[総合評価] | ||
1 | 国の動力炉開発と動力炉・核燃料開発事業団(現核燃料サイクル開発機構)の位置付け | |
国の原子力開発政策の指針となる「原子力開発利用長期計画」(昭和36年2月8日原子力委員会決定。以下「長期計画」という。)の下、新しい動力炉の開発等を担う組織として、動力炉・核燃料開発事業団(以下「動燃」という。)は昭和42年に設立された。 動燃の事業は、大きく「動力炉事業」、「再処理事業」及び「核燃料事業」の三つに分けられる。これらの事業の実施の基盤として、国からは出資金及び補助金が支出されている。平成8年度の貸借対照表をみると、国から動燃に支出された出資金の累計は約2兆4,000億円に及んでおり、一方、機械装置、土地・建物などの固定資産の計上額は約8,500億円であるが、研究開発成果等が企業会計原則に照らし資産として計上されないため、約1兆6,000億円は累積の欠損金として計上されるという財務上の表れ方になっている。 なお、補助金は一般管理費に充てられている。 |
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2 | 事業の現状 | |
(1) | 動力炉事業 | |
動力炉事業の大きな柱である「高速増殖炉開発」は、発電しながら、消費する燃料より多くのプルトニウム燃料を生み出すことができる画期的な技術開発であり、平成8年度までに約1兆500億円の出資金(出資金累計の44パーセント)が投入されている。現在、原型炉「もんじゅ」の開発が進められているが、その建設コストは既に実用段階となっている軽水炉に比べていまだ高く(規模の違いはあるものの、現状では出力単位当たりコストの単純比較で約6倍)、実用化までには今後長期間の研究開発を要するとみられる。一方、「もんじゅ」の運転経費(各種性能試験等を含む。)は、206億円(平成6年度)を要している。 高速増殖炉についての国の開発目標は、平成6年6月24日の長期計画において、2030年ごろの商業炉実現とされていたが、9年12月5日の原子力委員会決定においては、実用化時期を含め柔軟に対応していくとされた。いずれにせよ高速増殖炉の実用化のプロセスにおいて、相当のコストの縮減や技術水準の飛躍的な向上が必要とみられる。 「新型転換炉開発」は、核分裂の際に出てくる中性子の減速材に重水を使うことなどを特徴とするもので、海外ではみられない日本独自の研究開発である。新型転換炉実証炉の発電コストは軽水炉の3倍程度と見積もられ、コスト高により実用化は困難と目されており、実証炉の建設の中止が決定されている。 |
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(2) | 再処理事業 | |
再処理事業のうち、民間会社の発電所で使用した核燃料の再処理を行う「使用済燃料再処理」については、技術開発に成功し、平成8年度までに投入経費の4割強を回収する事業収入を得ている。民間商業施設の操業開始が具体的に予定されており、同事業は間もなく民間に移行される段階にある。 高速増殖炉で使用済みの混合酸化物燃料(MOX)からプルトニウムなどを抽出するための研究開発である「高速増殖炉再処理技術開発」には、平成8年度までに約900億円の出資金が投入されている。これは、高速増殖炉の研究開発と一体的な技術開発であり、その取扱いは、高速増殖炉の開発そのものの行方と切り離すことはできない。 放射性廃棄物を処理・処分する技術の開発である「環境技術開発」には、平成8年度までの累計で約600億円の出資金が投入された。この研究開発は、使用済燃料の再処理により発生する高レベル放射性廃棄物の処理・処分の技術の開発に係るものであることから、核燃料サイクル技術の開発を続ける以上、更なる開発を続けていく必要がある。 |
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(3) | 核燃料事業 | |
核燃料事業のうち、ウラン資源の探鉱調査を行う「ウラン探鉱」は、主として民間の自主的活動には期待し難い地区を対象に、平成8年度までに97プロジェクトを実施している。現状では9プロジェクトが採算性の判断を行うべき段階に移行しているが、ウラン市況の低迷の中で、このうち、具体的に事業化の段階に至ったものは1プロジェクトにとどまっている。 天然ウランを燃料用ウランへと濃縮する「ウラン濃縮開発」は、効率性の高い技術の開発に成功し、既に民間商業プラントが稼働しているなど、民間への全面的移行が可能な状況となっている。 プルトニウムから混合酸化物燃料を開発・生産する「核燃料開発」は、平成8年度までに約4,500億円の出資金が投入されている。この研究開発は、動力炉開発と一連のサイクルを成すものである。 |
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3 | 高速増殖炉開発の今後の取組 | |
(1) | 新法人への改組 | |
動燃においては、平成7年と9年に事故が相次いで発生した。このような中で、特殊法人の整理合理化の一環として、動燃の抜本的改革の必要性の論議が高まり、新法人への改組が進められ、平成10年10月に核燃料サイクル開発機構への改組が実施された。 新法人は、既存事業の大幅な整理合理化を行った上で、高速増殖炉とそれに関連する核燃料サイクル技術の研究開発及び高レベル放射性廃棄物の処理・処分に関する研究開発を中核的な事業と位置付け、核燃料サイクルの技術体系の確立を目指すこととされている。 また、使用済燃料の再処理については、民間の再処理工場の建設が進められ、同工場が安定的操業を行うまで継続して行っていくこととされた。 |
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(2) | 今後の取組の在り方 | |
高速増殖炉とそれに関連する核燃料サイクル技術の研究開発には、平成8年度までに投入された出資金総額の6割強に当たる約1兆6,000億円の資金が投入されている。現段階における国の開発計画からみても、実用化までには長期間を要するとみられ、高速増殖炉の実用化のためには、今後とも多額の公的資金の投入が必要である。 高速増殖炉開発に関する海外の動向をみると、経済性、核不拡散などの観点から、イギリス、アメリカ、ドイツにおいては、原型炉を閉鎖しないしは建設を中止し、フランス、ロシアにおいては、原型炉による研究開発は継続しているものの、実証炉を放棄しないしは建設を中断しているなど、研究開発は停滞状況にある。 このような中で、我が国は引き続き高速増殖炉の開発に取り組むこととなるが、事業の継続には今後ともかなりの経費の投入が必要であり、長期の懐妊期間を要し、克服すべき技術的課題も多い。 しかし、一方で、開発が成功するならば、ウランの効率的利用の実現など、資源小国である我が国にとってだけでなく、科学技術の分野に対する貢献という点においても、多大かつ先駆的な成果が得られることともなる。 したがって、研究開発に要する費用とその成果を明らかにし、その妥当性を論議していくことが必要であり、そのような論議を広く巻き起こしつつ事業を幅広く見直していくことが求められる。 |