳出については、財政処理上は一般会計で処理されることとされているが、電波法第103条の3に基づき特定財源化の措置が図られており、予算書においては、項の段階で一般会計の他の歳入・歳出(以下「一般財源」という。)と区分されている。
   一方、電波利用料額は、3年ごとに見直しが行われてきており、見直しの結果、改定を行う場合の改定額は、今後3年間の支出費用及び延べ無線局数(予測値)を基に算定されている。近年における携帯・自動車電話を中心とする無線局数の大幅かつ急速な増加に伴い、電波利用料収入は拡大の一途をたどり、平成10年度の収入額は、制度が導入された5年度の74億円の5倍に当たる370億円に上っている。
   このように受益者負担による電波利用料財源の規模が大きくなっていることに伴い、当該財源の使途である各事務の実施について、費用負担者である免許人の理解と支持を得ることが重要となっている。そのためには、郵政省において、各事務の一層の効果的かつ効率的な実施を図るとともに、法定されている使途にのっとった適切かつ合理的な支出の実施や情報公開の充実等を図っていくことが求められている。
   今回、電波利用料財源による事務の実施状況及び同財源からの支出の状況を調査した結果、次のような状況がみられた。
.   電波利用料財源により行われている電波監視施設の整備及び広報活動について、次のような状況がみられた。
i )   電波監視システムのうち、遠隔方位測定設備及び遠隔受信設備は、混信・妨害の申告があった場合のほか、電波の監査及び調査においても稼働させるものであり、郵政省の定めた整備計画(平成5年度から13年度までの9か年を3期に分け整備)により、対象都市の人口を基礎に順次配備が進められている。具体的には、第2期整備計画の終了時点(平成10年度末現在)においては、大都市及び人口10万人以上の都市まで当該設備が整備されており、引き続き第3期(平成11年度から13年度まで)において人口5万人以上の都市を対象に当該設備を整備することとされている。第2期までの整備の結果、調査した地方電気通信監理局(以下「地方電監局」という。)管内全体では、管内の混信・妨害の申告件数の約7割に当たる地域が電波監視可能な状況となっている。また、当該設備の稼働実績をみると、その電波監視可能区域内における混信・妨害の申告件数が少なく、その使用が電波の監査及び調査に限られる場合においては、当該設備の稼働時間が低調となる傾向がみられる。
   このような中で、第3期で整備を計画している遠隔方位測定設備及び遠隔受信設備についてみると、電波監視予定区域内において混信・妨害の申告件数が過去3年間ほとんどなかった都市に設置することとなっているものがある一方、第3期整備計画の対象となっていない人口5万人未満の都市の中には、過去3年間に混信・妨害の申告が行われているものがある。
ii )   電波監視用車両は、(郵政省が地方電監局の規模(管内の無線局数等)を基に定めた配備基準により配備されているが、当該配備基準は稼働の実績を勘案したものとはなっていないこと等から、配備された車両の稼働が低調な地方電監局がある。
iii )   各地方電監局では、近年広報経費の支出が増加してきているが、地方電監局の中には、広報活動の効果について特段の評価がなされないまま施策を実施しているものがみられる。
.   郵政省は、一般財源と電波利用料財源との間で共通に実施される行政事務の経費(以下「共通経費」という。)について、両財源間での負担の適切化を図るため、その負担割合についての考え方を整理している。しかしながら、地方電監局等に対し、この考え方を通達等文書で明定し、指示していないこと等から、共通経費について電波利用料財源のみから支出している例等がみられる。
   また、電波利用料財源から支出している事務経費の中には、事務の受益の内容等からみて、今後、一般財源と電波利用料財源との間で費用の按分を行う必要があると認められる例がある。
.   技術試験事務は、無線設備の技術基準を制定するための前段階の作業として、技術データを取得し、分析するための事務であり、その実施により得られた成果については、技術基準として体現されることが求められている。しかしながら、郵政省が委託により実施し、平成9年度及び10年度に終了した案件(7件)の中には、得られた成果の技術基準化が遅れている例がみられる。この原因は、技術試験事務の着手後、当該技術基準に基づいたサービスを提供する予定であった事業者が事業計画等を見直し、サービス開始時期を遅らせたことが主なものと考えられるが、技術試験事務の対象テーマ選定の段階における上記計画の検討が必ずしも十分でなかったことも一因とみられる。
   なお、郵政省では、平成11年度から、技術試験事務の終了案件について、部外有識者により構成される「電波利用料技術試験事務の評価に関する研究会」による、i)対象テーマの選定段階、ii)実施段階及びiii)行政への反映段階(技術基準への反映等)の各段階ごとの評価を受ける仕組みを導入し、その結果をフィードバックすることにより、今後の当該事務のより効率的な実施に努めている。しかし、当該事務が電波利用料を財源とし、予算規模も平成11年度で電波利用料財源の予算総額の約3分の1を占める額となってきており、対象テーマの適切な選定の重要性が更に高まってきていることを考慮すると、現在、郵政省が自ら行っている対象テーマの選定については、事後評価とそのフィードバックの仕組みを置くだけでは、事務執行上十分とは言えないと考えられる。
.   郵政省は、電波利用料の負担者である免許人の理解と支持を得る観点から、これまで、様々な広報媒体を活用し、電波利用料制度の仕組み・目的、電波利用料で整備される施設の整備計画の概要等の情報の公開に努めてきている。しかし、当該制度が導入されてから6年を経過し、免許人の当該制度に対する関心が高まってきていることもあって、現時点で郵政省が公表していない電波利用料財源の具体的使途、料額の決定の仕組み等の情報の公開を求める意見・要望がみられるなど、当該制度に関する情報の公開に対する免許人の意向が変化してきている。このため、それに対応して、今後免許人のより一層の理解等を得る観点から、情報公開の一層の推進の必要性が高まっている。
   したがって、郵政省は、電波利用料制度の受益者負担の性格にかんがみ、電波利用料財源からの支出の合理化・適切化及び透明性の確保を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
.   遠隔方位測定設備及び遠隔受信設備については、整備計画、地域等における混信・妨害の申告件数の実績を踏まえ、整備計画地域の見直しを行うとともに、今後の整備においては、新たな配備基準を策定し、これに基づき実施すること。また、電波監視用車両については、整備済車両の稼働実績を踏まえ、現行の配備基準について見直しを行い、これに基づき整備すること。
   さらに、広報経費については、広報効果を評価し、その高いものに重点化すること。
.   共通経費及び事務経費に係る一般財源と電波利用料財源との間の負担割合の考え方を明定し、これに基づいた運用を徹底すること。
.   次期電波利用料の改定については、上記1.及び2.の措置を速やかに講じた上、その結果を踏まえて行うこと。
.   技術試験事務の対象テーマの選定については、郵政省のみで評価・判断する現行の方式を改め、部外有識者による事前評価の仕組みを導入すること。
.   電波利用料制度に関する情報の公開については、免許人の意見・要望を踏まえ、公開情報の一層の充実を図ること。


   周波数の有効利用の推進
   電波は、通信等社会経済を支える情報伝達手段の中で必要不可欠な存在であると同時に、利用できる周波数帯は有限である。このため、世界無線通信会議(WRC)において国際的な周波数の利用方法が決定され、これを基に我が国では、郵政省が国内の周波数利用の実態、将来の需要動向等を考慮して、業務別・用途別に国内の周波数の分配を行っている。
   一方、近年、我が国においては、社会経済活動の高度化、技術革新の進展に伴う電波利用の多様化、電気通信事業の自由化等により、電波の利用ニーズは増加の一途をたどっており、平成11年度末現在の無線局数は、元年度末現在の無線局数の約10倍に当たる5,748万局に達している。特に陸上移動無線局(携帯電話等)の増加が著しく、平成11年度末現在で5,445万局(無線局総数の94.7パーセント)に上っている。
   このような電波利用ニーズの増大により、周波数が逼迫してきており、さらに、高度情報通信社会に向けて、次世代携帯電話(IMT−2000)、高度道路交通システム(ITS)等各種の新たな電波利用システムの実現が期待されていることから、有限な資源である周波数のより一層の有効利用が緊要となっている。また、中長期的視点でみると、地上波テレビジョン放送のアナログ放送からデジタル放送への移行に伴い発生する余裕周波数の有効利用も重要な課題とされている。
   このような中で、郵政省では、周波数の有効利用を図るため、1.未利用周波数帯の利用技術の開発、2.既利用周波数帯について、より需要の高い無線局種に利用させるため、免許人に対する指定周波数の変更指導、3.占有周波数に収容できる無線局数の拡大を可能とするデジタル化やナロー化(周波数の帯域幅の狭帯域化)等の導入、4.周波数の有効利用のための技術基準の制定を目的とした電波利用料財源による技術試験事務の実施等に取り組んできている。また、携帯電話の需要増大に対応するため、2001年の実用化を目指し、携帯電話への割当周波数を大幅に増加させる次世代携帯電話導入のための制度の整備に取り組むとともに、次世代携帯電話の将来需要を想定した追加周波数帯についても、国際的に調整することとしている。
   今回、免許人における周波数の有効利用の確保に関する取組の状況等を調査した結果、次のような状況がみられた。
.   社会経済活動の広域化や電波利用の多様化に伴い需要が高まっている陸上移動無線局に対しては、現在、800メガヘルツ帯及び1.5ギガヘルツ帯を中心に周波数が割り当てられている。当該無線局は今後も需要が見込まれているが、これらの周波数帯においては新たな周波数の割当てによる需要増への対応が難しいと考えられており、このため、周波数の一層の有効利用が可能なデジタル方式への移行を図っていくことが必要となっている。
   今回、当該周波数帯において多くの周波数が割り当てられている携帯・自動車電話(72メガヘルツ×2幅)及びMCA無線(業務用移動無線システム。38メガヘルツ×2幅)におけるデジタル方式の導入への取組状況等をみると、携帯・自動車電話の場合は、郵政省の予測を上回る急激な需要の伸びに対応するため、デジタル化が積極的に進められてきており、平成12年度中にすべての電気通信事業者において完了することになっている。一方、MCA無線の場合は、加入局数が郵政省の需要予測を下回り、割当周波数の収容能力に余裕があることに加え、実用化されたデジタル方式はアナログ方式に比較して通信可能エリアが狭いこと、経営規模の小さい免許人が多数加入しており近年における景気の低迷により無線システムへの新規投資が抑制されていることなどから、割当周波数幅(38メガヘルツ×2幅)のうち約3割(12メガヘルツ×2幅。1.5ギガヘルツ帯の一部)しかデジタル方式が導入されておらず、周波数の有効利用が図られていない。
   ちなみに、MCA無線の需要が最も多い首都圏におけるアナログ方式のMCA無線の周波数の利用状況を800メガヘルツ帯と1.5ギガヘルツ帯とで比較してみると、800メガヘルツ帯は、最大収容可能局数(現在の技術水準で可能とされている1メガヘルツ×2幅当たりの最大収容可能局数に割当周波数を乗じて求めた局数)21.0万局に対し加入局数は13.0万局と62.0パーセントとなっているものの、1.5ギガヘルツ帯は、最大収容可能局数18.0万局に対し加入局数は5.7万局と31.7パーセントの利用効率にとどまっている。
.   現在370メガヘルツ幅と多くの周波数の割当てを受けている地上波テレビジョン放送については、2010年を目安としてアナログ放送からデジタル放送への移行が予定されており、チャンネルプランの策定、移行に要する費用の負担の在り方等について、現在検討が行われている。このデジタル化の移行に伴い、周波数の余裕が発生することが見込まれ、その有効利用が新たな電波利用サービスの提供拡大や周波数の逼迫の解消等に寄与するものと期待される。
   この余裕周波数の有効利用には、各無線局の利用実態、利用見通しを踏まえた周波数の割当原則の見直しや、これに伴う既免許人の割当周波数の他の周波数への移行等が必要となってくることが想定される。この場合、既存の免許人に大きな影響を与えることになることから、これを早期かつ円滑に行うためには、郵政省において事前の準備・検討を十分行うことが必要と考えられるが、郵政省では、余裕周波数の有効利用方策については、デジタル化の移行完了を待って検討するとし、現在のところ特段の対応をとっていない。
   したがって、郵政省は、周波数の有効利用の一層の推進を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
.   MCA無線へのデジタル方式の導入を促進するための無線設備の技術基準の制定、見直し等の施策に取り組むとともに、今後、MCA無線の加入局数の推移を踏まえ、中小免許人の負担に十分配意しつつ、1.5ギガヘルツ帯のアナログMCA無線局を1.5ギガヘルツ帯のデジタルMCA無線局あるいは800メガヘルツ帯MCA無線局へ移行するよう関係者と調整し移動通信システム全体の電波の有効利用を図ることを検討すること。
.   地上波テレビジョン放送のデジタル化により発生する余裕周波数の有効利用方策に関し、デジタル化の進展の状況及び将来の電波の需要動向等を踏まえ、電波利用の全体をにらんだ総合的な検討に着手すること。


   免許の簡素合理化等
  (1)   免許不要局の拡大等
   無線局は、混信・妨害を防ぎ、電波の秩序ある利用を確保する観点から、電波法第4条に基づき、原則として、その開設について郵政大臣の免許を取得しなければ運用してはならないこととされている。また、無線局の免許申請は、無線局免許手続規則(昭和25年電波監理委員会規則第15号。以下「免許規則」という。)に基づき、電波法施行規則(昭和25年電波監理委員会規則第14号)第3条及び第4条で規定する無線通信業務の別に分類された無線局の種別に従い、送信設備の設置場所ごとに行うこととされている。
   郵政省は、免許申請者及び免許人の負担軽減と行政事務の簡素合理化の観点から、i)PHSの移動局等一定の小電力の無線局について、無線局の開設の免許を不要とする免許不要局の拡大を図るとともに、ii)従来、個々の無線局ごとに申請することとされていた免許申請について、携帯・自動車電話の移動局等他の無線局に制御されている特定の無線局を2以上開設する場合は、一つの申請書で免許申請することを可能とする包括免許制度を導入するなど、免許制度の見直しを図ってきている。
   今回、無線局の免許制度及びその運用の実態について調査した結果、次のような状況がみられた。
.   電波法第4条第3号において、空中線電力が0.01ワット以下の無線局のうち電波法施行規則第6条第4項で定めるもの(特定小電力無線局等)であって、混信防止機能等を有することにより他の無線局に混信等を与えないように運用することができるもので、かつ、技術基準適合証明を受けた無線設備のみを使用するものについては、無線局の免許が不要とされている。
   しかし、空中線電力が0.01ワット以下の無線局の中には、i)空中線電力が0.001ワットと免許不要局である特定小電力無線局よりも小さく、混信防止機能であるキャリアセンス(発信しようとする周波数が空いているか否かを検知する機能)は備え付けていないものの、通信エリア半径が4メートル程度であり、他の無線局に混信等を与えないように運用することが可能で、かつ、技術基準適合証明を受けた無線設備のみを使用する無線局や、ii)免許不要局と同様にキャリアセンスを備え付けており、かつ、技術基準適合証明を受けた無線設備のみを使用する無線局がみられるが、いずれも免許が必要な無線局とされている。
.   近年、免許人における無線設備の利用方法が多様化してきており、一つの無線設備で複数の業務を一体的に運用することを希望する免許人がみられる。しかし、免許規則に基づき、無線局の免許申請は無線局の種別ごとに行うこととされており、また、原則として、2以上の種別の無線局の業務を併せ行うことを目的として単一の無線局の免許を申請することはできないこととされている。このため、当庁の調査においても、一つの無線設備について業務に合わせ複数の免許を取得している免許人がみられ、その内容をみると、携帯移動業務の無線局(携帯局、携帯基地局)と陸上移動業務の無線局(陸上移動局、基地局)との二重免許(携帯局と陸上移動局との二重免許、携帯基地局と基地局との二重免許)を取得している例が多い。
   しかし、携帯局と陸上移動局との関係をみると、携帯局は、陸上、海上若しくは上空の1若しくは2以上にわたり携帯して移動中又はその特定しない地点に停止中運用する無線局とされ、一方、陸上移動局は、陸上を移動中又はその特定しない地点に停止中運用する無線局とされていることから、携帯局は陸上移動局の業務範囲を包含するものとなっている。
   また、携帯基地局と基地局との違いは、通信の相手方がそれぞれ携帯局、陸上移動局であることであり、陸上に開設する移動しない無線局という点では同じである。
   このため、他の無線局に混信を与えるような場合等を除き、携帯局と陸上移動局との二重免許となっているものについては携帯局に一本化して免許を取得することにより、また、携帯基地局と基地局との二重免許となっているものについては、これに合わせ、携帯基地局に一本化して免許を取得することにより、これら二重免許の解消を図ることが制度上可能となっている。
   当庁の調査において把握されている二重免許の中には免許人の都合で二重免許としているものも含まれるが、上記のような二重免許を解消する方法があるにもかかわらず、その解消が図られていないものがある理由は、電波利用の拡大と無線通信技術の著しい進歩の中にあって、無線局の免許制度に対する免許人及び免許申請者の理解不足に加え、郵政省における免許人等への周知が徹底していないことによると認められる。
   なお、二重免許を取得している場合にあっては、免許(再免許を含む。)申請手数料及び電波利用料はそれぞれの無線局ごとに必要とされ、また、無線局ごとに指定された識別信号(コールサイン)を使い分けて通信する必要がある。
   したがって、郵政省は、免許申請者及び免許人の負担の軽減並びに行政事務の簡素合理化を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
.   無線局の諸元などからみて、他の無線局への混信等の影響が少ない無線局については、無線局の免許を不要とすること。
.   携帯移動業務と陸上移動業務とを一つの無線設備で一体的に運用することを希望する免許人等に対し、携帯移動業務の無線局としての免許申請のみで免許申請が可能となる方法があることの周知徹底を図ること。
(2)   無線局の免許申請等の事務手続の簡素合理化
   無線局の免許申請事務手続については、電波法、免許規則等において、必要な申請書類及びその記載事項、審査事項等が定められている。
   また、電波法第39条等に基づき、免許を受けた無線局には、原則として、必要な資格を有する無線従事者を配置しなければならないこととされており、その選任又は解任が行われた場合には、無線局の免許人は、選任又は解任の都度遅滞なく、その旨を郵政大臣に届け出なければならないこととされている。
   今回、無線局の免許申請等の事務処理の実態を調査した結果、次のような状況がみられた。
.i )   免許規則第4条に基づき、無線局の免許申請書には、無線局事項書(無線設備の工事設計に係る事項以外の事項を記載)及び工事設計書を添付することとされている。また、無線局事項書及び工事設計書の様式は、無線局の種別に応じて同条で定められている。
   また、免許規則第18条の2に基づき、再免許申請時の工事設計書について、免許の有効期間中に無線設備の工事設計の内容に変更がない場合等は、工事設計書の提出の省略又は工事設計に係る部分の記載の省略(無線局事項書と工事設計書が様式上一体となっている無線局の場合)が認められている。
   しかし、その対象となる無線局は42局種中39局種とされており、陸上移動局、携帯局及び特定船舶局の3局種については、無線局事項書と工事設計書が様式上一体となっているものの、工事設計に係る部分の記載事項が他の無線局に比べ少ないことを理由に、工事設計の内容の変更がない場合等であっても、工事設計に係る部分の記載を省略できないこととされている。このため、申請者にとって負担となっている。
   なお、地方電監局の中には、再免許申請時の工事設計書の提出の省略が認められている無線局について、その省略要件を満たしている場合であっても、再免許申請の審査を円滑に行うためとして、工事設計書を提出させているものがある。
ii )   免許(再免許を含む。)申請時の工事設計書の周波数の記載方式は免許規則で定められている。しかし、その内容が明確さを欠いているため、個別の周波数を記載する方式と周波数を範囲で記載する方式(何メガヘルツから何メガヘルツまで何波)の両方を認めているのか、あるいは前者のみを認めているのかが不明確となっている。地方電監局における免許申請者に対する指示をみると、両方式を認めている地方電監局と個別の周波数を記載する方式のみを認めている地方電監局とがあり、取扱いが区々となっている。個別の周波数を記載する方式は、免許申請時に個別の周波数を記載しなければならないほか、周波数の変更があるごとに変更届を提出しなければならないため、免許人等にとって負担となっている。
   なお、免許申請時に工事設計書とともに提出が求められている無線局事項書については、免許規則上、個別の周波数を記載する方式と周波数を範囲で記載する方式の両方を認めることが明記されている。
iii )   放送局の再免許申請時の無線局事項書に係る「事業計画等の添付書類」の様式(調書)は、「放送局の再免許申請に係る申請書等の提出について」(平成10年3月19日付け郵放地第67号郵政省放送行政局長通知)で定められている。
   しかし、標準テレビジョン放送局の例でみると、29調書(延べ35種類)が必要とされているが、これら調書の中には、記載事項の一部を他の調書に追加し一本化することで提出不要となると認められるものがある。
.   無線従事者選(解)任届は、電波法に基づき、選任又は解任の都度「遅滞なく」届け出ることとされているが、一定期間ごとにまとめて提出することを認め、免許人の負担の軽減を図っている地方電監局がみられ、また、これによる特段の支障は生じていない。
   したがって、郵政省は、免許申請者及び免許人の負担の軽減並びに行政事務の簡素合理化を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
.   免許申請時、再免許申請時の提出書類については、i)既提出書類の有効活用、ii)提出書類の記載方法について免許規則への明定、iii)提出書類の削減を図り、審査等に必要最小限のものに限定すること。
.   無線従事者選(解)任届の提出時期の弾力化を図ること。
(3)   無線従事者制度の見直し
   電波法第39条等に基づき、免許を受けた無線局には、原則として、必要な資格を有する無線従事者を配置しなければならないこととされている。
   無線従事者は、電波法第41条に基づき、郵政大臣の免許を取得することが必要であり、免許取得には、無線従事者国家試験に合格すること等一定の知識・技能が必要とされている。
   郵政省は、これまで、主任無線従事者の監督の下であれば無資格者でも無線設備の操作を行うことができるとする主任無線従事者制度を導入するなど、無線従事者の配置義務の緩和を推進してきている。
   また、無線従事者規則(平成2年郵政省令第18号)第7条に基づき、郵政大臣が認定した学校等において一定の科目を履修すれば、卒業の日から3年以内に実施される無線従事者国家試験を受ける場合に、申請により特定の試験科目の一部又は全部を免除する仕組み(認定学校制度)が設けられている。
   今回、無線従事者の選任状況、主任無線従事者制度の利用状況及び無線従事者国家試験の試験科目の免除状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
.   主任無線従事者制度において、無資格者による無線設備の操作を主任無線従事者が監督していると認めるための要件は、「主任無線従事者制度に係る関係規定の解釈について」(平成2年5月18日付け郵電総第12号郵政省電気通信局長通達)で定められており、「臨場性」、「指示可能性」及び「継続性」の3要件をすべて充足することとされている。このうち、臨場性及び指示可能性の2要件については、故障等が発生した場合に速やかに無資格者に代わって主任無線従事者が適切な無線設備の操作を行うことが必要であるとして、これまで、主任無線従事者が無線設備の設置場所と同一建物内又は同一構内等に常駐することを求める運用を行ってきた。しかし、その具体的な判断基準が明確でなく、最近の技術進歩による無線設備の性能及び信頼性の向上等を踏まえた運用となっていない。このこともあって、主任無線従事者数は伸び悩んでいる。
.   認定学校制度においては、無線従事者規則第13条の規定に基づく「学校等の認定基準」(平成2年郵政省告示第279号)により、幅広い基礎的な知識・技能を習得させることを理由に、認定学校等において、「免除の対象となる試験科目に相当する授業科目」の履修以外に、「免除の対象とならない試験科目に相当する授業科目」についても履修することが義務付けられている。すなわち、免除の対象となる試験科目に相当する授業科目を履修しても免除の対象とならない試験科目に相当する授業科目を履修しなかった場合は、無線従事者国家試験の試験科目の免除は適用されないこととなっており、受験者の負担軽減に結び付かない制度となっている。
   したがって、郵政省は、免許人、受験者の負担の軽減等を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
.   主任無線従事者制度における無資格者による無線設備の操作を主任無線従事者が監督していると認める要件について、最近の無線設備の性能及び信頼性の向上等を踏まえて、その運用基準を明確化することにより当該制度の利用拡大を図ること。
.   無線従事者国家試験の認定学校制度に関し、免除の対象とならない試験科目に相当する授業科目については、履修を不要とする措置を講ずること。
(4)   無線局検査の簡素合理化
   郵政省は、無線局の免許及び変更許可の際に、無線設備等が申請書どおり法令に適合しているかどうかを確認するため、電波法第10条、第18条に基づき、それぞれ落成検査、変更検査を実施している。また、無線局の免許の際に申請書上で審査され落成検査で確認された条件がその後持続されているかどうかを定期的に確認するため、電波法第73条に基づき定期検査を実施している。
   これらの検査について、郵政省は、無線設備の性能及び信頼性の向上に対応して免許人の負担軽減等を図る観点から、1.定期検査が省略される無線局の範囲の拡大、2.無線局種別に定められている定期検査の周期の延長、3.国が開設する無線局以外の無線局の落成検査、変更検査及び定期検査において、郵政大臣の認定を受けた事業者が行った無線設備等の点検結果を活用することにより、職員による実地検査を省略して書面審査による合否の判定を行う認定点検事業者制度の導入等、簡素合理化を図ってきている。
   今回、無線局の定期検査の実施状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
   定期検査については、電波法施行規則第41条の4の別表第5号で定める検査周期(1年、2年、3年及び5年の4種類)により行われることとされているが、「無線局検査事務規程」(平成1110月1日付け達第1号郵政省電気通信局長・放送行政局長達。従来の通達「無線局の定期検査について」を引き継いだもの)第9条に基づき、無線局の管理が良好であるなど特に検査を行う必要がないと地方電気通信監理局長が認める場合などについては、定期検査の省略ができることとされている。
   しかし、第9条で規定する定期検査の省略措置について地方電監局が適用するに当たっての基準が明確になっていないため、次のような状況がみられる。
  i )   地方電監局によって定期検査の省略の対象とする無線局が区々となっている。このため、同一免許人の無線局種及び検査周期が同一である無線局であって、自主管理体制が確立され、かつ、定期検査の結果が長期にわたって良好であるにもかかわらず、各々の無線局を監理する地方電監局によって定期検査の省略の取扱いが区々となっている例がみられる。
ii )   また、無線局、の検査周期の長短にかかわらず、電波の監視及び前回の検査の結果等から無線局の管理が良好であるなど特に検査を行う必要がないと認められる場合は、定期検査を省略できることとされている。しかし、調査した9地方電監局における検査周期が1年の無線局に対する定期検査の省略措置の実施状況をみると、自主管理体制の確立、無線設備の性能及び信頼性の向上等により、長期にわたり不合格が発生していないものがみられるにもかかわらず、省略措置の適用対象としていないものが8地方電監局、省略措置の適用を特定の無線局に限っているものが1地方電監局となっている。このため、省略措置が採られていない無線局を開設する免許人においては、毎年度検査が必要とされており、負担となっている。
   したがって、郵政省は、定期検査業務に伴う免許人の負担軽減及び行政事務の簡素合理化を図るため、定期検査については、検査周期の短い無線局種を含め、管理体制が整備され自主点検が適切に行われている免許人の無線局に対し的確に省略措置の適用が行われるよう、その適用の範囲、条件等を明確にすること。また、前記省略措置の運用実績等を踏まえて、無線局種別に定められた検査周期について、その延長の余地を検証し、特に問題が生じないと認められるものについては、延長措置を一層積極的に講ずること。


   組織及び業務運営の簡素・効率化
   郵政省は、無線局の免許・検査に関する業務を行うため、平成11年度末現在、10地方電監局本局及び沖縄郵政管理事務所(以下「地方電監局等」という。)にこれら業務を担当する職員を455人配置している。また、同省は、無線局の運用及び検査に関する事務並びにこれに附帯する事務等を分掌させるため、8地方電監局に15か所の出張所を設置し、平成11年度末現在、55人の職員を配置している。
   無線局検査業務については、平成10年4月から認定点検事業者制度が導入され、この制度を活用する民間免許人が増加したことにより、職員による実地検査が著しく減少してきているなど、地方電監局等及び出張所を取り巻く業務環境は大きく変化してきている。
   なお、郵政省は、認定点検事業者制度の導入を踏まえ、無線局検査担当要員の縮減等に取り組んできているほか、出張所の所掌事務について、従前の無線局検査業務に加え、電波利用料に関する事務、電波の監視及び規正に関する事務並びに不法に開設された無線局の探査に関する事務を地方電気通信監理局長の判断により行わせることができるようにするため、平成10年6月23日に郵政省組織規程(昭和59年郵政省令第26号)の改正を行っている。
   今回、地方電監局等及び出張所における無線局検査業務等の実施体制及び実施状況を調査した結果、次のような状況がみられた。
.   調査した9地方電監局の中には、認定点検事業者制度の導入後、無線局検査業務の業務量は大幅に減少しているが、それに対応した無線局検査担当要員の縮減が図られていない例や要員の縮減を図っているものの業務量に対応した要員配置となっていない例がある。
   また、免許業務については、免許担当要員1人当たりの業務量に地方電監局間で格差が生じており、業務量に対応した要員配置となっていない例がある。
.   調査した7出張所の中には、認定点検事業者制度の導入後、所掌事務の中心である無線局検査業務の業務量が大幅に減少しているが、それに対応した無線局検査担当要員の縮減が図られていない例や要員の縮減を図っているものの業務量に対応した要員配置となっていない例がある。
   また、出張所は、行政需要と利便を考慮して港等に設置されてきたものであるが、その配置をみると、出張所の中には、地方電監局本局に近接して配置され、業務量も少ないこと等の実態からみて、その業務を当該地方電監局に集約することにより、効率的な業務運営が可能な例がみられる。
    したがって、郵政省は、組織及び業務運営の簡素・効率化を図る観点から、地方電監局等の無線局の免許・検査部門及び出張所について、認定点検事業者制度の導入後における無線局検査業務の業務量の減少等を踏まえ、一層の要員配置の見直しを行い、業務量に対応した適正な要員配置を図ること。また、その措置状況を踏まえ、地方電監局に近接設置され業務量が少ない出張所について、その業務を地方電監局に集約し、出張所の再編整理を図ること。